009 冒険者ギルド本部
王都に接近すると、道を往来する人々が増えて来た。
バイクに乗っている俺を好奇の目で見る人が増えてくるが、賢者の石の知識から類似した魔道具の存在を知っているので、大事にはならないだろうと気にせず王都の手前までやって来た。
少し小高い丘から見下ろす形になるが、想像以上の大きさの様だ。海沿いに大きな城が見える。その他の丘から見える視界が全て建物しか無いような百万人以上が住んでいるヒューズ王国で最大の都市である。
この世界では、人間と獣人と魔人が存在している。
稀に神と言う存在が出現するらしい。
過去は多くの国があったが大戦を経て種族ごとに統一されて、国はわかりやすい三ヶ国しかない。
人間の国であるヒューズ王国。
獣人の国であるハビル帝国。
魔人の国であるベルド共和国。
今やって来たのは、ヒューズ王国の首都であるマリファの都市である。
都市の入り口に着く前に、バイクの幻を消して徒歩で接近する。
入り口には一個小隊ほどの十人の兵士が武装して、都市に入る人々をチェックしていた。
自分の番になると少しだけ緊張してきた。
俺の前の人物が様々な身分証明の様な物を兵士に見せて通過していくので、真似をして冒険者カードを見せて通過しようとすると手をつかまれた。
「そのカードが本物か調べたい。こちらに来てもらおう」
なにか、不備があったのだろうか?
門の側にある守衛所らしき場所に連れていかれて、兵士に囲まれる。
カードを調べる機械の様なものに、冒険者カードを当ててなにやら兵士同士で話している。
「レベルⅠでクラスがブロンズは、おかしいでしょ!」
「現に本物なんだから、疑う余地はないだろ?」
「こんな奴がブロンズかよ!」
おいおい、聞こえてるぞ!
賢者の石を触って、もめている理由をしらべる。すぐに理由が分かった。
冒険者カードには、レベルとクラスがある。
レベルとは、単純にその本人の強さを表す。ステータスと言って様々な細かい能力の数値化を行って、それを基準にしたトータルでレベルとして表示されている。
人間族で最強のレベルとして、レベルⅦを超える騎士や冒険者もいるようだ。
クラスとは、冒険者ギルド内での地位を表すものである。
ストーンから始まりアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと順に地位が高い。
ストーンが見習いで、アイアンが駆け出し冒険者になる。
シルバーやゴールドになれば、ギルドマスタークラスになる。
ブロンズは一人前の冒険者なのだが、通常はレベルⅢで初めて難しい昇級試験を受けて合格してなれるクラスだった。レベルⅠでクラス ブロンズは、本来あり得ない冒険者ガードであった。
実は俺は例外の冒険者ギルド職員だったのだ。
手伝いからいつの間にか、ハクオウにギルド職員にされてしまっていた。ギルド職員はクラスがブロンズ以上で就職可能のために、こんな事になっていた。
初めから事務員として冒険者ギルドに採用される人が少なくて、レベルⅠでクラスがブロンズと言う例外だったのだ。
そこまで気にしてなかったよ。
「すみません、俺は冒険者ではなくて冒険者ギルドの事務員なんですよ。事務処理の仕事だけで建前のブロンズになってるんだと思います」
「え? よく見れば武装もしてないし軽装ですね?」
「おかしいと思ったんだよ! そう言う事か! 何しろ優秀な奴でもレベルIIでもアイアンだからなぁ」
「そんな例外もあるんだ」
「事務員採用では入れば、ブロンズなのか! 俺目指そうかな?」
「お前が事務なんか出来るわけねーだろ」
なんか、納得されてしまった。
小隊の隊長に謝罪されて、そのまま王都の冒険者ギルド本部まで雑談しながら案内してくれた。
「俺は第ニ守衛部隊小隊長のキルメだ。部下が勘違いしてすまない。ブロンズ以上の冒険者って憧れなんですよ。俺も貴族が金で上位クラスのカードを買う以外に、そんな事があるのを知らなかったから疑ってしまったよ」
「全然構いませんが、レベル上げた方が良いですかね?」
「そうだな、その年齢だったらレベルII迄は上げた方が良いかもしれないね。レベルIIでブロンズの前例もあるのでレベルIIだったら、ここまで疑わなかったかもしれない」
「ブロンズ冒険者て凄いんですか?」
「ふふふ。俺は最近レベルIIIになったばかりだが、そりゃ凄い訓練による努力や魔獣などと死闘をしてやっとだな。だがブロンズ冒険者の昇級試験には落ちてしまってな。ブロンズ冒険者は諦めて、守衛になったのさ。それぐらい凄いって事さ」
うぁ。戦闘センスが皆無なのはハクオウに言われていたので、疑われてもいいから死にたく無いのでレベル上げはやめておこう。
冒険者ギルドの本部に到着した。
前世で言えば役所ぐらいの大きさか?
三階建てぐらいの大きな石作りだった。
キルメ小隊長と別れて、中に入ると三階まで吹き抜けの大広間になっている。
奥の受付の職員が慌ただしく動いていた。
大きな掲示板には、多くの依頼書が張り出されて冒険者が眺めている。
何箇所もある受付は混んでいて並ばないといけない感じだが、一箇所だけ誰も並んでいない受付がある。
早速、その受付に足を運んだ。
受付には、綺麗な人間で言えば20歳ぐらいの外見のエルフのお姉さんがいた。
前世の記憶だとエルフは、耳が尖っていてスレンダーで痩せ型というイメージがあるが耳は尖っているが豊満な体型をしている女性だった。
「君は、誰だ? この受付はクラスがシルバー以上の冒険者用だが?」
「ロッチの町から来たゲンワクと言います。こちらの事務員として採用されたので、来たのですがどうすればよいでしょうか?」
「え! 君か!! いやゲンワク君だね!! 待ってたよ!! こんなに若いのか? とにかくようこそ! こっちに来てくれ。奥でマスターと面会だ」
慌ただしく受付をクローズすると、俺の手を引いて奥の部屋に案内された。