006 幻の賢者の石
今日も冒険者ギルドの事務を黙々とこなす。
前世の記憶があるために、この世界の人々よりも暗算も出来るし金の流れなど単純明快ですぐに覚えてしまう。そのおかげで事務をパーフェクトでこなしていく。
前世では自分中心で生きてきて他人の事などあまり考えない人物だったが、人の為に行動した徳が次に生まれ変わる際に影響するのを知ってしまった。
変な宗教に入った気分だが実際に体験してしまった為に、ハクオウの養子になってから他人の為に無償で積極的に行動した。
任意に世界に幻を出現させれても自分が勘違いをした場合は、それが本当だと思って幻に自分自身まで取り込まれる事を知ってから、幻の能力は幻の本と非常時以外で封印した。
世界中の叡智が書かれている色々な幻の本を読んでいくと、面白い物がある事を知る。
賢者の石だ。
前世では、いろんな物に変化するレアな材料と言う認識だったが、この世界では全ての叡智が詰まった鉱石で、原理は不明だが世界の全てを知っているらしい。
過去に魔王の弱点を賢者の石を使用して勇者が知った。そのおかげで魔王を倒して平和になった伝説がある。歴史に名を刻む錬金術師が賢者の石を使用して全回復薬のエリクサーの調合方法を知って調合したなどの言い伝えも存在する。
ギルドの事務処理の休憩中に、考えていた実験を実施してみる。
世界を騙せる俺の幻の能力で、俺の首に賢者の石のアクセサリーが存在している幻を出現させる。
首にチェーンに掛かった賢者の石が現れた。
青い宝石だと勝手に思っていたが、木炭の様な黒い塊であった。
触ろうとするが幻の為に触れない。
待てよ。触れる事が出来ないと思い込んでいるのか?
まるで、そこに存在していて、触れた物に合わせて移動して変化する幻だと思えば触れるのでは?
そう考えながら指でゆっくり挟み込んで持ち上げた。
持ち上げる事に成功した上に確かに触っている感触がある。
能力があがって触覚も騙せるようになった?
『マスター何を知りたいのでしょうか?』
頭に言葉が響く。
これは賢者の石の声か?
『その通りです。私を構築したマスター』
幻では無いのか?
『幻ですが、マスターが起きている間は幻では無く真実です』
理解できない? どう言う事だ?
『先程のマスターの幻の強度が現実と等しくなりました。過去に十年以上の期間で広範囲に幻の能力を使用し続けた結果、幻の能力がこの世界の創造主すら完全に謀ることが可能なレベルに達しました。そして賢者の石を構築する際に最後のピースであった触覚を付与した為に幻が真実になりました』
幻の能力は実際に何かが変化した訳ではないので、使用する魔力が大変低い。これによって過去は気が付かないで無意識下で継続して使用できたのだろうか?
その為に能力のレベルが凄い事になってるって事かな?
『その通りです。この世界の事象を多く知り得る賢者の石ですら理解できない現象なのですが、マスターの幻の能力は初期値が人間のレベルを遥かに上回っていました。初期から個人対象ではなく世界対象の能力で、本来の徳を利用して転生の際に得る能力を逸脱している能力です』
異世界から来た俺しか知らない徳に関して賢者の石も知っている?
『知っています。生きている間の徳によって生まれ変わった時の才能が変化します。徳がマイナスであれば地獄に落ちて魂の再構成が行われます。異世界の人々はこの世界と違って徳の相対的量が多いので、異世界からの転生は多くの才能をもらえる為に勇者や英雄、聖女や賢者になる場合が多いです』
相対量が多いのに能力を付与できるほど徳がなかった俺って……
前世を振り返ると自分勝手な行動しか思い出せない。
少しだけ反省してしまう。
地獄に落ちないだけマシだったのか?
この世界では出来るだけ徳を積んでみようかと考える。
いろいろ賢者の石を触りながら情報を得ると、情報に偏りがあるのが分かる。
例えば、ハクオウの現在の下着の色を聞いてもわからないのだ。
だが、ハクオウの立場がわかったり、現在の世界地図がわかったり、今いるヒューズ王国の首都がマリファだと言う事はわかるのだ。
賢者の石に、わかる知識の基準を質問すると前世の例を出して教えてくれた。
『マスターの前世の現象で例えるなら北極の氷の詳しい版ですね』
いや、わからない。もう少し詳しく教えてくれ。
『マスターの前世の北極の氷は何万年も融けないで、堆積していきます。その何万年の堆積した氷を見れば、数万年前の気候がわかります。それと同じように、この世界での事象が賢者の石の中に堆積していくと言う事です。世界動きに関与する情報ほど濃く、関与しないものほど薄くなりますので、それが基準です』
うむ、難しい。まぁ賢者の石でもすべてを知っていると言うわけではないんだな。
理解できた事はハクオウの下着の色は、世界の動きに完全に無関係であると言う事だけだった。
賢者の石と脳中で会話しながら休憩を切り上げて、冒険者ギルドの素材買取収支を計算して帳簿に書き込んでいった。