薬草採取クエスト報告
今回の登場人物
アスカ:冒険者ギルド【新緑の息吹】Eランク、踊り子。元派遣会社のOL。
ユキ:アスカが名付け親の白いドラゴン。中型犬サイズ。
サーシャ:冒険者ギルド【新緑の息吹】ギルドマスター代理。
エント:城壁門の警備兵。
モルツ:冒険者ギルド【新緑の息吹】Bランク、ガード。ユンナ、ハナと固定パーティ。
ナナ:初登場
「モンスターに遭遇することなく城壁門まで戻ってこれたぁ~」思わずほっとして声が出てしまったアスカ。
出来るだけ早歩きをしていたので、息が少しあがっている。
「息を切らしているけど大丈夫か? それより、すごい量の薬草採取してきたな!」と心配そうに警備兵のエントさんが声をかけてくれた。
「大丈夫です。ちょっと急いで戻ってきて息が切れただけです。今日も入場料金支払わないといけないんですよね?」
「城壁内の住民は入場料の支払は不要だ。そのまま入っていいいぞ。もし俺以外の警備兵しかいなかったら、ギルドタグを見せれば、すんなり入れてくれる」
「ギルドタグが身分証明変わりになるんですね。わかりました!」そう言って、アスカはギルドハウスに向かった。
通り過ぎる人が、アスカを二度見する。
(昨日と違って、この世界の服装なのになぜだろう……)
「サーシャさん! 薬草採取から戻りました!」と言いながら、アスカはギルドハウスに入り、受付カウンターに薬草の入った籠とユキが集めてきた魔石を置いた。
サーシャさんが受付カウンターの奥から出てきて、薬草の入っている籠と魔石を見て、「午前中だけで、薬草こんなに採取してきたのかい! 普通は、両手に持てるほどしか採取できない貴重な薬草なんだよ」
「そうなんですね……街道沿いをきょろきょろしながら歩いても、まったく見つけられなかったです」
「それじゃ、この薬草はどうしたんだい?」
「ユキが、先導して薬草が群生している場所に連れて行ってくれました。これでも少し採取しただけで、まだこのギルドハウスより広い場所に手つかずに薬草が茂ってます」アスカはお手柄のユキを抱っこして、サーシャさんに説明した。
「ユキは、鼻もいいんだね。それと……魔石の量も多いけど、その少し大きな魔石はどうしたんだい?」
「私が、薬草採取に夢中になっている間、きっと近寄ってきたモンスターをユキが退治してくれ、昨日魔石を拾っていたことを覚えていたようで、一か所に集めてくれてました」
「少し大きな魔石はワイルドベアーの魔石だね。2mほどの熊みたいなモンスターだけど、気性が激しくて一般人には危険なモンスターなんだよ。しかも午前中で3個もワイルドベアーの魔石を持ってきたってことは、その周囲にワイルドベアーがまだいるかもしれないねぇ」
アスカは、危険な場所で薬草採取をしていたことを認識し、背中に冷たいものが伝うのがわかった。
(ユキが退治してくれたから良かったけど……私ひとりじゃ気性が激しい熊を、使ったことが無い剣で倒すなんて無理だよ……)
「ユキが居るとはいえ、ソロでEランクにはワイルドベアーの討伐クエストは受けれない……モルツ達はBランクだからパーティで受注したとしても旨みのないクエスト。ギルド庁にクエスト回すか……」
ギルドハウスにて、お昼ごはんを食べ、アスカはサーシャさんと一緒にギルド庁に来ていた。ユキも一緒である。
(お役所の窓口みたい……)
サーシャさんは、慣れた足取りで一つのカウンターに行った。そこは上位ランクの冒険者ギルド専用の窓口だった。
「サーシャさん、ご苦労様です。今日は報告ですか?受注ですか?」
「今日は、報告と発注かの……こっちの娘は、アスカ。今後私の変わりに出入りすることになるから、よろしく頼むよ」
「わかりました、アスカさんですね。今後よろしくお願いします。私は、【新緑の息吹】専属担当のナナです」
突然紹介を受けたアスカは戸惑いながら「ナナさん、よろしくお願いします。ジョブは踊り子のEランクです」
「珍しいジョブで、まだ駆け出しの冒険者さんですね。無理はしないでください」
「はい!」アスカは、低ランクの特殊なジョブでも色眼鏡で見ないナナさんに好印象をいだいた。
サーシャさんは、紹介が終わると、さっそく仕事の話に入った。
「最初は報告にするよ。薬草採取クエスト。この籠いっぱいに入っている。何セット分のクリアになるかい?」
薬草を籠から取り出し、薬草の品質事に仕分けし……「9回分になります。この薬草採取クエストは、アスカさんが行ったのですか?」
「はい!」少しどや顔でアスカは返事をした。
「Dランク昇格するためにはEランクのクエスト10回ですから、あと1回で昇格できますね」とナナさんが優しく説明してくれた。
(もう少しでDランク……といっても、一日でこんなに進むものなの?)
「私も驚いたよ。籠いっぱいに薬草を入れて戻ってきたときはね」とサーシャさんは肩をすぼめてナナさんに言う。
「鮮度もいいので、今日採取した薬草ですよね。どうやってこんな量を採取できたのです?」とナナさんに質問された。
アスカはサーシャさんを見ると、うなずいたので素直に説明した。
「薬草が群生している場所を見つけ、そこで午前中もくもくと薬草を採取していました。籠がいっぱいになったので、戻りましたが、まだ1/6ほどしか採取していません」
「そんなに残っているの?サーシャさん、その情報をギルド庁に売ってもらえませんか?」
「その薬草の群生している場所なんだがね、こいつもいるみたいなんだよ」と言って、サーシャさんは、カウンターにワイルドベアーの魔石を置く。
「ワイルドベアー……」ナナさんは直ぐに判断し、「薬草の群生場所は、城壁門からどれくらいの場所ですか?」とアスカに聞く。
「薬草採取していた場所から城壁が見えたので、そんなに離れていないと思います」と言い、ナナさんが広げた地図を一緒に確認しながら薬草の群生地の場所を伝えた。
「ワイルドベアーの生態調査並びに駆除のクエストと薬草群生地にての採取クエストをギルド庁から発注出します。【新緑の息吹】で受けますか?」とナナさんはサーシャさんを見た。
サーシャさんは首をふり、「うちでは受けないから、他の冒険者ギルドにまわしておくれ」と断った。
「わかりました。それでは一般公開クエストにまわします」
アスカはサーシャさんに聞いた。
「一般公開クエストってなんです?」
「クエストには、一般公開クエスト、指名クエスト、優先クエストの3つがあるんじゃ。今の話は、優先クエストを断って、一般公開クエストにまわしてもらった流れだよ」
「指名クエストはどんなクエストなんですか?」
「クエストの依頼者がギルドやパーティなどを指名して依頼するクエストだよ」
「優先して受けれる、指名されて受けれる、誰でも受けれるってことなんですね」
「まあ、そんなことだね。あとは報酬の違いだよ。指名クエストと優先クエストの報酬額の10%がギルド庁に納めなければならない、一般公開クエストは30%もギルド庁に納めなければならないのさ。すべてのクエストには期間があって、期間内に達成できないと報酬なしだけじゃなく、報酬の半額をギルド庁に罰金として支払うのさ」
「なんでもクエストを受注すればいいわけじゃないんですね」
「そうだよ」
「クエストの依頼者を見つけて、指名クエストにしてもらうのが一番儲かりそうですね」
「アスカは賢い子だね」
(本部から落ちてきた派遣依頼より、足で稼いだ派遣依頼主の方が旨みがあるのと一緒なのね……)
「薬草採取クエストは……一般公開クエストですよね?」との問いにサーシャさんはうなずいた。
(報酬額は期待薄かぁ……)
少しカウンターから席を離れていたナナさんが戻ってきて、「これが薬草採取クエスト9回分の報酬です」と言ってアスカの前に麻の小袋を置き、「こちらが、ワイルドベアーと薬草群生地の情報提供料です」と言ってサーシャさんの前にも麻の小袋を置いた。
アスカは麻の小袋をあけると、硬貨が入っていた。大金貨が5枚、中金貨が6枚、少金貨が7枚入っていた。56,700ゴールド入っていた。
(午前中だけで、こんなに稼げるものなの?運が良かっただけ?)
アスカは、顔が少しほころび、足元に居るユキを見ると、つまらなそうにお昼寝中だった。
「今日はこれだけだ、次回からは【新緑の息吹】のギルドマスター代行代理としてアスカが来るかもしれないから、ナナ面倒みてやってくれよ。」
「はい、わかりました。アスカさん、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
突然の冒険者ギルドの役職任命に驚いたアスカの背中にサーシャさんの急かす声が聞こえる。
「用事はすんだから、ギルドハウスに戻るよ!」
アスカは、急いで席を立ち、ナナさんに一礼をしてからユキを抱えて、報酬の麻袋をにぎりしめ、サーシャさんを追う。




