046 弱肉強食
転移門から、過去に知り合ったヴァンパイアの始祖の一人。メッキ・フォグ・レイターが現れた。
「ゲンワク様? ここは何処でしょうか? まさか本当に呼んで下さるとは光栄です」
ダンジョンで出会ってからメッキは、異世界のワインに惚れ込んでしまって、あれから何回か王都の冒険者ギルドに居る俺の所にお忍びでやって来た時があった。
その日に消えてしまうが、その日だけ飲める異世界ワインを渡す代わりに困った事があったら助けてくれる契約をしていたのだった。
「そこの三人が、不老不死に関して興味があるようなのでメッキの館に案内してやって欲しい」
「そんな要件でしたか? しかし、それはちょっと遠慮しても良いでしょうか? この三人は、臭すぎますね。」
トアス、ジャックス、ノブスレイアラがメッキが現れてから一言も喋らなくなった。
僅かに三人とも震えている。
フロイデが心配なので、この三人はメッキに相手してもらって再びフロイデを探すことにした。
「メッキ。お前の館に作った異世界ワイン貯蔵庫にワインを出現させておいた。今日の夜には消えてしまうが後は頼んだぞ」
「おお! それは楽しみだ! ゲンワク様の為にワイン貯蔵庫を作った甲斐がありますね」
「自分の為だろ? ずるい奴だな」
「いえいえ。ゲンワク様に会ってから楽しい事だらけで毎日ワクワクしてますよ。では、いってらっしゃいませ」
メッキと三人を置いて探索していない二階へ移動した。
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「初めてまして、私はメッキ・フォグ・レイターです。ゲンワク様に依頼されましたので、貴方達を処分致します」
自称でクラス ゴールドと同等とおもっているノブスレイアラが心底怯えていた。
今日は厄日だ。
もはや私の命はないだろう。
何処で判断を誤ったのだろうか?
長年冒険者をやっている私にはわかる。
転移門から現れた男は、ヴァンパイアだった。
しかも、気配から察するに始祖だ。始祖の強さは有名だ。レベルⅧの化け物に、この人数でどうやって勝てと言うのだ?
ダンジョンや未開の地でこいつらに会わない為に、冒険者の依頼よりも危険が少ない誘拐した獣人を奴隷として売る商売を始めたのだが、結局会ってしまうとは……
「うああぁ!」
死を感じとってジャックスが、沈黙を破って持っているナイフを投擲した。
見えなかったが、八本投げたようだ。
メッキと名乗った男に指の間に八本のナイフが挟まっていた。
「正統防衛って奴ですかな?」
再び見るとメッキの指の間のナイフが消えて、ジャックスに八本のナイフが刺さっていて死んでいた。
便乗してトアスが逃げる為に走って出口に向かったはずだが、背後のいたはずのメッキが出口の前にいた。
全く動きが見えない。これ程の差なのか?
「ひぃい!」
トアスがとっさに剣で斬りつけるが、メッキが優しく親指と人差し指で剣身を挟んで止める。
そのまま、口を大きく開けてトアスの首筋に噛み付いた。
「あぁ、死にたくな……」
最後まで言わずに一瞬で全身の血液を吸われ萎れていった。
「非処女は、不味いですね。その点、ゲンワク様とその配下は素晴らしい。後はお前だけだが、一番臭いですね。触りたくもない」
「強い者が弱者を虐げる。臭いと言うが何が違う……」
メッキが手を上から下へ振った。
ただそれだけの事で空気が断裂して私を二つに引き裂いた。
そして最後まで語る事なく私は死んだ。
「あ、倒したら食べないと臭い奴らと一緒になってしまいますね。好き嫌いと、お残しはゲンワク様が嫌いだったはずですから。違い? 殺した奴をお前は食べた時があるのか?」
メッキがそう言うと、ナイフが刺さって死んでいるジャックスの体と二つになったノブスレイアラから血液を回収した。
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二階の仮眠室にフロイデを案内して、部屋にあった奥の棚からマークスが紅茶を出した。
仮眠室には簡易のベットが数個と大型のテーブルと椅子があった。
「連れの方も呼んできますので、紅茶でも飲んでゆっくりしてください」
「わかった。先生達も来るかもしれないからゲンワクと言う冒険者が来たらここに通して欲しい」
「ゲンワクですね。それにしても旧友に会えるとは嬉しい限りです。メロ様は元気でしたか?」
「ちょうどここに来る際に会って来たぞ。元気だったよ」
「そ、そうですか……」
フロイデが、出された紅茶を椅子に座って飲んだ。
「な…体が痺れ……」
「いやはや、メロの糞野郎にポッシュの町を追放されてからやっと、地盤が出来たのに馬鹿のフロイデが潰しにやって来るとはな。私はネオンの幹部の一人だよ。お前が馬鹿で助かったよ」
椅子に座っている事すら出来ずに椅子から床にフロイデが倒れた。
「こんな事を……して…ただで……」
「ただですみますよ。今すぐ貴方を殺しますから。そうですね、もっと力をつけたら私を追い出したポッシュの町も滅ぼして森長のメロを殺して町民全員を奴隷として売りましょう。貴方は知りすぎているので今すぐに」
紅茶に入っていた強力な麻痺薬で動けなくなったフロイデの胸にマークスが剣を抜刀剣して斬りつけた。
「初めは、話し合って仲間にしようかと思いましたが、メロの時も寂れている町に活気を戻そうと努力した私を否定したんですよ。貴方がメロと仲が良かったのを思い出して許せなくなりました。さようなら」
そう言うと僅かに動いているフロイデを何度も斬りつけた。
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二階に上がると、部屋数が多い。
一つ一つ開けて見ていくと、奥の部屋から何かが倒れる音がした。
音がしたドアを開けると血だらけのフロイデと剣を持ったエルフの男が立っていた。
既にフロイデは死んでいる!?
プシュ!プシュ!
キン!キン!
即座に男にライフルを連射する。避けずに剣で弾いた。
まぁ弾いたって事は、余裕だな。
プシュ!プシュ!
キン!キン!
「な…お前は…何者?」
プシュ!プシュ!プシュ!プシュ!プシュ!
キン!キン!キン! 「うあぁ」
剣が折れる前に、捌き切れないで弾丸を体に受けた。
プシュ!プシュ!プシュ!プシュ!プシュ!プシュ!プシュ!
「もう…やめ……」
動かなくなるのを確認するまで撃ち込んで、すぐにフロイデの様子を見る。
出血による心停止か?完全に死んでいると思うが今死んだばかりで脳は無事だ。
前世の医療的な知識を総動員して考える。
駄目だ。助ける方法が浮かばない。
最後に賢者の石に触れると、すぐに対応方が浮かんだ。
頼もしいな賢者の石!
幻でエリクサーを出現させる。
フロイデの体に直接かけると傷が治っていく。
この世界がファンタジーで助かったと言える。
だが、呼吸も心臓も止まったままだ。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
心臓の上に手を当てて五回押し込む。
そして、前世の記憶があやふやだが、俺のファーストキスに相当する人工呼吸を実施する。
不謹慎だがドキドキしながら息を吹き込む。
息が入って胸が挙上するのを確認した後に、再び心臓を押し込む。
繰り返すと、七回目の息を吹き込んでいる際にフロイデが目を開けた!
思いっきり押し退けられて壁まで吹っ飛ぶ。
さすがクラス シルバーだった……
「うそ! うそ! いま口と口を……私が倒れているのをいい事にいかがわしい事しましたね!」
壁に叩きつけられてそれどころじゃない。
痛みが収まってやっと息ができた。
骨折とかはしていないようだ。
「死んでたから心肺蘇生をしてたんですよ!」
「死ぬ訳ないでしょ! 御伽噺じゃあるまいし口ずけで生き返るなんて事……」
興奮していたフロイデが、横にライフルの弾丸で蜂の巣になって死んでいる男を見て青ざめた。
「そ、そうだった私殺された! 何で生きてるの? あれ、怪我がない!?」
服が剣で切り裂かれているが、そこから覗く肌に傷がない事を触って確認しながら混乱している。
色々秘密にしてフロイデに説明する事を考えると頭が痛い。
いっそ全てバラすしかないかな?




