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プロローグ3



 頬杖をついて事務机に座る青髪の少女。

 物憂げな顔で溜め息を吐くその姿は、思わず声を掛けたくなる可憐さを放っている。


 「はぁ……」


 ハイ、オレっス。

 渡貫ユウリ、もとい死神ワタヌキっス。

 室長に「とりあえず最初は死神の仕事がわかるように、そういう基礎方面に強い方がいいっス」と要望を出すと、直ぐに保管所の看護服の少女……ヒロメイベルさんが用意してくれた身体は、かなりの美少女だった。


 TS系の作品も読んでいたが、自分がなる事には躊躇いがある、とは言ったが、万遍なく仕事に対応したいなら、この娘しかないと言われてゴリ押しされてしまった。


 名前は、チェリヒタ。


 実際、この身体は優秀だ。

 元々は、300年間事務仕事を一手に引き受けていたベテランらしく、書類に目を通せば理解するのに2秒も要らない。中身がオレでこれなのだから、優秀というのも憚られるレベルで優秀である。


 ………ちなみに、そんなベテランのできる女であるチェリヒタさんの死因は過労死である。

 死神でも過労死するんだ、とかそういう疑問は、そんな死ぬまで頑張っちゃった系少女を休ませずに自分が使っている、という事実の前に口を噤んだ。


 「センパ……いや、新人クン、これお願いね〜」

 「了解っス。……所で何で毎回みんな先輩って言いかけるんスか?」

 「いや、私が新人の時にチェリヒタさんに面倒観てもらっててさー」

 「…………」


 そんな感じで陽気に仕事を置いていく死神達。

 つい最近まで生きていたのか、チェリヒタさんにお世話になったと言う死神は多い。或いは、寿命で死なない死神だからこそ、いつまでも覚えているだけかも知れないが。


 ふと、思う。死んだ筈の先輩が相変わらず事務机に齧り付く姿を見て、もしかしたら生きていたのか、と嬉しそうに話しかけてみれば、それは中身の違う別物。

 先輩の皮を被ったただの人間だった、と。

 ………残酷な話である。

 死神達はそんな様子を見せる事は無いし、想像でしかないが、だからこそ憂鬱である。いっそわかりやすい行動に出てくれた方が気持ちも定まるのだが。


 そんな感じで罪悪感を振り払う意味もあって、憂鬱ながら仕事に集中していると、身体のスペックもあって仕事を任され、それを片付けると直ぐに仕事を任される。

 果てにはこのスペックですら終わる頃には倍の事務仕事が机に置かれていた時もあり………こうやってチェリヒタさんは過労死してしまったのでは??と若干危機感を覚え始めた頃。


 「死神ワタヌキ、仕事を持ってきた」


 室長さんに話しかけられた。


 「仕事ですか、ならそこに置いておいてくださ」

 「違う、死神としての仕事だ」

 「死神としての……っスか」


 いつもの事務仕事だと思い、生返事を返しそうになった所で、室長本人から訂正が入る。

 死神としての仕事………この事務仕事は違う、という訳でもないだろうに、そうやってわざわざ言うと言う事は。


 「ああ、お前の考えている通りだ。………これより、死神ワタヌキに『魂刈(たまが)りの任』についてもらう。対象は、伊藤康太という21歳の男性だ」

 「………了解っス」

 「初任務、頑張ってきてくれ」


 そう言って、こちらに対象の顔写真と簡単な経歴を書いた書類を渡して去っていく室長。

 オレはなんの憂いもなく初任務につく為に、机の上の書類の山を攻略する事にした。


















 書類を片付けた後、新人用のガイドに従って『魂刈りの任』の書類を持って受付に行く。

 一時間程並んで待ち、受付に書類を見せる。


 「初任務ですね。ちなみに、現世に行くには水鏡を通る必要があります。行きたい場所………この場合、対象の顔を頭に思い浮かべながら、水鏡をお通り下さい」

 「はぁ…………。あっ、はいっス!」

 「ふふっ、上手くいく事を祈っていますね」


 受付の人に笑顔で対応される。無職ニートだったから、自発的に他人と話すのが久しぶりすぎて対応が変だった気がしないでもないが、受付の人は笑って許してくれた。


 「ちなみに注意点とかは……」

 「注意点……ですか。やはり死期の間違いが問題視されてますね」

 「死期の間違い?」

 「はい。なんでも、余命宣告した方が、何故か生き残ってしまう事例が新人ベテラン問わず多発しており………その場合、仕事は失敗。ついでに死期の特定をやり直す事になるので、ご注意ください」

 「はぁ……」

 「では、いってらっしゃいませ」


 そりゃ、病死とかならともかく、余命宣告されたら生き残ろうとするもんじゃないの?とは思ったが、死神の仕事をよく知らない自分が今から決めてかかっても悪いだろう、と口に出さなかった。

 もしかしたら、死期というのは本来間違う筈のないものなのかも知れない。死神達の反応を見るに、多分間違ってないだろう。


 とりあえず、生返事を返した事に早速後悔しながら、笑顔の受付の人から離れ、受付の横の廊下の一本道を歩く。

 廊下をしばらく歩くと、話に出てきた『水鏡』とやらが見えてきた。


 「………ふむ」


 形としては八芒星の形の泉と言うべきなのだが……確かに鏡と名付けるのも頷ける透明度で、それでいて光の反射なのか、よく映る。

 水鏡に映った自分の顔を、一瞬自分と認識できなかったが、すぐにそれでいいんだよ、と思い直す。

 この身体はあくまで借りているものに過ぎないという事を忘れるつもりは無い。


 「そろそろ行くか」


 さっきから仕事と関係ない事ばかり考えている。これではいけないと思い、すぐに仕事に頭を切り替える。

 確か、対象は伊藤康太21歳男性。

 受付曰く、対象を思い浮かべながら水鏡を潜る、と。

 書類から対象の顔写真を取り出す。


 「冴えない顔……」


 お前が言うなという話だが。オレも生前、対して美形では無かったし。今の身体はノーカンだし。

 とりあえず、その記憶しにくい顔をしっかり脳裏に刻み付けて、水鏡を潜る………………どう潜るんだこれ。鏡と呼ばれようが、目の前にあるのは水溜りである。当然だが、縦ではなく横に空間を占めている。


 …………ダイブでもすればいいのかな。


 「ええい、考えても仕方ないっス!……ワタヌキ、行きます!」


 オレは目の前の水鏡に不格好な姿勢でダイブした。




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