043 ネオンに舞い降りる死神
アッシド町の地下に広大な、闇奴隷商人ギルドのネオンと言われる組織があった。
もはや地上の町よりも大きな地下町となっていて、地上の町の住人の半分以上が関係者になっていた。どんな事があっても不動の組織となっている。
その中に、バビル帝国から定期的に誘拐された獣人がやってくる。
今日も三人の獣人が、運ばれてきた。
「三人か? 今日は妙に少ないな?」
一時的に奴隷を仮置きする牢屋の門番が運んできた誘拐部隊に質問をした。
「今回は、獣人でも貴族クラスの若い女って希望があったから獣人の聖女に付いている貴族連中を狙ったんだ。護衛が強くて三人が限界だったのさ。まぁその分高く売れそうな弾ばかりだぞ」
薄汚れているが豪華な服を着ている三人がいる。人間に似ているが虎の耳を持つ少女と、全身が薄い鱗がある蛇のような少女。そして、全てが真っ白い狐の耳を持つ少女がいた。
「めちゃくちゃ可愛い奴しかいないな? 特に爬虫類大好きなボプラ将軍に、こいつめっちゃ高く売れるぞ!」
蛇のような舌を出している少女を見て言った。
「あの将軍の趣味は気持ち悪いがな。おら! お前ら檻に入れ!」
三人を小突いて牢屋に入れた。
二人のネオンの男が消えると閉じ込められた三人で会話を始めた。
「聖女様。まだ、ばれていないようですが、まずい状況ですね」
「私の代わりに逃げてもらったラビが、必ず皇帝に伝えてくれる筈です。私が生き証人となって、この組織を必ず滅ぼします」
狐耳の少女に蛇のような鱗を持つ聖女と言われた少女が力強く答えた。
「檻を壊して、暴れちゃいます?」
虎の耳を持つ少女が息を巻いて、興奮している。
先程、小突かれた事が腹立たしいようだった。
「まって! 逃げ出したラビが上手く伝えてくれていれば、今晩にでもバビル帝国から軍が到着するはずです。それまでは耐えるのです」
「わかりました! あいつらの顔覚えたので、その時に」
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ポッシュ町を出る際にフロイデとニュンと俺の関係について一波乱あったが、ニュンが嘘をつかない人物と言う認識だったのでフロイデがすぐに納得した。
昼過ぎには、アッシド町が見えた来た。
大声で飛竜の上で最後の打ち合わせをしていた。
「昨日は、変な夢を見たんですよ。なんかメロさんが実家に来たり、思い出せないけど思い出したらいけないものを思い出したような夢でしたね」
そういえば、メロが夜中に来た気がするなぁ。警備隊のような人と一緒だったから森長として夜の見回りをしてるんだろうな。偉い人だなぁと思ってしまった。
「本当にニュンぺーが女性でびっくりしたんだから! 二人はいかがわしい関係じゃなくて、護衛としてニュンぺーが先生を見張っていたのね。ニュンぺーさんは嘘が苦手そうだから信じられる」
「当たり前だ! 主君に身も心も捧げているが夜伽などするわけがない! フロイデ、私の呼び方だがニュンぺーは長いので今後はニュンで良いぞ」
ニュンに男として見てないと、はっきり言われると何故かちょっと傷つく。
「ニュ……ニュン。確かに言いやすいわね。ニュンは凄い人なんだから、なんで先生の事を主君って呼んでるの? そういえばキティも主君って呼んでたような?」
「主君は主君だよ。考え方が素晴らしいんだ。フロイデもそのうちわかるさ」
「そ…そう?」
「それよりもう少しで到着だ。ニュンと俺が組織の詳細を調べてくるから、フロイデはアッシド町の冒険者ギルドを調査してくれ」
「わかった。ニュンがいるから心配しないけど気をつけてね」
「任せろ! 主君は私が守る」
アッシド町の近くに着陸して、別々に移動した。
フロイデが町に行く後ろ姿を見送りながら、心配なのでムストを呼び出して影からのフロイデの護衛を頼んだ。
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フロイデは町へ向かったが、俺とニュンは町の外れにある誘拐してきた獣人を運び入れる秘密通路へ向かう。
賢者の石の知識で全てがわかっているので、調査などする気はなかった。フロイデが見ていないので能力全開で、すぐにネオンを壊滅する予定だった。
町に向かって流れる小川の横にある水車小屋に入ると地下へ続く道が隠されていた。
「直接乗り込んで壊滅しますよ」
「主君から借りている徳を見る眼鏡のおかげで、倒すべき敵を判断するのはかなり楽だな。赤くない奴はどうする?」
「放置でいきましょう。殺したら自分の徳が下がってしまうからね」
「了解だ」
地下に入るとネオンの関係者が武装して沢山出てきた。
全員が赤く見えて、排除対象者だった。
ニュンが声を上げる暇も与えず倒していく。
数が多いので俺も参戦する事にした。
力も素質もないので剣などでは無理だ。前世で知っている無反動の武器を幻で出現させた。
前世ではMKー九九ライフルと言われる反動キャンセル機構がついたライフルで、弾丸を発射した際の後方への衝撃を銃の中に仕組まれた重りを後方に送り出す事で緩和し後ろに押された重りは、バネでゆっくり戻ってくる。
普通なら後方に持っていかれるのだが、バネが戻る際に逆に前に持っていかれそうになる不思議な銃だ。
非力な私でも撃ちまくれる。
プシュ! プシュ!
消音装置も付けたので鈍い発射音だけが響きネオンの奴らを倒していく。
「主君、凄い武器だな。鉄の塊を飛ばす武器か? これは避けるのは至難の技だな」
説明もしてないのにニュンが武器の仕組みを言い当てた。まさかと思うが見えてるのか?
「飛んでいく弾丸が見えるのか?」
「見えるぞ! 避けるのは難しいが剣だったら撃ち落とす事は出来そうだ」
あらま! この人強すぎる。聖剣の能力なのか?
「出発前にレベルを測ったらⅥだった。だが第四騎士団のレッドに苦戦した記憶もある。まだまだだと思っている」
レベルⅥから、前世で言えば人間じゃない人達になるんだな。流石だな異世界。ニュンがいつのまにかレベルⅢからレベルが三段階も上昇している。
「お前らど…プシュ!プシュ!」
「何もだおま……プシュ!プシュ!プシュ!」
進んでいくと多くの眼鏡で見ると赤い奴らをどんどん倒していくが、とうとう例外が現れた。
徳を見る眼鏡で見ても赤くない人である。
十五歳ぐらいの少年で同い年ぐらいか?
「ぎゃあぁぁ」
「うおぉぉ」
「え? え?」
周囲のネオン関係者がライフルによって、バタバタ倒れていく事に動揺している。
カキン!
少年の持っている短剣を急接近したニュンが、叩き落とした。
「きゃ!」
声変わりしていないのか女の子みたいな悲鳴だな。
「君は、ネオンの一員か?」
「え? う…違うけどそうだ!」
意味がわからないぞ?
面倒なので賢者の石を触って情報を得る。
少年かと思ったが、ケイトの言う名の十六歳の少女だった。
お忍びでバース皇子がアッシド町に来ていて、多くの女性奴隷とキャッキャウフフしている所に、町で武器屋を営んでいるケイトの姉が美人だったので目を付けられてバース皇子に連れていかれた。
助ける為に、ネオンに加入したふりをして姉を探している最中というわけか。
簡単に連れていかれた事から、アッシド町がネオンと何処まで癒着しているか調べると、守備隊も冒険者ギルドもネオンに完全に乗っ取られている。安全かと思って冒険者ギルドに送り出したフロイデが危ないかもしれない。念のためムストの幻にも、ニュンと同じ不死属性を付加した。
「ケイトであってるかな? お姉さんを助ければ良いんだね。武器屋で待っていればすぐに連れていくよ。俺たちは、王都からネオンを壊滅に来た冒険者だ」
「ほ、本当!?」
ケイトがその場で泣き崩れた。




