050 善悪
闇奴隷商人の組織だったネオンに対する何者かの襲撃があった日に、辺境守備隊の隊長で狼の耳に尻尾を持つ獣人のウバホは大活躍した。
アッシュ町に巣食っていたネオンから兎族のラビに依頼された聖女の救出に成功して、闇奴隷商人の組織だったネオンの壊滅を確認することが出きた。
その過程で潜入捜査をしていたテーラと言う冒険者に出会えたのが幸運だった。
テーラの情報によってネオンにいた八人の幹部の死体を全て確認できたのだ。
ネオンの幹部は全員で十人、潜入捜査をしている際に腕を買われてテーラ本人がその一人になっていたが、情報提供などでテーラの罪は免責になるようだ。
残り一人はここにはいないが、今回襲撃した何者かから逃げる事はできないだろう。
八人の幹部の死体は、この街のギルドマスターのホウレイ、副ギルドマスターのマークス、町長のバロック、殺人鬼で有名なトアスとジャックス、冒険者のノブスレイアラ。
そして、バーズ皇子と騎士団副団長のマッセ・ボブレイ……
ヒューズ王国の皇子が絡んでいた事によってハビル帝国とヒューズ王国と戦争が起きる可能性があったが、ネオンを襲撃した人物がヒューズ王国側の人物であったこと、救出した聖女もその人物に助けられている事などがあったので、なんとか賠償金で話が進んでいるようだ。
アッシュ町にある死体置き場に、今回の事件の被害者を運んでいると町民の半分程になりそうだった。
襲撃人数がテーラと聖女の証言から二人だったと報告されるが、詳細情報に関してはなぜかテーラと聖女は知らないと口を閉ざした。生き残った町民に聞くと襲撃は三人だった話と四人だった話など様々であったが少人数であった事は確実だろう。
ただ、共闘した町民からの話を聞くと、今まで町で暴れていた無法者が躊躇もなく正確に倒されて行く様は、まるで勇者のようだったと、そして有名な御伽噺の幻影騎士団の活躍を見ているようだったと言っているが、特徴は黒い鎧の人物と強力な遠距離武器で敵をなぎ倒す人物とまでしか語らず。何かを守っているのか詳細の容姿に関しては謎のままであった。
次の日にハビル帝国から、国軍のグリフォンに乗った空挺部隊が救助にやってきたが、それも襲撃者からの要請であったことがわかった。
襲撃者が何者かは、不明なままで終わってしまいそうだが何年も継続してきた多くの誘拐事件が突然解決した事になる。襲撃者には獣人として感謝する。
考え事をしながら公務をこなしていると、外から声が聞こえる。
「隊長!? 何サボってるんですか! 空挺部隊が首都に戻るから挨拶で呼んでますよ」
「わかった。すぐに行く」
今まで書いていた報告書を閉じて、仮設テントから外に出る。
報告に来た伝令のミックが、再び口を開いた。
「そういえば、テーラから聞いたネオンの最後の幹部のボプラ将軍が、暗殺されたそうですよ」
「恐ろしい襲撃者だな。この短期間でヒューズ王国のトップに近い男も殺されるのか? これで本当にネオンが消えたって事だな」
「被害は消えませんけどね。奴らの組織から手に入れた裏帳簿には、ハビル帝国の獣人の取引先も載っていたので、これから一波乱ありますよ。それより待たせてるんだから急いでください!」
待たせている空挺部隊の所に、急いで移動した。
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ヒューズ王国の王都であるマリファの都市へ向かう長距離の荷馬車にバンが揺られていた。
「バンだったな。明日の朝には到着だ」
「悪いな親父さん。タダで乗せてもらって」
「いや、一人で移動は危ないんで護衛を頼みたかったんだが、売買する際の税率が急に上がってしまってゆとりがなくてね。お前さんが護衛するからタダで乗せろって言った時には運命を感じたよ。魔獣を二回と野盗を一回対応してくれた時点で惚れちゃったよ」
「ちょうどマリファ行きの馬車が出たばかりで、偶然見つけたからなぁ。本当に運命だな。俺が強くて良かったな」
バン盗賊団壊滅してしまったので、次はいつ稼げるかわからない状況だった。
手持ちのお金は、逃げ出す時に出会った変な女から受けとった金貨十枚と唯一持ち出せた銀貨百枚入った袋である。
食費で銀貨も半分まで減ってしまった。なるべく節約するに越したことはない。
少ししたらアクシデントが発生した。
「お前ら! 止まれ! 積荷をよこせ!」
荷馬車の前に三人の盗賊が現れた。
マリファの都市周辺の盗賊? バンが知っている情報を思い出す。
「ケブルの所の奴らか?」
「え!? なんでボスの名前を知ってるんだ?」
「見逃してやるから、ケブルによろしく言っておいてくれ。俺はレベルⅣぐらだぜ。相手するか?」
「ボスの名前を知ってる時点で、余計見逃せないんだが?」
シュルルル……
風切り音がバンの背後から聞こえ振り向くと、矢が三本バンにむかって飛んできた。
「伏兵か!」
キン!
二本を躱して一本を剣で打ち落としたが、躱した際に少しだけ掠ってしまった。
「あららレベルⅣでも、こんなもんですか? 掠ったから出てきていいぞ」
荷馬車の右後方から隠れていた四人の弓を持った男が現れた。
「お前、バン盗賊団のバンじゃないか?」
「ボスのお知り合いでしたか?」
「同業者かよ!」
「お前はケブルだな。久しいな」
荷馬車をバンが見ると親父の首に一本の矢が刺さっていて親父が死んでいた。
自分自身も手足が痺れて動けなくなっていく。
「伏兵の方が人数が多いってのがケブル流だな。バンはなんでここに来たんだ? お前の盗賊団はどうした?」
「派手にやり過ぎて第四騎士団に襲われて壊滅したよ」
「そりゃ災難だったな? しかし、運がない男だな。さっきの矢に塗った毒なんだが効くのが遅いが確実に殺す毒でな。俺の下に付くなら仲間にしてやっても良かったんだが、さよならだ」
「遅効性の猛毒って事だな。まぁ運命だな。俺より運が悪くて、毒以前に当たりどころが悪くてすぐに死んだ親父墓でも作ってやってくれ」
「そりゃ、出来ない相談だな。お前もそこの親父も死体からみぐるみはいで、捨てるだけだ。バン盗賊団が壊滅? 同業者が減って愉快だぜ! さっさと死ね」
突然、ケブルが持っている弓を捨てて腰の剣を抜いた。
『こいつら殺して良さそうじゃな。ここまで来れば一人でもマリファに行けるのじゃ。バンだったかの? 渡した金貨を返してくれれば助けてやるのじゃ』
「な? 何処から声が?」
「テメーも伏兵がいたのか?」
「ボス! 周囲には誰も」
声に聴き覚えがあった。あの頭がおかしい女がついて来ていたのか……
まぁ、命は惜しい。
「わかった金貨は返す。助けてくれ」
「了解なのじゃ」
バンの影から十二歳ほどの杖を持ったフード姿の女の子が現れた。
「な!?影から」
「魔術師か!」
「油断するな!」
「ハイヒール、キュアポイズン」
すぐに女の子が手でバンを触ると手が光出してバンを治療する。
「高等回復だと!」
「僧侶か!」
「バンが回復するとまずい殺せ!」
「うおおぉ」
初めからいた三人組と伏兵の四人が、バン止めをさすために剣をかざして駆け出した。
「すまんのじゃ。実はバンの影にずっといて魔力を消耗したのじゃ。そこにバンを回復するために魔力を更に使ってしまったのじゃ。もう時間逆行の術式維持が無理っぽいのじゃ……」
そう言うと現れた女の子の姿が、肉が落ちてしぼんでいき骸骨になって行く。
『ドレインタッチ』
バン以外の男たちが、一瞬で生命力を吸われて絶命した。
バンの目の前には、厄災と言われる不死王が立っていた。
「そういや、出会ったところは有名な場所だったな。まさか不死王だったとは……何故、俺は死なない?」
『ハイヒール分の生命力を周囲から奪っただけじゃ。お前はハイヒールをかけたから元に戻るだけじゃな。毒はキュアポイズンで消しておいたのじゃ』
「何故、俺を殺さない?」
『ん? お前は今まで意味なく良い人を殺していないからじゃ。リッチの姿だと人の業が見えのじゃ。色々教えてくれたメッキは臭いでわかるって言っておったのじゃ。主君は色で判断していたのじゃ』
「色? 前にもそんな事を黒騎士に言われたが、悪事もやったし人も殺しているのだが?」
『お前は、食料がなくて餓死する際に、目の前に豚がいたら殺して食べて餓死を防がないかの? 生きる為に仕方がない場合は善悪などか関係ないのじゃ。リッチの姿だっと腹が減のじゃ。お前を食べてしまいそうなのじゃ。主君にバレたらまずいのじゃ』
バンの懐にリッチが骨だけになった手を入れて金貨を七枚回収した。
『三枚は、ここまで運んでくれる契約だったかの。残りは返してもらうのじゃ。さらばじゃ』
毒は消えたが、後遺症で痺れが残る身体を横にして去って行く不死王を眺める。
黒騎士に言われた事が理解できた。
生きるのに必死だった過去を振り返って、自分から殺す選択をした事は皆無だった。
自分の手が血に濡れていると思ったがやり直せる気がしてくる。
「マリファに着いたら普通に稼ぐかな……」
その前に荷馬車で死んでいる親父の墓を作ろうかと、痺れが残ると体を持ち上げた。




