042 幻惑
今日は三十年ぶりにフロイデが帰ってきた。
明日には旅立つようだが、小さいころから面倒をみてきたので顔を見ただけで嬉しい限りだ。
小さい頃から活発な子供だったから、外に出れる年齢になったら、すぐに町を出ていったからなぁ
ハイエルフのメロは、大きくなったフロイデに会えて嬉しかった。
ハイエルフは人間の十倍以上、エルフは五倍ほど老化が遅い。エルフの三十年は人間で六年ぶりの感覚である。
町の中心にある大木の中の異空間の奥にある神殿で、エルフの森に異常がないか魔法で調べていた。
「今日も異常はないようだな。ただ、やはり気になるな」
フロイデと一緒に来た冒険者が気になっていた。
メロの看破で黒鎧を着ている方は、ステータスは確認出来たのだが、もう一人の特徴がない男のステータスがどう考えても偽装だった事が気になった。
確実に飛竜でこの森に来たにも関わらず、能力が無いと見えるのだ。
召喚魔術師と言っていたが嘘であると見抜いていた。
神殿の中にある遠見の泉までいって、二人の冒険者の様子を見ることにした。ハイエルフは一度眠ると数年寝てしまう時があるが、普段の夜は寝ていない。
可愛いフロイデが騙されている事も考えて、今日は二人を夜通し見張ろうと考えていた。
二人が泊まっている部屋をのぞきこんだ。
「ん? 誰もいない?」
冒険者が泊まっているはずの部屋には、誰もいなかった。
変わったところを探すとベットに僅かに膨らみがあって、人間よりも小さな物にシーツを掛けて置いてある感じだった。
二人は何処にいった?
ハイエルフが持っている能力の生命力の探知でも、この部屋には誰もいないと感じられる。
夜に部屋を抜け出すとなると! まさか、新手の盗賊か?
急いで宝物庫に移動するが、何も異常がなかった。
気になってしまうと疑いが膨れていく。
深夜だったがフロイデの実家にメロが向かった。
ドンドンドン!
「誰!?」
「誰だ!」
「フロイデ私だ。メロだ」
「ええ!?」
「メロ様!?」
フロイデの母親とフロイデが出てきた。
事情を話すとフロイデが震えて始めた。
「あ! あ! やっぱり……ネロ様……早く寝ましょう。寝れば解決ですよ。忘れましょう」
「何を言っている?」
「先生…いや、ゲンワクの夜の姿を見ては駄目です。見なければ大丈夫です。早く寝ましょう」
「フロイデしっかりしろ!」
「早く寝ましょう……早く寝ましょう…早く寝るの!」
フロイデが強引に部屋に戻って行った。
残されたフロイデの母親のフロイライとメロが唖然とする。
「失礼した。フロイライ。フロイデが、おかしいようなのでよろしく頼むよ。私は、フロイデが何かに騙されているかもしれないから調べてくる」
「わかりました」
フロイデに事情を聞こうとしたら、フロイデがおかしくなってしまった。フロイデの母親に介護を頼んだが心配だ。
とにかく消えたフロイデと一緒に来た冒険者を探し出さねばいけない。
エルフの守備隊に連絡して、町の探索を開始した。
しかし、全く見つからない。
宿屋に行くと、自分が犯したミスに気がついた。
アッシド町の宿屋には、エルフ特有の魔法がかけられている。その一つに部屋の鍵をフロントに預けなければ宿屋から出れない。
だが、フロントに鍵は預けられていないのだ。
冒険者達は、部屋を一歩も出ていない。
しかし、部屋には生きている人は誰もいない。
ま、まさか? 誰かに殺されている可能性もあるのか?
急いで部屋に向かったが鍵が掛かっていた。
密室殺人!?
ドアを無理矢理開けようと思ったが、宿主に合鍵をもらう事にした。
一緒にいた守備隊に鍵を持ってくるように指示したところで……
「宿屋のオーナーから合鍵をもらってきてください」
「わかりました」
ドタン! ガチャ! キーーー
「こんな夜遅く何かあったんですか?」
部屋から鍵を開けてゲンワクと言った冒険者が出てきた?
「え!? 誰もいなかったよね?」
「え? 寝てましたけど?」
「へ!?」
混乱したがネロは必至に今までの状況を整理すると、フロイデについてきた冒険者が怪しいから無許可で部屋を覗いてみて、生命力探知を使って誰もいないと判断して悪い事をしている筈だと思って騒ぎ……最後には殺されて密室殺人の可能性を想像したんだが……
目の前に、ただ寝ていたゲンワクがいる……
「あ、いや、すまない。何か勘違いしてしまったようで! お騒がせした」
「いえ。問題なければ構いません。明日もフロイデに朝早く起こされそうなので寝ますね」
「そうしてくれ……」
守備隊に自分の勘違いだったと謝罪してネロは、神殿に戻った。
久々に可愛がっていたフロイデが帰ってきて興奮しすぎて幻惑を見たのか?
確かにあの部屋には誰もいなかったはずなのだが……
万が一何が起きても対応できるように朝まで神殿からアッシド町を見張るネロだったが、朝まで何も起きなかった。
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フロイデが宿屋に朝早くからやって来た。
フロントからゲンワクの部屋を聞いて、ドアを叩きまくる。
ドンドンドン
「先生! 朝だよ!」
「相変わらず朝が早いな。今行きますよ」
中からいつもと変わらないゲンワクの声が聞こえた。
「ニュンぺーさんは?」
「あ、いますいます」
「主君? もう朝か?」
「先に食堂行ってますよ!」
「了解!」
「主君! 私も早めに行ってくる!」
ドアが勢い良く開いたら、町娘の姿のニュンぺーが出てきた。
「え!!! ニュンぺーは女性だったの!!! 一緒の部屋ってどういう事!!!」
今更、声が一緒の女性が出てきてすぐにニュンペーと女性が同一人物だとわかったようだ。ニュンぺーが女性だと知って朝から一波乱起きるのだった。




