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052 封印の記憶

 ハビル帝国に旅立つことになった。世話になったギルドの事務員に、今日中に消えてしまうが前世のお菓子を幻を出現させて振る舞った。

 ギルドマスターのライオスがフロイデを引き留めてくるかと思ったが、俺が作成したギルドマスターマニアルを片手に(うるさ)いフロイデが消えることを喜んでいた。


 とりあえず王都を旅立ち、人が誰もいなくなるところまでフロイデとルヘンと俺で徒歩で移動中である。

 俺の幻に関しての勘違いをルヘンに聞いてから、転移門で一気に移動するつもりだった。


「糞ギルドマスターだったわね。引き留めようともしないなんて!」


「まぁ、そっちの方がさっぱりしてて良かったんじゃないですか?」


「あーせいせいする!」


「フロイデよ、本当についてくるのじゃ? 困ったのじゃ」


「そんなに危険なんですか? 勘違いしたままだと何かまずいにですか?」


「うむ。教えなくても、まぁ大丈夫じゃろ! もしも、幻に飲まれたと感じたならば、我の存在を思い出すのじゃ。それでどうにかなるじゃろ」


「え!? 教えてくれないんですか!?」


「フロイデがいる間はダメじゃな」


「なんで私がいると駄目なんですか?」


「フロイデは薄々知っているはずなのじゃ。思い出さないようにしているはずじゃ」


「ん? あ! え?」


 何かを思い出したのかフロイデが、悩み始めた。

 そこに、ルヘンが持っている開眼の杖と言っていた杖をフロイデに触れた瞬間に……


「キャアアアァァァ!」


 離した瞬間に……


「なんで悲鳴を!? え!? なんか怖い事を思い出した気が……やっぱり知りたくない」


 フロイデが取り乱して支離滅裂な事を言い始めた。


「我は大丈夫だったが、フロイデはやっぱり駄目じゃな」


 物凄い気になる! どういこと? 本当は今の俺じゃないのか?


「さて、この話は忘れて、一気に移動していくのじゃ主君!」


 俺の好奇心をここまで高めて、秘密とかありえないんだけど! フロイデがいない時に強く言って聞くしかないのか? 不満が残るが転移門をハビル帝国で最大の闘技場があるジョル町の付近に出現させて移動した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ジョル町は、ハビル帝国の王城のすぐ側にあり、ハビル帝国最大の冒険者ギルド支部がある。


 ハビル帝国には三つの勢力あり、聖女を中心とした聖女教会と、毎年行われる闘技大会優勝者が職につける獣王、種族の長老によって組織された十老の三つである。


 特徴もあって、聖女教会は信仰されている十老に強い。

 全ての種族を束ねる十老は、最強と言えども数には勝てない獣王に強い。獣王は信仰が薄い場合が多く聖女教会に強い。


 この関係によって、何処かひとつの勢力の暴走を三竦みの状態によって残り二つの勢力が止める事が出来るために、建国から今までハビル帝国が腐敗も衰退もせずに繁栄していた。


 ジョルの町に入る前に賢者の石を出現させて、触りながらバビル帝国の現状を確認していると、フロイデとルヘンが物欲しそうに賢者の石を見ている。


「わかったから、今出しますよ」


 黒い賢者の石付いているネックレスがフロイデとルヘンの首に出現した。


「お! さすが主君なのじゃ」

「先生、凄いけどセンスがないアクセサリーかな?」


 木炭みたいな黒い石なので、デザインにフロイデが不満を漏らす。

 二人とも何か知りたい情報があったのか、賢者の石を触りながら考え事を始めた。

 俺もさっきルヘンのせいで気になった自分秘密を探るも情報はなかった。


「ルヘンが教えてくれない俺の秘密って、賢者の石でもわからないんだが、実は勿体ぶって何も無い訳じゃないよな?」


「主君……世界を騙す幻の能力なの忘れとらんか? 賢者の石も世界の一部じゃからの」


 あ! 納得だが……気になる!


「先生! 町に入るわよ」


 町の入り口に獣人の守衛がいたが、冒険者カードを見せるだけですんなり入れてもらえた。

 町の中は、ヒューズ王国とくらべて異常に綺麗だった。

 なんでも賢者の石ですぐに質問する。

 綺麗好きの種族が多いから、綺麗と言うわけでではなく獣人本能で見つからないように自分の痕跡を消す習性があって汚したら掃除したくなるそうだ。

 やっぱり賢者の石って凄いな。俺が寝ても消えない本物が欲しくなってきた。


 町の宿屋に到着してルヘンが俺と同じ部屋になりたがったが、フロイデが大反対する。仕方がないのでフロイデとルヘン、俺で二部屋を借りることにした。


 まずは、俺の部屋に集まって今後の相談をする事にした。


「フロイデはお子様じゃの。主君に限っては同じ部屋でも無問題ないのじゃがな」


「お子様!? あんたの方がお子様……いや、ロリババ……」


 満面の笑みで開眼の杖をルヘンがフロイデに触れさせると……


「きゃあああぁぁ」


 バタ!


 フロイデが気絶した。


「世話が焼けるお子様じゃの」


 ルヘンが持っていた杖を置いて、十二歳の外見だが凄い力でフロイデを軽々と持ち上げてベットに寝かした。


「その杖を俺が触れば、自分が誤解している事がわかるのか?」


「そうじゃが……ちょうどフロイデも気絶しておるし……いや危険か……やめておこう主君。そのうち嫌でも理解する時が来る。その時に我を思い出せば大丈夫じゃよ」


「うむ。ルヘンがそこまで言うなら……そのうちわかるんだな?」


「そうじゃが、フロイデとは一緒に行動しない方がフロイデの為になるのじゃ」


 駄目だ。好奇心を抑えられない。

 先程、フロイデを運ぶために壁に立てかけられた開眼の杖を見る。

 俺の視線が開眼の杖を見ているのに気がついたルヘンが叫ぶ。


「だ、ダメじゃ主君!」


 ここまで勿体ぶったんだから、駄目だよルヘン。

 ルヘンより先に開眼の杖を掴んだ。


 掴んだ瞬間に自分の腕が………


 幻によって封印されていた過去の記憶が蘇り走馬灯のように頭に流れる。


 そうか、俺はとっくに死んでいたのか……


 ルヘンを思い出せば助かる!?

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