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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第二章 セイシュン巡りにゃ犬がでる
55/68

第29話 鼠を狩る者

◯【塩梅鼠(シーバイス)

 スタミナ:500

 パワー:351

 ディフェンス:123

 スピード:583


 総合値:1557 脅威ランクD

能力:【秀逸舌食】(フィードロスク)

 体毛から溢れる特殊な粒子によって周囲の生物から味覚を奪う。そして微弱ながら味覚を奪った生物の栄養素を吸い上げることが可能であり、直接触れる事で純粋に生物の肉を喰らうよりも効率よく栄養素を吸収する事が出来る。

 しかし当然、過度に栄養を吸い取られた人間は死に至る。


────────────────


塩梅鼠(シーバイス)…ランクはD……能力も解析出来てる……これなら対策出来る)


(いや、でも安心しちゃいけない…ミカさんに聞いたことを振り返って考えないとだ……)


 時は数日前の基地にて、一葉はオペレーターミカからサポーターとしての心構え、という名目を叩き込まれていた。

 一葉はミカの言葉を思い出し、目の前のモンスターの分析を開始した。


──テラーモンスターの最低脅威ランクはE、これは能力を除いた純粋な生命機能を数値化したものです。Eランクの身体能力を分かりやすく表すのなら飼い主のいない野良猫程度の危険度。つまり、常人でも十分に対処可能です。


(だからEランクは獲得者でないサポーターでも対処できる……)


──しかしEランクとは違って簡単と判断出来ない危険度を持つのがDランクです。獲得者であればまず苦戦せず……桃太ほどの実力者なら一撃で討伐可能な危険度ですが、その危険度は既に野生動物のそれから逸脱しています。


──アシストブレスを用いて待ち回れば話は違いますが、安全を優先するならやむおえない場合でなければ逃げることをお勧めしますよ。


(ミカさんは…逃げろって言ってた。実際逃げるのが安全策……でも)


「ねぇユッキーってバ!どうしたノボッーとして…」


「いでぇ……くるしぃ…わけわがん……」


 逃げる事は許されない。一葉がいるそのカフェには友人である兎崎は勿論、目の前で襲われて倒れたカップル、そして未だこの異変に気付かず平然としている店員やお客がいる。

 この場で逃げ出す事は、その大勢の人間を見捨てる事を意味するのだ。


(かと言って……モンスターは普通の人には見えてない…私が何言っても納得はして貰えない……だからっ!)


(私が…このモンスターを人のいない所に連れ出す…)


 一葉は懐から財布を取り出し、中からお金を引き出すと慌てふためく兎崎に突き付けた。


「香織…ちょっとヤバい用事が出来ちゃった……これで代金の支払いお願い……」


「ふぇェッ!?なんでなんで!意味分かんないヨユッキー!お話の流れ分かんないヨ!なんで唐突にそうなるノサァ!?」


(ごめん!)


 代金を手渡した瞬間に一葉は前進し、鼠の姿のモンスター目掛けて飛び付いた。

 そのモンスターの体長は1.2mほどだろう。その大きさの獣の首に直撃させる形で彼女は手首のブレスの照準を合わせた。


(アシストブレス…機能その3!)


《──メガショック─起動シマス─》


──バヂィッッ!


 バチバチと音が鳴ると同時に一葉の右手から電光が放たれた。光と共に電流は放たれ、女性に噛み付くモンスターへ直撃した。

 そして電流に当てられたモンスターは痺れるように硬直し、隙を見て一葉は倒れていた女性をモンスターから遠ざけた。


「ふぇェッ!?何してるノユッキー!バチバチ言ったヨォ!?」


「ぇ……と、心臓マッサージみたいなやつ!じゃあ私は用事だからー!!」


(ぁ、あぶない…電気思ったより派手に出たなぁ……)


 行動の後彼女は電気を浴びたモンスターの様子を見ながら、カフェの入り口付近で立ちすくむ。

 不意の攻撃を直撃させることに成功したが、一葉の目的は何もモンスターを仕留めることではない。襲われていたカップルの内の女性、彼女をモンスターから引き離す目的だ。

 このメガショックと呼ばれる機能はDランクのモンスターを仕留められるほどの攻撃ではなく、飽くまでも威嚇や牽制の為の物。言うなればモンスターを引き付ける為の挑発でしかない。


(…多分近くにこの子を生み出した発現主ってのがいるんだろうけど……それを探す余裕はない。まずは遠くに…誰も傷つけられないところに…)


 一葉が思考を続けているうちに、鼠型のモンスターは体から痺れを発散させていた。そうして落ち着きを取り戻した獣は、自身に危害を加えた人間をすぐさま補足してしまう。

 鼠の敵意の矛先は既に一葉へ向かっている。


(く、食いついた……て、顔こわぃッ!!)


 雄叫びを上げ、モンスターは一葉を威嚇する。

 獣の瞳は紅く輝いて見えるほどの殺意に溢れており、「今すぐにでも喰い殺してしまいたい」と暗雲に満ちた感情が伝わってくるものだ。


 殺意を向けられた一葉はモンスターに背を向けて走り出す。


(やばいやばい、逃げる逃げる逃げる、あんなのに追いつかれたらすぐに食べられちゃう!!絶対美味しく頂かれるッ!!)


 彼女の後を当然モンスターは追いかけていた。

 全力で走る彼女をモンスターはひたすらに追いかけている。

 モンスターの姿は常人には見えないのだから、辺りから見れば一葉は必死の表情で何故か瞳に涙を溜めながら駆け回る奇人であるが、当事者にそんな事を気にする余裕はない。


(つ、捕まったら死ぬ死ぬ。絶対死ぬ死ぬしぬぅーー!)


 彼女は今、命を掛けた戦いの中にいるのだ。

 余裕などあるはずがない。しかし必死の意識の中でも周りの人々への被害が出ないように一葉は人影の少ない路地裏へと進路を変えた。


 そうしているうちにも一葉の耳にはドサドサと、後方から追いかけてくるモンスターの足音が聞こえ続けている。


(……や、やばい…もう。)



(運動不足すぎて…もう、息が上がってきて……)


 走り出して5分と経っていないが、一葉の呼吸が乱れ出す。

 今回現れたモンスターのスピード数値は583モンスター全体で見ればと大した数値ではないが、その最高速度は時速100kmにも及ぶ俊足である。

 一葉はモンスターの図体では走りにくいゴミだらけの路地裏などに誘導して時間を稼いでいたが、その時間稼ぎも彼女の体力が底をつけば関係ない。


(普段から…運動してたらこんなことにはぁ……)


 自堕落な己を呪おうと、自体は好転しない。そのまま追い付かれようものなら、彼女は骨も残らないほどに食い殺されるだろう。


(だ、だからもう…やるしかない……!)


「ぅ、う……おりゃぁぁ!!」


 危険を犯す自身を鼓舞する為、一葉ひ普段は使い慣れない強気な言葉で叫び出す。そして必死に動かしていた足を止め、襲い来るモンスターを睨みつけた。

 このままでは追い付かれる、追いつかれてしまえば死ぬ、一葉ひそうなった場合にどうするかは走り出すよりも前に考えていた。

 それは余りにも危険な選択だが、同時に成功するという確信に近い感情が彼女の背中を押していく。


「く、くらっ、くらえぇ!!」


 迫り来る鼠型のモンスター。その獣の頭部が彼女の位置から10mほどの地点に入った頃に、一葉は手首のブレスに手を添えた。


《──フラッシュ─起動シマス─》


──ピカッッ!!


 その瞬間、モンスターの眼前に眩い光の粒子が溢れ出した。


(範囲内…ピッタリだ……)


 それはアシストブレスに備わった機能その2、フラッシュ。その効果は言わばスタングレネード、強力な閃光によって生み出されるただの目眩しだ。

 だが目眩しの効果範囲は7〜8m程であり、対象の接近と行動を注意深く観察して使用することが求められ、使用者には大きな危険が伴うものだった。

 

 その危険な綱渡りを、一葉はなんとかやり遂げた



 

──かに思われたが……


「ぁ……ちょっと!?」


 一葉に大きなミスは無かった。

 フラッシュによって行動不能とする為、鼠型のモンスターを効果範囲内に引き付けて起動させる必要があったのだ。なのだから、彼女がそうしたことは間違いではない。

 ただ間違い、誤算、思慮に欠ける部分があったとするならば、目眩しを受けた後のモンスターの軌道である。

 

 事実として、獣は光を受けた目を抑えると同時に空中へ浮き上がり、能力によってなのかその図体を数倍……体長を4mほどに巨大化させて前方に飛び上がった。

 前方とはつまり、一葉の真正面である。


(目眩しして…すぐに避けるつもりだったのに……こんなのって!)


 4mほどの巨体は一葉の真正面に飛び上がった。

 その体長から想定される質量は優に数百kgを超えるだろう。常人と突撃しようものなら、当然その者はただではすまない。


──十中八九()()()()


(せっかく…上手く行ったと思ったのに…そんなの…あんまりだよ……)


 一葉にはその光景がゆっくりに見えた。走馬灯のように流れる眼前の事実を、とてもじゃないが現実が受け入れられない。


 たった数年の、短くつまらないその人生が終わることなど、自身が死ぬことなど受け入れられる訳がないのだ。




──大丈夫だよ。


「……え…」


 何処からか聞こえた好き通るような声に、一葉は小さく声を漏らした。そして声は、その言葉のままに一葉を救い出す。



──ドゴォォーーン!


 いつかの日にも見た死の眼前から、再び一葉は救い出された。目の前に浮いていた筈のモンスターはいつのまにか一葉の後方のコンクリートの壁に直撃、頭部から瓦礫に埋まって倒れている。


「あれ…今私……」


 衝突するはずだった巨体見てそれでも尚、一葉は自身が助かった事実を理解出来なかった。

 そしてそんな彼女の肩に、何者かが手を添える。


──ナイスファイト!あとは任せてるニャ!


「ぁ、貴方は……?」


 振り返った先には1人の少女がいた。声から少女と推測出来たが身体全体を煙で包まれており、容姿は見えない。しかし薄らと少女の眼光は獣のように鋭く輝いていた。


──うーん。色々混乱してるみたいだけど安心してニャ!


(…ニャって…………ぁ!!)


 彼女が話しているうちに身体を包んでいた煙が離散する。

 そしてその中からは布の少ない下着のような衣に包まれた少女が現れた。少女は真っ白な髪に黄色がかった猫耳、手足や肩に黄金色のオーラを纏っている。それは間違いようがない異形の姿、それでいて人間性の残った理性的な受け答えはどこかの超人を想起させる。


「……もしかして…」



「大丈夫。ニャチが助けるニャ!」


 猫耳少女の名は猫政蓮華(ねこまされんか)

 幸村一葉を死の危機から救う、2人目の獲得者(英雄)である。










────────────────

◯ アシストブレス機能まとめ


機能その1

 組織のあらゆる関係者との通信機能。同じくアシストブレスをつけた者は勿論、獲得者の身に付けるネクストブレスにも通信が可能であり、日本全土に散らばる組織の基地全てにも通信可能である。

 使い勝手が良い。


機能その2

 モンスターを対象としたフラッシュ機能。

 視覚を封じ、構成員の逃走を手助けする為の機能。しかし効果範囲は7〜8mと短く、動く対象を捉えることは難しい。

 組織内では最も使い勝手の悪い機能だと揶揄されている。


機能その3

 対象へ電流を流し込むショック機能。

 メガ、ギガ、テラと出力を設定可能だが、使用には対象に距離を詰めて照準を合わせる必要があり、ギガ以降は出力が高すぎるが為に使用者に電流が逆流する危険もある。

 少し使い辛い。


機能その4

 対象モンスターの放つエネルギーの反応からモンスターの持つ運動能力を4つに分けて数値化するスキャン機能。

 元々この技術によって計測された合計数値からモンスターの脅威ランクが設定されるなど、SEEDの発足時点から重宝されていた技術である。アシストブレスが考案されると共に、その機能の一つとして搭載、手軽に測定が可能になったという経緯があったようだ。

 最重要機能。


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