第4話 花斬り侍
序盤はストックを使ってバンバン連続投稿する予定です。まぁ、すぐに失速すると思いますが…
幸村一葉。彼女がこの学校へ来て間もない頃、兎崎香織から語られた印象深い話があった。
「鬼…離れ…山でキリヤマ? 珍しい名前だね…その鬼離山君がどうかしたの?」
「違うクラスだし、幸村さんは顔見たこともないだろうけド、そのキリヤマくんって結構な有名人でね。幸村さんが転校してくる前ならこの学校一の知名度があったのヨ。いろんな意味で…」
(分かってはいたけど、私ってヤバイんだ)
「何がそんなに有名になるって言えばまずはケンドウ!」
「剣道?」
私は思わず香織の言葉を繰り返す。
(この学校剣道部とか無かったよね?)
「中学校の頃の話らしいんだけド、とにかく負けなしで一年生の時に出た全国大会で即優勝! その後いろんな人が大会とか関係無く勝負を挑んだけど誰も勝てなかったー!」
「優勝!? 想像よりすごい…」
兎崎は簡単に語っているが、それはとんでもない功績。全国の選手を蹴散らし優勝したという彼の印象は一葉の中で大きく膨れ上がった。
「テレビの取材とかも受けてたらしいシ、優勝すごい!かっこいい! って、結構な子が彼に告白してったらしいのヨ。」
「さっきちょっと含みを持たせてたけど、全然すごい人なんだね」
兎崎は言葉の末に「いろんな意味」で、と何か悪い事を予感させる言い回しをしており、てっきり悪評の凄まじい人物なのかと一葉は感じていた。だが聞く限りでは彼はただただ天才、それ以外の何者でもない。
「いやぁ、今の告白の話なんだけどネ……」
「へ?」
少し眉を歪ませ、言い難くそうな表情で口を押さえる兎崎の様子を見て、一葉は首を傾げた。
「その告白した子達、その大半が剣道部のマネージャーとかで、告白までに結構言い争ったらしくてネ? 元々友達同士だったんだけド、何だかんだで不仲になって、その後いろいろト……」
「ぁ……あ…」
男絡みの女子高生の人間関係、それはとても儚くとても醜い。恋愛に疎い一葉でも、短い文章でその惨状を想像する事は難しくなかった。
だが、怖いもの見たさと言うものなのだろうか。聞くまでもなくわかるその後のストーリーを、彼女は黙って聞いていく。
「「あんたブスなんだから黙ってなさいよ!」「人のこと言えないじゃん、そばかすキタナーい」「デブは土俵に立ってないでしょ?」「勉強できないバカなんだからやる意味なくない?」と、お酷いことにネ……」
「……うん」
ドロドロとした人間関係の綻びを聞かされ、彼女は(自分がそうなったら嫌だなぁ)と、心底思った。
「その後何だかんだでそのうちの一人が告白したんだけど……」
(したんだ…)
「当の鬼離山くんハ…」
「くんは…?」
──無理だ。……てか誰、お前…
「ひどいヨネ?」
「ひどっ!?」
告白に向け行われた、想像したくもないドロドロとした言い争い、それに向けて錯誤されていたであろう告白の言葉が彼の一言で一掃されたのだ。相手の気持ちを汲み取るような言動もなく、簡単に言い表されるその結末は酷いとしか言いようがない。
飽くまでも鬼離山桃太本人はただ告白を断っただけだったが。
「とまぁ、噂の範疇なんだけど、そんな感じで彼のことを『【鬼畜侍】』なんて呼ぶ人もいるらしいのヨ」
「安易すぎない……?」
◯◯◯
そして現在、その鬼畜剣道家が一葉の前に立ち尽くしており、彼女の目を見つめる彼は正に今タヌキと戦っていた鬼に対して全く動じずに言葉を掛けていた。
タヌキ、透明な壁、赤い鬼、火の玉、彼女が目にした様々な超常現象、その答えを彼は知っている。
そんな確信を得た彼女は動揺しながらも立ち上がる。
「…鬼離山君だよね、直球になっちゃうけどこの鬼さんも、今消えちゃったタヌキの怪物も一体なんなの? 落ち着いてるし、何か知ってるってことなんだよね、教えてお願い……」
んーっと息を漏らす彼であったが、そこから数秒たっても返答はない。顔を歪ませ手を顎にやり、考えるような表情をした後、口を開く。
「…後始末をする。鬼鎧、お前はそいつの相手をしてろ」
「え!? …ちょっとぉ!!」
一葉の呼び掛けに振り向くこともなく、鬼離山はポケットにしまわれていたケータイを取り出す。誰かに電話を掛ける素振りを見せながら教室を後にした。
彼がいなくなったことで、彼女は鬼の怪物と二人きりとなってしまった。
先程のやり取りからして、この鬼が彼女を襲う可能性は低い。と言っても、その鬼の姿は凶悪と言って他ならない為、安心安全と言う訳には行かず、心臓を撫で回されるような緊張が続いていた。
『─あ、あーー。聞こえてる?もしもし』
「え!?…ぁだっ!?………いっだぃ…」
緊張の最中どこからか突然声が聞こえ、一葉は驚いた拍子に足を滑らせ、右足の小指を机の角へぶつけてしまった。
『あ、大丈夫?』
「……これ何処から……?」
この場所には自分以外人はいない、言葉を交わせる者などいないはずなのだが、確かに聞こえるその声に本日何度目かもわからない不安が込み上げたし、足の指は異様に痛くて仕方ない。
『ん? あー。目の前よ、めのまえ』
「…え? 鬼さん!?」
目の前、その言葉を聞き、痛みに震えながらも顔を上げ見つめる。声の主が呼ぶ先にいるのは凶悪な面の怪物、角、牙、文字通り鬼の形相と言えるようなその面立ち、とても人間同様のコミュニケーションを取ることができるとは思えない。
だが、確かにその声の主は鬼なのだと一葉は理解した。
自身を助けるような動きを取っていた鬼の事を、恐れていた訳ではないが無かったが、まるで等身大の人間と変わらず言葉を掛けてきた鬼の姿を見て、思わず眉をしかめる。
「……ここまではっきり会話できるんですね……鬼さん」
『んまぁ、と言うか思ったよりさっぱりだな。もっとキャーってなるかと思ったんだが』
「…反応してたら話進みそうにないですし」
冷静に事を運ばせようとする一葉の言葉を聞き「まぁそっか…」と鬼は呟くと、巨大な身体を揺らしながら床に手を着け、力を抜き落ち着いた様子を見せた後、頭をポリポリと掻く仕草をしながら鬼は問いかける。
『えーとさっき桃太のやつが呼んでたが名乗るぞ。おれはキビト。こんななりだが襲ったりしないから安心してな』
「は、はいキ、ビトさん…」
『あ、さっき言ってた鬼さんってので呼んでもいいぞ?その呼び方なんか好きだからさ』
「え、はい…」
自身を助けた時点で友好的であることは理解していたが、いざ言葉を交わしてみると、並みの人間以上にも感じるコミュニケーション能力に圧倒され、一葉は少しの敗北感を覚えた。
『えっと…なんも知らない感じだよな。一葉ちゃんよ』
「はい…ん? ……一葉?」
初対面。この鬼とは間違いなく初対面であるはずだが、馴れ馴れしささえ感じ呼び方をしてきた鬼の態度に少なからずの疑問が沸き起こる。
『え?…あっミスった、馴れ馴れし過ぎだなこれ』
「ぁいえいえ…それよりどうして私の名前を知ってるんですか?」
会話の距離感を間違えたのだと思っている様子の鬼であったが、一葉にとってそんなことよりも名前を認知していることの方が疑問なのだ。
『んまぁ…きみ有名人じゃん。桃太を通して色々聞いてるからな噂。【低運の女】とか、【貧乏神】とか、【悪霊退散】とか色々呼ばれてる幸村一葉。』
「呼び名が酷いし、3個中2個で人間扱いされてない……」
彼女、幸村一葉の知名度故に、そう言われれば納得するしかない。
だが周囲からの別称については不満を募らせ、苦言を漏らさずにはいられないものだ。
『脱線しそうだな、話を戻す。細かいことは抜きでざっくりでいくな』
「はい…」
一葉は落ち込み乾いた声を上げながらも膝を抱え、三角座りの体制に移り、説明を始めた鬼の方へと体を向け、ざっくりとした説明を聞く。
『テラーモンスター。おれとあの狸見たいなのがそうだ』
「モンスター……」
モンスター。訳すると化け物、怪物、怪奇な物など。こうして説明する事がなくとも多くの人間の知る単語だ。ゲームなどでも度々使用されるその単語は、深く説明されずとも害や危険を及ぼす存在である事を理解させる。
『そんでなんやかんや色々でモンスターを倒すのがおれと桃太の仕事。よし、説明終わり!!』
「ホントに最低限だ……」
ざっくりがすぎる。まだ一葉が疑問に思っている情報の多くを得ることが出来ていないのに、彼は説明の終わりを告げた。
『正直説明とか苦手だし…きみに説明する意味も薄いんだよなぁ』
鬼鎧は会話に消極的、というより意図して避けているようにも感じる。
なぜだか分からないが、今の一葉にはとにかく情報が必要だ。
「えっと、じゃあどこから怪物がやって来たとかはいったん抜きにして、これからを聞きたいです。教室ハチャメチャになってますけど……この後警察に通報!て、訳じゃないんですよね?」
まずは会話途切れさせないようにと、一葉は質問の方向を変えた。謎は置いて、まずは今後を。
『理解力あんなぁきみ。さっき桃太のやつが後始末って、言ってただろ?今それができる仲間に連絡してんだよ。まぁ具体的何の処理かは省くけどな』
(始末…教室ボロボロだしね……いやぁ、ちがうのかな?)
後始末。その言葉から一葉は荒れ果てた教室を補修することを意味していると思ってたが、彼らにとってのそれがそれほどあっさりとした物なのかと思い直す。
彼らがどのような体制でモンスターの退治を行っているのか、一葉に知るよしなど無かったが鬼離山桃太や鬼がまるで日常生活の一部かのような慣れた様子で狸に対応していたことを思い返し、一つの考えに思い当たる。
「…モンスターの形跡の隠蔽?」
『おっ!すげぇねピンポンだ。よくわかったな情報量すくねぇのに』
「アハハッ……」
彼らの様子から、こうして対応するのは初めてではない。
むしろこのような騒動は幾度となく繰り返されて来たのだろう、落ち着いた反応や後始末から伺える。
それほどに当たり前に人が襲われる事があるのであれば世間的にその存在を噂されていたとしてもおかしくはない。そうでないと言うことは、彼らがその事を隠して活動していることを意味しているのだ。
こんな状況ではあるが、すげぇなと称えられたことで思わず一葉は口元をゆるめ笑みを浮かべたが、すぐさま落ち着いて問い直した。
『多分想像通り、こういうモンスターの存在を世間的に知られたら、まぁ色々めんどうなことになるからな。パニックとか避けるためにも秘密として影ながらやってこうってことらしい』
「隠蔽、その場合私って……」
一葉は実際にモンスターにその命を脅かされ、守られた事で彼らの存在を知ってしまっている。彼らからすれば彼女は秘密を知る危険な存在。どこかに隔離されたり、最悪の場合秘密保護の為に……
(もしかして殺されたりしちゃうの?……私)
嫌な考えが頭を過る。彼らの活動背景が分からない以上否定はできない、先程の後始末と言うのも自身を始末するという意味なのではと、余計な思考が脳を駆け巡った。
狸に襲われ命の危機に晒され奇怪な状況が続いた事で、未だに身体の緊張が解けない一葉であったが、もしもの考えにより再び身体が震えだす。
「ぃやぁ…だいたい分かりました。大丈夫です…」
『ん? いきなりテンション落ちたな。足がやべぇガタガタになってんけど』
「いやいやいやいやいやっ!!…お構い無く……」
自然を装い話を切り上げようとした一葉であったが、彼女にそれができるわけは無かった。
震えた声に、生まれたての小鹿のように安定しない足の挙動を指摘され、苦し紛れの言葉が漏れた。
『あ、おれの顔怖くてビビっちゃってんのか?ごめんなぁ!』
「え? いやぁそう言う訳じゃないですけど……」
鬼は申し訳無さそうに頭を下げ、それならば呟き目を閉じスッーと息を吸い込んだ後、叫んだ。
『ライズアウト』
「ぇ?」
その言葉を発した直後、鬼はきらびやかな赤い光に包まれる。鬼の巨体を覆い隠すその光には所々淡い純白が混ざっており、白いカトレアの花びらのように綺麗で色鮮やかだ。
赤い光に驚愕し、鬼の方に目を向けた一葉であったが、彼女の視界は一瞬にしてその赤に飲み込まれた。
「ちょっ!?鬼さん!」
一葉の視界に移るのは赤。その強い光に遮られ、鬼の姿を目視する事ができない。
(……まさか見えない所をぐさりッ!?)
先程思い当たった嫌な想像に囚われ、またしても身体が震えだす一葉。だが実の所、そんな心配は必要はい要らない。
僅か2秒後、鬼を包んでいた光が消え去り、それと同時に巨大であった鬼の姿も見えなくなっていた。
「…オニザンッ?消えたぁ……オニザンッ消えだぁぁー!?」
(鬼さん消えたぁ!?)
殺される、そう思っていた相手の姿が見えなくなる。様々な考えが脳を過り、思考がまとまらない。
どこへ消えたんだ、やっぱり始末されるのか、結局これからどうすりゃいんだ、溢れでる疑念が感情へと変換され、彼女の表情は人に見せることが出来ないほどにとんでもないことになっていた。それはもうとんでもないこと。
『すげぇ顔だなぁ…だいじょぶ?』
「ギャラァーー!!?」
不意に言葉を掛けられた事で、一葉は思わず悲鳴を上げた。
『おばけでたみたいな反応だな…ちょっと身体を変えただけだぞ?』
「…ぇあー!?」
辺りを見回し、その赤い姿を目に捉えた。だが、その瞳に映ったのは先程の巨大な風貌の鬼の姿ではない。
鬼と同じような赤い体色だがその大きさはチワワほどで、あの鬼が見せていた巨大さと凶悪さを感じる身体、角や牙も目に見えて小さくなっており、もうそれまでの威圧感はなかった。
むしろその見た目はまさに小動物。育つ前の小さい子供のようでとても愛らしさを感じる。
「か、かわいい…」
『ほ、褒めないでくれよ!照れちまうじゃんかよー』
小さくなった鬼はその容姿を褒められ、口元を緩ませながら頭の毛をポリポリと掻き毟る。
その姿もまた猫が身体を舐めているような可愛らしさがあり一葉は心の中で微笑んだ。
恥ずかしがる鬼の様子を見て妙な安心を得た一葉は、頭に過っていた疑心の念を捨て去り、鬼の変化に対する質問を始めた。
「姿を変えたりできるんですね。もしかしてさっき扉を塞いでた透明なのもそういう力が働いて?」
『あぁーそうだな、それは狸のやろうが使ってた能力だなぁ…あ、話さないつもりだったのにそこそこ会話してんじゃん…意外に口がうまいな一葉ちゃん』
能力。それについて語りだそうとした鬼鎧だったが、「おっとと」と言うかのような態度で会話を中断させた。
「どうして話そうとしてくれないんですか?びっくり変身はしたのに…」
『ちっこくなったのは色々めんどくさく成りそうだったからさ、騒がれても困るし。会話控えてんのは…まあ色々あんのさいろいろ。そもそもきみはただ襲われただけの部外者、余計なことを知っても何も良いことなんてないんだぜ?』
鬼鎧の言い分を聞き、一葉は言葉を詰まらせる。
確かにそうだ。彼女は襲われた人間、それ以上でも以下でもない。特別不運な体質であるが、悪魔でもただの女子高生、こんな奇妙な戦いに深く関わって良いほど特別な存在ではない。
「…でも知らないのは怖いじゃないですか……」
あのような危険な生き物が存在していると知れば、首を突っ込まざるを得ない。
何度目かになるが、彼女はこれまでにその不運さから様々な最悪に巻き込まれてきた。
何故かサラリーマンの浮気相手に間違われ、婚約者に刃物を向けられたことだってあるし、銀行強盗の犯人だと誤解され、手錠を掛けられたことだってある。
何度もそんな最悪な出来事を見てきた。だが、その出来事により深く関わろうとしたことはなかった。
それは一概に、彼女が臆病だからだ。最悪な出来事それらを避け、普通に生きようと思っているからだ。今だってそれは変わらない。
でも今回はそのしようとは思えない。避けたところで、後々、訳の分からない危険が彼女を襲うことになるのだから。
反論されても尚、一葉が鬼に質問詰めを繰り返そうとしたその時、教室の外側から足音が聞こえてくる。
それが誰なのかはすぐにわかった。
「鬼離山君…」
退室していた彼、鬼離山桃太が戻ってきたのだ。
帰ってきて早々、彼とキビトは後始末についての会話を交わし始めるが、遮らぬようにと、その様子を一葉は黙って眺める。
『ん、桃太。トリカメは呼べたのか?』
「あぁ、だが30分は掛かるらしい。と言うかまだやってないのか?」
『え、なにが?』
はてと疑問を浮かべるキビトに、目を細め、呆れた様子で彼は愚痴をこぼす。
「人が襲われた場合、そいつをそこから避難させ、落ち着かせろって。モンスターを始末した後だろうと特異な能力で危険が及ぶ可能性があるからな…まえにも言っただろ……」
『ぁあァー、そういやそうだっけか…おーい!一葉ちゃん』
「……え、はい?」
鬼は頭を押さえ苦い笑顔を浮かべた後、やり取りを聞いていた一葉に声を掛けた。対する彼女は不意の呼び掛けに戸惑いながらも鬼の目を見つめる。
「んぇぁ……?」
──直後、首筋に強い衝撃が走り、彼女の意識は暗闇の中へと消えた。
鬼鎧
生物名:テラーモンスター
その他:不明
テラーモンスターの能力設定や鬼離山桃太が属する組織の内情は10話くらいまで説明がありません。
一葉の視点では分からなくとも良い内容なので、
「なんかそういう組織あるんだなぁー」程度に読むことをお勧めします。




