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062 オオカミの十老

 今日は、かなり遠くの依頼を受けている。

 朝になり主君と一緒に朝食を食べて、すぐに飛竜と共に目的地へ向かったが夕方になってしまった。

 日が沈んできた頃に目的のガラルハの町へ到着した。


 この町は十老の一人である依頼主のオオカミの耳と尻尾を持つジョナが住んでいる。

 月の夜に必ず一人だけ行方知らずになるので、原因を突き止める依頼だった。既に被害者が十人近くになっていて、依頼された冒険者も二人行方不明になっている。


 少しでも時間を短縮したいために、ガラルハの町の上空で飛竜から飛び降りた。


 ヒュウ………


 ドッコン!!


 土煙あげてガラルハの町の広場に無事着地する。


「だいぶレベルが上がったためなのか、あの高さから降りても平気になったな」


 地面にめり込んだ足を抜いて、ニュンペーが独り言をつぶやいた。


「き、貴様は何者だ!」

「誰だ!」


 町の衛兵なのか武装したオオカミの種族の二人が槍を構えてニュンペーをにらんでいる。

 その他の町人も視線はニュンペーにくぎ付けである。

 だが、逃げだすような人はいなかった。

 さすが、戦闘種族だな。


「ジョナの依頼で来た冒険者だ。案内してくれるか?」


「ジョナ様? しょ、証拠は?」


 冒険者カードと依頼書を見せるとすぐに納得してくれた。


「あまり、驚かせないでください。大型の飛竜が現れたって聞いて驚いたら、空から武装した人が降ってきたら普通は警戒しますよ」


「すまない。かなり遅くなったので早めにジョナに会いたかったのでな」


 案内してくれる人と話しながら、ガラルハの町の外れにあるジョナの屋敷の前に到着した。

 少し待つと屋敷の中から、ジョナと護衛と思われる剣で武装した二人が現れた。

 オオカミの耳と尻尾を持つジョナは、三十代ほどに見えるが護衛は四十代ほどの同じオオカミの獣人だった。


「依頼で遠い所に来ていただき感謝いたします。長い間、解決しない問題で身内の恥なのですがよろしくお願いしたします」


「来て早々で悪いが、月の夜に必ず一人だけ行方知らずになる原因の調査だけで、原因の除去は依頼に含まれているのか?」


「どういうことでしょうか? まさか、既になにかわかっているのですか?」


「あなたの妹のジョルですが、ライカンスロープに進化していて月夜の晩に理性が抑えられずに人を食べてます。これが原因です。倒しますか?」


 ニュンペーが胸についている賢者の石を触りながらジョナに言うと、態度が急変して怒り出した。


「な、何を証拠にそんな戯言を言っているんだ! 前回、お前のように調査しに来た冒険者が月夜の晩に消えた際は、ジョルと私は一日一緒に居た。お前が言っている事には証拠も根拠もないぞ?」


「それでは、その時にあなたは知ってしまったのですね。だから冒険者の依頼を下げない。それで同族ではなく今後は依頼を受けた冒険者を食べさせるって事でしょうか?」


「………何故だ? なぜ? そこまで知っている?」


「私の主君はなんでも知っているんだ。それよりお前たちは、まだ赤くない。妹の色を見てから決めたいが?」


「色?」


「私は、主君から借りている道具で人の徳を色で見ることができる。悪い奴は赤く見えるがお前たちは赤くない。妹も見たいが見せてくれないか?」


「私達が赤くない………わかった。案内しよう」


 悩むそぶりを見せたが、ジョナがニュンペーを屋敷に案内した。

 護衛は入口に置いてジョナと二人で地下室へ移動すると、牢屋に入ったジョルがいた。


「お兄様……その人は何者ですか?」


 ジョナが私の姿を見て少し驚く。


「どうでしょうか?」


 ジョナが心配そうに私に聞いてきた。

 賢者の石の情報から何人も獣人や冒険者を食べているはずのジョルが、徳を見る眼鏡で見ても赤くなかった。

 赤ければ、抹殺してすぐに終わる問題だと思ったが、困った。倒すべき対象が赤くない場合、私の判断では解決するのが難しい。


「……赤くないな」


「この情報は、主君と言う人物と貴方しか知らないのですか?」


 怒っていたジョナに徳の色の話をしたら、私に対して丁寧な対応に戻った。

 心の中で何かを葛藤をしてるのかもしれない。


「そうだが私達は口外しない。主君の道具で判断する限りこの事件の関係者は悪者ではないようだ。今後どうすれば良いのかを考えるべきだ」


 それを聞いて、ジョナが私を見つめていたが決断したように口を開いた。


「そういう事だな。貴方を殺して主君を殺せば秘密が守られる。悪いが死んでもらうよ」


 先ほど別れた護衛が、さらに十人以上の護衛を連れて地下室へやってきた。


「それが、ジョナの考えと言う事か」


 再度、ジョナの色をみるが赤くなかった。

 主君が、仕方がない場合の殺人などは徳の低下に含まれないと言っていたな。


 話している時に、時間が来てしまったようだった。

 ニュンペーの目の前に小型の転移門が光と共に出現した。


「な? 転移門? しかし大きさが?」

「な、なんだ!」

「そんなバカな!」


 ジョナと護衛達が驚く。

 転移門が開くと、特徴が無い村人の様な男が立っていた。

 そして幻のように門が消えていく。


「取り込み中だったのかな? 邪魔だったらもどるが?」


 間の抜けた声で現れたゲンワクがニュンペーに質問した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日も夜になったので、賢者の石を手に入れる活動を一旦辞めて、ハビル帝国のジョル町へ転移門を利用して戻った。


 宿屋で待っていたが、ニュンが戻ってこないのでニュンの目の前に転移門を幻の力で出現させてみたが、ニュンが出てこない。

 自分が不死王(リッチ)だった事を知ってから、そう簡単にやられない自負が出て来たので、こちらから無警戒でニュンの目の前へ転移した。


 入ってみると武装したオオカミの獣人と思われる方々とニュンが睨み合いをしていた。


 うは!


「取り込み中だったのかな? 邪魔だったらもどるが?」


 思わず間抜けな事を言ってしまったが、慌てて胸の賢者の石を触って状況を確認する。


「主君。依頼内容を実施するならば赤くない人を倒さなくてはいけない場合はどうすれば良いのだ?」


 賢者の石から情報を手に入れたが、これは辛い判断だった。


 十老の妹が、オオカミの獣人から、先祖返りのライカンスロープに進化? いや、思考的には退化して理性を失い仲間を襲ったが同種族ではないし無意識だったので徳が下がらない。それを知った兄と護衛達が秘密を守っている状況だな。


「お前が主君なのか? そこにいる冒険者と共に悪いが死んでもらう」


 悩んでいると、ジョナと護衛が俺とニュンを取り囲んで剣を抜いた。


「お兄ちゃんやめて!」


 牢の中からジョルが、暴走する兄を止めようとしていた。


 うぁ! 助けて賢者の石!


『ジョルを犯罪者として罰します。その罰は無意識下の暴走という事なので情状酌量の対応で死刑ではなく犯罪奴隷と罰します。犯罪奴隷としてマスターがジョルを買い取って、今後の暴走をマスターが止めれば解決です』


 え? 賢者の石って判断出来るの? 凄くない?


「わかった! ジョナよ。俺がジョルを犯罪奴隷として引き取ろう!」


「は!?」

「突然出てきてふざけた事言ってんじゃねぇ」

「妹を奴隷だと!」

「ぶっ殺せ!」


 キン!

 カン!

 ジャキン!


 ジョナと取り巻きが激怒して、剣で俺を襲ってきたがニュンがその剣を叩き落し俺を守ってくれた。


「主君は私の背後で待っててください! 主君に手を挙げるとは、お前達は許さぬ」


 更に混沌になっている気がする。

 過去に出現させた電磁バリアをニュンと俺の周りの発生させる。


 キン!

 カン!

 キン!



 ジョナと護衛が攻撃してくるが全て電磁バリアによって弾かれる。


「なんだ!攻撃が届かぬ」

「何者なんだ!」

「ニュンは攻撃しないでください」


 説得と対話が不可能に感じる。

 もはや面倒になったきた。

 捕縛して説明しても周囲は信じてくれないだろうし……


 転移門を出現させて、ニュンの手を掴む。


「主君!?」


「こういう時は逃げちゃいましょう」


 二人で転移門を潜ってジョル町へ晩御飯を食べに退却した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ジョルの町の食事処でニュンと一緒に晩御飯を食べている。

ニュンは黒鎧の武装形態ではなラフな服装である。


「今日は、無駄足だったな」


「赤くない対象に対する対応が難しいですね」


「今回みたいに逃げちゃえば良いんじゃないかな?」


「え!? そういうことですか?」


「いくら力があっても解決できないこともあると思うからな。無理してニュンが怪我する事の方がやだな」


「わかりました主君。今度からは逃げちゃいますね」


頬を赤らめながらニュンが回答する。


「今後、今回の事でまた絡んで来たら、そのころには赤くなっているはずだから、その時に……」


 力があっても対応できない事もあるのだと賢者の石を触りながら感じていた。


 後日、ジョナからの依頼が取り下げられて、ジョルが自殺したのを知ると切なくなった。

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