ありがとう。とても幸せな日々でした 〜時は儚い。でもかけがえのないもの〜
…もう、そんなに泣かないでよ。
確かに君には苦しそうに見えるかもしれないけどさ、意外と今は凄く心地いい気分なんだぜ?
なんか自分の持っている何が抜けていく様な感じなんだ。あとちょっとだけ眠いかも。
まだ泣いてる……
もう、しょうがないよ。ただ君より少し早く寿命がきただけなんだから。
何でそんなに泣くんだよ?何でそんなに自分を責めるんだよ?止めろよ。僕は君の泣いてる顔なんか見たくないよ。
……よし、少しだけ昔話をしようか。
君は覚えてる?今から13年前の冬、寒い寒い夜の公園で震えながら佇んでいた僕に、君が手を差し伸べてくれたことを。僕は今でもあの言葉を覚えいるよ。
『大丈夫、君は一人じゃない。何故なら私が今日から君の家族になるんだから!』
最初は「は?」って思ったよ。だって君は突然ひょこっと僕の目の前に現れて、抱き抱えるんだから。
でもあの時の君の温もりは本当に温かかった。温かさを知らなかった僕にとっては本当に不思議な感じだったよ。
僕はね、ずっとひとりぼっちだったんだ。親も兄弟も分からなくて、自分が何者かさえ分からなかった日々を過ごしていた。
寂しかった。苦しかった。悲しかった。
そんな僕を君は助けてくれたんだ。あの出会いさえなかったら今の僕は無いと思う。感謝をしても仕切れないくらいだ。
だからそれからの日々は、本当に宝石の様に輝いて見えたよ。
楽しかったな。君と毎日お散歩に行ったり、ちょっと遠い田舎に行ったり、海に行ったり、川や山に行ったり……。思い出したらキリがないくらいだよ。
そりゃあ時にはさ、イタズラしちゃって怒られたり、噛み付いて泣かせたりしちゃったこともあったけどさ、それでも最後は笑い合えた。
こんな幸せな時を13年間も過ごせたなんて、僕は本当に幸せ者だったな。
まぁ、少し心残りがあるとするなら、君のそのお腹に宿った新しい命を見てみたかったよ。これは非常に残念だ。
ほら、もうそんなに泣かないで。僕は君のいつもの笑顔の方が好きだなぁ。
大丈夫!確かにこの身はもうすぐ終わってしまうけど、僕の心はいつまでもいつまでも、ずっと君の側にいるから。
あぁ…そろそろ眠たくなってきたなぁ。もうこれで君とお別れかぁ…
嫌だなぁ…寂しいなぁ…
『さよなら』って言葉はなんかちょっと悲しいなぁ。
よし!僕はこの言葉は言わないし、使わないぞ!その代わりにこの言葉を送るよ。
『ありがとう。とても幸せな日々でした』