007 冒険者カード
王都にある冒険者ギルドの本部で、事務を担当している女性エルフのフロイデが本部ギルドマスターに頼み事をしていた。
「ここ数年のロッチの冒険者ギルドから来る収支報告書や運営報告が凄いんです。わかりやすい上に計算ミスもなく提出期限前に届きます。ギルドマスターが変更になったんですか?」
「いや今まで通りだが、優秀な手伝いを入れたと聞いているな」
「マスターも知っていると思いますが、うちの本部ギルドは計算ミスも多いし報告も連絡もきちんと出来ない事務員が多すぎて、仕事が累積してます。引き抜けませんか?」
「まぁ、考えておこう」
フロイデと話が終わり自分の執務室に戻ると、初老の白髪のギルドマスターがロッチの町の資料を探し始めた。
資料を見つけて読んでいく。
「ハクオウのギルドか。ハクオウが保証人になっている少年? 能力無し? 興味深いな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今月の冒険者ギルドの事務を全て終わらせた。
これで来週から楽になる。
空いた時間を自分の体の強化に使うか、近所で徳を積むか計画を練っているとハクオウに呼び出された。
冒険者ギルドの奥にある会議室で二人きりになった。
「ゲンワクが来てから冒険者ギルドでの揉め事がめっきり減った。事務に関する手伝いや俺の世話など、信じらないほど優秀だ。その事務能力を買われて王都の冒険者ギルドから引き抜きがあった。行ってみるか?」
王都? 興味はあるが今の生活も満足している。どうするかな?
「今の生活で満足していますし、ハクオウさんにもお世話になりました。王都には興味がありますが良いんですか?」
「逆だな。俺が行ってもらいたいのさ。お前を王都に送り出せばロッチの冒険者ギルドは本部に借りを作れる。お前が出世すれば保証人の俺の評価も上がるのさ」
「そう言う事なら行ってみます」
「まぁ、なんかあったら戻ってこいよ。いつでも待ってるぜ」
成り行きで王都へ行くことになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王都へ行く事になったが、問題が発生する。
身分証明がない事だ。
ロッチの町ではハクオウが保証人になっている事だけで顔パスで問題なかったが、町の外ではそう言う訳にはいかない。
作製する為にギルドの受付に行くと、受付の親父さんがカードを渡してくれた。
「王都に行くんだってな。ゲンワク用のカード作っておいたぜ」
もらった銅板のカードを見ると、初めて町に来た時に水晶に手を当てた時の表示された内容に類似したものが書かれていた。
名前 ゲンワク 男 人間
レベル I
クラス ブロンズ
「ブロンズだが冒険者として身分証明になる。再発行は金がかかるから無くすなよ。俺からの餞別だ」
通常冒険者カードを発行するには、金貨一枚かかるのでもらって少し驚く。
金貨一枚は前世の十万円程の価値になる。
「どうして?」
「俺の母親が怪我して道で倒れてる時に、家まで運んでくれただろ? 俺の家の前の道をよく掃除してくれてただろ? それのお礼だ」
徳がこんな結果で帰ってくるのか? 結局は次回の転生の為で自分の為なのだが……不思議な気分だ。
これをもらったら稼いだ徳が減ったりするのかな?
そんな事を考えながら、いつもは冒険者に乱暴な口を聞いている受付の親父に冒険者カードをもらった。