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モンスタードラック ~災運少女は鬼を視る〜  作者: 麦茶革命
第一章 アカイ幸福・シロイ夢
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第10話 種

──ガッ──キキキ─キッ──ズ…


 機械がガタガタと振動する以外何もない真っ白な空間が広がっている。正確には何もない訳ではない、寧ろ何も無いとは絶対に言えない。


 そこにはあの幸薄不運少女、幸村一葉がいるのだ───────全身を拘束された状態で。


《生体認証ヲ終エマシタ──拘束ヲ解除シマス》


 ガチャッという音とともに、取り付けられていた拘束が外れる。手足だけでなく口や目まで塞がれていた彼女を激しい倦怠感が襲った。


「ナゼに私は拘束されて攫われたの……?」


《「悪い…流石にやり過ぎと思ったが許可が降りなかった」》


(あ、うん素直に謝まられると責め辛いよ…)


 一葉の呟きに機械からの声が返答する。もちろん例の男子校生、鬼離山桃太だ。顔が見えない状況だが、心の底から申し訳ないという気持ちが伝わってきたので彼女は強く言い返せない。


(ていうか、こんなに近未来的なんだ…この組織)


 組織の技術力に感心しつつも彼女は周囲を見渡す。その部屋にはスピーカーのついた白銀色の機械以外はなにも見ら当たらなかった。何もない真っ白な空間だ。


《「状況を考えれば当然ですよ桃太。貴方から見て危険が無かろうと彼女がそうで無い可能性はいくらでもありますから。」》


「ぇえ…?誰ェッ!!》


 一葉は会ったことなどないが、ですますと丁寧口調で話すのは組織の構成員ミカだ。特に一葉を敵視する人間ではないが、人見知りを拗らせた彼女は叫ばずにはいられない。


《「安心しろコイツは身内だ…というか知らないやつの声したくらいで叫ぶな、うるさい」》


「ぁ…はい」


(うるさいは余計じゃん…一応拘束とかされたんだよね私…?」


 一葉は自身のあまりの扱いの悪さから軽く涙を流しそうになる。しかし2人ともはそれに構うことなく一方的に言葉は投げかけられた。


《「今から質問を素直に答えればこの部屋から出すよ…確認するが記憶はあるんだよな?


「うん……タヌキもウサギも…赤い鬼もちゃんと覚えてるよ…」


《「なら記憶──


《「──では記憶消去を行った後、何故桃太に何も言わずに過ごしていたのですか?記憶を消去したのは昨日の11時頃と聞いています……効果が無いのであれば帰宅までの時間で十分に追求出来たはずです。」》


「ぇ…!?……えと…ぅ…」


 鬼離山と一葉の問答に割り込む形で、ミカが発言した。


《「ミカ…コイツの言い分は俺にまとめさせるとか言って無かったか…?」》


《「どうも貴方は質問を遠回しにしようとする気がしたので割って入りました。彼女も早く済ませるに越したことはないでしょう。さぁ、答えてください」》


「ぇ…あとあとアトアト……いやぁ……そのぉ」


 機械から聞こえるミカの声に一葉は思わず言葉を濁す。人見知り気味な彼女にとって、機械越しであっても初対面の相手と会話を成立させることはかなりの難易度だ。鬼離山桃太相手の際は危険への対応が口下手な部分を上回っていたが、少しばかり落ち着いてしまった今は軽い恐怖心さえ出てくる。


《「…答えられないのですか?……では貴方を危険な存在として記録し、再び拘束することにしましょう」


「ヴえェッ!?ぃやそんなことって──


《「──早計がすぎるだろミカ…」》


 一葉がその極端な判決に異議を唱えようとしたがそれよりも早く鬼離山の体裁が入る。


《「…というかコイツ多分初対面の相手とろくに会話が出来ないんだと思うぞ。見たまま陰鬱な性格なんだろうよ」》


(何故私が貶される…?)


《「どうででしょう…ここまで貧弱な振る舞いなのは不自然です。寧ろ何か裏があるとさえ思えてきます。でなければ見ていて面倒くさくてなりません」》


(…もしかして泣かせようとしてる?私のこと)


《「コイツはそもそもモンスターに襲われていただろ…お前が考えてるようなことはない、そんな大した人間に見えるのかコレが」》


(え、いやだからさ…)


《「見える訳ないでしょう。見かけで判断するものではないと言っているんです。この人間がそうでなくても外的要因で何かを含んでいる可能性もあるでしょう。一般人の中でも特に狙いやすいように思えますし」》


(………泣けたほうが楽な奴だこれ)


 両者の罵倒の嵐に打たれて地に頭をつけるほど気を落とす。そんな彼女の姿は側から見ればダンゴムシのように小さく脆弱に見えるだろう。

 

「……なんか昨日記憶消される時、変な小さい亀から煙が出てきたじゃん…鬼離山くん」


《「深読みするな、コイツはただの一般人だよ。ちゃんと機械に掛けて確認……おい喋ってるぞミカ、聞け」》


《「簡単にあしらおうとしても引っかかり……なにか話してますね……」》


 一葉が返答を始めたことで2人の言い合いは終わる。陰鬱な感情を垂れ流しながらも会話は再開された。


「あの煙を吸ってすぐの時コレでおしまいかぁとか思ってたんだけど、煙を吸っていつになっても記憶が消えなかったんだよね。意識とかもはっきりしてたし…」


《「…そこから何故、桃太に何も言わずにやり過ごしたのですか?」》


「その……ぁ…っかったんです」


 理由を語る声は小さく、ミカの耳には入らなかった。


《「何を言っているから分かりません…大きな声で話せないのですか?」》


 一葉はミカの威圧の籠った言葉に萎縮しようになるが、振り絞るように理由を叫ぶ。



「──言いにくかったんです……」


《「…はい?」》


「…煙を吹きかけて、完全に終わったなって顔して過ぎ去っていく鬼離山くんを引き止めるのはすごい抵抗感あって……でもやっぱり言わなきゃダメだよねって思って、放課後になったら昇降口辺りで待ち伏せしてたんです……」


《「だったら何故──


「──来なかったんです…鬼離山くん」


《「…………桃太……?」》


《「…思い出した。昨日は昇降口に妙に人が集まってたから、窓から外に出て、そのまま帰ったんだ。だから…昇降口は通ってない……」》


《「………そう…ですか」》


 その場になんとも表しづらい、鬱蒼とした空気で包まれた。一葉を問い詰めるのも、桃太を問い詰めるのも違う、怒るのも同情するのも正しくない、実に判断に困る状態だ。



「……」


──ピッ─開閉シマス───


 煮え切らない事実に悄然としたまま、ミカは幸村一葉を閉じ込めた部屋の扉を開いた。



    ◯



「…貴方に害が無いことは確認出来ました。拘束したことを謝罪します。」


「あ…はい、大丈夫です…」


 一葉は真っ白な部屋から出てすぐ、現れたミカに待合室のような部屋へ案内された。机を挟むように置かれた4つの椅子の内の1つずつに腰をかけ、彼女と向かい合う。


「えと……なんて呼べばいいですかね」


「ミカです、呼び捨てでも構いませんがご自由に」


「わ、分かりました」


「……」


 ミカは一葉を無表情のまま見つめ返す。そして彼女は何故かあさぎ色のパーカーを深く被り、紺のマスクまで着けていたので表情が読めない。まるで就職試験で面接官と対面する時のような緊張感がその場にあった。もちろん、学生の一葉は知り得ない感覚だが。


「…あ、あの…鬼離山くんはどこに?」


「桃太は貴方が組織に入れるために登録する準備に移ってもらっています」


「……ぇ、登録ゥ!?私もう組織に入るって決まっちゃってるんですか!?」


 意識外から出た新事実に、思わず一葉は椅子から飛び上がって驚く。


「叫ばないでください…貴方は既に組織やモンスターのことを知る人間、記憶が消えない以上組織に登録する以外選択肢がないのです」


「と、というかなんで私の記憶消えなかったんですかぁ!トリカメ?っていうので記憶消せるんじゃ……」


「どんなことにも例外は起こり得るのです。桃太を含む()()()は記憶を消されませんし──」


「──獲得者…それって多分モンスターを従わせられる人の呼び方なんですよね?でも私はそんなこ──


「──話は途中です。人の話に割り込むとは落ち着きがありませんね」


「ぁ、すみません…」


(ん…?あなたもさっき横から割り込んで……)


 そんな反論が一葉の頭に浮かんだが、さっと口を塞いで堪えてながら話を聞く。


「一般人も稀に記憶消去に耐性を持つことがあるんですよ。確率にして1000万人に1人程度なので相当のレアケースです。組織の構成員であっても非獲得者であれば避けられないというのに……」


(ぁ…私が運悪いせいだこれ)


 1000万人に1人程度といえば日本に10人と少しいるかいないかという確率、それに当てはまることは宝くじで一等に当たるよりも遥かに低い確率、不運と言って間違いない。


「…そして聞いた限りだと貴方は組織へ勧誘した際に普通の生活をしたいからと断っていたそうですね?」


「あ、はい…」


 記憶処理の説明をしてすぐ、ミカは本題とも言うべき話題を切り出す。


「こうなった以上、貴方は少なくともモンスターに関する記憶を保持した人間として組織の名簿に登録されることが決まっています。しかし貴方が断固拒否すると言うのなら組織の()()()としての登録は避けることが出来ます」


「ぇえェ!?そうなんですか?」


 それまでの想定を覆す情報に一葉は声を荒げる。しかし現実はそう上手くは運ばない。すかさずミカは訂正を述べる。


「と言ってもおすすめはしません。一般人として暮らそうにも、おそらく貴方は既にモンスターを視認することが出来るようになっています」


「…視認……?」


 ミカは当然のように語るが、一葉はそうなることを知らない。それ以前に常人の目ではモンスターを視認出来ないことすら彼女は知らなかった。

 緊急時だった為か何故なのか、鬼離山はそのことを一葉に伝えずにいたのだ。


「桃太はそんなことも説明していないのですか……」


「ぁそうですね…」


 ミカは深くため息をつき、つられるように一葉も身体を前後に揺らす。


「……本来、常人の目にはモンスターは見えませんが、貴方は複数のモンスターに狙われたことで目の細胞が活性化され、その異形を捕えることが出来るようになっているはずです」


(そういえば澤田さんも、体育館にいた人たちもモンスターのこと見えてないみたいだったな…そういう能力ってことじゃ無かったんだ)


 一葉が体育館で抱いた疑問が解消された。


「しかし見える以上、その後の人生の中で嫌でもモンスターの存在を意識することになります。そして構成員でない記憶保持者は組織の人命救助項目から除外されるので、いざというときモンスターからの救助が望めなくなるのです」


「…え、見殺しにされるんですか?」


 聞き間違いかと思うほど恐ろしい言葉だ。

「組織に入らなければ殺す」一葉にはそう言われているようにさえ思えてくる。


「正確には容易に対処出来ない強力なモンスターが現れた際に、救助を後回しにされるというものです。基本的にこの組織ではモンスターに迅速に対処することがモットーとされているので意図して見捨てられるということはありません」


「そ、そう……なんですか」


 一葉は言葉が出なかった。

 あの日、鬼離山と対峙したとき、彼女の心には恐怖や疑念とは別に、微かな好奇心が湧き上がっていた。

 この世界にはこんな奇妙な生き物がいるのか、この世界ではこんなに危険なことが起こり得たのか、──この世界には人を助けるヒーローがいたのか。


 その時抱いた感情が過大すぎる幻想だったことを幸村一葉は理解した。


「なんです…?組織に入らないものを貶めるようなことをしている組織を悪だと思ったのですか?」


「いえ…悪なんてことは……」


 もちろん不思議も奇妙もヒーローもいた。この組織が世の中を平和に廻すために造られたことに間違いはないだろう。しかしそれは決して何一つ綻びも無い無償のものではなかった。


「正直もっと完全完璧な正義の味方を想像していたので……」


「……面倒な人ですね…」


「ぇ、あ、すみません」


 ミカのさらりとした丁寧な口調で、一葉は本日何度目かの罵倒を受ける。


「夢を見るのは否定しませんが……それくらいの小さな現実は見てほしいものです。組織に入らない記憶を保持した人間がいればそれだけで組織の存続が危ぶまれる……!一般人として解放するなんて選択が用意されていることの方が不思議なくらいですよ!!」


「ぅ…そ、そのとおりですね」


「なんです…何か不満があるのですか?」


 対面してからの無表情な淡々とした語りからは想像出来ないほど、彼女は感情を籠った饒舌な語りを始めた。


(…なんかミカさん怒ってるのかな?)


 一葉は正直それほど怒りを買うような振る舞いをしたとは思っていなかった。なによりこれは一葉へ怒りを向けているという感情には思えない。


(堅物で真面目そうなのに……ん?)


 そんな思考の元、もしやと考えついた答えを一葉はミカにぶつける。


「…もしかしてその記憶を持った一般人を解放するってルール、鬼離山くんが作ったものなんですか?」


「……はい?」


「え、いや……本当に、なんとなく、そうなんじゃないかなってェ!!」




「……当たりですよ…本当に気味が悪いですね、貴方は」


(ま、また罵倒!?)


 幾度とない罵倒に流石の一葉でも悲しみを通り越し怒りが湧き上がってくる。しかしその直後のミカの話を聞いて、怒りはどこかへ消え去った。


「桃太は僅か9つのときからこの組織に所属していました。そしてその頃は、記憶の消去ができない一般人は国で行方不明として扱わせて、組織内に閉じ込めるという決まりがありました」


「ぇえ!?…そんなに小さい頃からの話なんですか?」


「ぇえ…その頃から今と同じように無愛想な顔をしていましたが、正義感という面では今よりもずっと強いと思えるものがありましたよ。当時のルールがどうにも許せなかったようで、そのままルール改正のためのアンケート活動や、実力のある獲得者に協力を仰ぐなど行動に移していました」


「結果、桃太はルールを改正して、閉じ込められていた一般人に自由をあたえたのです」


「そ、そうなんだ……」


(それじゃあ、ミカさんが急に不機嫌になったのって…)



──鬼離山桃太の努力を小馬鹿にされたように感じたから。


「なんですか…何故急にニヤけるんです…」


「ぁ、何も馬鹿にしてるとかではないです!」


 そんな優しげな答えに辿り着いて、無意識に一葉は笑みを浮かべていた。意図せず理解せず笑えてしまうほど、一葉はその事実が嬉しかった。


「元々の話がどこかへ行ってしまいましたね…では幸村一葉さん…貴方は組織──


「──入ります!」


「……言葉の途中なのですが…」


(正直、まだ組織のことはよく分かんないけど…)


 少なくとも目の前の彼女や、あの鬼離山は自身の望む正義の味方だと、一葉は感じた。

 ただそれだけで一葉は前を向ける気になれる、そんな勇気が湧いてくる。


「鬼離山くんやミカさんは、多分私の想像してる通りのヒーローなんです」


「ヒーロー番組の見過ぎですし、出会って短い私たちをどうしてそれほど信用出来るのです?」


「勘です!」


「……これ以上話をしても意味はなさそうですね」


「はい!」


「…そこは返事をしないでください」




 こうして、幸村一葉が組織に加入した。

 しかしこれは飽くまで、物語の序章、リレーで開始位置へ立った程度の段階だ。彼ら彼女らの物語はここから始まる。


 そしていつかは終わりを告げる。それがいつかは誰にも分からない、その道を走り終えるまでは。









「そういえば…になりますが、この組織の名前を教えてませんでしたね。まぁ、名前に特別意味があるわけではありませんが…こういうことは丁寧にした方が良いですからね」





「ようこそ、異形対策(いぎょうたいさく)救命組織(きゅうめいそしき)──



───────【SEED(シード)】へ」










─異形対策救命組織【SEED】──

◯約50年前モンスターの発生に対応するために設立された政府非公認組織。非公認でこそあるが日本全国だけでなく全世界に拠点が設けられた巨大な組織。

◯構成員は全世界で3万人を超えるが、そのうちモンスターに対抗できる獲得者は約2000人程度である。

幸村一葉は読んでて「めんどくさっ」て思えるキャラにするのが目標です。

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