第1話 不幸の星の下で
人と言う生き物はある時、些細な出来事で昔を思い出す。
過去の自らの武勇伝、それとは反対に後ろめたくて言及したくのない、恥ずかしい話。
思い返せば小さく、大したことのないように思える話から、知られれば生きていけないような醜態。
それらの記憶は少なからず人の感情、意識に影響を与えているものなのだ。
私の幼い頃、正確な年齢を言えば五歳のまだ、保育園で滑り台を滑っていたほどの歳の時の思い出だ。
夏の旅行、田舎のおじいちゃんの家に遊びに行き、スイカなんかを食べて、川で魚を掴んで捕ろうとしてみたり、夜には近くの山を登ってその頂上でウキウキとした表情で見渡し切れないほど膨大で綺麗な星空を眺めてた記憶。
そんな些細な記憶も、今ではとても楽しく懐かしい物だと思い出せる。
山の頂上で星を眺めていた私の目の前を、運よく流れ星が通って、無邪気にはしゃぎながら、手と手を合わせ願い事をしたんだったかな。
といっても、その頃の幼い私に絶対叶えたいと思っている夢なんてものもなければ、その時何かおいしいもの食べたいとか、これがほしいものも全然なかったから、少し願いに悩んだ。
考えた末に、誰でも思ってるような、ただただありきたりで、かなりフワッとしていると感じるその願いを、星を眺めながら静かに呟いていた……
「幸せになれますように…」
○●○
それからだいたい十年後の2005年の6月15日
無邪気で幼かった私こと彼女、幸村一葉も女子高生。高校2年生となり、色々あって転校を繰り返した末にこの化野川高校へ入学を果たしていた。
その、とても常人が考えたとは思えない学校名から生まれた不安とは裏腹に、転校生ながらに仲の良い友人もでき、今日この時まで私は幸せだと思える学校生活送っていたのだ。この時までは。
「一目見たときから好きでした付き合ってください」
(ォオ…ドナいシヨゥ…)
状況を簡潔に説明しましょう。彼女は今、コクられていた。
彼女は目の前の彼に付き合ってくださいと、全力の告白を受けていた。
彼女が心の端に巡らせてる思考など構わないままに、彼は真剣な表情で告白の言葉を連ねていく。
「ご、ごめんね。幸村さんって転校してきたばかりで、まだ不安なことたくさんだろうに。でもどうしても気持ちを伝えたかったんだ、僕自信こんな一目惚れみたいなの初めてだったものだから。あ、キモいとか思っわれちゃった…?」
謝罪の言葉を並べ、顔を赤くしながら頭をおさえ、ペコペコ腰を低くする彼の様子には可愛らしさがある。
人によれば笑みを浮かべてしまいそうな優しげな空気を放っている。彼女はその様子にたいして虚ろで、この告白に対する答えをひたすらに思考し続けていた。
(どう言って断ろう)
彼女の思考に偽りはない。
はいいいえという選択肢はすでに通りすぎ、断るための文脈を考え、脳をフル回転させていたのだ。
実のところ彼女には彼の告白を受けるわけにはならない、確固たる理由が存在していた。
告白を告げた彼の名前は佐藤。転校してきたばかりの彼女は下の名前さえ覚えていなかったが、一つ上の3年生だ。
サッカー部に所属しており、副キャプテンを勤めるスポーツマン。
気配りもでき、下級生からも慕われる、穏健な優等生として知られている青年だ。
その性格、能力からも多くの人から慕われている彼に好意を持つ女子生徒は少なくない。そう語ると、彼の告白を断る理由などないのではと感じるかもしられないが、それにより起こり得る人間関係の縺れは考えるだけで息苦しくなるものだ。
(さ、佐藤先輩の告白受けたりしたら、絶対クラスでハブりものになっちゃうもん……)
転校してきたばかりの彼女にとってやっと築け始めた交友関係。関わりも少なく、よく知りもしない先輩を優先して捨てられるような価値のものではない。
特に彼女にとって、転入早々その交友を築けたことはまたと起こると思えない奇跡であったのだから。
「う、嬉しいです先輩。先輩みたいなすごい人に告白されることになるなんて思わなかったからちょっとびっくりです。で、でも私やっぱり色々と問題あると言うかうんともすんとも言えないというか......」
答えは決まっていた。あとは言葉を口にするだけ、ただそれだけで問題なくこれまで通りの学校生活を送っていける、一葉はオドオドと言葉につまりながらもそう思って疑ってはいなかった。
だが、返答に意識を向けた彼女に対して、天の神は今日も変わらず理不尽で最悪な運命を押し付けにかかるのだ。
パチャッンー……
文字で表せばそんなところだろうか。どこからか、辺りのどこらかからそのような水音が聞こえたことを理解した。
一体どこから、雨でも振りだしたのか、それとも誰かが水風船でも投げて遊んでいるのかな等という真偽のわかりきっている想像をしながら、念のため周囲を見渡す。
(あぁ、やっぱりそうだよね…)
彼女は理解していたのだ。先程語った想像というのは保険にすぎない、保留、理解した現象を否定するために造り出した淡い希望の一部分にすぎない。
その現象、その音について彼女はむしろ人一倍知識、経験を有していたのだから。
「えぁっ!?ゆ、幸村さん、あ、アタマの…そ、そのえーっと……」
告白を受けている、人によれば人生を分けることとなる一大イベントの最中であっても、彼女の持つその運命を振り切ることはできない。
──カァ!──カァァ─!
嘲笑うかのような鳥の鳴き声が聞こえ、白く、少しばかりの粘りと透明感、鼻をつまみたくなる鳥の異臭を持ったあの液体が彼女の頭をゆっくりと垂れていった。
彼女こと、幸村一葉はその垂れゆく汚物の正体を確信する。そして自身の人生のおわりとはじまりの匂いを嗅ぎとり、苦痛を隠せない態度で静かにためた息を吐き出した。
幸村一葉(16) 誕生日3月15日
身長154cm 体重◯1kg 血液型A型
化野川高校 2年2組 出席番号29番
所属部:なし 将来の夢:なし
好きな食べ物:納豆おにぎり 好きな言葉:棚から牡丹餅
特徴:ものすごい不運
文章初心者です、なんかすいません。
指摘とかをしてくれると嬉しいです。なろうの使い方も色々フワフワしてます。




