表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

8 トロッコ問題

 桃野を抱えているのは、全身黒色のタイツに、黒く輝く日本刀を持ち、前下がりのボブヘアーに右耳に十字架のピアスをしている女性、黒木(くろき)(つむぎ)。黒木の右肩には黒色のアライも乗っている。嘴は虹色だ。


「ありがとう……。あなたは?」


「私もSOGIESC(ソジエスク)だけど、今は自己紹介をしてる場合じゃないわ」


 黒木は、悪夢んに対向し戦闘態勢になる。続けて桃野も構える。


「あの悪夢んに対して、SOGIESC(ソジエスク)はたったこれだけ。しかも負傷者ばかり。勝ち目は無いわ、(つむぎ)。隙を作って逃げるべきね」


「分かってるわ、アライ」


 黒木は、日本刀を天に掲げた。


暗黒時代(あんこくじだい)


 日本刀が霞のように消え、辺りを漆黒が包む。




 静寂。暗闇から解放された後には、悪夢んの姿は消えていた。


「ちょっとぉ。え? 何がどうなったの??」


 桃野が食い気味に質問するが、黒木は冷静に答える。


「悪夢んに対して目眩しをしただけ。アイツなら、私の技を破壊する事も容易く出来たはずだけど、消えてくれたみたい。運が良かったわね。それより────」


 黒木が赤井の前に立ちはだかる。


「彼、悪夢んに飲み込まれかかってる。始末するわ」


「グググググ……」


 赤井の全身を薄っすらと黒いモヤが包み、威嚇する様に歯を剥き出しにし、涎を垂らしている。

 黒木が日本刀を構える。


「待つのじゃ! 大も今、自分と戦っておる。大なら、きっと戻って来られる……」


 赤井の肩に乗るアライが必死で訴える。


「あなた、同じアライなのに分からないの? この人は、もう手遅れよ。時期に悪夢んが産まれるわ。あなたも瘴気にやられる前に、その人から離れるべきよ」


 黒木の肩に乗る黒色のアライが呆れた口調で諭す。


「グアアアア」


 赤井が吠える。黒木が動こうとした、その時。青戸が赤井の後ろからギュッと抱きつき、「赤井さん……戻って来て……」と大粒の涙を浮かべて願った。赤井の目にスッと光が戻り、黒いモヤも見る見る消えていった。


「あれ……俺は……。って、祐! どうしたんだ? 抱きついて」


 赤井は状況が理解できないでいるようだ。青戸は、赤井に泣き顔を見せないよう、小さく首を横に振った。

 その様子を見ていた黒木は後ろを向き、帰ろうとする。


「ちょっとぉ、待ちなさいよ!」


「何?」


 黒木が振り向く。


「何、じゃないわよ! アンタ……さっきは赤井を殺すつもりだったんじゃないの? どういうつもりよ!!」


 桃野が黒木に詰め寄り、睨み付けている。黒木は無表情のまま答える。


「まず。ヴァンパイアの悪夢ん。アレは人間と悪夢んが融合した状態。悪夢んは本来人間の言葉なんて喋れないし、ただ人間を襲うだけで頭脳は無いの。けど、人間と融合した状態なら会話も出来るし、しかも、ベースは人間の意志で動いているから厄介。ただの悪夢んと、人間と融合した悪夢んでは強さも全然違う。そして、赤色の彼。彼はSOGIESC(ソジエスク)でありながら、自身の弱さによって悪夢んを産み出そうとしていた。私も経験は無いけれど、SOGIESC(ソジエスク)が産み出す悪夢んが、どれだけ強いのか想像も出来ない。しかも、SOGIESC(ソジエスク)と悪夢んが融合したら……。そのリスクより、目の前の彼を殺す方がいいと考えただけよ」


「そんなのって、あんまりじゃない! アンタは、そんな考えで人間を殺せるの?」


「合理的な考えをしたまで。知らない? トロッコ問題。彼が悪夢んを産み出して犠牲になる人間の数を考えた時、彼一人が死ぬ方がいいと私は考えただけよ」


「そんなの、もし赤井が悪夢んを産み出したとしたら、アタシ達で悪夢んを倒すだけ! 死んでいい人間なんていないわよ!」


「ヴァンパイアの悪夢んに手も足も出なかったあなた達で、果たしてSOGIESC(ソジエスク)が産み出す悪夢んに勝てるのかしら」


 桃野は何も言い返せず、ただ握り拳を振るわせている。


「悪夢んやSOGIESC(ソジエスク)について、あまり知らないようだけど、あなた達の側にいるアライは、何も教えてくれないのかしら? もっと賢いアライと行動を共にするべきね」


 黒色のアライは桃野に告げ、白色のアライを小馬鹿にした。

 そして、黒木と黒色のアライは、霞のようにその場から消えていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ