047 虐殺の勇者
主君と別れてから結構な時間が経つ。
無事にフロイデと合流できたか気になるが、考えている暇もなくネオンの関係者が襲ってくる。
もはや、何人倒したかわからなくなってきた。
武器が剣のみの為に返り血で全身が血塗れである。
何人か、徳を見る眼鏡で見ると赤くない人がいるが、例外なく血塗れの私を見ると逃げ出すので追わずに逃した。
赤く見える人物は、逃げても追いかけて確実に潰していく。
今までは、洞窟のような地下通路だったが、まるで屋敷のような廊下に変わった。
「なんだここは? 地下の神殿みたいなものか?」
また奥から男が現れたが、強い気配がする。
腰に二本の剣ではなく湾曲した刀を装備している。
「お前は何者だ? 部下が騒いでいるから来て見たら一人で襲撃しに来たのか? 仲間はどうした?」
眼鏡で見れば真っ赤なので悪判定である。返事もせずに剣で斬りつけた。
キン!
シャキン!
片方の刀を抜刀して簡単に片手で受け流された。
こいつ、強い?
「ほほう。レベルⅥぐらいはあり……」
キン!キン!
話合うつもりがないので、会話も聞かずに本気で斬りかかる。
手数を増やすと、男がもう一本の刀も抜刀して二刀流で攻撃を受け流してくる。
私より確実に強い。レベルⅦあるのか? 主君にまた怒られるなぁ。
男が右の刀でニュンの剣を弾いた後に左の刀で斬りつけるが、あえてそれを避けずに体に深く刺さるように動く。
「な! 自分から!?」
左肩から胸まで刀が食い込んだが、左手で男の左手を掴んで逃げれないようして、動く右手で左腕を両断した。
男も逃げれないのを悟って左腕を捨てて右手に持った剣でニュンの首を狙ったが迷いなく左腕を両断された為に首ではなく黒鎧の頭部に刀が当たり頭部が真っ二つに割れる。
長髪の赤毛が汗と共に現れて、ニュンの顔が晒される。
「女! まさかこれほど強い女いるとは! 惜しいがお別れだ」
黒鎧の頭部を破壊した刀がその返しで正確にニュンの心臓を貫いた。
「甘いぞ!」
ニュンが叫んで心臓に差し込まれた刀を無視して剣で男に斬りかかる。
男は左肩から胸に刺さった刀と心臓を貫いた刀を捨てて咄嗟に後方に下がるが右脚を半分ほど剣で斬りつける事に成功する。
「化け物か! 何故動ける?」
自分に刺さった刀を抜いて男の手が届かない場所へ投げる。
心臓の刀を抜く際には血が宙を舞う程の出血だった。
「ああぁ。まだまだ弱いな私は……」
立ったままニュンが絶命した。
「なんなんだこいつは? ヒューズ王国で最強だと思っていた私の剣術を上回るのか?」
斬られた左腕を、右足の怪我を右手で押さえながら拾いに行き、切断面に拾った左腕を当てた。
懐から回復薬を取り出して、切断された場所にかけるとかろうじて接合された。
残った回復薬を斬られた右足にかけると右足の出血が止まる。
「危なかった……え!?」
先程、立ったまま絶命したはずの女が消えていた。
背後から気配を感じて振り向くと剣を上段に構えた先程の女がいた。
「名は聞かぬよ強き人よ。これからの主君との戦いで増えていくから覚えきれない」
「そうか、もう少し違う形で会いたかったが、自分の行いを振り返れば自業自得だな。最後に理想の女性に会えるとはな。名前をうかがってよろしいか?」
「ニュンペー・テミス・ゼウス」
「おおぉ! ゼウス! そうか私は、やっと会えたんだ! 御伽噺……」
最後まで語らせずに男の首を両断した。
そのままニュンペーも崩れて倒れた。
「危なかった。限界だ。話を聞くゆとりなどなかった。不死だとしても回復まで時間がかかりそうだな」
そのまま、ゆっくり目を閉じた。
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昔から聞いていた御伽噺にでてくる幻影騎士団に憧れた。
絶大な力を誇る国家を相手に、一騎当千の強さで反逆して民を解放していく。
その中に、アルス・ゼウスと言う二刀流の女がいた。
歴史上では詐欺師と言われる幻の使いの主君が処刑されてから、彼女は怒り狂った。
だった一人で、悪徳貴族だったブゲエ公爵の五万の騎士に襲いかかり一万の軍勢を葬ったが数に押されて、最後は立ったまま玉砕して命を散らせた。
複数の剣が刺さったまま立って死んでいるアルスを、貶める為にブゲエ公爵がアルスの死体に近づくと息を吹き返し、自分の命と引き換えにブゲエ公爵の命を奪った話が大好きだった。
その生き方に、私は惚れ込んだ。
自らも二刀流を鍛えて、彼女のような強者になろうと常に鍛錬しヒューズ王国の第二騎士団の副団長まで地位を上げた。
しかし、地位が上がれば上がるほどヒューズ王国の裏を知る事になる。
第二騎士団の団長は、バース皇子で次期王様になるべき人物だが最低の人間性だった。今も奴隷たちをつかって楽しんでいる。軍を指導すべき立場にあるボプラ将軍は、率先して奴隷売買を陰で実施している。
ヒューズ王国は、私が憧れた人が打倒した大国と同じではないか?
腐っていく自分の心の中を無視して、バース皇子に言われた命令を今日も何も言わずに実行する。
何の罪もない奴隷を遊び半分で殺した事もある。バース皇子に否定的な健全な領民を斬った事もある。
憧れと実際の差に悩まされていった。
その迷いを忘れる為に、常に鍛錬し自分を強化していった。
そして、憧れの人の子孫かもしれない人物に出会った。
まさに御伽噺のアルス本人のようじゃないか!
そうか、私も一緒に戦いたかったのだな。
とても綺麗な女性だった。気高く強い。
最後に出会えて良かった。
ニュンに首を斬られた瞬間に走馬灯のように、ヒューズ王国第二騎士団副団長のマッセ・ボブレイは感じ、笑顔で最後を迎えた。




