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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第一章 アカイ幸福・シロイ夢
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第21話 鉄屑の石

 利根川は元々、悪い噂の絶えない教師だった。

 生徒に必要以上の課題の提出を強要したり、新任の教師に身の丈に合わない仕事をさせたり、幾つも理不尽な所業をしたという噂があった。

 しかし飽くまでも教師、全くの理由なく悪意ある行為に走ることはなかった。


 つまり今回、彼があのような凶行に走ったのにはなんらかの外敵な要因があったことを意味する。

 鬼離山がこの廃墟へ足を運んだのは、その外敵要因を確かめる為だった。


「なんかヨォ、運命めいたもんを感じるヨナァ鬼離山ァ!つえぇとは思ってたが…オッ!?まさかテメェもオレと同じような怪物を飼ってやがるのカァ!こいつのこと見えてんじゃあねぇかァ?」


 鬼離山はここへ辿り着いてすぐ、その答えを理解した。

 御門結碁(みかどゆうご)。1年前高校を追い出されて少年院へ送られたこの男は今、間違いなくモンスターの主としての身の毛が立つほどの邪悪な力を手に入れていたのだ。


 それを案に示すように、屋上の端にしゃがみ込む御門の背後には、無機物が自我を待ち歩き出したように歪な、石の巨人が立ち尽くしていた。


「…一緒にするな」


「ハァー!つれないねぇー。俺は割と喜んでんだぜェ?クソッタレとは言え、なつかしいなつかしい同じ高校のクソッタレだ!俺んこと舐めてくれやがったクソッタレだがよぉ、昔々を懐かしむ気持ちが勝つってもんよ」


 その低俗な口調と相手を舐め切ったような仕草は、見た者に彼の狂った人間性を感じさせるもの。

この男は軽薄で低俗、チンピラと呼ぶに相応しい人間だと理解させるものだった。

 いつまでもそんな男の軽口など聞いてられない。一息の呼吸の末に鬼離山は御門に問いかけた。

 

「お前が利根川を、あんなことをしでかすように操ってたんだな?」


「んぉ?アー違うな。別に俺はそんな便利な能力を身に付けたワケじゃあねぇんだヨォ。実のところオレはあのアホ教師が何をしたのか知らなんだわァ」


「…お前は怪物を使って、利根川を操ってたんじゃないのか?」


 御門は手首をヒョイヒョイと上下させて「違う違う」というような仕草をした。


「オレのこの怪物…んと見た目的に石の巨人…いやゴーレムってやつか?とにかくまぁ、こいつはただあらゆるもんを吸収して石を作り出すっつう能力を持ってんのよォ。ただそんだけの、これといっておもしろくもねぇ力なのよ」


 御門から生まれたモンスターは取り込んだありとあらゆる物質から石を作り出す能力を持っている。彼はそう語ったが、であれば今回の利根川の事件はなんだったのかという疑問が浮かんでくる。

 その疑問に対する解答は、直後に御門の口から告げられた。


「そんでよぉ。オレも最初は気付かなかったんだけどヨォ。このゴーレムが使った石にゃぁ触れた人間の()()()を刺激して、増幅はせる特性があったんだよナァ!!」


「悪感情…つまり、お前は……」


「そうヨォ!利根川の野郎に仕込んで見たのよォォ!!それほど悪意を持たねぇやつには効果がなかったが…アイツは1年前から評判最悪だったからナァ!!」


 御門の言葉を聞いて、鬼離山は今回の事件の全容を理解した。

 利根川が田中へ凶行を働いたには違いないが、それ以前に利根川は平常でなくなっていたのだ。

 正確な日時は不明だが、利根川は知らない内に御門からその石を仕込まれていた。その悪意の増幅により、冷静さを失い、本来ならすることのない凶行に走った。

 

 それが今日に起きた、田中実カンニング騒動の真実なのだ。


「つーかなんでオレが利根川に何かしたなんて分かったんだオメェ?んでもってなんでこのビルにいるって分かった?」


「別に最初から分かってたわけじゃない……お前の居場所を突き止めるのにはかなり強引な手を使ったしな……」


 鬼離山は田中がカンニングをしたというデマが広がった時、すぐさまそれが虚偽のものだと考えた。 そして情報を集める内に彼はこれが何らかのモンスターの被害による事件である可能性に思い当たり、自身から生まれたモンスター鬼鎧(キビト)へ指示をだし、学校周辺の廃墟を調べさせた。


 その結果、廃ビルの屋上にいた御門とモンスターの存在を突き止めるに至ったのだ、


(モンスターによる影響な以上、利根川を断罪するわけにもいかない……結果的に随分とまわりくどいやり方をするはめになった…いやそれより……)


「随分と…陰湿なやり方をしたものだな。よくある復讐ってだけなら、態々こんな回り道をすることはなかっただろう。直接顔も見たくないほど田中が憎かったのか?」


 テラーモンスターは常人には見えず、見えたところで対処出来ない圧倒的な力を持った怪物だ。石の特性を生かさずとも、直接手を下すことは出来るはずなのだ。


「…田中?…ぁあ、あのオカッパチビのことか。その感じだと利根川はアイツに何かしらやっちまったミテェだがヨォー、別にオレァあいつを狙った訳じゃあねぇんだぜ?」


(…あ?)


 あっけらかんとした返答をする御門の態度に、鬼離山は殺意さえ覚える。しかしそんな彼の心情を察することもなく、御門は下卑た笑みを浮かべて口にした。


「今言ったバッかだろぉ?この石屑ゴーレムにやらせられるのは他人の悪感情を増幅させるってだけだぜェ?まぁオカッパに復讐してぇって気持ちもあったから頭良い奴を嫌う利根川を狙ったがよォ。別に力を試せれば誰でも良かったんだわ」


(…こいつ……)


 鬼離山の心の底からは、息苦しいほどの怒りが湧き上がる。救いようがない、鬼離山桃太は心の底からそうだと判断した。

 たった今この瞬間に、彼にとって御門結碁は救いようがなく、救う必要のない人間となった。生かす意味の乏しい低俗な悪人になった。


「うはぁー、こぇー顔してんな鬼離山ァ!」


「──もういい…お前がどんなヤツかは……ちゃんと分かったよ」


「へぇー、スゲェ冷静だな…オメェはこの怪物のことにも詳しそうだ……」


 鬼離山が敵意ある視線を向けたことで対話は中断、一気に重苦しい空気に包まれた。


「んじゃ、力比べしようやァ……お前も出せよ()()をナァ!!」


「…でてこい、鬼鎧(キビト)


 御門の声と同時に背後のゴーレムは拳を鬼離山へ突き出したが、緋の輝きとともに現れた鬼鎧によって受け止められ、その拳が彼の元へ届くことはなかった。

 だが、ゴーレムの攻撃がそれほど容易いものではないらしく、鬼鎧は冷や汗を流している。


『ふぅ…そこそこのパワーだなこいつァ。余裕こける相手じゃなさそうだぜ桃太?』


 鬼鎧の言葉を聞いた鬼離山は、緊迫感に駆られることはせずに、寧ろ安心したような表情を浮かべた。

 その攻撃1つで、鬼離山はそのゴーレムの持つ力を推し量っていた。


(廃ビルに入る直前に計測した通り、それなりのパワーだ。だがそこは知れてる。能力はさっきのコイツが無駄口叩いたのもあって脅威ではない)


「慎重さは忘れるな…だが、すぐに終わらせるぞ鬼鎧」


 容易い相手、鬼離山はゴーレムをそう判断したのだ、

 

「はっ!余裕ダナァ、テメェはヨォ。つーか敵はそいつだけじゃねぇってことを忘れてねぇカァ!!」


 叫びながらも御門は鬼離山へ飛び掛かり、首目掛けて蹴りを放つ。


──ガゴンッ


「…ぁ!?」


 ガゴンッ、そんな音が響き渡る。


 御門は鬼離山の首へ、骨を砕くほどの気合いをこめて蹴りを放った。

 しかし現実はは彼の首に擦り傷程度のダメージも倒せずに、とても人間の首から聞こえてきたとは思えない、金属板にでもぶつかったような音が響き渡った。


「とんでもねぇなオメェ…お前は1年前からそうだったんだろうが…今じゃ同じ条件だってのにヨォ…」


「同じな訳ないだろ…俺とお前じゃいくらだって違いがある……お前はいないも同然だ」


「ハッハッ!!なめやがんなお前はヨォ!!」


 軽快に叫びながら、御門はゴーレムの側へと移動した。そしてあろうことか彼は自らの怪物の背に飛び乗り、乗り物のようにゴーレムを動かす。

 自らの身を守る為にも思えるが、その行動はどこか不自然で、何か別の意図が隠されているように鬼離山は感じる。


「なんのつまりだ……命を取られたくなければそいつから離れろ。俺はお前を殺すつもりはない」


「つくづく舐めてくれんぜ……タイマン勝負をしたかったところだがヨォ。こうなったら容赦しねぇ、テメェがみっともなく泣き喚くぐらいのもんを見せつけてヤンゼェェ!!」


(力の差を見せつけてやったのに怯んでいない…ヤケになったわけでもなさそうだな……ぁ?)


 思考の最中に鬼離山は思い至る。


──何故御門はゴーレムの背へ乗り込んだのか?


 些細ながらも確かにあるその違和感を紐解き、彼は御門が最悪の行動に移る可能性に思い至った。


「お前まさか……」


 まさか、鬼離山がそう口にする頃には、御門はゴーレムへの命令を終えていた。


──ガッ─ガッガガッ─


 大地が震えるような振動と共に、古びた廃墟が悲鳴を上げる。大気が震える。それがこれから起きる異常事態を知らせてくる。



 その意思なき大地の雄叫びは、鬼離山の立つビルのその後を、容易に想起させるものだった。



     ◯



「ユッキー!!結構またせちゃったネ!」


「……うん、40分くらいまったよ…?」


 時刻は4時50分。田中実の騒動が解決された後、平常通りなら既に帰路へついている一葉だが、今日は陸上部が休みの日ということで、親友の兎崎と共に帰宅する約束をしていた。

 しかし想定の時間を過ぎてもなかなか兎崎は現れず、いざ現れた時には信じられないほどの時間が経過していたのだ。


「ゴメンネー!!今日はちょっと話を聞いたら終了だって言ってテタのに部長が熱くナレよぉー!!て、言ってマラソン始まっちゃったんダヨー」


(……運動部特有のノリ怖いなぁ)


 余りに納得しかねる理由に一葉は仄かに恐怖を覚えた。


「まぁマァ!今日は良いこともしたし、帰りはコンビニでもよって贅沢しようヨ!」


(コンビニで贅沢ってなんだろう…)


 兎崎は一葉の手を引っ張り、ニコニコした笑顔で走り出す。

 そんな中一葉は不図した疑問を思い出した為、それとなく兎崎に尋ねた。


「田中くんって陸上部なんだよね…?様子はどうだった?」


「フッー。全然大丈夫そうだったよ!陸上部にも田中くんがズルッ子なんて思ってる子は多くないしね!」


(そ、そっか……)


 彼女の言葉を聞いて一葉はそっと胸を撫で下ろす。

 今回の騒動がキッカケで、田中の交友関係が崩れてしまうかもしれないと、不安に思う気持ちが一葉にはあったからだ。そとそも人に疑われるというのは良い気分のものではないのだから。


「あ、そうだ、ユッキー!ちょっとした提案があるんだけどいい?」


(提案…?)


 提案とは何か。

 一葉は「なんだろう」と考えながらも、兎崎の言葉へ耳を傾けた。



──ガガガガガァッッ!!!!


 丁度兎崎が提案を口にした時、その声に重なるように巨大な爆音が響き渡る。


「な、何だろ!なんの音!?」


「わ、ワカんないネ、なんとなく聞いたことがある気もする音ダケど……」


 それは彼女達には聞き馴染みのない音だった。

 恐ろしいほどに大きな音だが、それは決して音楽や楽器の演奏によるものではない。金属音でもなく、生き物の鳴き声では勿論ない。無知な一葉には到底理解の及ばない音だった。

 そんな時兎崎が、ハッと思いついたように声を上げた。


「ぁ、これ思い出した…昔地震があった時、建物がギシギシ音を出して崩れてた時の音に似てるヨ。まぁ今は揺れたりしてないけど…」


「えっ!?た、建物が崩れる時って……」


 兎崎の知識が正しければ、今正に、音のする方角で建物の倒壊が始まっている可能性があるということだ。


「ヤバいよユッキー!よく分かんないケド、念の為避難しようヨーー!!」


「え……あいや、私は」


 通常なら兎崎の言う通り、避難でもして身の危険を守る事が最善手、それが安定の行動なのだろう。

 しかし幸村一葉は既に、通常では居られなくなっている。一般人なら災害だと逃げ出すこの場面でも、彼女にはモンスターという超常の存在を感じてしまうのだ。


(これは多分、モンスターが原因なんだ。なんとなくそんな気がする……)


「…香織は先に避難してて。私はちょっと用事を思い出したから……」


「えっ!?なにイッてんのユッキー!危ないし遠くに逃げようよー!火事の時に物を取りに戻ったらいけないって小学生の時習わなかったノー!?て、ちょっと待ってって!」


 静止を無視して走り出した一葉だが、陸上部に所属するだけあって兎崎は素早い。一瞬にして距離を詰められる。彼女の立場なら、一葉を静止するのは当然だ。


 しかしこのままでは行手を塞がれて現場へ迎うことが出来ない。一葉にとってそれは由々しき事態だ。


(うぅ…香織ィ……し、仕方ないか!)


──ビビッ!


「ふぇ……ぇ?………」

 

 小さな電撃音がすると同時に、兎崎は眠るように気を失った。

 これはサポーターの主要装備、アシストブレスに備わった機能の一つ。ブレスを向けた先にいる生き物に微弱な電波を飛ばして気絶させる、ショクガン機能だ。


(初使用で香織に向けることになるとは……ぁいや、緊急事態だもん緊急事態!)


 少なからず兎崎への罪悪感が生まれてくるが、そんなことを言っている暇ではない。

 爆音のした方角へと、一葉は再び走り出す。



     ◯



 一方その頃、鬼離山桃太は御門結碁を相手に、倒壊したビルの側で戦闘を繰り広げていた。


──先ほどよりも強大な巨大化を果たした、ゴーレム型のモンスターを相手に。


「ハッハッハッ!!スゲェだろこいつァびびったろ!コイツはよぉ、触れてるだけで周りの物質っつう物質を取り込んで体に蓄えられんだよ!んでもってコンクリートで出来た廃ビルを取り込めばよぉーー!!こんだけデカくなっちまうって訳なのヨォ!!」


 御門の言う通り、ゴーレムの元々2mほどだった体長は、ビルを吸収したことで6mほどの巨大な身体へと成長を遂げていた。


(取り込んだ物の質量がそのまま肉体に還元に変換されているのか……おそらく既にパワーは鬼鎧を上回っているな……なら)


枝・炎魂(セル ボーマ)


 鬼離山は手の平から巨大な炎の球体を出現させ、無数の火の塊をゴーレムへ命中させる。しかし、真っ向から彼の攻撃を浴びたというのに、ゴーレムにダメージが見受けられない。


「は、腹いてーーナァ!!!それがオメェの能力かよ! 随分とカッコいいもんだがヨォ、俺のゴーレムに少しも攻撃を通せてねぇじゃねぇかァ!!」


 攻撃が聞いていないのを見て、軽率にも勝ちを確信したのだろう。御門はゲラゲラと下劣な笑みを浮かべた。


『オイオイ、言われてんぜ桃太。様子見しないでやっちまおうぜ?』


「侮っているわけじゃない。だが、想像以上の力を持ってるようだよ、B()ランクってのに間違いは無さそうだな……」


 E、D、C、B、Aそれはモンスターの脅威度を表すランクだ。

 このゴーレム型のモンスターはBランク、つまり、Aランクである鬼鎧に次ぐほどの力を持っているのだ。それはとても容易い相手ではない。苦を有する相手だろう。


「そうよそうヨォ!オレァつえんだよ!!そんでもってオメェは弱ぇーざこのザコなのヨォーー!!」


『コイツなんかだんだん語彙がアホになってないかァ?』


 鬼鎧の指摘を聞き、鬼離山は僅かに焦りの表情を浮かべる。


「少しばかり急いだ方が良さそうだな…鬼鎧、炎魂(ボーマ)()()も使う事を許してやる。確実に仕留めるぞ」


『ガッテンだァ!久しぶりに思い切り出来んのかぁ!!』


 ようやくだ。漸く彼等は全開での戦闘を開始する。


──開始出来る、そのはずだった。


「ぁ?…」


『あらラァ…』


「……チッ…」


 しかしながら現実は都合が良いと思うほどに、都合の悪い事態が起こり得る。今回それに陥ったことは彼等に非があった訳ではない。紛れもない運命、不運に他ならない。



「え?…お、お兄ちゃん達なにしてるの…?」



「…玉・風寄(テラ  フード)


 戦いのその場所に、何も知らない無邪気な幼女が迷い込んだ。それは鬼離山桃太にとって最悪の不運である。

 これによって、この戦いで鬼離山は想定もしていなかった最悪の苦行を強いられる事となる。


 








◯モンスター紹介


鋼転兵(ガイロール)

 スタミナ:1790

 パワー:1600

 ディフェンス:2050

 スピード:1250


 総合値:6690 脅威ランクB

能力: 【石軌の壁(ネガメタル)

 周囲の物質を取り込み、石へ変換する能力。

 変換された石は体内に蓄積することができ、蓄えた分だけ本体の身体は巨大化する。

 蓄えた石を砲弾のように打ち出す攻撃も可能だ。

 

 

発現主:御門結碁みかどゆうご

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