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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第一章 アカイ幸福・シロイ夢
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第12話 テラーモンスターとは

 幸村一葉の初勤務から3日後、6月25日の土曜日の9時頃に、SEEDの基地内でとある特別講習が行われていた。


──いや、事実としてそんなものは行われていなかった。そこで行われていたのは教習などと生易しいものではない。とある構成員への()()行為だ。



「…私は今日、本来は非番で、年に4回ほどしか取れない少ない休日を、とてもとても楽しみにしていたのですが……なにか、言うことはありますか?幸村一葉…」


 鬼の形相、怒る構成員ミカの表情を語るにはそれが最も適切だろう。顔の形は普段と変わらず無表情、しかしそこには確かな怒りと、仄かな殺意が篭っていた。


「ご、ごめんなさいです。ミカさん!!」


(こ、怖い……めちゃくちゃ真顔なのに、めちゃ怖い………)


 元を辿れば、原因は一葉にある。ミカの説明をまるで聞いていなかった上、無知のままモンスターと対面してしまったことだ。

 その時の一葉は玩具をプレゼントされたばかりの子供のように高揚し、話を聞かず、知らない事を良しとした。組織としてはそんな愚鈍な輩が居ては困るというのは当たり前の事だ。

 そして何より、「説明を聞き漏らしていた」という事がミカの怒りを買ったのだ。


「貴方のような人いい加減な人がいると組織が崩壊する危険さえあります。なので私は思い切って貴方を組織から追放するしないかと進言してみましたよ」


(そ、そんな大事になってたのこれぇ!?)


「しかし残念ながら、流石にその要求は通りませんでした、安心してください」


(仕方がないんだけど…私この人に嫌われてすぎてない?)


 既に彼女らの関係は最悪と言っていい。

 加入して1週間と経たない内に一葉はミカから殺意さえ向けられる存在となったのだ。


「はぁ…聞きますが幸村一葉、今日この簡易講義室に貴方が呼ばれた理由は分かりますね?」


 感情を表に出すことに疲れたのか、短くため息を吐いた末にミカは問を投げかけた。説教にひと段落ついたのだと、一葉も僅かながらも落ち着き、言葉を返す。


「えと…モンスターについて教えて貰うため…ですか……?」



「……ですか?…貴方はこの状況になっても尚、確定的な事実だと捉えていないのですか………」


「ゔぁ!?ぇ、いやそんなことは………」


「…貴方のようなものを……かの『ナポレオン』は【無能な味方】と呼んだのでしょうね……」


(ごはァァっ!?)


 一葉のそんな台詞話回しでさえ今のミカには我慢ならなかったのだろう。静まりかけた怒りの業火が燦々と燃え上がり、一葉は先程とは比較にならない強烈な口撃を喰らうことにった。そのダメージは計り知れない。


(こ、これまずいヤツだ……め、メンタル死にかね───)


「──もう少し、じっくりと話さないとダメなようですね……」


(ぅ…ヴァェェェっギィガァァッ!!?)


 一葉は恐ろしさ故に言葉には出さなかったが、そんな絶叫が心の底から湧き上がる。人間のものとは思えないこの奇声は、その後数時間に渡って彼女の脳内を掻き荒らした。



    ◯



「では……モンスターの解説へ移ります」


 時計が11時10分の針を刺した頃、漸く、ミカの怒りは収まった。


(…羊が1匹、…豚が7匹……ぁ…食べたいなぁ)


 しかし、一葉の精神に亀裂が入ってしまったのは由々しき事態だろう。このまま説明を続けても、一葉は同じ失敗を繰り返しかねない。

 流石のミカもボロボロになった一葉をそのままにしては置けなかった。彼女の意欲を高める為にと、一言だけ呟く。


「…また聞いてなかったら張り飛ばしますよ?」


「……ぁあ…!!?……はいっ!!聞いてます!一言一句聞き逃してません!!!」


「では始めます」


──そうして、ミカのモンスター講座が始まる。

 


「一体どこを聞いてなかったのかも分からないので、まずは基本的なテラーモンスターの発生手順をまとめます」


「よ、よろしくお願いいたします」


 教卓に立ちモニターで映像を表示するミカに対して、一葉は床に正座した状態で講座を受ける。しかし決してミカに指示されたわけではなく、恐怖から彼女が勝手にしていることだ。

 そんな異質な空気の中、一葉の前方のモニターにグラフの統計データのようなものが表示された。ミカは学問を教える教員のような振る舞いで現れた映像の説明を始めた。


「まずテラーモンスターは人の心から生まれます。流石の貴方の知っている基本中の基本ですね」


(こ、言葉にトゲが……)


「しかしモンスターは発生してすぐに…その能力を()()に発揮できるわけではありません。事実、所謂幼児の状態だった先日のモンスターはそれほど脅威的ではなかったでしょう?」


「は、はい。能力と見た目の怖さはありましたけど、周りの人に襲い掛かるようなことをしてなかったです」


 先日遭遇した耳骸(イグロス)という名のモンスターは以前遭遇した兎型と狸型のモンスターよりも遥かに大したことがない。対面してすぐに一葉も勘づいたことだった。


「もちろん個体によってモンスターの能力差はありますが、ひとえにその弱さの理由は成長の段階です」


「成長段階……phase(フェーズ)1ですよね?鬼離山くんに聞きました」

 

「ええ。先日のモンスターはphase(フェーズ)1、人間で例えれば生まれたばかりの赤子の姿です。その体長もほとんどが1mに満たず、成熟した状態よりも能力を上手く使えず、人間に触れて干渉することさえできない段階。アシストブレスを使えばサポーターでも討伐可能なほど弱い姿です」


(え、なんだ…あれそんなに簡単に倒せるんだ……なんか恥ずかしくなってきた…)

 

 一葉は先日現れたそれを見て冷静さを欠かれていたことを思い出し、仄かに顔を赤らめる。


phase(フェーズ)1は脅威とは言い煩いですが、そこから数時間、モンスターは力を蓄えることでphase(フェーズ)2へ進化を遂げる訳です」


「す、数時間掛かるんですか?それなら早くに対処すれば何の被害もないまま退治できるってことに……」


「そう考えて貰っていいですよ。事実、組織にあるデータでも10体中8ほどのモンスターはphase(フェーズ)2に進化する前に退治が完了している計算結果がでています。貴方が思うほど危険な戦いは多くないんですよ」


 当然のように語るミカの言葉を聞いて、一葉は小さく安堵すると同時に、物悲しさを覚えた。


(なんか…思ってたよりすくないんだな、そういうことって)


 幸村一葉の人生の展開点とも言えるあの日、phase(フェーズ)2のモンスター2体が彼女を襲った。しかしそれは想像していたよりもより珍しく、より不幸な出来事だったようだ。自身の不運な性質を実感してしまい、鬱蒼としたオーラを放つ。


「何度もそう落ち込むのはやめてください…口に出さずとも伝わってきて不快です」


「は、はい。ちゃんと聞いてます……ぐすっ」


「…面倒ですね本当に……仕方がないので子供のような貴方が、気持ちを切り替えられそうな話をしましょう」


 ミカはリモコンのようなものを操作して、モニターの映像を切り替える。先程までのグラフのようなものが消え、一体のモンスターの画像といくつかの数列が表示されていた。



─────────

 

 【狸戒(イッショウ)

 スタミナ:428

 パワー:439

 ディフェンス:891

 スピード:102


 総合値:1860 脅威ランクD

能力:【縛り岩(シカナラク)

 直径100m以内の仕切りのある空間に半透明の壁を作り出す能力。壁は鋼鉄ほどの硬度を持つが、本体より遥かに強力な能力を持つ者は問題なく通過できる。


発現主:佐藤なじむ


─────────


「これって…前の狸のモンスターですよね…というか」


(佐藤なじむって…あの佐藤先輩から生み出されたモンスターだったの…?)


 画像を目にしてすぐ、それが6月15日に一葉を襲った狸型のモンスターであると分かった。しかしその発現主と表される項目には、以前一葉に告白してきた3年生、佐藤らしき名前が映されていたのだ。


「…まさか彼は貴方の友人だったのですか…?……面倒なので落ち込んだりしないで下さいね」


「あいや、大丈夫です。佐藤先輩とはあの時くらいしか接点なかったですし……ただちょっと意外でした。すごい優しそうな人だったから……」


 一葉の記憶にある佐藤は、多くの者から慕われる好青年。人を恨むことなど出来ない善意に満ちた人間だと彼女は認識していた。


「今更何を言っているのですか…どんな人間にも負い目はあるのです。貴方は友人さんを通してその事を理解したと聞きましたが?」


「え、そういうセンシティブな話知られちゃってんですか!?」


「おっと、失礼。それらの文句なら桃太へお願いします」


 ミカは絵に描いたようにメガネをクイッと上げ、余談はさておきと本来の説明を開始する。


「これはスキャン機能によって算出されるテラーモンスターの能力数値です。これによりモンスターが持つ固有の能力()()は、瞬時に把握する事が出来るわけです」


 この説明がくることを一葉は待ち望んでいた。

 先日の最も大きい失敗、それが表示された能力数値を理解出来なかったことだ。

 既にその失敗は鬼離山を通してミカに伝わったようで、先程の長い説教の中でも話題に挙げられた。

 つまり、今一葉に出来ることは1つ。


「は、はい。それでその数値の基準みたいなものを……お、教えて下さい……」


──土下座。

 地に頭をつけ、相手に身体全体で謝罪を述べる行為。それしか彼女に出来ることは無かった。そうするしかなかった。ミカに許しを請うしかなかった。


「はい。一言目に謝罪が出たので、何も言わずに説明してあげますよ」


(の、乗り切った……)


「能力値がそれぞれ200未満なら、常人と同じ程度の戦闘能力しかないとされています。発生するモンスターの90%以上がDかCランク、それらより強く数が少ないBランク。まず知っておかなければいけないのはその3つのランクですね」


 モンスターの戦闘能力はスタミナ、パワー、ディフェンス、スピードに分けられ、その数値の総合によってランクが定められる。


「ランクの分けられ方は以下の通りです」


○ ランク説明

 総合値が1~499をE、500~1999をD、2000~3999をC、4000~6999をB、7000~9999をA、と設定されるようになっている。


「…ん?Eと……Aランクもあるんですか?」


「ええ、といってもEランクは基本的に野生動物程度の能力しかない上に発生数も少ないので脅威になりませんし、Aランクに至っては反対に脅威的すぎて知っている意味がありません」


(知ってる意味がない…?)


 ミカの不可解な言葉に一葉は疑問を持つ。


「知っていて悪いなんて事ないんじゃ──


「──Aランクは純粋な戦闘能力の高さは勿論、次元が違うほどの脅威的な能力を持っています。なのでAランクが出現した際はモンスターのphase(フェーズ)に関わらず、サポーターは退避を命じられるのです」


「そ、そんなに飛び抜けてるんですか?」


「ええ、過去にもAランクモンスターによって幾つもの都市が崩壊する事件が起きています。なのでAランクの対処は獲得者であっても、Bランク以上の者による対処が現実的とされています」


「…… ゴクリッ……」


 都市の崩壊と聞かされて一葉は思わず唾を呑み込んだ。


「とは言っても、Aランクのモンスターは相当希少です。発生するのは3年に1度ほどで、組織に記録されているのは獲得者を合わせても20体程度、対処する機会はほとんどありませんよ」


「そ、そうですよね……はっ、はは」


(Aランク……獲得者…か)


 苦い笑いを漏らす一葉だが、恐怖を未だ抜けていない。都市の崩壊などと、過去の具体的な事件を引き合いに出されると、どうも現実味が強まって仕方がなかった。しかしその時の彼女には恐怖心とは別に、小さな好奇心も湧き上がっていた。


「Aランクの獲得者ってどれくらいいるんですかね…?」


「……日本だとD、Cランクの獲得者が合わせて3000人ほど、Eランクの獲得者は65人、Bランクの獲得者52人、そしてAランクは7()人です」


「や、やっぱり……それくらい貴重な人材なんですね……」


「ええ、それに今言った獲得者というのはこれまで確認された獲得者の数、現存しているAランク獲得者はたったの5人、決して変わりの効かない人材です」


 確認された獲得者の数、つまりそれまで何人もの獲得者が命を落としている事を意味する。おそらく理由は寿命…老衰ではない。それは一葉にも簡単に分かる事だった。


「言い換えてしまえば、私たちの仕事は、彼らのような人材を減らさないようにサポートすることです。その為に貴方にこうして教えているんですよ」


(そりゃぁ、そうだよね……)


 幸村一葉は自分がどんな組織に所属したのかを思い出す。

 この組織にいる事でどれだけの危険が伴うのか、理解した気でいた一葉だがどこか楽観的に、危険な出来事が起きる可能性から目を背けていたのだ。

 ミカはそれを指摘する為に、必要以上に怒りを向けていたのだと一葉は理解した。


「ありがとうミカさん…また、私のいい加減なところを指摘してくれたんだよね。私の身を案じる意味でもさ…」


「あまり他人を美化するものではありません。そもそも…非番の私にこうするように指図したは桃太です。彼と私では立場が違うとは言え、納得のいかないことですよ……」


「あ、そう言えば鬼離山くんってど──


──ジジッ!!


「ッァ!?」


 機械の震える音が一葉の言葉を遮る。


《──モンスター確認─モンスター確認─!!》


 その場にいた2人ともがすぐさま音の原因に思い至る。モンスター確認、つまりモンスターの発生だ。機械の声は実に分かりやすく、状況を伝えてくれる。


「ついてきて下さい幸村一葉…」


「ふぁ……?ぁ!……はい!」


 状況を理解したミカはすぐさま講習部屋を飛び出す。基地内を駆け回り、どこかへ向かう彼女をもちろん一葉も追従し、ミカへ質問を投げかけた。


「ミカさん!どこに行くんですか?」


「既にアシストブレスにデータは送られて来ているでしょう…発生位置は基地から約3kmは離れた地点、私達に出来る事はありません」


 駆け足で歩みを止めぬまま、一葉はミカに疑問を返す。


「えぇ!?何もしないで待ってるんですか?」


──ジジッ───ジッ!



「そんな訳ないでしょう…所謂、オペレーター室からなら既に現場の様子が確認出来るはずです。まずはそこへの移動を……………止まって下さい」


「ェ、ヴェェーー!!!?」


 急なミカの静止に一葉は大勢を崩す。そのまま頭から滑り込むような形で右壁へ衝突した。

 彼女の悲痛な叫びが基地内を埋め尽くす。


「一々叫ぶなと言っているでしょう…」


(いや無茶を………これ、脳がぐわんぐわんに……)


 震えて虚な脳を働かせて、一葉はミカは言葉を返した。


「何で…いきなり、、止まったんですかぁ……?」


「いえ……もう終わったようなので…」


(え、ぁ……ほ、本当だ)


 焦って駆け出した事で気付かなかったが、警報を鳴らしていた右腕のブレスが震えを止めている。そして既に警報指示が解除されていた。


「も、もう倒されたんですか?私たちが警報聞いてから30秒も経ってないと思うんですけど…」


「モンスター警報は発生地点から遠いほど指示が遅れる仕組みになってはいますが……どうやらモンスターのすぐ近くに桃太が居たようですね。今本人からメッセージが届きました」


「じゃ、じゃあ私たちは走り損なんですか…」


「…サポーターをやっていればよくある事ですよ……」


(前のもそうだけど、鬼離山くんちょっと倒すの早すぎない?)


 今回だけではない、数日前もだ。幸村一葉が始めて襲われた時も数分後には助けに来て、彼女に希望を与えた。


(いや、ヒーローが早くやってくるのはいい事なんだけどさ……)


 救われる立場なら安心しかない実力だが、こうして振り回される立場になると素直に受け入れ難いものがある。しかし勿論本人が悪い訳ではないので、行き場のない感情に一葉は苦しんだ。


 そして苦しむ一葉とは違い、慣れた事のようにミカは気持ち切り替えた。


「それで…何の話をしていたのでしたっけ?…分からなくなってしまいましたよ…」


「ぁ…私もちょっと…忘れちゃいました……ぁ、そう言えば──


「──なんです?」


「いやっ、大した事じゃないんです。純粋に気になってたことなんですけど……鬼離山くんのランクっていくつなんですか?」


 一葉は薄々気になっていた。あれだけの力を持つ鬼離山桃太は一体組織内でどれだけの実力者なのかと。

 何よりも彼の佇まいからは、圧倒的な実力者のオーラが溢れていたのだから、気にならずにはいられない。


「…言ってませんでしたか……」


「はい!鬼さんとは会ったことありますけどその時はブレスも持って無かったので…いつか聞いてみようと思ってたんです。なんだかんだで機会を逃してましたけど…」




 一葉が純真な瞳で見つめて投げかけた質問に、何故かミカは頭を悩ませる。そんなに何を躊躇うことがあるのかと一葉の頭に疑念が過ぎったが、数秒後一葉の瞳をミカが見つめ返した。


「そうですね。面倒ですし彼の全てを教えましょう。

 今、私達がいるこの基地は中国第4支部、化野辛(ばかのつら)区域。京都に設置された本部から枝分かれした支部の1つですね」


「え、いきなり何の話──


「──貴方の質問への回答ですよ…。日本中の148ヵ所に基地は配置されていて、組織は1人の代表取締役と、それぞれの地域に配属された、6人の()()ある獲得者によって運営されています」


(…!?か、獲得者ってもしかして…)


 一葉がもしやと思考した頃には、その答えは告げられていた。




「彼は中国支部代表…獲得者───鬼離山桃太(きりやまとうた)


「日本に5人しかいない……Aランク獲得者の1人です」











◯【鬼鎧(キビト)

 スタミナ:3210

 パワー:2681

 ディフェンス:1520

 スピード:2309

          

総合脅値:9720 脅威ランク:A 

能力:???


獲得者:鬼離山桃太(きりやまとうた)

 低位ランクと高位ランクで10倍以上差をつけようかとも思いましたが、終盤かなりインフレが進んでいく予定なので控えめに設定しました。

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