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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第二章 セイシュン巡りにゃ犬がでる
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第28話 休日?異常なフードロス

「ふっ、くあぁぁ……!ユッキーなに頼ムー?」


「あ、えと、なんだか見慣れない食べ物が多くて……何かおすすめってある?」


「わかんないネ…もっとチラシとか見て調べておけばよかったヨォー」


 時刻は午後1時。あの後2時間ほどの散策を終えた一葉と兎崎は、ショッピングモール内の飲食店に訪れていた。

 その飲食店とは若者や学生が多い喫茶店、俗に言うカフェと呼ばれる場所だ。そのショッピングモールが隣町ということもあり一葉は勿論、兎崎も訪れた事などない。

 そんな中彼女達は不図した興味本意で入店したのだから、何を注文したい、これを食べたいなどありはしなかった。


「…というかメニュー表、ほとんど飲み物とかスイーツだよ?もしかして店間違えた?」


「え……カフェは大抵そうじゃんユッキー」


(ぁ……無知を晒しちゃった)


  一葉は恥ずかしさでメニュー表で顔を隠し、誤魔化すように話を切り替える。


「わ、私はそんなにお腹減ってないし……ぁ、このパンケーキにするよ!なんかいっぱい果物乗ってて美味しそう!!」


「おっユッキー強気だネー。て、これ1つで3000円!?いやぁ〜私にはちょっと辛い値段ダナァ……」


 兎崎は決して貧乏な家庭にはいない。一葉は軽く注文していたが一般的に考えても軽く払える金額ではないだろう。


「香織は無駄遣い多いんだよ。さっきだってよく分からないラクダのぬいぐるみ買ってたし」


「いやァーーー… というかユッキーは雰囲気の割に裕福だよね〜今日も結構お金持って来てるみたいだシ……もしかしてユッキーってお嬢様とかだったり?」


「そんなんじゃないよ!…まぁお母さんはそれなりに稼ぎが良いって聞いてるけど……何の仕事をしてるのかもよく知らないんだよね…」


「ふむふむ…まぁイイヤ!ワタシはこの日替わり気まぐれパフェにしよっと!!」


 そうして彼女らは注文を終え、雑談を交えて待つ。この後はどこへ行くのか、何を買おうと思っているのか、そんな買い物の確認がほとんどだ。

 だがカフェの装飾や流れる曲はその場にいるだけで心安らぐもので、そんな雑談を交える時間だけでもどこか楽しさが生まれる。


「いいお店だねココ!」


「そうだね…オシャレな外見通り、すごい落ち着いてくる」


「うん!将来住むならこういうとこがイイナァ!」


「飛躍しすぎだよ」


 初めて訪れた場所として感じていた不安は、物の数分で掻き消された。

 そしてただただ注文が運ばれるまでの時間を待つ、そうしている時とある些細な不幸が現れた。



「おっひひはは!いいじゃんこれ!!ネットに上げようぜこれ!!」


(ぇ……)


 自身の右手後方から聞こえた下品な笑い声に、一葉はビクリと肩をすくめた。


「ほぉ〜んとだぁ。いいね可愛いじゃんこのパフェとか!ピンクで派手!話題性十分でしょ!!」


「おうおう拡散しまくろうぜ!」


(ぇ……ぁあなんだ…他のお客さんかぁ」


 振り返った先の席にはカップルのように見える男女がおり、運ばれたばかりのパフェやケーキを見てはしゃいだ声を上げていた。


 しかしながらその男女の声の音量は迷惑なほどに大きい。数m離れた席にいた一葉の耳でも不愉快に思える大音量だった。


「うぅ…あそこの人達声大きいなぁ」


 カップルに聞こえないように、雀の囀り程度の声で一葉は呟く。


「確かにネー。まぁあんまり大きかったら店員さんが注意するだろうシ、見ないようにするのが懸命だヨネ。他のお客さんもいるんダシ、ああいうのはやめてほしいヨネー」


「いや香織もついさっき迷惑行為してたけどね」


「……テヘ!」


 兎崎は舌をペロリと出して、ごめんごめんと頭を下げた。見た限りでは反省は見られないが、どこかポップな表情を浮かべて頭を下げている。


「……うんまぁ言葉だけでも謝ってくれれば良いよ。でも完全な偏見だけど、ああいう人達は注意とかしても謝ったりしないから……ちょっと不安」


「ん?不安っテナニナニユッキー?」


 ボソリと気を沈めた一葉の言葉に兎崎は首を傾げた。


「え、えと。最悪ちょっとした暴力事…問題になるかもかなって……」


「ぇ、モー!やっぱり全然ネガティブ抜けてないじゃん!やっぱりやっぱり直してがなきゃダメだよー未来は明るく()()()()()()にだよ!」


「…デンジャラス?……何と間違えて──」



「──んだてめぇ!!難癖つけてんじゃねぇぞぉ!」


 奇天烈な兎崎の言葉違いに言葉を返そうとした時、後方からの声が一葉と兎崎の意識を吸い寄せた。


「ぇ…ちょっ、ちょっとどうしたんですか!?」


「ハァ…うっせぇよ!この店員と話してんだ、他人が口出ししてくんじゃねぇ!!」


 後方のとはつまり、先程高らかに笑い合っていた男女カップルの事。その男女の内の男の方が、店員の胸ぐらを掴んで怒声を浴びせていたのだ。

 その叫びを聞いて一葉と兎崎は慌てて傍へ近付いたが、それを見た男はより一層声を荒げる。


「お、お客様。あまり大きな声を出されては困ります。この通り他のお客様もいらっしゃいますので………」


「てめぇが生意気言ってるから叫んでんだよォ!!何が『(うち)は撮影はお断りしています』だぁ。俺らを舐めてるっつうことだよなぁ?」


「そうよそうよ!わたしらが悪い訳ないじゃんよ!!」


 男の背後から、女がその支離滅裂な言葉を肯定する。筋違いな言い分だがまるで当然であるかのように、彼らは怒りを解き放っているのだ。


「え、そ、そんなくだらないことで……」


「…はぁ?なんだ、お前も生意気言いたいってのか?」


 一葉が非難の言葉を漏らした瞬間、男はギロリと彼女を睨みつける。彼女はすぐさま威圧されて口を閉じたが、既に男の怒りを買ってしまったようだ。


「…よく見るとシケタ面だなぁ。体も貧相じゃねぇか、典型的なグズ女だなぁ!」


「ほんとほんと。みるからにどうしようもないダサダサ!見窄らしいヤツだわぁ!」


(ぇ、ぇ……なんでそうなるのさ)


 理不尽な言葉の数々に、落ち込むよりも前に困惑が湧き上がる。そんな理解し難い低俗な罵倒には言葉を浴びた本人ではなく、彼女の親友が言葉を返す。


「は、はぁ!?今度はユッキーに文句ゥ!?やめて下サイ!ユッキーそんなにダメな子じゃないです

!!一体何様なんですかあなた達は!!警察事ですよこんナノ!」


「はぁ〜?どこに俺らがんなことした証拠あんだぁ?警察呼び出して困るのは寧ろそっちなんじゃねぇの〜?」


「ば、バカなこといっテー!!」


 警察という言葉を出しても男は怯む様子を見せなかった。ひたすらに敵対心を煽るように、子供のような理論で反論を続ける。そうして彼らはそのまま、変わらない粗悪な意見を並べ続けた。

 そんなカップルの言葉を聞いて店員はすっと目を閉じたかと思うと、ゆっくりと口を開けた。


「……申し訳ありませんお客様…わ、私が不適切な発言をしたばかりに…」


「エ!?ちょっと店員さんが謝るコトジャッ!」


 カップルの態度を見て心が折れたのか、それとも呆れてしまったのか、店員はカップルへ向けて頭を下げた。


「ほぉ〜?じゃあどうしてくれんの?あ、注文したスイーツ無料してくれんだな?そういうことでいいよなぁ?」


「…はい」


「え、え、エ、そんなのっテ……」


 予想外の結果に兎崎がボソッと不満を漏らしたが、男はニヤリと笑みを浮かべながら言い放った。


「うるせぇなぁ!店員がそう言ってんだァ!てめぇら帰れよ!鬱陶しいわ」


「こ、こんなの納得出来な──」


「──いやもう戻ろう、香織……」


 納得出来ないと反論しようとした兎崎の言葉は、対面する男より先に、親友の言葉によって遮られる


「って!?ユッキーなんでぇー」


「意味ないよ、これ以上は……」


 それから兎崎は幾つも意見を述べたが、一葉まるで聞く姿勢を見せない。そんな歯切れの悪い気持ちを抱えたまま、兎崎は一葉に強引に手を引かれる形でカップルの元から離れて行くのだった。




「もう!なんでやめるのサァユッキー!」


 元の席へ戻ろうと兎崎の中から不満は消えない。彼女から溢れんばかりの苦言が濁流のように吐き出されていた。


「納得いかないヨ!納得納得…いかないヨ!兎にも角にもとにかくにもって感じで納得いかないんだヨォ!」


「……いや、店員さんが諦めちゃったんだから、私達がどうこう言える事じゃないよ」


「イーヤイーヤ!それでも警察を呼ぶなりしたら捕まるのはあのオバカップルじゃン!お店側が悪い訳ないヨ」


 このカフェの入り口には元々商品の撮影を禁止すると明記された張り紙が貼られており、その指定を破った客には厳罰が下されるとも書かれていた。

 であるからして順当に行くなら今回の案件において非難されるのは利用客だ。しかし現実問題、人間の心理とはそれほど単純ではない。


「それはお店側の話で……あの店員さんがどう思うかは別でしょ?…単純にそんなに面倒な事にしたくなかったんだと思うよ」


「ぇ!じゃああの人ただ単純にめんどくさいから謝ったってコトナノ!?」


「言い方が酷いけど……多分そうじゃないかな」


 例え心にない言葉でも正しくとも悪くもなくとも、謝るだけでその場を収められるのならばそれが最善だ。店員の心情など、ただそれだけの簡単な言葉で説明できる物に過ぎない。


「なにそれー!私達怒ったのバカみたいじャン!酷いヨ悪いヨー!」


「気にしても仕方ないよ。どうか分かんないけど…今は大声も聞こえなくなったし、また何か問題になりそうだったらその時考えよう。私達はただスイーツ楽しみに来てるお客様なんだからさ」


「ぅーマァ了解ィ……ちぇー」


(……絶対納得してないじゃん)


 一葉の言葉に半ば嫌々に納得した兎崎は、返答後も不機嫌そうな態度をみせながらリスのように頬を膨らませており、一目見て彼女の内心を把握できた。


「お待たせ致しました。アップルソースパンケーキと…店長の気まぐれジャンボパフェになります」


「ぁ!きたの!?」


 彼女が不機嫌そうにしていると、彼女らが注文していた2つの品がその機嫌を好調させる為かのように運ばれて来た。そうして店員は注文内容の確認をするとさっさと一礼する。


「ごゆっくり下さい」


「はーい!ありがとうございマース」


(ん……ジャンボ…)



(ジャンボ……ジャンボ?)


 兎パフェが到着した途端、兎崎は数秒前の態度が嘘のように晴れやかな笑顔を見せた。しかしそんな彼女の比較的ありふれた光景のことよりも、一葉の頭の中では店員が復唱したパフェの名前が縦横無尽に暴れ回っていた。


「え、ジャ、ジャンボ?」


「んゥー?どーしたノユッキー?」


(んいや、えーとその…)


「……お金ないみたいなこと言ってなかった?」

 

 言動不一致。記憶違いなのかと思うほどに数分前の態度と一致しない。一葉はそれを問い正さずには居られなかったのだが、兎崎は「ふふふ」と余裕な態度を見せて返答する。


「…ユッキー。目の前の美味しそうなモノを見て、このワタシが()()出来るとデモ?」


「…いやどのワタシなのさ。なんでそんな強そうな()()()出来るの?」


 自信満々、呆れるほどに単純な答えだ。最早そんな彼女の言動に一葉は敬意さえ湧いてくる。


(ジャンボって……香織って食いしん坊属性あったんだ…)


「兎にも角にもダヨユッキー。食べようよ早速。なんだかんだお腹ペコペコなのワタシ!」


「あ、うん。食べよ!もう既に美味しそうだしねどっちのも」


「ア、あとでパンケーキもちょっと頂戴ネ!」


(どこまでも食い意地はってるね…)


 そうしたやりとりを終えて、漸く2人はフォークとスプーンに手を伸ばす。

 中々訪れられない隣町のカフェ。それは彼女らにとってそれまでの人生で味わったことのない新しい()となるだろう。嗅ぎ慣れない不思議な空気に包まれて、そんな大袈裟なほどの期待感が湧いてくる。


 ソースの匂いパンの香り、漂うあらゆる匂いは嗅げば嗅ぐほどに期待が膨らむ。

 そして今、一葉は切り取ったパンケーキの破片を口の中へと運んで行った。


──おいしい。


──おいし……


(……ぁれ?)


 おいしい、一葉はそう言葉にするつもりだった。

 それなりに値段の高い品物だ、彼女は当然おいしいと感じられると思っていたし、事実として食欲を掻き立てられる香りが漂っていた。

 しかし実際に口へ運ばれたそれはおいしいなどと言えるものではない、そんな言葉は相応しくなかった、

 それどころかなのか、それ以前になのか、そのパンケーキには食べ物としての土俵に立つ為に必要な、大切な事柄が欠如していた。


(味が…しない?)


 何かの間違いなのかと、確かめる為に再びパンケーキを切り取り口の中へ運ぶ。しかしそれでも、パンケーキからは味と呼べるものが感じられなかった。あるのは味のしなくなったガムを噛んでいるかのような異様の不快感だけだ。


(これ、この感じもしかしなくても…)


 その異変に嫌な予感を巡らせていると、「うげぇ」と吐き出す声と共に兎崎と一葉は顔が見合わせた。


「ねぇユッキー…ワタシのパフェなんか変ダヨ。なんか変な味がするって言うカ……味がしないんだよ」


「…香織も?」


「え!ユッキーのも?じゃあ店の不手際か何かジャン!それじゃあ厨房のほうに文句でも──」



「──ぐぅがあああぁぁ!?」


「な、ナニナニなんの悲鳴!?」


 立て続けに起きる異変が2人の会話を遮断する。

 それは悲鳴、一葉の背後から聞こえた痛ましいほどの悲鳴だ。


「ド、どうしたんでスカ!?」


(この声……)


 悲鳴はまるで命の危機を知らせるように壮絶で、意識するよりも自然と兎崎は立ち上がり、そのあとを追って一葉も動き始める。


「いでぇぇ!?いでぇぇよぉぉ!なんだよこりゃぁ!全身が溶けるみてぇにいてぇ!?」


 そう悲鳴を上げていたのは、先ほど兎崎と口論をしていたカップルのうちの男だ。彼は地面に横たわり、身体中を掻きむしるような行動をしていたが、彼の苦しみが和らぐ様子はない。


「あのどうしたノ!?身体が痛いノ?原因は心当たりある?…ねェ!…返事してよ!」


「ぃがぁぁぁ!?ぁぁぁいでぇよぉぉ!!なんで痛いってんだよぉぉ!!」


 兎崎が苦しむ男の身体に触れて言葉を投げかけたが男からの返答はない。余りの痛みに彼女の言葉が耳に入らないようなのだ。それでも尚、兎崎は彼への問いかけを続ける。


 対して一葉は声を漏らさず冷静に周囲を見渡す。

 一葉の想像が正しければ、この異変の原因はモンスターによるものに違いない。


「さっきの……女の人の方は……ぁ」


 目指す対象を一葉は視界に捉えた。

 そこはカップルが座っていたテーブルの下。くたびれるように倒れ込んだ女性、その首元に噛み付くその()の姿を、一葉は確信とともに補足した。

 不可思議な粒子と異様な体長、モンスターであるからして当然、理解しかねる特徴を持ち合わせている。しかし幸運なのか必然なのか、補足した生物は一葉の想像に収まる獣の外見をとっていた。


 灰色の体毛に包まれた太い胴体、不安を覚える程に細長い尻尾、体長は豚に近いほど大きかったが、その特徴は至極ありふれたその獣の物に間違いない。



(ねずみ)型の……モンスター…!)


 平穏に思えた休日の最中に、彼女はその異常と出会った。

 出会ってしまったのだから、既に確信してしまったのだから、彼女の選択は定められた。確信と恐怖と不安に嫌悪、身体を震わせるあらゆる感情を乗せたまま、彼女は右手首のアイテムのを作動させた。



《─ギッ──ギィッ──生態認証終了─解析結果ヲ、表示シマス》


 







───────────────

◯【塩梅鼠(シーバイス)

 スタミナ:500

 パワー:351

 ディフェンス:123

 スピード:583


 総合値:1557 脅威ランクD

能力:【秀逸舌食】(フィードロスク)

 体毛から溢れる特殊な粒子によって周囲の生物から味覚を奪う。そして微弱ながら味覚を奪った生物の栄養素を吸い上げることが可能であり、直接触れる事で純粋に生物の肉を喰らうよりも効率よく栄養素を吸収する事が出来る。

 しかし当然、過度に栄養を吸い取られた人間は死に至る。


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