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061 ゼウスと言う名

 ニュンペーが十老という組織からの未解決依頼を多数受けたが、ほとんどが賢者の石の知識を利用すると解決する内容であった。

 十老とは、ハビル帝国にいる力がある獣人たち十種族の長の集まりである。


 引き受けた依頼は行方不明の人探しが半分だったので、既に死んでいる人と実は駆け落ちした人や夜逃げしたひとなど全て賢者の石を知識から解決する。


 依頼主達は初めは証拠もなく信じなかったが、ニュンペーが『嘘であったら責任を全て取る』と断言し、疑って事後調査の結果が本当だったことがわかると手のひらを返して喜んでくれた。

 信用を得ると調査もせずに信じてくれて、短期間で解決することができた。


 つぎは、依頼があった秘宝系の素材集めだが、これも賢者の石でほぼ解決する。

 何処にどのように存在するかすぐにわかるからだ。

 だが、実際に存在しない素材に関しては、説明して依頼を取り下げてもらった。

 これらを解決するには、日数がかかった。


 最後に残った依頼は、暴力的な解決方法の依頼であり力が無ければ解決しない物だった。

 その最初の一件にいまニュンペーが向かっていた。


 雷帝武術という道場があるのだが、その師範代のオエックという十人いる十老の一人である獣人が傍若無人に暴れている。

 それにお灸をすえてほしいと言うのが依頼だったが、実際はオエック自信がその依頼を冒険者ギルドに出していて冒険者狩りをしている感じであった。

 過去に二十人以上のクラスゴールドとシルバーの冒険者が挑んだが再起不能になるほど痛めつけて依頼不能になっており、依頼が遂行できなかった違約金もオエックに大量に入っている。


 オエックとはどれほど強いのか?

 ニュンペーは賢者の石でカラクリを全てを知っているが、あえて返り討ちにしようと意気込んで道場にのりこんだ。


「オエックはいるか? 冒険者ギルドから来たものだ」


 道場の中に入ると十人ほどの象や猪や猫や虎など動物の耳と尻尾を持つ人型の獣人がいた。

 全員が筋肉隆々のマッチョな獣人たちだ。


「ああ? オエックさんは、留守だぜ? 俺らが相手してやろうか?」

「弱そうだな? 金はあるのか? ないなら奴隷にして金作ってもらうかな」


 十人いる中で主君に借りた徳を見る眼鏡を使用すると、今発言した二人だけが赤色だ。

 その他は白だ。

 遠慮はいらなそうだな?


 雷帝武術は、剣技ではなく無手(すで)の武術のようだ。

 ニュンだけが剣を持っていたので、剣を置いて鎧を着たまま道場の真ん中まで行く。

 無手の状態で、判定が赤かった二人の方向を向いて手まねきした。


「いい度胸だな?」

「俺は、背後からいく」


 前後を二人に囲まれた。


「これは、試合でよいのか? 万が一殺してしまった場合は罪になるのか?」


「あははははは! 罪になる訳ないだろ。死合だからな!」

「お前が死ぬだけだ」


 背後にいた象の耳を持つ男が、ニュンに蹴りをはなった。

 余裕でよけたところに、正面から虎の耳を持つ男がパンチを放ってくるが、それも余裕で回避する。

 動きを見る限り言うだけあってレベルⅤはありそうだ。

 だが、レベルⅥを超えたニュンにとっては余裕な相手である。


「く! こいつ速い!」

「二人じゃ辛い。お前らも手伝え!」


 他の道場にいた獣人たちもニュンに襲いかかってきた。


「いくら数がいても、同時に襲える人数は限られる。無駄な事だ」


 ニュンが言ったように同時に襲えるのは四人程度であった為に、余裕でニュンが攻撃を回避していると赤く見えていた二人の獣人が、隠し持っていたナイフでニュンに斬りつけた。

 かわしきれず、鎧とぶつかり火花を散らす。


「素手の武術ではないのかな?」


「お前も鎧を着ているだろ?」

「いい加減、こいつ大人しくしやがれ!」


「クッスとベエイは、下がれ! なんで無手相手に光り物を出してる!」


 背後から威圧的な声が聞こえた。


「オエック様! こいつ道場破りですよ!」

「こいつから挑発してきたんすよ!」


 文句を言いながらニュンの周りから、クッスとベエイと言われた獣人と取り巻きが下がった。


 道場の入り口に獅子の耳と尻尾を持った痩せ形のひょろっとした獣人が立っていた。


「冒険者ギルドから、依頼を受けて来たものだが、お前がオエックか?」


「俺がオエックだが、久々だな! もう、俺に挑む冒険者などいないかと思ったがな」


 徳の眼鏡で見ると黄色だった。

 しまった、主君に黄色に関して聞き忘れた。

 だが今日は、賢者の石があるのですぐに触って調べる。


『一度、赤になった対象が徳を積んでプラスに戻った場合は黄色になります』


 殺してはいけない対象だったんだな。

 待てよ、赤くなっても戻る場合もあるのか?

 そうすると、赤だからと言って闇雲に殺して良いわけでもない訳で……

 ニュンぺーが考えて動きが止まっているのを怖気ついたと勘違いしたオエックが動き出した。


「ん? 黙ってしまったな? こちらから行くぞ」


 左右にステップをしたと思ったらニュンぺーに、高速で接近して肘を立ててニュンぺーの胸を打った。

 避けようとしたが、先読みされていて丁度避けた所に直撃する。


 壁までニュンぺーが吹き飛ぶ。


 ドコン!


 壁にめり込んで動けない所に、オエックが再度接近して拳を連打する。


 バキ!ドコ!バキ!………


 更にニュンぺーが壁にめり込み、最終的には壁が破壊されて裏庭のような場所の道場の外に叩き出される。


 パキン!パキパキ!


 潰されて変形した鎧が、高い音をたてながら自己修復し始める。


「なんだ? この音は? まぁこれで当分飯も食え……え?」


 平然と立ち上がるニュンぺーにオエックが驚く。


「失礼、少し考え事をしていた。お前悪い奴だったけど良い奴になったんだな。手加減を感じるぞ」


「な! 何を言っている? 何故たてるんだ?」


 少し興味が湧いて賢者の石を触りながらオエックの事を調べる。

 賢者の石に触れてオエックが、何故暴れているのか? 何が原因だったのか? オエックの師匠の最後に言った言葉は何か知る事が出来た。

 最後の言葉は、死ぬ間際に師匠がオエックに伝えたはずだったが、オエックは戦闘で鼓膜が破れていて伝えられていなかった事も……


「乱暴者のお前を拾ってくれた師匠を誤って殺してしまって、後悔しているのか? 師匠は満足して死んだようだぞ」


「貴様! 知ったように俺を語るな!」


 オエックが再び接近してニュンぺーを殴ってくるが、あえて受ける事にした。


 バキ!バキン!バキ!……


「何故だ! 何故反撃してこない?」


「反撃したらお前が死んでしまうからな。お前の師匠は病気によって余命がいくばくもなかった。戦士として、最後はお前に殺される事を望んだ。ただそれだけだ」


 気が済んだのかオエックの動きが止まった。


「そ、そうだったのか? 俺は?」

「それにしてもやってくれたな。身体中の骨が折れて鎧もバキバキだな」


「俺はどうすれば良い?」


「自分で考えろ。ただ冒険者狩りはやめてもらいたいな」


「わかった。お前は何故俺のことを知っている?」


「さほど知らないぞ。主君のおかげでお前の師匠の最後の願いを知ってるだけだ」


「主君? 願い? それはなんだ?」


「乱暴者が罪を償い真っ直ぐに育った! それが証明出来て良かった。血の匂いが臭かったお前が今や臭わない。強く気高く育ってくれ。俺の臭いは取れなかった。お前の両親を殺したのは俺だ。俺を殺してくれてありがとう」


 おおおぉぉぉ!


 思い当たる節があったのか納得して、オエックが号泣した。まぁ、真実だからな。


「それと、お前の配下に殺人者がいるが処分して良いか?」


「それも主君から知ったのか?」


「主君はなんでも知っているからな。一人はそこの象の奴だ。後輩を二人いじめて殺している。もう一人はそこの虎の奴だ。道場で気に食わない奴は闇討ちして一人殺している」


「な、なんのことだ証拠はあるのか?」

「ふざけるな!適当な事言ってんじゃねーぞ」


 二人をオエックが見つめると、思い出したように目が大きくなる。


「お前らだったのか? 今は死合中だったな。死合中の事故死は罪にならない」


「わかった」


 ニュンぺーが高速でクッスの懐に入ると腹を正拳突きすると腹を貫通して一撃で絶命した。


「な!なんなんだ!」


 残ったベエイが叫びながら慌てて逃げようとしたが、回り込んでニュンぺーが背中から体当たりすると、高速で壁に叩きつけられたようにベエイが潰れて絶命した。


「あのダメージからここまで動けるのか? クッスとベエイが一撃だと!」


「これは、依頼ではないが害虫の駆除は主君に言われているのでな」


 御伽噺にいた全ての攻撃をあえて受け切り一撃で相手を絶命させる幻影騎士団にいた不死身のゾット・ゼウスを思い出した。


「主君? 貴方の名前は?」


「ん? ニュンペー・テミス・ゼウスだ」


「ゼウスだと!」


「あとはよろしく頼む。次の依頼があるからな」


 呆然としているオエックと道場にいた獣人達を放置してニュンぺーが去っていった。


 御伽噺にでてる幻影騎士団達は、全て団員の証明としてラストネームにゼウスが付いている事をゲンワクとニュンぺーは知らなかった。

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