独白だからストーリーテラーが主人公になるのに叙述トリックの欠片もない
それから僕はひらひらと飛ぶ羽虫のように、町の灯りに吸い寄せられた。初めはひどく道に迷ったこの街角も住めば都。今では考え事をしていても、自然と足が向くまでになった。
「別にあいつに案内してもらわなくても、私が覚えてたのに」
「えー!本当?ティンクが方向音痴なのは既知の事実だよ!?」
「ふん!あんたにだけは言われたくないわ!」
このオンボロ家屋は僕がお世話になっている下宿だ。廊下を進むと、嫌でも床がギイギイと不快な音を立てる。食堂の方からは数名の話し声が聞こえてきた。ひとまず部屋に荷物を置いてから空腹を満たそうと自室へ向かう。すると一つの部屋のドアが少しだけ開いた。
「リュート。遅かったね」
暗い部屋の中からはこもった声が漏れ出た。
「うん。ちょっと道に迷っちゃって」
「気を付けなきゃダメだよ。少し森を外れると、高レベルの魔族だってうろついてるかもしれないんだから……」
「わかった。気を付けるよ」
「それにしてもさぁ。リュートは部屋で誰と話してるの?どう聞いてもティンクの声じゃないんだけど……?」
「さぁ?誰だろうね~」
駆け出しなろうチューバーに無償で提供されるこの宿には、僕と同じ配信者の卵達が多く入居している。無償といっても期限付きなんだけど……。僕は斜め後方に向けて返事をしながら部屋へ急いだ。
パタンっ
「ふぅ……」
やっぱり自分の部屋は落ち着く。どの世界でもそれは一緒みたいだ。僕は靴を脱いでドアの横へ揃えて置いた。続けて鞄やら上着やらをどんどん体から外していく。それから部屋の真ん中の小さなちゃぶ台に手をついて腰を下ろした。「今いるかな?」とか考えながら、〝それ〟に手を伸ばす。〝それ〟とはちゃぶ台に置かれた変な――もとい威厳のあるおじいさんの像だ。
この像はホログラムディスプレイのようなもので、起動すると空中に半透明のモニターが映し出される。ボクはモニターの向こう側に映った、とてもとても馴染みのある顔にほっとした。
僕の名前は流川流人。訳あってこの異世界で、なろうチューバーとして活動している。僕は元の世界――日本ではそれなりの人生を歩んでいた……と思う。
親の言うとおりに地元の高校を卒業して、都会の私立大学へ入学。それなりに就活をして、それなりの企業に就職した。それからも会社の言うとおりに仕事をこなす日々。誰からも注文を付けられないように、周りの顔色をうかがって過ごした。
ある時魔が差して会社を辞めた。人を楽しませてお金を稼ぎたいと思ったからだ。機材はあっという間に揃った。カメラに照明、三脚、マイク……パソコンは元々持っていたものを使えばいい。
僕はY○uTuberになった。
他の人がやっていることと同じことをやってもつまらない。どうせなら、誰もやらないこと。見たこともない映像、企画をやりたかった。僕は初心者Y○uTuberにやってほしい企画を掲示板で募集した。その一つを参考に橋の欄干へ身を乗り出した。
真っ逆様に川へ落ちると、昼だというのに冷たい水が服を濡らした。ビニールに入れたカメラは無事だろうかと気にしている内に、体の自由が利かなくなった。泳ぎは自信があったのに……。肺の中は空気ではなく、濁った川の水で満たされていった。
・
・
気付くと僕は真っ白な空間に寝ていた。どこも痛くはない。立ち上がって周囲を見渡す。すると視界の端に何かを捉えた。人だ。人が倒れている。僕はその方へ恐る恐る歩を進めた。しかし僕の足はある地点まで進むと、止まらざるを得なかった。見えない壁があるようなのだ。倒れている人まで、あと少しのところで寸止めを食らわされた。
そうこうしているうちに声が聞こえた。
「ねぇねぇ」
僕が声のする方を向くと、おじいさんがいた。「うわっ!」と声を上げる僕を、おじいさんはしっしっしっと笑った。僕がそんな声を上げたのは、おじいさんが僕の真横にいたからなのだけれど。
「ぱんぱかぱーん!おめでとう!二度目の人生チケットご当選じゃぞ~!」
「えっ!?ホントっ!?やったー!これで配信が続けられるぞ~!」
「……なんか思ってた反応と違うんじゃが……そこは『どういうことですか?』とか『あなた誰ですか?』とかじゃないんか?普通……飲み込み早過ぎじゃから……」
「あ!じゃあ、ひとつ質問!僕が持っていたカメラは無事ですか?動画がそのままなら、アップして再生回数が鰻登り~♪」
「そんなもん知らんわ!……じゃが、その配信者としての飽くなき探求心。儂の目に狂いはなかったようじゃ。しっしっし、こりゃ期待がもてる」
それからそのおじいさんは僕に経緯をしゃべり出した。頼んでもいないのに……。どうやらこのおじいさんは神様らしい。神様の世界には娯楽が少ないから、皆人間を観察して楽しんでいる。中でも最近流行りだしたY○uTubeは神様達にも人気のコンテンツなのだという。
「そこでじゃ!ワシは自分だけのY○uTuberをプロデュースしてみたくなったのじゃ!」
「やった~!じゃあ僕が、神様プロデュースのY○uTuberになれるんですね!?なんか凄そうですね!」
「ぶっぶー!残念じゃったな!それじゃ、とんちが効いとらんじゃろ?そなたはあちらで寝ている者の世界で流行している、〝なろうチューブ〟の配信者〝なろうチューバー〟になるのじゃ!勿論そっちの方も儂がプロデュースしてやるから、大船に乗ったつもりでおれ!」
「やった~!神様プロデュースは変わらないんだー!よぉーし!じゃんじゃん配信するぞー!」
「……これまた思ってた反応と違うんじゃが……聞き覚えのない単語を聞いたら、不安になるもんじゃないんか?普通……お前さん、とことん上昇志向じゃな……」
「神様!誉めてくれてありがとう!」
「……」
遠い目をしていた神様は腕を上げた。すると視界が一瞬で別のものになった。真っ白な世界なのは変わらない。しかし背中には確かに床がある。ふと頭を横に向けると「なんじゃこりゃー」と声を上げる僕が、自信の顔をべたべたと触りまくっている姿が見えた。
僕の顔の前にも、僕と同じように鏡が現れた。宙に浮く鏡だ。そこに映されたのは見紛うことなく、さっきまで向こうで寝ていた人の顔であった。
「Y○uTuberとなろうチューバーの融合!ハイブリッド!それが儂がプロデュースする新たな配信者の姿じゃ!!それぞれの世界、それぞれのコンテンツで輝くのじゃ!」
それから僕達は光に包まれた。気付いたら僕は一室のベッドに寝かされていた。
「あ、あと。お前さんと入れ替わった奴とリモートできるようにしてあるから、諸々の説明よろしくじゃぞ!その儂を象った像に手をかざすのじゃ。くれぐれもよろしくの!」
神様の余談が聞こえた気がした。
早速僕はその神様の像に手を伸ばしてみた。すると空中に現れたモニターには、どうも見覚えのある部屋が映し出されていた。そしてモニターを覗き込むようにさっきの僕が顔を出した。
「いったいどうなってんだよ……?分かりますか?そこの俺さん」
僕がしゃべった。なんとも不思議な気分だ。鏡の中に別の世界が広がっているような感覚だ。
「はい!まずは先程、神様に言われたことをお伝えします!」
こうして僕は、僕と情報を共有することとなった。
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