053 本当の過去
(ゲンワクが三歳の時の話)
グレイウルフと言って、獲物を集団で捕食しながら移動していく魔獣の群がある。
大きな群れだと百頭を超える場合があるが、あまり好戦的ではなく通常は人を避けていく魔獣であった。
しかし、その群れにはリーダーがいた。
魔獣使いのロッゾという有名な山賊である。
グレイウルフの群れとロッゾが村を襲って、ロッゾの五人の手下が金品を集める計画を実行中であった。
「お頭、森の深い村を襲っても大した物がないっすよ」
「最近、派手にやりすぎたから大物は狙わずにいくんだよ」
ロッゾが使役しているグレイウルフのリーダーに、村の襲撃を指示した。
百頭以上いるグレイウルフが、森の奥の村を襲撃した。
暫くしてグレイウルフのリーダーが口から獲物の血を垂らしながら戻ってきた。
「お前ら、村人は全員殺したはずだから金目の物を集めてこい」
五人いる手下にロッゾが指示したが異変が起きる。
武器を装備していた部下が、何処にでもいるような村人に見えてくる。いや、五人の武器も持たない村人に変化した。
「な!?」
違和感は自分にもあったので、自分の腕を見ると鍛えられあげた全身が、ヒョロヒョロの村人の腕になっていた。
「なんじゃこりゃ!」
ロッゾが叫ぶと声に反応して「村人を全て襲えと」指示されていた数百頭のグレイウルフが、ロッゾと五人の部下を襲った。
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(ゲンワクが三歳の時の話)
ゲンワクが家族に隠れて部屋の中に幻の本を出現させた。
流石に三歳なので、本を読んでいる所は見られると不味い。家族が家に誰もいない事を確認してからの行動だった。
今日読んでいた本は、この世界の魔獣に関してだった。
グレイウルフのページを読んでいる時に外から悲鳴が聞こえた。
外を見ると村人達が、グレイウルフに襲われていた。
まさか、無意識下に俺が幻で出現させてしまったのか?
過去にもゴブリンの本を読んでいる際に、村に幻のゴブリンが現れた時があったのを思い出す。
ゴブリンの際は、平和な村のはずだと深く思い描けば幻のゴブリン達が消えて、村人達がゴブリンが出た事も忘れていつもと同じ村に戻った。
今回も同じように、平和な村であってグレイウルフは、幻であると深く思い描いた。
少しすると悲鳴も聞こえない、普通の村に戻っていていつもの日常が戻った。
やはり幻のだったんだな。
と思い込んでいただけだった。
実際は、その時は本当にグレイウルフが襲って来ていた。全滅した状態の村全体に平和な村と言う全く違う状況の幻の能力を発動させた為に大量の魔力を消費した。それが原因で俺は、あっさり魔力枯渇で死んだのだった。
死んだが生きている幻に取り込まれた瞬間だった。
死んだにも関わらず、幻が解けなかった理由は魔力枯渇で死んでしたっために、俺がすぐにゾンビ化していたためだった。
魔力枯渇で死ぬとその魔力総量によって様々な魔物になる可能性が高いようだ。
幻の能力があるゾンビの誕生であった。
実際は腐りながら、昼間は幻の力で平和な村で生活を継続していった。
常に幻の能力を限界まで使って、滅んだ村が平和な村に見える状態にしていたために、能力が鍛えられて魔力が増大していく。
増大した魔力によってゾンビからグールに進化した。
その後は、肉体が朽ち果てスケルトンに変化すると、すぐにワイトという魔物に進化していき、肉体が消えてレイスとなり村に根付く地縛霊の様なファントムに進化した。
ファントムになってから数年経過すると、数年間も常に幻の能力を使用して村全体を平和に見えるようにしている為に、更に膨大な魔力量まで増加した。
そして、増大した魔力量のおかげで霊体最強のスペクターまで進化すると、更に魔力量が増加していき人外の魔力量に達して、最終的には不死王になってしまった。
無自覚の不死王の出現である。
昼間は、膨大な魔力で平和の村の幻を広範囲で発動し、夜になると魔力枯渇で眠りにつく。
死んだのが三歳だったために、寝ている時の外見は、小さな三歳の時の骨だけの姿だった。
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「ルヘンを考えればどうにかなる」とルヘンに言われていた意味がわかった。
もしも、ルヘンの存在を知らなかったら自分が死んだと認識して消えてしまう事が理解できた。
開眼の杖を触った瞬間は全てを思い出して、確実に死んでしまった……いや、消滅してしまった筈だったが開眼の杖によって無意識下の幻の能力が自分に無効であった為に助かった。
思い出した瞬間、走馬灯を見てしまったが不死王は死んだ状態ではない! とルヘンの存在のおかげで強く思えたからすぐに立ち直れた。
開眼の杖を離す瞬間が重要だった。
全てを理解してから、骨だけになった小さな右手を開いて開眼の杖を離した。
開眼の杖を離した状態で、骨だけになった小さな手が見える。
自分を見ると骨だけで胸の中に赤いコアの様なものが見える。
ルヘンがリッチだった時の姿に似ている。まぁ、進化した過程も年齢も違うが同じ存在だからな。
「さすが主君じゃな。一瞬で理解したのかの?」
「ルヘンが教えてくれていたからね。知らなかったら無意識下で死んだと思い込んで、幻の能力で消滅していた可能性があったね。助かった」
「早く人間に戻るのじゃ。不死王の姿で起きていると周囲の生命力が全て奪われるぞ」
幻の能力を発動させて、骨だけだった俺の体に肉がついていく。大きさも大きく変化して、いつもの村人風の特徴がない男に変化していく。
「それでこそ主君じゃな。幻の能力は凄いのじゃな。不死王が普通の村人にしか見えんのじゃ。もしも、本当に人間に戻るのであれば時間逆行が必要じゃの。
自分自信に時間逆行をするなら、我の時と違って全て本物が必要じゃな。
最低でも不死王が自動で発動している生命力吸収を抑える練習をしないと幻の力が弱まると周囲の人を無意識に殺してしまうのじゃ」
「これでは確かにフロイデが危ないですね。フロイデと冒険するなら幻ではなく本当の人間に戻った方が良さそうですね」
「そうじゃ。寝てる時の主君を見たり、良い関係になって一緒の部屋にいたら大惨事じゃな。朝には幻の能力で全て忘れてしまうはずじゃが情緖不安定になる可能性があるのじゃ。何しろ主君が寝たら全て思い出すのじゃ」
あ! それか! 過去にフロイデが俺の寝てる姿を見た時があるかもしれない。
勉強のために毎朝来ていたのに来なくなる時期があった。体調不良だと言っていたが早く寝たら治ったらしい。俺より早く寝たから幻の力が弱まらず思い出さないで治った感じか?
「フロイデに都合か良い幻の記憶を付加して、ヒューズ王国に戻すしかないかな?」
「やはりそうなるじゃろ?」
俺の本当の姿(三歳の骸骨)を見て気絶したフロイデに幻の記憶を植えつけて転移門を使ってヒューズ王国へ送り返した。
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あれ?
フロイデが目が覚めると、ヒューズ王国のマリファの都市にある自分の部屋にいた。
先生と一緒にハビル帝国に行ったはずだが、ルヘンと大喧嘩して戻って来たんだっけ?
フロイデの記憶が混濁している。
マリファの都市を出て少し歩いた所からの記憶が別の記憶に潰されているような……思い出せない。
腕に痛みを感じた。
服の裾を捲ると腕に自分の筆跡で爪で引っ掻いて書かれたメッセージがあった。
急いで書いたのか、殴り書きに違い。
『夜が真実。昼間は幻』
え!? 確かに夜になると色々ありえない物を見た記憶が思い出される。夢かと思っていたが……そっちが真実で昼間は嘘なのか?
先生、いやゲンワクの正体か……
これは、目的が出来たかな?
私の冒険者復帰の初めての依頼は、自分で依頼しよう。先生の正体を解き明かす依頼だ。
実家に有効な魔道具の存在を思い出す。
急いで、自分の実家に移動すべく準備を始めた。




