真面目な人ほど恋は盲目 前編
「エライこっちゃ!エライこっちゃで!!」
リュートがこれから出かけようと準備をしていると、ドアの外から声が聞こえた。聞き覚えのある声は次第に大きくなっていく。確かめようとドアを開けると、その声は静まった。
「ぐぎゅ……」
その変な音は、開いたドアの向こう側から聞こえる。リュートは恐る恐るドアの端から顔を出した。
「エライこっちゃやで!!」
「うわぁっ!!」
リュートは目の前に突然飛び出した影に驚いて、尻餅をついた。
「あー、チョッケル!おはよー」
「おはようさん」
「顔、大丈夫?」
ティンクはチョッケルの額についた赤い痕を指して言った。
「急にドアが開くもんやから……って、ちゃう!そんなんを話しに来たんとちゃう!」
「すごい慌てようだね……またがりべんが何かしたの?」
上半身を起こしたリュートが、そう尋ねた――ちゃぶ台から落ちた神様の像を拾い上げながら。
「いや、まだやで。今のところは何もしてへん。っちゅうか、今から何ぞやりそうやねん!」
「なんでそう思うのよ……?」
「起きてから様子が変やの~!熱心に鏡なんか見たりしぃ!服にも気をつこぉてたし!挙げ句あの勉強バカが『今日は勉強は休みだ』なんて言うて、どこぞへ行ってしもてんで!!」
ティンクとリュートは顔を見合わせた。そしてティンクは顎に手を当てて言うのだった。
「怪しい……」
・
・
「なんでここだってわかるん?追いかけのうて、ヘタこいたって思っとったのに……」
「勘よ!……ねぇ?リュートもそんな気がするでしょ?」
「うーん、でもがりべんだよ!?そういうのに関心があるとは思えないけどなぁ……」
一行は馬車に乗って繁華街までやってきた。ここはつい先日建て直しが終わったばかりのサイゼリ屋の前である。
「なんや二人には、がりべんが何しとるのか察しがついとるみたいやねぇ?」
「はぁ……そりゃあね。行きましょう?」
食器と食器が触れ合う音――人のおしゃべり――スタッフが注文を繰り返す声――そこはいつもと変わらないサイゼリ屋の店内だった。
「本当や!ほんまにおる!」
受付で待つリュートとティンクの元へ、目を丸くしたチョッケルが帰ってきた。
「やっぱりね……はぁ……男ってやつは……」
「……面目ない……です」
リュートは雑誌で顔を隠したまま、そのテーブル席に腰を下ろした。丁度がりべんと背中合わせになる位置である。オグファーデビラの二人は背もたれに張り付いた。そしてがりべんと、がりべんの正面に座る女性の動静に注意を向ける。
(どないなっとんねん!あの勉強バカが、女子と一緒にランチしとる……!)
(ひどっ、留年生には人権がないの……?)
(――今にわかるわよ……)
騒がしい店内に、澄み切った声が通った。落ち着いているが、不思議と高揚感をもたらす声である。
「それで、勉強の方は順調ですか?」
「全くもって順調だ!この調子でいけば、志望大学への一発合格間違いなしだ!四度目の正直だな!」
(四回目で一発合格って何!?それは一発合格って言わないよっ!!)
「よかったー!聡明ながりべん様ですものね。してやれないことなどありません。でしたら、もう一つの悩みの方もすでに?――」
「それが生憎、そちらの方は難航している。私の頭脳をもってしても、今しばらく時間がかかりそうだ……」
「まぁ……そんなに難しいのですか?」
「ああ、難しい。私のチャンネル登録者の中から、倒大生を誕生させることが……!」
(!?)
(えっ!?まさか視聴者を合格させようとしてる……!?)
(自分が合格してないのに!?まず自分が大学に入ろう、ねえ!?他人の心配してる場合じゃないよねぇっ!!??ってか、お前、なろうチューバーな!!??魔族倒してなんぼだからなっ!!??)
(倒大に行くようなやつが、三浪してるやつの勉強法なんか参考にせぇへんやろ!?ほんまにアホなん?)
「そうなんですか……ですが何故、なろうチューブを通して授業をなさっているのですか?」
「よくぞ聞いてくれた。それは……なんとなく、カッコイイからだっ!!」
(うわっ。馬鹿だコイツ……)
(もっとあるやろぉっ!?教育の必要性を広めるためとか、機会の平等とか、いつも言うとるやんっ!?なんでそれ言わんの!??)
(っていうか、なんでドヤ顔なのよ……)
「素晴らしいです!!――」
(食いついたぁぁーーっっ!!!こんなしょーもない答えに食らいつくなんて!どんだけ貪欲なのぉーーっ!!?)
(もはや雑食通り越して、ゲテモノ食いやな……)
「――がりべん様のロマンを追いかける姿、とってもカッコイイです!!私、ファンになっちゃいそうです!!」
(手ぇ握られてるわー。男って弱いのよねー、ボディタッチに……)
(あームダムダ……あの、がりべんやで?勉強以外興味あらへんて!)
「そそ、それほどでも……」ポッ///
(効果てきめんだったぁーーっっ!!!)
(耳まで真っ赤じゃない……)
(アカ〜ン。がりべん勉強ばっかやってたせいで、異性への免疫ゼロやったわ〜!)
「知り合いのなろうチューバーに、倒大生を毎年輩出している塾の講師がおります。あれは大変なことなのですね」
「それは本当か?あの難関の倒大だぞ!?……そうか、きっと素晴らしい勉強法を確立されているに違いないな……」
(読めた!これは勧誘やな?あの女、がりべんをなんかの団体に入れようとしとるんやろ!?)
(そうよ。つい先日、リュートがまんまと入信させられそうになったのよ……)
(はは~ん。さてはリュートさん、色仕掛けに引っかかったんやね……?)
(……面目ございません)
「そういえば先日お会いしたら、塾で教えている勉強法を今度なろうチューブで配信したいと仰ってました。偶然にもがりべん様と同じですね」
「ななな……なんと!私と同じ志を持っているのというのか!?素晴らしい!!……ショーコさん!もし差し支えなければ、その方に会わせてもらえないだろうか!?」
(「なんとなくカッコイイから」に志もへったくれもあるかいっ!!)
「はい!では早速、連絡を取ってみますね!」
(うわうわうわ……怪しすぎるっ!!展開早すぎだろぉっ!)
(気付けぇっ!気付いてくれぇっ!!なんぼなんでもトントン拍子すぎるわ!!)
(っていうか、ショーコって誰よっ!?〝わらしゃんどえぞ〟じゃないの!?)
わらしゃんどえぞは手で〝受話器のポーズ〟を作った。耳に当てた親指からは、リングバックトーンが漏れ出る。そして直ぐにそれは鳴り止んだ。
「もしもし……」
その美少女の小指に迦陵頻伽が注がれる。続いてそれとはまた別の、低く太い声が一同の耳に届けられた。そのわらしゃんどえぞの問いかけに答える声によって、リュート一行は虚を突かれることとなった。
「はい。ハラショーです☆」
(!?)
リュート一行は皆、顔を引きつらせた。慮外から発せられたその声は、わらしゃんどえぞの親指から発せられたものではない。それは通路を挟んだ反対側のテーブル席から、通路を飛び越えてやってきたものだったのだ。
「まぁ!なんて偶然なのっ!?隣で食べてらしたなんて!」
「ショーコさんじゃないですか!?奇遇ですね☆!」
(偶然なわけあるかぁぁぁぁっっ!!!???)
(ずっとそこおったんかいぃ!!)
(こえぇよぉぉぉっ!!下手な怪談話よりホラーだよっ!!)
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