同級生からの数年ぶりの食事の誘いは地雷臭
「リュートぉ……いい加減にまともな動画上げないとぉ……」
「あ、ゴメン!今日はちょっとムリなんだ……!また明日ね。今日はお休みで良いからさ!」
怪しい……。
私はオグファーデビラの一人、ティンク。この冴えない、どうしようもない駆け出しなろうチューバーのリュートと専属契約を結んでいる。はぁ……。どうせならもう少しセンスあるなろうチューバーが良かったんだけど、こればっかりは運だからしょうがない。
それよりも今日のリュートは何かおかしい。鏡の前で髪をセットしているのだけど、そんな姿今の今まで見たことない。それにリュートはどうしようもないんだけど、どうしようもないなりに頑張り屋さんでもある――そこが憎めないところなのだけど。そのリュートが曖昧な理由で撮影をお休みするなんて腑に落ちない。
「いってきまーすっ!……あっ!ティンクは家で休んでていいからね!僕は危ないところに行ったりはしないから!大人しくお留守番しててねーっ!じゃねー」
怪しい……。
私は下宿の玄関を元気に飛び出したリュートの後を、こっそり追うことにした。リュートは乗合馬車に乗って繁華街までやってくると、ファミレスのサイゼリ屋に入っていった。……なんでわざわざサイゼリ屋?食べ物屋だったら、下宿の近くにもあるのに……。
「何名様ですか?」
「あ、待ち合わせです。少し店内を見させてください」
待ち合わせ!?誰と……?
リュートは店内をうろうろとすると、窓際のソファ席に吸い寄せられた。私は隙を見て、窓辺に飾られた観葉植物の鉢に身を隠す。ソファ席には女性らしき姿の人がいた。私は空間に漂う彼女のマナを探る。ん?このマナにはどこかで会ったことがある……たしかこれは……。私は念の為その女性の顔を拝んだ。長い金髪に目鼻立ちの整った顔、長いまつ毛と少し赤らんだ頬と唇……間違いない。迷惑系なろうチューバー〝わらしゃんどえぞ〟だ!
なんでリュートがこの女と待ち合わせを!?この間の一騒動の後の飲み屋でも、散々悪口を聞かされたこの女に何の用があるというの!?
「リュートさん。今日もお越しいただいてありがとうございます」
「い、いえ~。僕は日がな一日、暇ですから……」
暇じゃねぇだろ~っ!!動画撮れよぉっ!?――あぁ、取り乱してはダメよ。他の奴らみたいな下品なツッコミは控えなきゃ。私はこの作品での常識人枠なんだから……!
「それで、考えていただけましたか?例の話」
「ええ!僕も薄々は感じていたんです。魔族を一方的に倒すのはよくありません!」
おいいいいぃぃぃぃっ!!!??何なろうチューバーにあるまじき台詞、吐いてんねぇぇぇぇんっ!!!!!
「嬉しいです……!私、リュートさんはとても心優しい方だって気付いていたんです」
おいいいいぃぃぃぃっ!!!??リュートの手ぇ握ってんじゃねぇよぉぉっ!!どさくさに紛れて色仕掛けかよぉぉぉぉっ!!!???
「いやぁ~そうですかねぇ~普通じゃないですかぁ~でへへへ……」
効果てきめんじゃねぇぇぇぇかぁぁぁぁっ!!!くそぉぉぉっ!!……このままじゃ、尚更マナの収集に支障をきたすわ……どうにかしないと……。
「それでは、こちらへ記入をお願いします。これでリュートさんも宗教法人魔族保護教団『魔の手』の一員です♪」
うわわわぁぁぁっぁぁぁっ!!最悪や~~っ!!ファンタジー世界で主人公が新興宗教団体のために剣を振る物語が爆誕してしまうぅぅぅっ!!!まずい!!まずいぞぉぉっ!!!
「はい!これで僕のマナも浄化されますか!?」
洗脳済みかよぉおぉぉっっ!!!???いやいやいやいや……!!!そういうのちゃうねん!!!ファンタジーの世界だから、そういうのもありかもしれんけど、この場合ちゃうねん!!宗教的な浄化はいらんねん!!!
「勿論です!一緒に曇りなきマナを目指しましょう!」
いやぁ~マナに澄みも曇りもないんだよなぁ……。人間よりもマナを直接見れる私達オグファーデビラが言うんだから、間違いないんだよなぁ……。
「それであれもいただけるんですよね……?」
あれ?
「勿論持ってきましたよ!はい、これです。尊師様プリントTシャツ!!」
「うわぁー!イカしてる!!」
なんだよぉぉっっ!!!そのイカれたダセェTシャツはよぉぉぉぉっ!!??着るのかっ!?そんなどこの誰だかわからないおっさんがプリントされたTシャツを!!??
「色は赤で良かったんでしたよね?今なら入信時無料でお渡ししています♪」
「わぁー!助かるな~!!」
テレビショッピングなのっ!!??しかも嬉しくねぇぇぇっ!!〝今なら、なんと!同じものをもう一つお付けします!〟と同じくらい嬉しくねぇぇぇっ!!
「あっ、でも待ってください。これにサインすると、ティンクが悲しむかもしれない……」
そうよ!そう、そう!!私達は一蓮托生!リュートの決断は、私の命運も握っているのよっ!?思い出してくれてよかった~っ!なんだかんだ言って私達っていいコンビなのかもっ!?
「――まぁいいか。ティンクだし」
許さんっっ!!こーなったら、この鉢植えを二人のテーブルに落として、この場を台無しにしてやるわ!!
「リュートさんの心配もごもっともです。ですが〝魔の手〟の仲間にも、実力派のなろうチューバーが沢山いるのですよ?」
「えっ!?そうなんですか?」
え、そうなの?それを聞いた私は、手を止めた。別にリュートが人気のなろうチューバーになって、マナが沢山手に入れば私は言うことないのだ。
「はい!!セミナーに参加すれば、そんな方達から貴重なお話も聞けます。マナを浄化しながら一流のなろうチューバーを目指せる……まさにリュートさんにうってつけの団体なんです。ですから、ちんちくりんのパートナーのことなど気にすることないですよ?」
やっぱり許さんっっ!!!この女目掛けて落としてやろうかぁぁぁっっ!!??
じーっ……。
鉢植えを渾身の力で押す私は、しばらくその視線に気付かずにいたのだろう。気配を感じた私は振り返って、その姿を捉えた。それはオグファーデビラだった。むっと口を逆への字にしたオグファーデビラが、私の真後ろに陣取っていたのだ。そうだ。こいつはこの女のオグファーデビラである。主人の身に迫る危険を感じ取って私を止めに来たのだ。
ヤバイっ!そう感じたものの、それは既に遅きに失するであった。私はそのオグファーデビラに棚に押さえつけられ、取っ組み合い状態になってしまった。足で蹴り上げて必死で抵抗するも、このオグファーデビラの方が体格が上である。私は為す術なく棚に寝転んでいた。
「な、なんだっ!?」
頭の方から聞こえたのはリュートの声だった。私がこんな状態になっているのが、遂にバレてしまったのだろう。この際正直に尾行してたのを謝って、入信を考え直すように懇願するのが得策かもしれない。
「行きましょう!?」
あれ?二人して席を立ってしまった。どうも様子がおかしい。私に覆いかぶさるオグファーデビラの力が弱まったのを機に、私は抜け出した。そして私の目に映ったのは、窓の外を闊歩する大型の魔族の姿だった。
「リュートっ!」
「っ!ティンク!どうしてここにっ!?」
「話は後よ!?どうなってるの!?」
「わからないよ!とにかくこのままじゃ、町の人達が危ない!!」
サイゼリ屋の自動ドアから出た私は、魔族を見上げるリュートと合流した。ヘキトウ町はそこそこ大きな城塞都市だ。町中と外を隔てる高い高い壁が、町の端を一周している。こんなに大きな魔族が町の中心地に突然現れるわけがない。
「武器っ!武器になるようなものはっ!!??」
「……ティンク、ごめんっ!」
「……っ!?」
「僕、〝魔の手〟に入信することにしたんだ。魔族だからって、暴力で解決するのは良くないよ!」
「……!そんなこと言ったって!!このまま魔族が暴れたら、町も、人も滅茶苦茶になっちゃうじゃない!!」
「きっとこの魔族、お茶しに来たんじゃないかな!?ブラックですかーっ!!?砂糖入れますかーっ!!?」
「いやいや!!テンパりすぎてワケがわからなくなってるじゃんっ!?暴力!?違うよ!!なろうチューバーは、魔族から町を、人を守ってるんだよっ!?」
「町を……人を……守る……」
「そうだよ!!?魔族は成長するとこんなに大きくなって手に負えなくなっちゃう!それを防ぐために、どんなに弱い魔族でも手を抜かずにやっつけることになってるんだよ!!」
「どんなに弱い魔族でも……手を抜かない……」
その時私の視界の端に、こちらへ猛ダッシュしてくる人影が見えた。
「うらららららら、らぁっ!!俺様が来たからにはもう安心っ!!新進気鋭のなろうチューバー!!〝たまにゃん太郎〟とは俺のことぉぉっ――」
そのやたら煩い人影と魔族との間に、もう一つの人影が割って入った。そしてその人影がまばゆい光を放つ。するとダッシュしていた〝たまにゃん太郎〟の声が消えた。次の瞬間には〝たまにゃん太郎〟は空の彼方――もと来た方の空へ打ち上がってしまっていた。
「させませんっ!!!」
「いや、なにしてんの!?あんた!!!」
〝わらしゃんどえぞ〟だった。〝わらしゃんどえぞ〟が〝たまにゃん太郎〟を魔法で吹き飛ばしたのだ。〝たまにゃん太郎〟は地面に勢いよく叩きつけられると、その場でノビてしまった……。
「こちらのミノタウロス様は、きっとこの町へお茶しに来たんです!!魔族であろうと、一杯のコーヒーを飲む権利はありますっ!!」
ドォォンっ……!!
ミノタウロスはその巨体で突進して、サイゼリ屋を半壊させた。〝わらしゃんどえぞ〟の言い分だと、入店したかったに違いない……。
「ってぇ……――んなわけあるかぁぁぁぁっっ!!!」
それからも〝わらしゃんどえぞ〟は、応援に駆けつけたなろうチューバー達を空へ打ち上げた。ことごとく地に伏せたなろうチューバー達を他所に、ミノタウロスは町並みを書き換えていった。
「ちょっとっ!!なにしてんのよっ!!迷惑通り越して犯罪よっ!!」
「は、犯罪……っ!?そ、そっちこそ、命を大事にしましょうと親に教わらなかったの!?」
「声が上ずってるじゃないのよ……リュート!!リュート!!目を覚まして!この女を取り押さえて!!」
「……」
「何よ!!こんなもの!!」
私はリュートが持っていたTシャツを奪い取った。変なおじさんがプリントされたそれは、ひらひらと風に舞った。
「あ、危ない!」
それに向けてミノタウロスが突進を仕掛けてきたのだ。リュートは私目掛けて腕を伸ばした。私はリュートに優しく抱えられる。しかしリュートは今だ手ぶらである。このままじゃ……リュートは……。
そこへ先ほどと同じく、人影が割って入った。その人影がまばゆい光を放つと、地鳴りを響かせていたミノタウロスの足音が止む。私はリュートの懐から顔を出した。そこには首のないミノタウロスの血の雨を浴びる、〝わらしゃんどえぞ〟が一人立っていた。
「……無事ですか?」
「ええ……大丈夫……ありがと」
「あなたじゃなく、尊師様のTシャツの方です!!」
「そっちかぁぁいっ!!私のお礼を返しなさい!!」
「リュート見て」
「あ!〝わらしゃんどえぞ〟さんのチャンネル!?……あーやっぱり炎上してるね……」
リュートの入信書はミノタウロスがサイゼリ屋と共に粉々にした。サイゼリ屋はもう少しで建て直しが終わるそうだ。
「コメント欄すごい伸びね……ああ恐ろしい……リュートはこんな悪目立ちはしないでね?」
「うんわかったよ……ティンク、いつもありがとう!」
相変わらずリュートの動画はイマイチ再生数が伸びない。けれどあれ以来、私に隠し事をして撮影をお休みすることはなくなった。それだけでも良しとしますか!
「って、ティンク!!〝わらしゃんどえぞ〟さんの登録者数!!」
「きゅ、九万人っ!!??」
「そりゃぁ、ミノタウロスも一撃なわけだね……はは」
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