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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第一章 アカイ幸福・シロイ夢
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第23話前半 変貌

「ァァァアア……ハッ!ハハハ、ギィギィヒィ!!!


 御門は異形の姿へと至った。石の怪物の特徴を取り入れるように変化した彼は、常人には理解できないほどの高揚感に包まれている。

 そこに人らしい知性は残されていない。人間とは言い難い異形の姿、怪人への変身と果たしてしまったのだ。


 そしてモンスターとの融合は、主に多きな負荷が掛かる。理性は消え失せ、精神さえモンスターに呑み込まれつつあるのだ。


「…思ってた以上にまずいなこれは」

 

 鬼離山桃太はそう呟く。

 phase3に至った者は欲望のままに暴れ回る怪人となる。当然戦いの経験が多い彼には分かっていたことだ。だがしかし……


(こうなる前に対処は出来ていたはずだ、鬼鎧じゃない……俺自身がはかり違えた。いや…)


 最善の対応が出来なかったのは彼に油断や奢りがあったわけではない。ただただ戦いとは関係のない、彼自身の私的な感情があったことが要因である。


(なんでもない……ただコイツを自分勝手な理由で恨んでいた。だから無意識に、必要以上に痛ぶるみたいに時間を掛けてしまった……)


 御門結碁への怒りや恨みが、彼の判断を鈍らせた。その結果、この最悪の現状を造り出してしまったのだ。

 しかし今は自身の過ちを悔いる暇さえない。眼前の怪人は、ドス黒い悪意に満ちた不気味な笑みを浮かべている。


(…悔いるな…今まず問題なのは……)


「ね、ねぇ、あのおにぃちゃんはどうしたの?いつのまにコスプレしたの?」


 そして今、忘れてならないのだこの幼女だ。

 この幼女がいる限り、鬼離山の行動は制限される。幼女を守り、その上で戦うことを強いられる。

 いくら鬼離山が高い能力を秘めた獲得者とは言えど、幼女がいては十分な力を発揮することは出来ないのだ。


 であればどうするべきなのか、その答えについて、既に鬼離山は解答を終える。

 

鬼鎧(キビト)…5秒程度でいい、御門をここから離すな。その間にこの子供を逃す」


『おうよ!力は増してんが、数は一体だもんな…逃すって話ならさっきよか簡単よぉ!」


 phase3への進化にも隙は存在する。

 今この状況で言うのならそれは数的行動力、融合によって1つとなった御門とゴーレムは、その分彼等に手数で劣ることになるのだ。それがこの現状を打開する突破口に違いはない。

 しかし戦いの距離狭い。彼等のそのやり取りは御門も当然聞き取っていた。

 

「んぉ?ヒギィ!そのガキをニガそうとしてんのかテメェ!!」


「当然だろ…」


 御門に悟られたが、鬼離山は未だに表情を曇らせることはせず、当然だと言葉を返した。

 だが不気味な事に、御門はそんな彼の言葉を聞いて焦りを見せることをしない。先ほど以上に邪悪、自身に満ちた笑みを浮かべて叫び出した。


「コイツと()()()()()したからだろうなぁ…イマのオレァじぶんでもビックリしちまうくれぇにチョウシがいいんだぜ!!! ほんのちょっとヨォ…いいことオモいついちまったナァ!!」


 叫びと共に彼は力を使った。それまで怪物が取り込み変換された石の塊、それが彼の巨大な右腕から放出されたのだ。そして放出され、幾つにも分裂した石は無生物とは思えない動きを見せる。

 形を作り出したのだ。

 通常の岩石ではまずあり得ない、粘土のように柔らかく変形を遂げた石達は、先程まで彼に従っていたゴーレムに似た形の、80cmほどの石人形へ変化し、ひとりでに動き出したのだ。

 

「ぇ!お兄ちゃんなにあれ!わたち、あんな動物見たことないよ…?」


──ギィッ─ゴゴッ


「ぇ……わ!?」


 生み出された石は驚きの声を上げた幼女へ向かって動き出す。老いた高齢者のようにゆったりとした動きだが、それが鬼離山達に友好的な物ではないことは容易に理解できる。

 それは明らかな悪意によって動かされている。


(…能力で石の兵隊を作ったのか…つまり……)


「俺が幼女と逃げようものなら、コイツらを使って街で暴れ回るつもりか?」


 これは御門の脅しだ。暴れられたくなければここに残れ、そういった類いの脅しなのだ。


「はっはっ!リカイのはぇやつだナァ。おうヨォ。こいつらをちりぢりにハナてばヨォ〜、テメェでもタオしキレねぇだろぉ?オレからメをハナセねぇだろぉー?」


(…いよいよマズイかもな……子供の反応からして、あの石兵は一般人にも視認できる。野に放つわけにはいかない)


 この兵隊が一般人に認知されれば相応のパニックが予想される。サポーターミカへ緊急警報を鳴らすように頼み込んではいたが、全ての人間が警報を聞き入れるわけではないし、警報を受けてから避難するまでの十分な時間は経過していない。もし人通りの多い場所に出られれば、何人もの一般人へ危害を与えられるだろう。

 つまり、選択肢などない。

 

「おい子供。ここから一歩も動くんじゃないぞ……」


「お、お兄ちゃん本当に何してるの?か、喧嘩はダメだよ!!」


 鬼離山は幼女の身を案じるが、当の幼女は状況が呑み込めておらず、彼の服の袖を引っ張り、的外れな言葉を掛けてくる。

 幼女様子に鬼離山は呆れ果て、少しばかり強い言葉で威圧する。


「……だまれ」


「え、!?……ぅぅ、うえぇぇーん」


 彼の乾いた声を聞かされて、幼女はうぇんうぇんと泣き出し、雨粒ほどの涙を流し出した。


『…こんなときに泣かせんなよ桃太……』


(…言い過ぎたのか……また)


 子供を泣かせてしまったことで、鬼離山に少なからず罪悪感が沸く。しかしそんな些細なことに意識を割ける状況でもない。


「ヘェッヘェー!!ガキなかせてんじゃあねぇカァ!!」


 こんな呑気なやり取りをしていても、御門は以前変わらず怪人の姿を保っているのだ。


「…そんな姿になったんだ。命取られる覚悟は出来てるな?」


「オッー。コェー!!だがとれんのか?そんなジョウキョウでよぉー、オレにかてんのカァァー!!」


 やり取りを終え、攻撃は再開される。

 異形の姿となったことで御門の身体能力は常人のそれを大きく凌ぐものになった。たった一度の跳躍で、鬼離山の間合いに入り込むほどの素早さだ。

 そして怪人となったことで肥大化した巨大な右腕を、鬼離山の頭頂部目掛けて振り下ろす。


『させっかよ!!』


 だが当然、反撃もせずに彼等が攻撃を許す訳がない。鬼鎧は先程見せたような突風を巻き起こし、御門の右腕へ命中させる。

 それによって攻撃が中断されることはなかったが、風の起こした衝撃により攻撃は鬼離山の頭部から逸らされた。


「オオ!ンダガもういっちょぉ!!」


 攻撃が交わされたが、それでも御門は攻撃をやめない。再び同様の振り下ろし攻撃に移行する。


「…鬼鎧、次はおれが防ぐ」


『オッ?んじゃマカせるわ』


 鬼離山は鬼鎧へ声を掛けると、御門の傍へと近付こうとする。


「ハッハッ!!バカかテメェ!!こうなったオレとなぐりあえるとでもおもってんのかよぉ!!!」


「…いや、流石に厳しいが……」


 怪人となった御門を相手に、飽くまでも人間である鬼離山が殴り合いを制することは出来ない。であるなら、殴り合いに望むはずがなかった。


「オラァッ!!て…よけんなコンヤロォー!」


 御門へ接近した鬼離山は、巨大な腕と接触しないギリギリの姿勢となって攻撃を躱わす。そしてそのまま、振り下ろしによって僅かに体制を崩した御門の隙をつき、攻撃を放つ。


「…殻・風寄(ギロ  フード)


──ザシュッ!!


 それは研ぎ澄まされた風の刃。斬撃に等しい甲高い音ともに、鋼鉄のような艶を持った御門の腹部を切り裂いた。


「ウぁ…?……」


 御門は何が起きたか分からないと言った声を出すが、鬼離山は続け様に攻撃を仕掛けようと、切り口の入った彼の腹部へ手をかざす。


──ジッ、チチッ!


玉・雲泣(テラ  ナーゴ)


 鬼離山が聞き覚えのない技を呟くと、彼の掌から解き放たれるように大量の水が生み出される。そして生き物のように自然な動きで、御門の腹部の切り口から体内へと流れ込んでいった。

 

「んダァ!?ォッ……ぁガァ?」


 大量の水が御門の肉体へ侵入した。

 それに伴って彼の身体は腹部を中心に肥大化していき……


──パァァッン!!


 そして、破裂した。


「ァァ!!グィィ…いデェゾォォ!!イテンだヨォ!!!」


(勘が当たったな……)


 phase3へと至った人間は、テラーモンスターとの融合を果たす。しかし融合したことでその全てがモンスターのものへ変わる訳ではない。今回に至っては、おおよそ人の形を残していたのだからそれは明らかだ。

 御門の体内は、未だ人間の構造が残されていたのだ。


「鬼鎧、隙を作った。その子供を逃がせ」


 御門は腹部を抑えながら悲痛な叫びを上げてある。痛みで鬼離山達へ注意を向けられないほどにだ。今なら容易に幼女を逃がせる、彼はそう判断し、御門から目を離さない。


『オォー!流石だな桃太。んじゃ早速……アエ?」


 言われるがままに幼女を抱え上げた鬼鎧だったが、そこでその場で起きた異変に気付いた。


『オイ桃太!どういうわけダ。石人形どもが周りを囲み出したぞ!」


(…まさか)


 鬼離山も周囲を見渡す。すると鬼鎧の言葉の通り、石人形達は周囲を壁でも造るように囲い、こちらを睨みつけていたのだ。


『もしかしてコイツら、一つ一つに意識があるとかカァ…?』


「…らしい、逃がすのは中止だ。」


「…メェ!ラァァ!!どこまでもオレをナメテクレヤガンナァ!!!!」


 冷静に分析をした鬼離山達に、立ち上がって来た御門の叫びが襲いかかる。先程までの力に浮かれる様子ではない。彼は確実な殺意をこめた眼差しを向けていた。

 しかしその言葉は純正の日本人とは思えないほどに不安定なものになっており、より強く怪人への変化が進んでいることが分かる。


「おふざけはおしまいダナァ!こりゃテッテイテキにヨォ!ぶちのめサナキャナァ!!」


「……」


 御門の動きは、それまで以上に鋭いものへと変化する。鬼離山の目でも、はっきりと捉えられないほどの速度へ、人間にはなり得ないほどの速度で動き出した。


「鬼鎧…」


『あいよ!』


 飛び掛かってくる御門を受け止めようと、鬼鎧は彼の正面へ立ちはだかる。そしてそのまま、御門は自らの身体を砲弾のように打ち出して、彼は鬼鎧の真正面から衝突した。


「…オレァもう、とめらんねぇヨォ!!」


『…オッ、無理だこれ…』


 打ち出された御門を鬼鎧は受け止められない。


『オッ!!ゴァァッ!!?」


 受け止めるどころか衝突の勢いのほとんどを押し殺せず、空中へと吹き飛ばされてしまった。

 ランクは上と言えど、phase3の怪人とはそれほどの力の差があるのだ。


「……」


「さっきはスキをつけたみたいだがヨォ。スキをついたっつうことは、スキをつかなきゃオレにマトモなコウゲキをとうせねぇってことだろ?むしろアンシンすんぜ!オレのホウがつえーってことだからヨォ!!」


 力の差があるそのことに違いはない。しかしその場から逃げることは出来ない。鬼離山は板挟みに合ったような現状に陥っている。


「……おい子供…俺の背中に掴まれ、絶対に振り落とされるなよ?」


「ぅ…ぐずぅ……ぅぅ!!」


(まだ泣いてたのかよ……)


 泣き喚く幼い生き物を鬼離山は背負いあげる。勿論この幼女を守る為だ。

 しかし背中へ背負ったのは幼女を逃す為ではない。背負いながら、怪人の攻撃を避けるためだ。そんな状態でまともな戦闘など不可能、分かりきった現状だ。


 だが既に、その現状は受け入れた。彼のすることは変わらない。



──ただ戦う(まもる)だけだ。



     ◯



「ミカさん…ミカさん!!」


 鬼離山桃太らが戦闘を繰り広げるビルから100mほど離れた地点で、幸村一葉はサポーターミカへの連絡に試みていた。

 しかし連絡は繋がらない。何度繰り返そうと繋がる気配がない。


(なんで繋がんないの……鬼離山くん、戦ってるのに……)


 それほど離れた地点からでも、彼等の戦いの激しさは伝わっていた。攻防が繰り返される度に建物へ振動が伝わってくるのだ。

 しかし当然だがその戦いに、彼女が参加することなど出来ない。出来るはずはない。


(サポーターはBランク以上のモンスターの前では役に立てない…前にミカさんが言ってた……)


 装備を身に付けている以外、一般人と変わらない一葉がいた所で戦況に変化はない。寧ろ戦う戦士の足を引っ張るのがオチだろう。


 だから彼女はそこから動けない。だから彼女はそこから動かない。だから彼女は何もしない。

 言い聞かせるように彼女の心の内で理屈が形成される。


(そうだよ…私はただミカさんと連絡取ることに集中を……!)


 


──グシャッ


「ぇ、ぇ?」


 彼女には不安を感じた時、その場をぐるぐると動きながら念じる癖があった。

 そうして足踏みをしているうちに、必要以上に動き回ったせいだろう。辺りに落ちていた、画用紙のような物を踏みつけてしまったのだ。


「ぇと、これは……絵本?」


 一葉ら踏みつけたものを拾い上げ、それが幼児が読むような絵本であると認識した。平仮名文字で描かれたタイトルはそうであると簡易に教えてくれるものだろう。


「でも、なんで絵本…?この辺って確か古い建物ばっかりで……」


(……絵本…てもしかしてッ!!)


 幼児向けの絵本。それを見て、彼女はその状況の危うさに思い至る。


(鬼離山くん…もしかして)


 一葉は現場へ訪れてすぐ、怪人の姿を見て身を隠した。だから彼女には、現場の正確な状況は分からなかった。鬼離山が現場へいると気が付いたのも、彼のモンスターである鬼鎧の叫びが聞こえたからである。

 彼女は現場の現状など理解していなかった。だからこそ、疑問は人知れず抱えていた。


(もう10分は経ったのに、鬼離山くんがモンスターを退治出来てない。前もその前も…ほとんど無傷くらいで倒してたのに……)


 彼が未だに戦いを続けている。それは一葉の中で始まりからあった疑問だ。だが彼女は考えようとしなかった。

 彼女がモンスターを恐る気持ちから、その可能性を考えたくもなかったのだ。


「誰かを…守りながら戦ってるんだ……鬼離山くん」

 

 その時彼女は無意識の内に身体を動かし、現場へと駆け出した。



     ◯



「どうしたヨォ!!ズイブンとヨォ!!ゲンキがなくなったじゃねぇかヨォ!!」


「…風寄(フード)


 30秒、その程度の時間だ。しかしそんな僅かな時間の間に攻防は繰り返された。

 しかし鬼離山の攻撃は御門へ通らず、反面御門の攻撃は鬼離山に致命傷になり得るものだ。その上彼は幼児を背負いながらの攻防だ。とても対等な勝負とは言い難い。


『クソォ!!オマエら邪魔じゃァァ!!」


 数m離れた所で、鬼鎧は石人形に囲まれている。 一つ一つの力は弱いが数十体という兵隊の数に鬼鎧は身動きが取れなくなり、鬼離山と御門は、事実的な正面戦闘を強いられていたのだ。


「オモッたいじょうにユウセイでよぉ!なんかまたワラえてくるナァ!さっきハラをえぐられたことだってきになんねぇクライによぉ!!」


 御門には圧倒的な余裕があった。疑いのない余裕があった。しかしそれがあって尚、鬼離山は戦況を変えることが出来ない。

 ただただ拳を振るわれ、その幾つかが彼の身体を擦る。ただ受け流すのみで、それ以上の反撃へ移らない。ただ躱すことしかしなかった。


「んぁ?つまんねぇナァ…そうやってオレのコウゲキしのいでたらヨォ。オレにカてるとオモッてんのかぁ?かてんとオモッテンノカァ!!」


「いや、別に思ってないな…」


「はぁ……オレァ、アキてきやがったぜ…ちょいとドデカいもんだして…しまいにするかァ!!」


 御門は息を大きく吸い上げ、呼吸を整える。

 何か大きな攻撃を仕掛けようとしているに違いない動作だ。そして意外にも早く、それは放たれる。


「キギィィィ!!ガガァ──!!!」


 御門の巨大な右腕から放たれたのは石の塊などではない。それは光の収束体、光線と呼ばれる類いの攻撃だった。


『ッ!?おい!桃太!!』


「分かっている…玉・風寄(テラ  フー)─…」


(─…いや、これは……)


 瞬間、鬼離山は判断を切り替える。この攻撃は、風寄(フード)を用いても阻止出来ない、そう考えたのだ。


 であるならと、彼は自身の背に掴まっていた幼女の身を守ることを優先した。


「ぇ!?えぇぇぇ!!」


 彼は背中の幼女を投げ飛ばした。全力で投げ飛ばした。そこに迷いなどなかった。幼女の悲鳴こそ聞こえるが、そうしなければその子供の命はないという確信があった。


 事実、彼の判断に間違いはなかった。



──眩い輝きを放つ光線が、彼の半身を包み込んだのだから。




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