008 王都へ
王都行きが決まってからハクオウの行動が速かった。
追い出されるように、荷物を持たされて次の日にはロッチの町を追い出された。
町の出口に着くと、二年前から変わらずにロッチの町の入り口に立っていた、モズと名乗った門番がいた。
「お! 王都に行くそうじゃないか。 大出世だな」
「本当ですか? 心の準備も出来ずに何故か追い出されるようにハクオウさんに急かされたんですよ」
「あはははは。それは違うぞ。ハクオウは、お前との別れが寂しいから早めに追い出したんだよ。証拠に見送りに来てないだろ?」
「そうなんですか?」
「あいつは不器用だからな」
あのハクオウだったらそうなのかもしれないと思う。
この町では、かなりお世話になったから王都で仕事が落ち着いたら、また戻ってくる事にしよう。
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ロッチの町からある程度離れて人目がなくなった所で、進化した幻の能力の最終実験を開始する。
前世の記憶にあるオフロードバイクを幻の能力で出現させる。
俺が動かすと幻のバイクもその通りに動くイメージを強く持って、ゆっくり腰をかけてエンジンをかけた。
ブルルル!
幻のバイクに乗れた事に、仮説が正しい事を知って顔が綻んでしまった。
賢者の石を出現させてから、幻の本を読むのを辞めて暇があれば賢者の石を触って会話をする事で知識を増やしていった。
今の俺の能力に関しても完全ではないが、ほとんど理解出来た。
1.人や物体ではなく世界に対して幻を見せる。
2.世界が勘違いをするので世界に参加する存在が全て幻を見る。
3.過去に無意識に十年以上広範囲に幻を使い続けていた為に能力が異常な成長をしている。これによって最後に幻の触覚を発現した。触れる幻となった故に本物と全く変わらぬ幻が出現させられるようになった。
4.俺が寝ると幻は全て消える。
そして、幻の能力向上で一番過去と変化した事は、幻で引き起こされた現象は寝ても元に戻らない事だ。
銃を幻で出現させて、大木に撃ちこむと大木に食い込んだ弾丸と弾痕がつく。
幼少の時は、次の日には弾丸も弾痕も消えていて現象自体がなかった幻になる。
だが、今は次の日に見に行けば弾丸は消えているが弾痕は残っているのだ。
この事より幻のバイクで移動して、一晩寝ると出発地点に戻されている事は無いと言える。
もはや幻と言うよりも、寝てしまうと消えてしまうが召喚魔法ではないだろうか?
前世でやったゲームの召喚魔法によって巨大な召喚獣を呼び出し敵にダメージを与える攻撃を思い出して、機会があればやってみようかと思ってしまう。
そんな事を考えながら、荒地用バイクで王都に向かって爆走を開始した。
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ロッチの町からバイクで、かなり走った所でもう一つの実験を開始する。
賢者の石の知識のお陰で、今いる大陸の地図は大体理解している。
そして、この世界には前世にはなかった転移門という魔法の産物が存在している。
大型の魔道具であり設置には莫大な魔力と経費がかかる物だが、幻で一瞬で出現させる。
目の前に金色の大きな扉が現れた。
行ける場所は、対になった転移門のみである。
対になった転移門を行ったことが無いが、賢者の石の知識を使って王都の少し離れた場所に幻で出現させた。
大きな扉が開き出すと、中は真っ暗な虚空が広がっている。
ここからが怖いな。転生はしたが転移なんて初体験だな。
そんな事を思いながら、バイクごと開いた門に突入した。
すんなり、風景が変わるが特に異常はなかった。
振り向くと入る時と変わらない形をした金色の門が閉まっていき、幻の様に消えていく。
まぁ本当に幻だからな。
これは成功したのか?
賢者の石を触って知識を求める。
『王都の西十二km地点の森の中です』
本来なら馬車でも三週間以上かかるのだが、一瞬で到着してしまた。
次回は、空飛ぶ幻の乗り物もありだなと考えながら再びバイクを走らせる。