059 真祖
グラ地下迷宮の十二階層で、メッキがドラゴンゾンビになった竜王と戦闘を繰り返していた。
岩陰に右手が無くなった状態の美形の紳士のメッキが、血の涙をながして横たわっていた。
メッキを見失って、竜王が力の任すままに周囲を破壊している。
いやはや、強すぎますね。
ルヘン様はいつ頃戻ってきますかな……
無くなった腕を、地面から魔力を吸い取って再生させた。
過去のメッキは、孤独な王だった。
とある領地を治めていたが、周囲の魔力や生命力を集めてしまう奇病を発症した。
集めた力の制御が出来ずに衰弱すると、今まで優しい世界だった周囲が牙を剥いた。
領主の立場からおろされて城の地下に幽閉された。そして、最後は放置された。
恨みを募らせてただ死ぬはずだったのだが、死ぬ前に自分の中の力の制御に成功する。
復活したメッキが見たものは、圧政に苦しむ領民達であった。
すぐに自分の力を分け与え領民全体を始祖に変えると、圧政を行なっていた人々を駆逐して王となり新たな楽園を築いた。
楽園は数百年は継続したが、力を持った始祖達が増長して争い始め各自が独立して国を作って戦争を始めた。
メッキは始まりの領地で平和を謳歌したいたが、最後には自分が力を分け与えた始祖達に領地が滅ぼされた。
絶望したメッキは、心の傷を癒すためにダンジョンの奥に人知れず住んで世界から消えた。長い間の時が経過して過去にいた始祖達は、その後に再び増えた人間や獣人や魔人に滅ぼされ数人を残して滅亡していた。
メッキが再び地上に出ると様変わりしていた世界が広がっていた。
世界全体が一つの国になっていて、過去に自分が滅した領地と同じ様に弱者を虐げる世界が広がっていた。
もはや、世直しなどはする気などはなく真祖ではなく、生き残った始祖の真似をして正体を隠して暫く地上で生活をしていた。
そこで、異世界から来た幻の能力者に出会った。
腐敗した大国に立ち向かって戦っていて、昔の自分を見ているようで影で彼を援助していた。
しかし、自分と同じ様な裏切りなどにより殺されてしまった。
再び絶望し、彼が否定していた武力で彼の残された仲間達と強大な国を滅ぼした。
彼が生前に言ったように武力での国の崩壊は、新たな戦火を招き多くの国に分かれ多くの戦争が発生した。
もはや世界に未練が無くなり、ダンジョンに引きこもって趣味のワイン収集のみを楽しみしている時に、ルヘン様に出会った。
そして、異世界から来たゲンワク様に出会った。
ゲンワク様は、過去の彼よりも強すぎる存在だと分かった。
幻の能力者に過去に出会っていたために、抵抗が働いた。勘違いしているゲンワク様以上にゲンワク様を知ることができた。今まで夢だった世界を変革する力を持つ人物だと感じた。
もう、ワクワクが止まりませんね。
再び竜王の前に立つと、自分の血を剣として高質化させて襲いかかった。
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メッキをダンジョンに置き去りにして、ルヘンがジョルの町のゲンワクが宿泊している宿屋の前でゲンワクを待っていた。
「なかなか、帰ってこないのじゃ」
日が落ちて周りが暗くなってきた。
「お嬢ちゃん、何をしているんだい?」
町の四人のゴロツキがルヘンに話しかけてきた。
「この辺の治安は良いはずじゃが?」
「おいおい、俺たちは暗くなってきたから心配して声をかけてるだけだぜ」
ニヤケながら四人が返答する。
「ん? ルヘンじゃないか?」
宿屋からラフな服装なニュンを連れて出てきたゲンワクと鉢合わせした。
「おお! そうか転移が出来るのだから、宿屋の中で待つべきだったのじゃ! ここで待っていても仕方がなかったのじゃ」
「今から晩御飯を食べに行くが一緒に行くか?」
「おいおい、俺らが先に声をかけてるんだ。横から邪魔をするんじゃねーよ」
四人組が話に割り込んできた。
「主君、こいつらどうするのじゃ?」
「ニュン? どうにか出来るか?」
バキ! ドカ! グハ!
一瞬でニュンが素手で鎮圧する。
ニュンが時間と共に更に強くなっている気がする。
「主君よ。実はダンジョンコアの話なのじゃが、ダンジョンに予想外の強力なモンスターが存在していたのじゃ。メッキが戦っておるが勝てそうもないのじゃ。手伝ってくれんかの?」
「え!?」
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ルヘンから話を聞くとかなり不味い状況な気がするが、不死者のメッキだからあまり心配はしなかった。
「とにかく行ってみるか?」
周囲の目を気にせずに転移門をルヘンの前に出現させた。
周囲が騒ついたが、無視して対になるメッキの前に転移門を出現させてルヘンの目の前にある転移門に入った。
入ると洞窟のような狭い空間で、メッキがボロボロの姿で倒れていた。
「ここは何処だ?」
「おお! ゲンワク様! いや、主君! 流石に歯が立ちませんでしたよ。あはははは」
メッキが全身血だらけでボロボロにもかかわらず、軽い返事をする。
出会った時と気配が変わっていて血の涙を流している。頭でも強打したのだろうか?
洞窟の入り口を覗くと、少し離れたところで骨だけで構築されたドラゴンが暴れていた。
胸の中にダンジョンコアが見えた。
ネックレスの先についている賢者の石を触って状況を確認する。
「竜王のドラゴンゾンビ? 死体……閃いた!」
「主君よどうするのじゃ?」
「主君! 武装状態にしてください。私が倒してきます!」
ルヘンが俺の対応を楽しみにしている輝いた目で見つめてくる。
ニュンは、相変わらず戦闘狂みたいな事を言っている。
「まぁ、見ててください」
暴れている竜王のドラゴンゾンビの前に、全盛期の竜王がゲンワクの幻と錬金の能力によって出現した。




