初めてのクエスト受注
ギルドマスター代理のサーシャさんに、これから住ませてもらう部屋を案内してもらった。
ギルドハウスの二階にあるフローリングの部屋で、靴のまま入っていいようだ。8帖ほどの広さの部屋には、布団と枕がセットになっているセミダブルベット、机、洋服タンスがあった。
寝れる場所が確保でき、アスカはほっとしていた。
「詳しいギルドの話は明日にして、今日は夕ご飯を食べたら休むといい」とサーシャさんが提案してくれた。
「ありがとうございます。今日は、いろいろあって……疲れていたところでした……」と、安心できる空間が確保でき、すでに目がとろんとして眠そうになっているアスカが提案を受け入れた。
「その服装……異世界からの転生者なんだろ。いろいろこの世界のことを教えるところから始めないとだね。それに……」サーシャさんはユキを見て、「珍しいドラゴンをつれてくるなんて、普通じゃない運の持ち主だよ」と続けた。
「えっ! ユキってドラゴンなんですか?」一瞬でアスカは目が覚めた。
「知らなかったのかい? こんなきれいな翼をしているのにかい?」と言って、サーシャさんはユキの翼を広げてみせた。そして、ユキに向かって「人前では翼は広げるんじゃないよ。犬のふりをしていなさい。街中にドラゴンがいると住民は驚いちゃうし、悪いことを考える人がアスカから奪うことを策略してくるかもしれないからね」と諭すように話しかけた。ユキは了承した合図なのか、サーシャさんの顔を嘗め回した。
「その服装は良くも悪くも目立つから、洋服ダンスに入っている受付用の服でも着て下に降りておいで。そうしたら、まだ早い時間だけど夕食だしてあげるよ」と言ってサーシャさんは部屋を出て行った。
「ありがとうございます。早速着替えて、夕食いただきに降りていきます」とサーシャさんの背中に、アスカは返事をした。
洋服タンスを開けると、そこにはメイド服のようなフリフリの洋服が3着と寝間着が3着かけてあった。
(なにからなにまで、サーシャさんありがとうございます)
アスカは、早速着替えて一階におりた。ユキもついてくる。
夕食は、硬い黒パン、何かわからないが肉を焼いたステーキ、野菜入りのスープの三品。ユキには、骨付き生肉をお皿に入れてもらっていた。ユキのメニューにアスカは少し引いてしまったが、ユキは嬉しそうに尻尾を振っている。
(ユキはドラゴンだから……そんなワイルドな食事になるんだ……)
「サーシャさん、頂きます。ユキ、頂こう!」
合図を待っていたかのように、ユキは骨付き生肉の塊にかぶりついた。アスカも負けじと、ステーキを食べ、スープに黒パンを浸して食べ、一気に平らげた。よく考えたら、今日初めての食事だった。
(お腹すいていたから一気に食べてしまったけど……味付けがいまいちだよ……この世界は、これが普通なのかな? 空腹は最高の調味料でよかった……)
翌朝、起きて一階に降りると、初めて見る人が三人居た。
(S級ギルドだから、他にも所属の人が居るのかな……)
アスカは、その三人に近寄り、「昨日から、【新緑の息吹】にお世話になることになりましたアスカと言います。この子は、ユキです。よろしくお願いします」とユキを抱えて挨拶をした。
「お嬢ちゃんが新入りか。昨日ギルマス代行から話は聞いた。俺は、モルツ。ガードをやっている。基本この三人でパーティを組んでクエストをやっている」とがっしりした体格の中年男性が答えた。彼の脇には、大きな盾が立てかけてある。
「私は、ユンナ。アタッカーをやっている。モルツとは幼馴染で腐れ縁だ。アスカよろしくな」と引き締まった体をした女性が挨拶をしてくれた。モルツさんと幼馴染という割には、若く見える。彼女の脇には、大きな剣が立てかけてあった。
「私は、ハナ。なんか流れでこのパーティに入っている。ヒーラーをしているんだ。要領よくやっていこうね!」とユンナさんとおなじくらいの年齢の女性も挨拶をしてくれた。彼女の脇には、金属製の蛇が、宝石のようなきれいな石に絡まるようなデザインのワンドが立てかけられていた。
(本物の武器だ……自己紹介のときは、ジョブも併せていうのが常識なのかな……)
アスカは付け加えるように、「私は、踊り子です」と言うと、「ああ、ギルマス代行から聞いてる。俺たちは三人でパーティ組んでいる。お前のパワーレベリングはしないからな。変な期待をしないでくれよ? ソロで頑張れ!」と返された。
MMOなどでは、低レベルプレイヤーを高レベルプレイヤーのパーティLvに入れてダンジョンに行ったり、狩りをして経験値を効率よく分配してくれることをパワーレベリングと言うのは、アスカも知っている。アスカはパワーレベリングなんて期待して挨拶をしたわけじゃないいのに、まるでハイエナやコバンザメのように見られていたことが面白くなかった。
「ご指導ありがとうございます。これからよろしくお願いします」と答えて、別のテーブルに座った。
(初対面で、パワーレベリング拒否の話なんかする? 失礼な人たち!)
朝食は、昨日と同じ硬い黒パン、生野菜のサラダ、ジャガイモとベーコンの入った塩とコショウで味付けされたスープ。サラダにドレッシングなどかかってはいない。
(やっぱり、この世界の食事は、いまいち味気ないな……サーシャさんが料理音痴って可能性も……)
朝食が終わると、モルツさんたちは早々とギルドハウスから出かけて行った。きっとクエストに向かったのだろう。
朝の仕事が終わったサーシャさんがやってきて、「まずは、この世界のことから説明しようかね」と始めた。
今居る場所は、ニベラスタ王国の首都メンベルク。
通貨単位はゴールド。1円=1Gのようだ。
アスカが受けれるクエストがある日は、クエストに行き、受けれるクエストが無い日はギルドの雑務を手伝う。
ユキがドラゴンなことは、信頼できる人以外には言わない。
ギルドマスターは死亡しており、サーシャさんが二代目ギルドマスターを継がずにギルドマスター代行をしている。
サーシャさんのジョブは賢者だが、訳があって魔法が使えない。そのため、クエストは受けずギルド運営業務に専念している。
【新緑の息吹】はモルツさんたち三人、サーシャさん、の他にもう一名居るだけ。計6名の所属。残る一名は行方不明中。
メンベルクには、S級ギルドは【新緑の息吹】ただ一つ。向かいにある【不死鳥の息吹】はA級ギルド。
アスカの冒険者ランクはEランク。Aランクが最高で、Aランクの中で特に功績を上げた人のみSランクになる。
「クエストやダンジョンで死んでしまったら、蘇生や神殿で復活するとかってあるんですか?」
「なんだいそりゃ……元居た世界では、そんな便利なことが出来たいのかい? この世界では、死んだら死亡だよ。そうでなければ、今頃ギルドマスターがこのギルドハウスにいてくれたのにねぇ」とサーシャさんは遠くをみるように、何かを思い出していたようだ。
(死ねないRPG……すべてを慎重に行動しなきゃいけないじゃん)
「今日は簡単なクエストをやってみるかい?」
「はい!」
見本となる薬草を取り出し、「薬草採取のクエストだよ。これと同じものを行壁の外に行って、多く採取してきておくれ。簡単な防具と剣は用意してあげるから」といって、革の鎧と片手剣を出してくれた。
(いよいよファンタジーの世界になるんだ!)