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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第二章 セイシュン巡りにゃ犬がでる
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第27話 休日:青春ガールズ

「なんていうカー……くだらないネ」


「…辛辣だよぉ……」


 幸村一葉は枯れた声で呟く。

 約束の場所にて兎崎と合流を果たした彼女は、対面してその身なりを確認した瞬間に、自身が犯した呆れるほど程度の知れたミスに気がついてしまった。

 

(なんでカバン持ってないの私……)


 実に程度の低いミスである。

 一葉ははっと赤面し、親友の顔が見れないほどの緊張を走らせる。


「…手ぶらで気にナラなかったノ?」


「なんだかウトウトしてて……眠かったんです」


「……早く寝ないからデショ?」


「……はい…です…」


 一葉は返す言葉も見つからず、しゅんとした表情のまま頭を下げた。


「…なんて言うか…不運とか関係ないよネコレ。ひたすらにドジやってるだけだもんネ……それもかなりよく聞くありがちなドジしちゃっテサー……」


(ぅ……ごもっとも)


 呆れた表情で聞き返す兎崎に、一葉はひたすらに謝罪する。笑い事とも言えない状況なのだから、彼女はただただ頭を下げ続けた。


「まぁ良いけどネ。カバンどォすル?今すぐ駅まで走る?」


「う、いや!私のせいで時間無駄にさせられないよ……財布はポケットに入れてたし…ショッピングには問題ないよ!」


 今回の件は完全なる自業自得、一葉の行いによる過失だ。そうなのだから、彼女は親友である兎崎へ迷惑を掛ける訳にはいかないと考える。

 

「私自身のせいだから、カバンは諦めるよ…中にはそれほど大した物は入れてなかったし…」


「……ユッキー、そういうノはやめてヨ」


 ウジウジとした一葉の返答に、頬を膨らませた兎崎が指摘を入れる。


「そ、そういうの……?」


──そういうの。


「自分のせいだから、とかじゃないでしょ?…友達デショ私達!つまり、関係なんていくらでもあル!!」


「…と、友達……」


「そ、トモダチ!」


「……そ…そっか…」


 一葉が納得の言葉を呟くと、兎崎は飛び上がるような激しい動きを見せ、クラウチングスタートの体勢を取る。


「そー!ソー!というわけで走るヨユッキー!!駅まで走って忘れ物とかありませんかとか聞クヨ!」


「あ、いやそんなに急ぐ必要は──」


「──1秒が惜しいヨ!さぁついてきナ!ユッキー!!」


 彼女は一葉の静止など聞かぬまま、スポーツ少女らしい美しいフォームで走り出した。慌てて一葉は追いかけたが、軽快に走り出した兎崎の背中は数秒毎に小さくなっていく。


「……自分のことじゃないのにあんなに急いで…これじゃどっちが忘れ物したのかも分かんなくなっちゃうな」


 自らのことだと言うのに何処か他人事のように思えるほど、兎崎の言葉が一葉の不安を掻き消していた。



──友達。


(友達…そうだよ。やっぱり香織と私は……)



─ギィギッ……



──は?なんなの、アンタ


──これどうしてくれるのよ!幸村さん。


──空気読めないの?



──……アンタといるとロクなことないよね。



『ぇあ………ご、ごめ…』





(いや…違うでしょ……私)


 何故なのか、なんなのか、一葉そんな言葉を()()()()()


(また……まだ忘れられないんだ…私)


 一葉は頬を力一杯に叩き、脳に過った余計な言葉を吹き飛ばした。


 脳に溢れ出した過去(いつか)の記憶。

 思い出したくもない最悪を掻き消して、一葉は兎崎の背中を追いかけた。



    ◯



「…ん?ユッキーちょっと顔暗くナイ?問題のカバンは運良く忘れ物に届けられてたのにサー」


「ぇ、いや、ちょっとまだ眠いだけだよ!」


「テンション上げようよ!なんだかんだでもう10時20分!予定より遅れてるんだヨ!ハキハキと行かなきゃッ!!」


 一葉と兎崎は駅へ到着後は無事にカバンを回収し、本来の目的であったショッピングモールへ足を運んだ。 

 先の件もあり一葉の心境は少しばかり薄暗いものがあったが、早々に勘繰った兎崎は早々に喝をいれた。


「ユッキー…ユッキーは今日ここへ何しに来たのカ……分かってないんダネ?」


「え?…何って、買い物でしょ?服とか、あと最近新しく出来たっていうカフェとかに行ったりって………」


「……チガァァウ!!!」


(ぃッ!?声でかいよぉ……)


 鼓膜に亀裂が入るほどの奇声が放たれ、一葉は思わず耳を塞ぐ。同時に周囲の通行人が振り向いてきたのでほんのりと顔を赤らめてしまう。


「か、香織。声が多いよ!テンション抑えて…」


「ふむふむ…ユッキー…今日やらなくちゃならないことは買い物なんかじゃあないんダヨ!


「え、買い物は大事じゃないの?隣町にはあまりこれないしさ」


「大事じゃないヨ!何より…………私達が今日ここに来た理由ってのはネー!!



          


     ()()じゃあああい!!!」



──ゴッ


「イダァッ??」


 再び奇声を放った兎崎の頭に一葉の拳が振り下ろされる。普段は暴力とはかけ離れた性格の一葉だが、このようなモラルへの対応は人一倍素早い。

 「迷惑でしょうが!」まるで幼児を諌める母親のような言葉が文字通り痛いほど兎崎へ伝えられるのだった。


「急に叫ぶのやめようね?香織…」


「ご、ごめんヨォ……」

 

「…うん。それで青春ってどういうこと?」


「イヤ!アオイハルだよ!」


「漢字が分からないわけじゃないよ!?」


 吹き荒れるような昂るを続ける兎崎は、意気揚々と言葉を連ねる。


「青春!つまり結局大事なのは今の思い出ジャン!こうやって休みの日に友達と買い物出来るのが最高でしょ?」


「え、えあうん」


「青春!つまり遊び集まり汗を流す!!何にしても一緒に何かするって大事じゃない!!」


「ぇ…えあうん」


「そう!こうやって青春のページを埋めていくのが最高なのサ!!」


「ぅ……うん」


「…?」


 彼女の話を聞いた一葉は何故か居心地が悪そうに体をモジモジもさせ、冷や汗を流し始めた。

 変化に気づいた兎崎は問いかける。


「…?どーしたノ?」


「いや…さっきもそうだけど友達とか思い出とか青春とか……そうやってハッキリ言われるとなんか恥ずかしいなって………」


「…へ?」


「いやいや、青春とか……思い出が1番とか………言葉がなんだかキラキラしすぎててさ……」


(なんか…聞いてるとこそばゆい…)


 日陰者の宿命とでも呼ぶべきか。青春という至って平凡な言葉が幸村一葉には聞き慣れなかった。耳に入るとどこか恥ずかしさを覚えて、全身に痒みを感じてしまうほどにだ。

 一葉と兎崎は一目見れば感じ取れるほどに相反する性質を持った人間。そんな小さな感覚のズレも生まれて然るべきものなのだ。


「……プ、ニハハー!!」


「え!?」


 一葉の言葉を聞いた兎崎は堪えるように笑い声を漏らした。それは決して嘲笑ではなく、どこか優しげで楽しげな声色だった。


「よりいっそ了解ダヨユッキー!大体全部私に任せテ!!」


「ぇ、え、つまりどうなったってことなの!?」


 一葉へ承諾など取らぬまま、兎崎香織は宣言する。



「私がユッキーに()()を見せて上げるよ!!とびきり派手な青春を!!」


「……ぇ、あ……うん……?」


(会話成立してる?これ……)


 より一層の不安と高揚が積もった末に、2人はショッピングモールへと駆け出した。



    ◯



「あ、これコレ!このコート新発売のブランド品だってヨー!いいヨこれ!スゴイセクシーな感じだヨ!」


「…30万円……なんでこんなに高い服売ってるのこの店……」


 兎崎の手を引かれて入店した洋服店、そこで一葉はひたすらな困惑の念に包まれていた。平均的なサラリーマンの初月給は20万程度、30万、兎崎の掲げたコートは一般の社会人の給金を優に超えるものであった。


(月のお小遣い丸っと消えちゃうよ…)


「えぇ〜そんなにするノ〜……マァー!学生の身で買うような物じゃなイヨネ〜」


「一生のうちにも買うこともなさそうだよ」


 兎崎はサッとコートを棚へ戻し、続けて彼女は「さてさて」と胸の内の見えない笑みを浮かべて手を挙げた。


「お遊びは置いておいて!試着タイムと行こうよユッキー!」


「し、試着タイム!?」


「洋服屋と言ったラ!目に見えて気になった服を片っ端から試着しちゃうモノなんだヨ!!さぁ!レッツゴー!」


 洋服屋に訪れる人間には、ただただ生活用品として必要だからと購入するもの、身なりに気を遣ってオシャレの為と服を購入するもの、大きく分けてその2種に分けられる。しかしながらその二つに分類される以前に、入店した上で試着のみで購入に至らない者もいるのだ。


「えと、もしかして試着するだけして買わないってこと?」


「あ、違うよ違うヨ!買う気は全然あるってバー!」


「そ、そう…」


「んーというかユッキー。さては試着だけして帰るのはマナー悪いって思ってるネー?」


「うぇ!?ぁ、う…そうかも」


 グサリと一葉は図星を突かれる。


「…なんていうか……ちょっとガラが悪いかなって」


 初めから試着のみを目的として入店する者。法などには触れておらず咎められる理由のない行動だが、一葉と同様に拒否感を持つものもいるだろう。


「お金払わないのに店員さんに時間使わせちゃうのは駄目なんじゃっていうか……そうすると少し罪悪感が出てくるなって思って……」


「フムフム。実にユッキーらしいクエスチョンだネ!性格の臆病さと卑屈さが変な調理法でお出しされちゃってるんだろうネ」


(なんか最近罵倒されること多い気がするなぁ…)


「つまーり!ユッキーに必要なのはやっぱりポジティブシンキングゥ!!何をするにも必要以上に前向きに考えてみることが大切なノ!店員さんとしても服をいっぱい着てくれると嬉しい!そう考えてみようよ!」


「つ、つまーりって言われても、店員さんからして見ればすぐに服を買って貰えた方が儲かって嬉しいんじゃ……ぃだっ!?」


 ぶつぶつと小言を並べる一葉の額を、兎崎はパシッと平手打ちした。


「痛いって!…さっきもやったばっかりじゃんこういうのぉー…短時間で立場逆転しすぎだよ私たち!」


「いやぁ、あんまりにもユッキーネガネガしてるからつい…それじゃあ、ワタシが服のコーディネートのお手本を見せるよ。ちゃーんと見てたネ!」


 兎崎は高らかに宣言すると、そそくさと立てかけられていた服を試着室へ駆け込んで行った。


(コーディネート……そういえば今日の香織の服、シンプルだけど可愛いなぁ)


 兎崎が見えなくなった後、不図一葉は思い至る。

 兎崎香織の現在の服装は、シンプルな白いTシャツに黒のショートパンツ、そしてラフなスポーツサンダルと至ってありふれたものだ。しかしその服装はシンプルながらに兎崎の天真爛漫なキャラクターを駆り立てており、素直に愛らしいと思える風貌だと一葉は感想を持つ。


(というか…何気なく友達の私服をちゃんと見たのも初めてかもなぁ…。というか私のこの服装って大丈夫なの…?)


 思い返せば、一葉は彼女の私服と呼べるものを拝むのは初めてで、今更ながらに新鮮な感情を抱く。そうすると自然に今現在の自身の服装にも意識が向けられた。


 現在の一葉は青のパーカーに白いスカートに、少し大きめの革靴を履いている。

 なんの変哲もなく、一見すると恥じることないありふれた服装だと言えるが、兎崎と比較した時、一葉は形容し難い居心地の悪さを覚えてしまう。


(なんか…やっぱりもっとちゃんと良い服着てきた方がよかったかな……なんか釣り合ってない感じするなぁ)


(そもそも、私と香織が友達同志ってのも奇跡みたいなものだし……)


 数秒前の兎崎の指摘も忘れるように、一葉は自身の境遇に不安を覚えた。だがそんな一葉の思念を察知したのか偶然か、思考を遮るよう「彼女の親友は服装を切り替えて再登場を果たす。


「お待たせだヨユッキー!これがワタシのベストコーディネートぉ!!」


「……へ?」


 兎崎が勢いよく試着室のカーテンを開くと、そこには当然彼女の姿があった。そして言葉の通り、彼女の選んだ、彼女が望んだ、彼女自身が着替えたファッションコーディネートが公開されたのだ。



(……だ、ダサいッ!?)


「へっへーヘン!凄いでしょユッキー。この昆布みたいな色の帽子可愛いと思わナイ?」


 公開された兎崎の服装は、言葉に出来ない陳腐さを放っていた。何故か全体にドクロマークが描かれた縞模様のシャツ、縦に赤青黄の三色に色分けされた目の痛くなりそうな色彩のジーパン。服もズボンも到底理解し難いセンスである。

 そして彼女が自慢げに語る異様な模様の入った昆布色の帽子にも、当然に目を逸らしたくなる醜悪さがあった。


(センス……いや!なんでなんで)


「か、香織…さっきまで着てた服も香織の服だよね?」


 一葉は青く染まるほど驚愕に溢れる表情を制御して、兎崎に問い掛けた。


「え?ァー。あれは親戚のおばさんのお下がりなんだヨネー!ごめんネー、やっぱりアレちょっト地味だったよネー」


「……いや全然そんなことは」


 地味。そう嘆く彼女を見て一葉の中の驚きは別種の確信へと変化した。


(香織…ファッションセンスないのね……)


「…うん。一旦着てるもの全部脱ごうか香織」


「ぇなんでぇー」


 拒否する兎崎を黙らせて、一葉はサッと試着室のカーテンを閉めた。そして一緒に室内へ入り、彼女が試着した奇天烈な衣服淡々と脱がし始める。


「…に、似合わないってことないけど…なんていうか……季節感合ってないよ!この服」


「ソ、そうカナ?…三色スカートとカ、なんとなく夏っぽいカナと思ったんだゲド」

 

 余りにも逸脱した兎崎の趣味嗜好に困惑しながら、「ダサい」という暴言を包んで一葉は優しい言葉で否定を示した。側から見ると意味不明な会話だが、そうして兎崎は衣服を脱ぎ出した。


(うん、あんまり香織を過大評価しちゃダメだな。そうだよね、香織って普通に可笑しな子だもんね。うん」


「ン?なんかユッキーワタシのこと馬鹿にしてる?」


「ぇ!?…あはは、そんなことないよ」


 会話を交えながらも、1分余りで兎崎は服を着直した。そんな彼女も自身の選んだ衣装を否定されたことは密かに気にしているのか、試着室から飛び出すと人差し指で一葉の方を指差した。


「フーンまぁいいヤ。じゃあ今度はユッキーの番だヨ!」


「…へ!?」


「へ!?じゃないよ!季節感なんて指摘しちゃうからには自信タップリ!やる気マンマンってことデショ!!


「さぁ見せテ見せテ!ユッキーの()()()()()()()()()()()()()


「アルティメットファッションってなにぃ!?」


 こうして立場は逆転し、幸村一葉の衣服選びが開始された。


(…おしゃれって……全然自信ないなぁ)


 一葉自身、身だしなみには人並みに気を回していたが、いかんせん他人へ見せつけるように服を選ぶことはしてこなかった。こうして友人と洋服屋にやってくることはもちろん、ファッションについて語り合うこともほとんど無かったのである。


(…いや冷静になれ私、香織より酷い服になることはないはず)


 しかしながら開始早々、流石に兎崎のセンスを下回ることはないだろうと鷹を括り、意外にも落ち着いた様子で衣服を選び始めた。

 冷静に、そして己を鼓舞するように、心の内で言葉を連ねる。


(そうだよ…普通に好きなの選べばいんだよ!仮に見せてだっさ〜いとか言われたとしても!『いや香織もめちゃダサかったし』とか言えばいいんだよ!うんそうそう、そう。……大丈夫だよ私)


「…だいじょうぶ。大丈夫…きっと大丈夫」


「ユッキー選び終わったー?」


「ま、まだだからっ!あっち向いててよ香織!」


 「ちぇー」と声を漏らす兎崎を遠ざけた後、焦りつつも真剣に衣服を選択、試着室に入りカーテンを閉めた。

 そしてそのまま身に付けていたパーカーとスカートを脱いで下着だけの姿となり、選んだ洋服に手を掛ける。


(…ぁあ…手汗やばいっ。き、緊張し過ぎてる……ホントに大丈夫かなこれ…似合ってないとか言われたら普通にヘコむ……)

 

「もういーかーい」


「まッ!まだだよまだ!?…というかかくれんぼやめて!」


 布越しに顔は見えない。しかし外の彼女の満面の笑みは、目にしなくとも容易に想像ができる。まるで不幸せを知らない無邪気な子供のような言動で、一葉の選んだ衣装を待ち侘びているのだろう。

 幸村一葉にもそれは容易に想像が出来ることだ。


(うん。そうだよそう、香織だもん…他の誰かでもなくて…香織だもんね)


「…き、着替えたよ!」


「ワーィ!出て出て見せテー!」


 彼女の無邪気な声を聞いた一葉は静かに、頬をほんのり赤らめながらも試着室のカーテンを開いた。


「ど、どうかな…?」


 一葉は選んだ服を着込なし、兎崎にその新鮮な姿を見せつけた。

 彼女が選んだ衣装とは、真っ白なワンピースに黄金色のサンダルを履き、そして頭に大きな麦わら帽子を身に付けたもの。至極ありふれた着こなしだが、ネガティブな思考の目立つ一葉からは想像のかけ離れた姿だろう。


「……ッ……」


 余りにも想像にない姿が衝撃的だったのか、はたまたその姿にひたすら見惚れてしまったというのか、兎崎は両手で口元を抑えて言葉を失った。


「……か、香織?」


「……ぅウッ」


「え?……ゥ?」


──


「うぁぁァッ!!!??ユッキーィィッ!!」


「はいッ!?……て、香織…?」


 突如として兎崎が一葉へ抱き着く。

 わけもわからず一葉は驚愕の声を上げたが、自らに顔を擦り合わせる兎崎の表情を見て、反撃を喰らったように言葉を失ってしまう。


 兎崎香織の眼からは溢れんばかりの涙が流れ落ちていたのだ。


「うっ、うぐゥっ!ユッキーィー!!」


「な、なんで泣いてるのさ香織!どこに泣くことがあったの!?」


「ぅ……いや思わズ。可愛いよその服装…畑の近くにいる美少女って感じでいいと思うヨォ…」


(可愛かったら泣くのッ!?)


 滝のように流れる涙が飛び交う。その尋常ではない涙の押し売りから逃れるため、一葉は抱きつく彼女の手を振り解いた。


「落ち着いてね香織ぃ……」


 そっと泣き出した兎崎の頭を撫でて落ち着くように諭す。するとあっさりと気分は落ち着いたようで、彼女は眼に溜まった涙を掻き出す。


「ぅ…でも、ユッキーってメンタルよわよわのヘニャヘニャでェ…地味目で、地味で、正直恥ずかしがって全身着ぐるみで出てくるんだろうなって思ってたカラ…泣かずにはいられないってイウカ…」


「いや、着ぐるみの方がはずかしいよ……」


「とにかく…我が子が巣立ったみたいな気になっちゃったヨォー!」


 落ち着いたかと思えば再び彼女は一葉へ抱き着き、さらに再び情け無い顔で声を上げた。

 とても情緒不安定で、一女子高生として見ると異常過ぎる言動だ。


「…なんだなんだぁ?うるさいなぁ」


「ねぇーお母さん!あのオネェちゃんどうして泣いてるの?」


「…みちゃだめよ」


 事実として辺りの店員やお客は、彼女の姿になんとも言えない表情を浮かべている。

 しかしそんな異常な彼女の言動を見て、その場で唯一心を落ち着かせていた少女がいる。


 それは当然彼女の()()、幸村一葉だ。


(…もう、オーバーだなぁ……香織は)


「えっと、お客様。あまり大きな声を出すのは…」


 そんな時、兎崎が叫んでいる様子を見て、近くにいた店員が懐疑的な態度で注意の声を掛けてきた。


「…ぁ、大丈夫です。ちょっとこの子テンションおかしくなってるだけなので!」


「は、はぁそうですか…それとお客様、そのワンピースは……」


 店員は不安そうに一葉の身につけるワンピースへ視線を向ける。店員に示されたことで一葉と兎崎も言葉の意を理解する。


「へ?ぁあ!!ごめんワタシがワンワン涙飛ばしたせいデェ!!?」


 兎崎が大量の涙は、一葉の試着していたワンピースへ降りかかってしまっていたのだ。

 試着品は飽くまで店のもの、薄らと布が透けてしまうほどにワンピースは水を吸い込んでおり、とても店頭へ戻せる物ではない。


「あわらわらわぁぁぁ!?この場合ってどうするノォ!?お金ェ!?慰謝料とか取られないよね!?」


「…大丈夫だよ香織。店員さん、汚しちゃいましたしこの服私が買います」


「あ、そうですか。であるなら店としては特に問題にしないものとして言われております。お買い上げありがとうございます」



 一葉が交渉すると、あっさりと店員は追求を終える。そのままレジへ進み、会計を終えると一葉と兎崎は洋服店を後にした。


「ふぁ〜ごめんネユッキーィ、ワタシのせいデェ」


「ううん、大丈だよ。もうとっくに買うつもりになってたから!」


「そ、そうだったノ?てっきりワンピース衣装なんて無理して着てたのかと思ったのに」


「無理してなかったわけじゃないけど……着てみたいって気持ちはあったんだ。それに香織が可愛いって褒めてくれたしね」


「へ、へぇ。にっはは!」


 「褒めてくれたから」そう素直に言葉を掛けられて、兎崎も飾り気のない笑みが溢れた。そしてその顔を見合わせた一葉も、折り返すように笑顔を浮かべる。


「にはは。でも失敗したナァーここでは私がリードして上げるつもりだったノニー」


「うん、公衆の面前で泣き叫ぶのは本当にやめて欲しいかな」


「ひゃっ!?しっかり言ってくるじゃん!いい話ぽっさ出てたのにィー」


 そうして洋服屋を出た頃には、彼女達の心から不安や悩み、怒りなどあらゆる不満が消え去っていた。

 ショッピングモール到着時にあった陰鬱さは何処へやら、2人の少女は曇りなき笑顔を浮かべて、次の目的地へと歩みを進める。



─それは普通の女子高生達の、ありふれた休日の光景のようだった。









──────────────

◯不必要な情報その1

 兎崎香織の所持金の合計は一万円程度だが、幸村一葉の持つ現金は約三万円ほどであり、キャッシュカードなどを含めると十万円近い金額となる。それを本人は何の疑問も抱かず持ち歩き、うっかり紛失するところだったというのだから恐ろしい。

 

 この主人公、実は裕福なのだ。

 

 再スタートみたいに書いておいて、前回から丸一か月以上投稿出来てませんでした。理由は例のウイルスだったり、純粋にやる気が尽きてたり、まぁとにかく今月はそれなりに投稿出来る予定なので頑張ります。

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