基礎から始める魔法研修(1)『風魔法』
エルフの賢者の冷たい視線を長い間あびせられ、賢者の弟子は机の上に額をつけて頭を冷やしていた。
エルフの賢者の意向により、教室を出て身体を動かす魔法の実習訓練をやることになった。
エルフの賢者と小人の賢者が先頭を歩き、みんなはその後をついて行って建物から出る。
泥まみれにしてしまった芝生は綺麗になっており、昼寝をするにはもってこいの環境だ。
建物のとなりにある芝生のスペースはかなり広く、森がかなり遠くに見える。
エルフの賢者に宙吊り状態で運ばれたり、水に流されたりと賢者の弟子には良い記憶のない場所だが、所々休憩ができるようにエルフの街にあったようなベンチが置かれていて、休むにはもってこいだ。
風も気温もちょうどいい。
これは、もうこうなったら芝生の上に寝転がって昼寝をするしかない。
魔力なしの賢者の弟子にとって、魔法の実習訓練の時間は何もする事がない。
知識や原理がわかったとしても、魔力がないからどうする事もできない。
みんなが風魔法の練習をするために、ある程度の間隔をあけて立っている。
この世界にスカウトした保護者が研修生たちにつき、魔法の練習。実に平和な光景だ。賢者の弟子は、ベンチに腰を下ろして、みんなの練習を見学する。
「暇そうね」
声のする方向を見ると、エルフの賢者がいる。
「暇って言っていいのかね。
魔法の実習なんて魔力のない俺には、
意味ないっつぅか、むしろ何をしたら良いか、
教えてもらいたいね。
はぁぁ、
俺でも練習すれば使えるような魔法ないのかね?」
賢者の弟子は長いため息をつき、頭を下げてベンチの角を指でなぞる。
「魔力がなくても使える魔法はあるわよ。
ただ、こういう研修なんかだと、
基本の風を教えてる事になってるから、
そこまでは教えないんだけどぉ」
賢者の言葉に一瞬だけ、希望を感じだが、賢者が教えてくれないという事は、今はまだ自分が知るべきではないって事なんだろう。
「なんで、みんな風の魔法を練習すんの?」
「風魔法は基礎の基礎だからかな。
風魔法をちゃんと使えるようになれば、
火の魔法も水の魔法も使えるようになるの。
逆に言うと、火も水も風魔法が使えないと、
その先なにもできないの」
エルフの賢者はみんなの練習する姿を見ながら話をしてくれる。
「風が?」
「そうよ。
それじゃあ、ちょっとお手本を見せてあげるわ」
賢者は立ち上がり、腕を空に広げる。
両手の間に丸い空間ができあがる。
「これが風魔法の基礎。
風の魔法で、空気中に空気の空間を作るの。
この空間を小さくすると」
賢者は開いていた手と手を狭めていく。
するとその丸い空間もどんどん小さくなっていく。
「空間内の空気は一切外に出さずに、
空間が小さくなれば、
もの凄く気圧の高い空間が生まれるのは
わかるよね」
「ああ、わかる。
今その空間は空気がぎゅうぎゅうに
詰まってるんだろ」
「さらにこの空間を小さくするとね」
賢者は手と手の間をどんどん小さくしていく。
丸い空間はさらに小さくなり、空間の中で火が上がる。
その火は、一瞬で消えてしまった。
「空気を空間内に押し込めて圧縮すると、
その空間内の空気はどんどん温度があがるの。
空間内には、色々な塵も含めまれてるから、
その塵が空気の熱で自然に発火するのよ」
「それはわかるけど、
今のってどこに風が関係あるの?」
「風魔法は、空気を動かすって事なのよ。
空気内に意識して空間を作り、
圧縮したり伸長したり。
空気を自在に操るのが、風の魔法。
君たちの世界では、
風魔法ってかまいたちをおこしたり、
竜巻をおこしたりするだけって
考えられてるみたいだけど、
それだって、空気を自在に操って
おこしてる訳でしょ。
空気を自在に操る事ができれば」
エルフの賢者は手の平を上にむける。
手の平の上に丸い空間が生まれ、その空間の中にどんどん水がたまっていく。
「こうやって、空気中に含まれる水を利用する事もできるわ」
「・・・すげぇ・・・
なんか久しぶりに賢者様を尊敬した」
「さらに」
丸い空間の中にたまった水が一瞬沸騰し、あっという間に凍った。
「・・・」
賢者の弟子は、夢を見ているのかと思い自分で自分のほほをつねった。
「今のなに?」
「空間の中を、真空にしたのよ。
空間内に水を作り、空間内の空気を抜く。
それで初めて凍ができるのよ」
「マジで訳がわからないから
もう少しわかりやすくおしえてくれ。
つか、これもすべて風魔法なの?」
「そうよ。風魔法よ
風魔法で、空間内の空気の圧縮をさげます。
そうすると、空間内の気圧を下げると、
空気に含まれていた気体は水になるの。
さらに、空間内の空気を抜いて
真空にしてあげると、
空間内の水は、いったん沸騰するんだけど、
それで熱が奪われるから、氷になっちゃうのよ」
賢者の弟子は、空いた口がふさがらない。
風魔法、ハンパなし・・・
風魔法さえ使えれば、火も水も自由自在じゃん。
賢者は立ち上がり、手を広げる。
すると、手の少し上で水がどんどん増えていく。
「こうやって、水魔法で水を作り出して」
賢者はもう片方の手で、四角の空間を作り出す。
その四角の空間の中に一瞬に氷が生まれる。
「この真空の空間に勢いよく水を投げ込むと
どうなるかわかる?」
「えっ?水が、入って凍って...」
賢者は笑みをこぼす。
「正解って事にしておくわね」
賢者は手の平の上で浮いていた水を真空の空間に投げ入れる。
水は真空の空間に入り煙を上げて氷になる。
そしてその氷となった水は空間を突き抜け空に飛んでいく。
練習をしていたみんなも、賢者の放った氷を目で追いかける。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!
これって、もしかして氷魔法????」
賢者はうなづく。
水魔法と風魔法の組み合わせで作り出す氷の刃。
「風魔法が使えれば、色々な事ができるのよ」
エルフの賢者は笑みをうかべる。
賢者の弟子は、エルフの賢者が珍しく親切に教えてくれた事に感謝した。
魔法が使えない自分への親切な説明。
ありがとう賢者様。
そして空気をどうこうする魔法を「風の魔法」ってつけた先人たち、
もうちっと考えて名前つけろよ!




