プロローグ
男は防空壕の中で、今日も1日過ごす。
唯一の肉親である兄が急死して以来、学校へは一度も行っていない。
2学期の終業式の前日に兄を失い、そのまま冬休みに入ってしまい、学校に行くタイミングを失ってしまった。
近所のおばさん達に不審がられないように、
以前のように朝家を出て、いつもの時間に家に帰る。
学校の時間はいつもこの学校近くにある小さな山にあった防空壕で過ごしている。
皆が学校へ真っ直ぐに向かう中、男は一人途中で曲がり山に向かう。
そして、坂をほんの少し登ったところにある防空壕に入り、時間がすぎるのを待っていた。
男は生まれた時から血小板が少ない病気を持っており、運動ができない。
血小板が少ない事により、内出血も多く、重度の低血圧症状も患っている。
血小板に関しては週に1度、病院で輸血を受ける事が唯一の対処法。
低血圧症状に関しては、小学生の頃、低血圧症状を緩和する為の薬を飲んだら、学校で脳内出血で倒れてしまい、それ以来治療をあきらめている。
怒ったり、笑ったりして血圧が上がろうものなら、身体のどこかで内出血がおこる。
感情は、血圧を大きく変化させる。
だから、男は学校に行っても、誰とも接する事はない。
もしからしたら、学校に通う誰かを間接的に殺人者にしてしまうかもしれない。
事情が事情の為か、教師も男を決して叱る事はしない。
授業で当てられる事もなく、日直や委員の仕事を任される事もない。
席替えさえ、1度もした事がない。
学校では男は完全に空気なのだ。
男が居ても、居なくても何も変わらない。
男はどこにいても何も考えず、何もせず時間が過ぎていくのを待つ。
男はゆっくり目をつむり、暗闇を意識する。
何も存在せず、何色もない。無の世界。
防空壕の暗闇の中、男は眠る。
男は今日もただ時間が流れるのを待つ。