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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第二章 セイシュン巡りにゃ犬がでる
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第26話 休日:くだらないミス

 

 朝日が登る、太陽が顔を出す、そうして一日は始まって行く。当たり前に思える事実だが、それは決して当然の事ではない。


 全ての人間が等しく、その当然の当たり前に達する訳ではない。平穏とは程遠い目覚めの末に、平凡とは言い難い経験を積み続ける、そんな異様な者達もいるのだ。

 


─カッ


──チリリリリッ!!


 大きな音、不快な騒音、それは時計の鳴る音だ。 前日に仕掛けられていた目覚まし時計が、桃色のパジャマに身を包み、スヤスヤと眠っていた少女を威嚇した。


(ぅぅ……うるさいよぉ……)


 少女は寝言のように愚痴を漏らす。

 時計は前日の夜に自ら仕掛けたというのに、少女眠気に襲われ布団を被り直す。しかしそれは至って平常、ありふれた光景だ。

 そのまま時計は鳴り続けていたが、少女は聞こえないとばかりに布団で耳元を塞ぐ。そんな小さな格闘が10分続いた後、少女は漸く時計に手を伸ばした。


「ぅ、ううー。ふあぁぁ……もう朝だよぉ」


 鳥の囀り、落ちる糞。太陽の光、時計の騒音。お気に入りの布団の感触、それらの普段と変わらぬ感覚に包まれて、幸村一葉(ユキムライツハ)は起床した。

 

「ぅ……うぉぉ…ぅぅ…眠いなぁ」


 御門結碁との戦闘から数日後、本日は7月3日の日曜日、つまりは高校が休みの日。一葉は休日という事で、兎崎とショッピングへ行く約束を交わしていた。

 現在の時刻は8時20分、兎崎とは10時に現地で顔を合わせると約束しているので、十分な時間があった。


 一葉は身体を起こしてベッドに座り込む。

 起きる姿勢こそ見せているが、未だ一葉の脳は起き切ってはいないのだろう。目元には酷く黒い隈ができており、彼女の睡眠時間を理解させる。

 そんなどんよりとした気分ながらも立ち上がった一葉は水面場へ向かい、蛇口を捻って水で顔を洗い出す。


「ぅふぁぁぁ……ぅわ、またブロッコリーみたいになってる」


 目覚めた少女は立ち上がり、鏡を覗き込んだ。すると圧巻だ。昨夜眠る前には至って平常だった一葉の髪型が、アフロのようなマリモのような、そんな異常な形へと膨らんでいる。


 だがそれは一葉にとって珍しいことではない。

「やれやれ」と、慣れた手付きで彼女は髪を整え始めた。


「え…と、サイドテールどこやったんだっけ……あ、ここか…」


 ポツポツと呟きながら一葉はパジャマを脱ぎ、下着だけの姿となる。実家とはいえ少しだらしない行動だろう。

 実際に幸村一葉はだらしなく、少しばかり大雑把なところがある。半ば精神が夢の中にいることもあって脱ぎ捨てたパジャマも表裏がひっくり返り、不潔さの漂う形をしている。


 しかしそんなことに気を回せるほど今の一葉は万全ではない。そうして虚な表情のまま、彼女は家を出るための身支度をこなしていくのだ。



    ◯



「……ふぁぁぁ……」

 

 支度を終えた一葉はお気に入りの服装とカバンを背負い、9時30分ほどに自宅を出た。しかし未だ彼女の眠気は治っていない。未覚醒の意識で覚束ない足取りのまま歩き出し、ウトウトとした表情で駅に辿り着く。

 電車の座席に着くと背負っていたカバンを傍に置く。すると緊張が解けたのかより強い眠気に襲われた。それでも寝るわけにも行かず、自らの頬を叩き目を冴えさせる。なんとか意識を保つが、それでも尚、眠気は一葉を解放してはくれない。


(夜更かし……するもんじゃないな……)


 気怠げな身体に鞭を打ちながら、彼女は目的の場所、安喜田町(やすきたちょう)のショッピングモールへと向かっていた。



──電車が駅を出発してから5分ほど経過するが、一葉はより強い倦怠感に襲われる。


──ガタッ


「ぁ…すみません」


 一葉がフラフラと無意識に体を揺らしていると、隣に座っていた老人に肩をぶつけてしまう。恥ずかしさに居心地を悪くした一葉は立ち上がり、逃げるように別の車両へと移動した。


(頭起こさなきゃだ……乗り間違えたりしたらシャレにならないし…)


 一葉自身、安喜田町は初めて訪れる土地だ。

 眠いからと理由をつけて迷う訳にもいかない。

 彼女は移動した席でポケットの中から地図を取り出すと、繰り返し目的地までの道順を確認する。

 何度も何度も、何度も何度もだ。電車へ搭乗してけらのほとんどを、彼女は地図を確認することへ費やした。

 しかし必要に地図に目を向けていたからだろうか、彼女は()()()重大なミスを犯している事に気付かない。そしてその後も気づく事はない、彼女がミスに思い当たるよりも早くに、電車は安喜田町へと辿り着いてしまうからだ。


《──次は─安喜田町──安喜田町──》


(ぁ、もう着いちゃった…)


 アナウンスの声を聞いて、一葉は立ちがった。

 そして数秒待つと駅が見え、電車の出入り口が解放された。

 開くと同時に一葉は出口を抜け、自らの過ちに気づかないままに歩き出す。



 彼女が電車内にカバンを置き忘れていたことに気づくのは、兎崎香織と合流する頃になるだろう。

 

 これは至って平凡な、うっかり者の休日だ。








──────

割とどうでも良い補足設定

◇ 青春ピークドリーマー


 幸村一葉が最近夢中の深夜ドラマ。夢見がちなだけの普通の女子高生と孤高のクール系ギャングスターの交流を描いた恋愛ホラーサスペンス。

 恋愛とホラーとサスペンス、加えてギャングスターという歪な組み合わせが話題を呼び、ハードな作風ながらに高い知名度を誇っている。

 2005年7月3日に放送された第11話『紅のダンクマジック』は、放送前の予告時点でから神回などと銘打たれ、放送後も高い人気を誇るエピソードとなった。


 第二章を始めます。

 今回の章のテーマは『忘れ物はしたくない』という感じですね。

 書いてませんでしたが、第一章のテーマは『知っているモノと知らないモノ』でした。

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