1. 修正
はっきり言う、キミは立派な悪役だよ。
『さまざまな人がキミに呪いを託す。『契約』というものを介して呪いはその大きさを増す』
『視点の違いなんだ、要は。他の視点から見れば、キミはどうしよもないクズに違いない』
男は紅茶の入った容器を手に持ち、それを一気に飲み干す。
『だけど、僕はそんなキミに同情した』
『僕がキミに託すのは『不死』の力、その一部。生憎僕の命じゃ渡せるのはそれだけ、一回死んで生き返れるくらいだ』
『もう僕も生きるのに疲れた。早く楽にしておくれ』
あぁ、可哀想だ...本当に。
キミの行く末を考えると、本当に悲しくなる。
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布を纏い男が完全に絶命したことを確認すると、波が襲ったようにとめどなく情報が頭を行き交う。男の死体をどう処理するか、この部屋からどう出るか、これからどうするか
あの男をどうやって殺すか。
...落ち着け、今は目先のことを考えるべきだ。
この部屋からどう出るか...。
もう僕に残ってる爪はない。かと言って、こんなところで臓器を使うのも気が引ける。それに、
『悪魔、この部屋にある死体全てと引き換えに、リズをこの部屋に呼べ』
もう死体も残ってない。仮にあったとしても、たぶん価値が釣り合わないはずだ。
「...ありがとう、助かったよ」
「でもよかった、まだ生きててくれて。あのままこの街から逃げてたら、きっと死んでただろうから」
それとも、カノジョの臓器でも捧げるか?
「逃げたとこで行く場所もない」
「それに、逃げたら死ぬ気がした。まだ『契約』が残ってるかもって本能的に感じたの。ほんとは死んでて欲しかったけどね」
...いや、だめだ。それをしたらもう戻れなくなる。
そうして僕は部屋を見渡す。すると木製の長机に、さっきまでいなかった鼠がいた。鼠はただ、何をするでもなく僕たちを見つめている。
「...今日は助けられてばかりだな」
そうして鼠へと触れると、頭の中へと情報が逆流してくる。
この部屋に来るまでに局員がどこにいたか、この建物の構造はどうなっているのか、人通りの少ない路地裏へと出る裏口が存在することなど、いろんなものが頭に入り込んでくる。
「うん、決まった。ひとまず裏口を使ってこの建物から出る」
それを聞いて、リズは少し困惑した表情をしている。
「そんな簡単に言うけど、もし見つかったらどうするの? 見つからない保証なんてないと思うんだけど」
それこそ簡単だよ
「見つかったら声をあげる前に殺せばいい。その方が早いし確実だよ」
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裏口の扉を開け、外を確認する。
狭い路地には誰もいない、奥から大通りを横切る人が見えた。
「何とか外に出れたけど、これからどうするの? 国が総出でアタシたちを探しに来るなんて目に見えてる」
僕は奪った服に袖を通し、頬についた血を拭う。
「いっそのこと、『武器』に会うのは諦めて国を出ちゃえば?」
「いや、逆に『武器』の元に行く」
「二度とこの国に入れなくなる前に、やることはやっときたい」