3 武器は使い方次第
大きな交差点で、三十代の男性が背中に大きな切り傷を負い、倒れている。その横には黒髪ロングヘアーの女性。禍々しい雰囲気を放つ悪夢ん。通行人や車に乗っていた人達も恐怖でパニックになっている。
パニックの数分前。三十代の男性と黒髪ロングヘアーの女性が交差点前で話をしている。
「どうして……。あの女は居なくなったじゃない……。あの女さえ居なければ私と結婚してくれるって言ってたじゃない!」
周りの目など気にせず、女がヒステリックになっている。
「辞めろよ……。そんな大きな声で。……もしかして、妻を殺したのもキミが……?」
「違うわ! 私は何もしてない! でも、確かに消えて欲しいとは思ってたわ。天罰が下ったのよ!」
「天罰だなんて、妻は何もしてないだろ……。もうキミとは無理だ。別れてくれ」
「ヤダ! 待って! 貴方が好きなの! ヤダ……行かないで……!」
交差点を歩き出す男性を追いかける女性。突如、黒いモヤが男性を包み、カマキリ型の悪夢んが、男性を襲う。
「キャ────!」
駆けつけた赤井達。
「皆さん、この場から離れてください!」
赤井が声を張り上げ叫ぶ。「誰?」「何あの全身タイツ……」と囁く声が聞こえる。
「俺達はSOGIESCだ」
ニカッと笑う赤井。青戸も笑顔を作るがぎこちない。悪夢んが黒髪ロングヘアーの女性に襲い掛かる。既の所で赤井が大剣で庇う。
「今度は、そう簡単にやられねーぜ!」
大剣を払い、悪夢んを後退させる。そのまま赤井は悪夢んに迫り、女性達と距離を取る。
赤井が悪夢んと戦っている間に、青戸が男性の元へ駆けつける。
「大丈夫ですか? 今、ぼくが……。和泥合水」
青戸は男性の傷口に向かい、大きなシャボン玉を放つ。出血は止まったが、赤井の時のように傷は消えずに残ったままで、男性も苦しそうにしている。
「ダメだ……傷が深過ぎる……。ぼくの力じゃ治しきれない……。病院に連れて行かないと……」
「こっちの方もどうにかせんとマズイぞ、祐よ」
アライは女性を見ている。
「私のせいだ私のせいだ私のせいだ……」
女性は地べたに座り頭を抱え、足元から黒いモヤが湧き出て、カマキリ型の悪夢んに流れて行っている。黒いモヤが、悪夢んに更なる力を与えているようで、悪夢んの足先にも鋭利な鎌が生えた。
「早く止めんと、どんどん悪夢んが凶悪になるぞ」
「でも、どうすれば……」
青戸は、女性の事も心配だが、男性からも目を離す事が出来ず、右往左往している。その時、「ぐあぁぁっ」と赤井が唸り声を上げたかと思うと、青戸の目の前まで飛ばされてしまう。手も足も鎌が生え、黒いモヤを浴びて強力になった悪夢んに、赤井がやられてしまう。
「赤井さん!」
青戸が赤井の元へ駆け寄る。
悪夢んが放つ凶悪な雰囲気に負けず、青戸は両手を広げ叫ぶ。
「今度は……ぼくが赤井さんを守ります!」
「祐……逃げろ!」
赤井が声を絞り出す。青戸は赤井の方を向き、ぎこちない笑顔を向ける。じわじわと距離を詰める悪夢ん。青戸は、その時を待った。悪夢んが鎌を振り上げ、青戸に襲い掛かろうとした瞬間。
「水滴石穿!!」
至近距離から無数のシャボン玉を繰り出す。悪夢んの腹部に集中的に命中し、そのまま倒れる悪夢ん。
青戸の作戦が功を奏した。シャボン玉の性質上、相手との距離がある場合、分散してしまい致命的なダメージを負わせる事ができないと判断した青戸は、悪夢んとの距離が縮まるのを待ち、失敗すれば青戸が致命傷を負うリスクもある中、勇気を持って行動し成功したのだ。ほっと息をついた青戸だったが、気が付いた時には腹部に激痛が走る。悪夢んが立ち上がり、鋭い鎌で青戸の腹部を切り付けていた。力無く倒れ込む青戸。
「祐──────!!!」
赤井は喉が潰れるくらい叫ぶ。
(俺は、またあの時みたいに誰も守れないのか……。大切な人を、俺の目の前で失ってしまうのか……)
赤井の頭の中に、辛い過去がフラッシュバックする。
(俺は、何の為にSOGIESCになったんだ……。大切な人を、もう失いたくない……。あの悪夢んをぶっ倒すって決めたんだろ……。させるかよ……! 祐は、俺が守る!!)
赤井は、力を振り絞り立ち上がる。全身が熱気に包まれる。足に力を込め地面を蹴り、高くジャンプする。大剣から火の粉が迸る。
「風林火山!!!!!」
燃え盛る大剣を振りかぶり、カマキリ型の悪夢んを両断する。刹那、塵に消える悪夢ん。
「祐、祐!」
赤井が青戸を抱き抱える。
「……やっぱり……赤井さんは凄いです……。あの悪夢んを一発で倒すんですから」
傷を負い、辛いはずの青戸だが、赤井に対して尊敬の念を込めて微笑む。
「くそっ……。良い顔で笑いやがって……」
赤井は、青戸が傷を負ったが無事な事を確信し、笑いながら泣いていた。
その後、男性も一命を取り留め、不倫相手の女性とは別々の人生を歩んだ。
女性は、心療内科へ通い、精神も徐々に安定し快方に向かっている。
SOGIESCは今日も街を駆け巡る。