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ロマネスク建築【宗教建築】

大変お待たせしました。

さて、ロマネスク建築の前話はロマネスク建築の基本特徴を押さえましたが、今回は特に宗教建築について語ります。


中世ヨーロッパと切っても切れない関係にあるのは「宗教」です。ペーガンだろうと、クリスチャンだろうと、ムスリムやユダヤ教徒だろうと例外ではありません。ロマネスク様式はその中では、基本的にローマカトリック教会の産物だと言えます。


その中で更にロマネスク様式の宗教建築に最も貢献した要素は、以下の三つだと言われています:


1.修道院の発展

2.巡礼の発展

3.十字軍


まず第一の修道院の発展です。六世紀にヌルシアのベネディクトが始めたとされる修道院制度(ベネディクト会)は、イタリアから始まりヨーロッパ中に広まりました(後の修道院会にはクリュニー会、シトー会、カルトジオ会、聖ヨハネ騎士団、テンプル騎士団等があります)。

大半の人が読み書きを出来なかった時代(時によっては、王侯貴族も例外ではありませんでした)、修道院は学の中心であると同時に、政治的にもかなりの権力も持っていました。


これに関し、最も影響力があると言われ、また代表的な例として出されるのがクリュニー修道院(III)です。


次に巡礼と十字軍です。十字軍の遠征はエルサレム等を含む、イスラムの支配下にある聖地の奪還を目的としたものでした。その危険な旅路から無事帰還した豪族や貴族が神への感謝を述べる為、もしくは朽ちた人の弔いと記念の為に、宗教建築が作られる事もありました。また、その際に持って帰った、ちょっと本物かどうか疑わしい…ゲフンゲフン…聖遺物等の保管の為に作られる事もあります。それでいて、こういった聖遺物等の保管を目的とした修道院を造ると、更にそれを求めにやってくる巡礼者がいるので、宗教建築の規模は上がります。


この様な背景が原因で司祭や修道僧、巡礼者や聖遺物が増えると、修道院や教会はより多くの人が使える様、どんどん大きく複雑に発展していきます。




まず、教会の地面設計ですが、シンプルな物ではI字型やT字型等があるものの、最も有名なのはラテン十字(♰)型です。基本的に、これが「ロマネスク宗教建築の地面設計」ですが、地方別で微妙に違ったり、例外が必ずある事は忘れないで下さい。



また、図面からも見られる、前話で述べたアーケードによって分けられていた身廊と側廊とギャラリーです。側廊は元々巡礼者等が、身廊で活動をしている聖職者の邪魔にならないように発展したと言われています。こうすると、身廊を横切る事無く、側廊から直接アクセス出来るチェペル等に保管されている聖遺物を見る事が出来ます。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



【東端】

教会の東側、地面設計で書かれている「アプス」に基本あたる部分ですが、半円型になっている事が多く、この場合が一番ロマネスク「っぽい」です。ですが、アングロ・サクソンの影響のある建築、もしくは小規模な宗教建築等は、四角型になっているあります。


ジェネリック過ぎる東端の例:

挿絵(By みてみん)



【正面】

これらの細かい所は後に地方別に説明する予定ですが、正面はある意味一番地方の違いが出る場所です。故に「これぞロマネスク様式の正面」はありませんが、


1.アーチ型の入り口、及び窓である

2.左右対称である(事を少なくとも意識している)


等の、共通特徴があります。また、更に大まかに二つに分けるなら、「正面の両端に塔があるタイプ」と「無いタイプ」があると思います。「あるタイプ」は「西構え」と呼ばれ、主にドイツ、イングランド、北フランスを連想させ、無いタイプはイタリアを思い浮かべる事が多いと思います。前者がカロリングの影響を受け、後者が受けていない場合が多いからです。


メッチャ雑な比較:

挿絵(By みてみん)


「無いタイプ」の代表的な例は、ピサ大聖堂、サン=トロフィーム教会、サン・ゼノのバシリカ、等、

「あるタイプ」の代表的な例は、マリアラーハ修道院、カーンのサン・テティエンヌ修道院、リムブルク大聖堂、サウスウェル・ミンスター等です。




【塔】

必ずある要素ではありませんが、ロマネスク様式に塔はわりと付き物です。しかし、ここでも塔の「形」、「数」と「位置」は割とマチマチです。


「形」ですが、多いのは四角型ベース、もしくは八角形型のベースですが、円型もあります。円型で連想する地域は、ドイツ(マリアラーハ修道院)やイタリア(ピサの斜塔)です。イギリス等ではほぼ見かけませんが、アイルランドにその跡が残っていたりもしたそうです。


「位置と数」は先程【正面】でも述べた様に、正面を挟む様に二つ付けられる場合が多いです(北フランスやドイツで多い)。しかし、これはあくまでも「最低でも二つ」です。ドイツのヴォルムス大聖堂の様に、西構えに二つの塔、だけでは足りず、東端のアプスを挟む様に塔を設計する場合もあります。つまり、四個です。ドイツのロマネスク様式は塔大好きです(他の例にはシュパイアー大聖堂があります)。しかしここでは止まらず、リムブルク大聖堂の様に「クロッシング(図を参照)」と「袖廊」の端部分に更に塔を設置し、計七個の事もあります。


一方、イングランドで好まれた数は、西構えに二つ、クロッシングに一つの基本三つでした。この場合、クロッシングの塔が一番高い事が多く、西構えの塔が四角型なのに反し、クロッシングの塔は八角形と、差別化する事が理想とされます。しかし、これはあくまで理想であって、実際は全部四角ベースだったり、もしくはクロッシングの塔の計一つで諦めたする事も多いです。


逆にイタリア等では、そもそも造らない事も多かったのですが、造っても「ピサの斜塔」の様に、教会や大聖堂とは繋がっていない事が多いです。ただし、イタリアでもノルマン系に支配されていた事のある地域等では、見かけます。


挿絵(By みてみん)



【ポーチ】

これも、必ずある要素ではありませんが、稀に加えられます。しかし、ごく一部の例外を除き、基本後付けです。



【ポータル】

入り口の事です。西の正面の中心に設置する事が殆どですが、二つ並んでいる場合もあります。これも半円アーチである事が殆どですが、扉も半円アーチか否かはマチマチです。人々が出入りする場所なので、基本的に装飾はかなり豪華です。



【地下聖堂】

サルコファガス、墓、聖遺物等の保管がされる事が多い場所です。その名の通り、聖堂の地下にあります。ロマネスク様式の場合、太く短い柱で支えられた、半筒アーチ型の空間である事が殆どです。



【チャプタ―ハウス】

現代でいう会議室です。修道院や大聖堂等に設置される事が多々ありました。




【洗礼堂】

洗礼を執り行う為の、独立した建築物である事が殆どです。イタリアに多いです。八角形か円型である事が殆どであり、ドーム等がついて来る事もあります。例は、サン・ジョヴァンニ洗礼堂やパルマ大聖堂等にあります。



【その他の装飾】

前話でも書かれた「アーケード」は装飾として使用されている率が、非常に高いです。アーチが何個も並んだ見た目は、中々ファンシーなので、解ります。これは外装、内装でも見られ、時には半円型に沿って設置される事もありました。


また、彫刻を使った装飾も多いです。これらは柱などの、主に内装で見られますが、ポータル等にふんだんに使われる事もあります。花や植物、シンプルな柄を連続で使用する物もあれば、悪魔や怪物、大罪のシンボルを使う事もあり、勿論キリストや聖者達を模した人物像も使うので、各地でかなり性格が違います。これらの彫刻は、イタリアに近い物程、先人ローマに近く、遠い地方(イングランド、フランス、ドイツ等を含む)は「蛮族的」と評される事が多いです。うん…まあ、確かにパッと見凄いけど、よく見ると訳の分からない柄や彫刻だったりするからね…人物像も、プロポーションがヤバい事になっている事が多い。


そして残念ながら宗教改革や劣化等が原因で、現代まで残っている物は少ないですが、壁画も盛んでした(ペイントもモザイクも使われていました)。壁画に最も使われていたテーマは聖書の一部を表す物です。


そして最後は皆大好きステンドガラス!ステンドガラスの使用は10世紀まで遡れます。しかし、やはりロマネスクのステンドガラスは色がやや限定的で、人物のポーズもぎこちないのが特徴です。アウグスブルク大聖堂のダビデ王のステンドガラスが有名な例です。




以上、これで宗教建築の基本特徴は終わりです。お疲れ様でした。そして次回は非宗教建築です。お楽しみに!

ううぅ…今回は情報の断捨離がキツかった…!書きたい事もっとあったんんだけど、くどくならない様に説明できる自身が無かったorz

故にもしかしたら、逆にちょっと説明不足な部分もあるかもしれません。その時はご指摘いただければ幸いです!

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[良い点] はじめまして。 とても面白く読ませていただいております。 商業ベースの小説などでは、以前はなかなか「転生」「転移」といった作品はなかったため、中世や近世といった形で街並みや生活レベルを…
[良い点]  いつも思うのですが、今回も大変わかりやすい説明でした。  特に今回に関しては、図があるとわかりやすいという典型的な例だったと思います。  途中の小さい図を「確かにイタリアってこんな感じだ…
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