044 アッシド町
フロイデはアッシド町の冒険者ギルドへ、ゲンワクとニュンぺーと別れて向かっているのだが、誰かに尾行されている気配を感じた。
狭い路地に入った瞬間に、路地を挟んでいる壁を蹴りながら三階ぐらいの高さに移動する。
壁に張り付いて下を見ると、ローブをかぶった人物が、フロイデを見失った為に焦って左右をキョロキョロして探している。
上からローブをかぶった人物の目の前に飛び降りる。
「何者だ!」
「うあぁ! 見つかっちまった! 怪しいもんじゃない。フロイデさんを影からの守るように主君に言われている」
「主君って?」
「ゲンワク様だ。俺にとっては神様みたいな人だな」
「先生の事か? 先生らしいな。私はクラスがシルバーだぞ? 君はクラスがブロンズぐらいか? 尾行もろくにできない護衛など不要だがな。先生に頼まれたと言うなら了解したが、声に聞き覚えがあるのだが何処かで会った時があるか?」
「……何処まで秘密なのかわからないが、主君に直接聞いてくれ。俺からは名乗れない」
尾行者はローブを目深にかぶってさらに顔を隠した。
「まぁ、尾行もバレた事だし一緒に行こう。尾行されると落ち着かないからな」
「わかった」
冒険者ギルドに着くと、通常のギルドであれば冒険者が数人ぐらいはいるはずだが、耳が尖っていてフロイデと同い年程度のエルフの男性の受付が一人いるだけで人気がなかった。
「こんにちは、私は王都の冒険者ギルド本部からネオンの殲滅の依頼を受けて来た者だが、ギルドマスターか副ギルドマスターはいらっしゃるか?」
「フロイデか? 凄い懐かしいお客さんが来たもんだ! 覚えてないかもしれないが、小さいころ近所に住んでたマークスだ。副ギルドマスターは私だ」
「マークス……あ! 怒りん坊マークスじゃないか! 痩せていてわからなかったぞ! 当時はもっと……太かった気がするが?」
「色々あって痩せてしまったよ。懐かしいな。ネオンの殲滅だって? 詳しく話を聞くから、奥の部屋に来てくれ。そちらの方は連れの人か?」
「私の護衛だな。一緒に行っては駄目なのか?」
「知られたくない情報もあるから、フロイデだけで一度話したい」
「わかった。すまないが先生に頼まれた護衛の人は待っててもらえるか?」
「かまわないが、ここで待たせてもらうぞ」
「構いませんよ。フロイデはこっちに来てください」
フロイデと副ギルドマスターのマークスが、奥の部屋に移動しいった。
ギルド受付が、ローブを深くかぶったムストだけになった筈だったが、机の影や入り口から三名の人物が現れた。
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主君にフロイデの影ながらの護衛を頼まれたが、すぐにばれてしまった。
かなり尾行が上手くなったと思っていたが、フロイデの感が鋭いのか?
ばれてしまったので、仕方がなくフロイデに主君から言われていた護衛の話をして一緒に冒険者ギルドに来た。
フロイデがギルドの奥の部屋に消えた途端に物陰から三人の人物が現れた。
こいつは、ヤバイな。
フロイデを言葉巧みに奥に誘導されてしまったが、ここのギルドは、既に犯罪組織に加担しているようだ。
俺の記憶が確かなら現れた三人は有名な殺人鬼が二人と、クラスがシルバーの冒険者だった。
殺人鬼と一緒に居るってことは、この冒険者も糞野郎って事だ。
「また、獲物がやって来たね。今回は仲間にするのかな?」
「マークスさん次第だろ。こいつブロンズぐらいの強さしかないようだから、いらなくない? 掃除しちゃう?」
「新しい剣が手に入ったから試し斬りに使いたいな」
本部ギルドで主君と一緒に影で悪党を裁いていたが、俺の強さでは今回は難しい。やるだけやるしかないな。
既に、主君に借りた徳を見る眼鏡で三人とも真っ赤に見える。
一番近い所にいる新しい剣を持って眺めている女の殺人鬼に剣を抜いて襲いかかった。
たしか、剣の使い手で人を斬ることを生きがいにしている辻斬りのトアスだったか?
女はすぐに反応して、俺の剣を弾いた。
「だめだよ。焦ったら。奥に行ったエルフがどうなるか決まってからだからね。それまでおとなしくしてような」
「トアスは、優しいな。殺意を向けた奴はすぐに殺してあげなきゃ」
トアスの奥にいた見えないナイフ使いと言われる殺人鬼のジャックスが右手を動かしたと思ったら、俺の剣を持っていた腕に短剣が刺さって剣を落としてしまった。
「うぅ!」
俺の見えない速度で短剣を投げたと思うが、これは勝負にすらならないな。
「おい! ノブスレイアラ! なんでお前が殺人鬼のトアスとジャックス達と一緒に居るんだ?」
ノブスレイアラは、有名なシルバー冒険だった筈だ。
「ん? 俺の事を知っているなんて光栄だな。冒険者ギルドに居るよりも、こっちの方が安全で金が稼げるからな。まぁ、お前も微かにこちら側の匂いがするなぁ。マークスさんがお前の連れと顔見知りだったようだし、話がつけば命は助けてやるよ。おとなしくしてな」
主君悪いな……全然こいつらには対応できそうにない。
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冒険者ギルドの奥の部屋に通されると、マークス以外に長身の痩せている男が一人いた。
「ん? マークス? 誰だそいつは?」
「マスターこいつは幼馴染でフロイデっていう冒険者なんですが、ネオンの撲滅の依頼を受けて来たようです。どうしますか? 私は仲間にするのをお勧めしますが?」
「ほう。私は、ギルドマスターのホウレイだ。フロイデはネオンについて何処まで知っている?」
「首謀者がボプラ将軍で、出資者がバース皇子とその勢力配下の貴族達? アッシド町の地下に巣食っている闇奴隷商人が沢山いることまで知っている。私としては、奴隷商人達の根城など情報が欲しくて来たのだが?」
「え!? ちょっと待って! その情報は何処から?」
ホウレイが、驚いた表情で動揺している。
「一緒に来た先生が一般的な噂から知ったって言っていたぞ?」
「噂って! 王都の冒険者ギルドには、ばれてるのか? ウソだろ! 何処から情報が漏れたんだ!!」
マークスも激しく動揺している。
二人はネオンの組織の内容が王都で噂になっているとフロイデの情報から誤解をした。本当は賢者の石で仕入れいた情報で誰にもばれていない内容だった。
全てを知ったうえでアッシド町の冒険者ギルドはネオンに加担していたが、あくまでネオンの秘密がばれていないのが前提で王都で噂になるほど情報が駄々漏れであれば、身の保全を考えなくてはいけなくなった。
「いや、私たちは実は潜入調査をしている最中なのだよ! そうだったなマークス?」
「そ、そうだよフロイデ! それで潜入調査にフロイデも参加しないかと思って誘ったのさ」
そして勘違いが勘違いを生んだようだった。
「おお! そこまでアッシド町の冒険者ギルドは調査をしていたのか! 先生に聞いた事だが既に町の半分はネオン関係者だそうだ! 数がさすがに多いと思うので、まずはここでネオンを襲撃するための冒険者を集めようと思うのだがどうだろうか?」
「そ、それは良いプランだ! さっそく集めるので上の階の仮眠室で連れの方と待っててくれないか?」
「マークス! 話が分かるな。では頼むぞ!」
マークスがフロイデを二階の部屋に案内していく。
出て行く瞬間にホウレイとマークスが目でアイコンタクトするとホウレイが頷いた。
部屋から二人が出て行くのを確認した後に、ギルドマスターのホウレイが急いで冒険者ギルドにある地下への隠し通路を利用して地下へ降りて行った。




