040 ゴールドの依頼
ニュンのクラスが、キティの推薦状によってシルバーになった。
形式上だが、シルバーの冒険者がパーティーを組めばゴールドの依頼が受けれる。
実際は、ブロンズの俺と組む二人だけのパーティーなので、冒険者ギルドの受付が実力不十分としてゴールドの依頼など受けれないはずだが、フロイデがその受付の為に問題なく受理されてしまう。
これって、規約違反はしていないが本来は駄目だよな気が……
ゴールドの依頼は、流石に重い内容が多い。
一番多いのはヒューズ王国からではなく、獣人の国であるバビル帝国からの長年に渡る大量の塩漬け案件があった。
それは、人攫いの撲滅関連であった。
毎年数千人以上が、ヒューズ王国へ誘拐されて奴隷として売り出されているという物。
本来、奴隷の売買は人目がある屋外で行なう事になっているが、裏で見えない所で取引されている闇奴隷商人の摘発や探し他人の案件など何十年も果たされない依頼だらけである。
最大の闇奴隷商人ギルドの名前はネオン。
このネオンの壊滅に動くと決めた。
流石にニュンだけでは不安なので、私も同行しようと考えている。
しかし、フロイデの説得が問題だった。
シルバー以上の案件担当であるフロイデの受付に黒鎧のニュンと向かう。
「フロイデ。実はネオンの壊滅の依頼を受けようと思ってるんだけど?」
「ようやくゴールド依頼ですね! ニュンペーさん一人で大丈夫ですか? あ、所詮、人間相手だから心配無用か?」
ニュンが過去に依頼を処理した際に、火竜をたった一人で十匹倒したと言う匿名の目撃者からの話を読んでから、ニュンペーが優秀だとリスペクトしまくりのフロイデであった。
「今回は、俺も行こうと思うんだけど?」
「へ? なんでですか? それなら不可です」
即答!?
「なんで駄目なんだ?」
「ゲンワクが休み取ると大変なんですよ! 受付が流れないし、書類も溜まるんです! 絶対駄目!」
周りを見て誰も並んでいない受付を見て溜息をついた。
「既にマニアル化して誰でも受付が簡単に出来ます。溜まった書類も全て整理済みです。もはや受付に並んでいる冒険者もいないようですが? 言ってる事がおかしい話です。代わりに後輩を受付にしますよ」
「駄目! 私だって休みが欲しいの我慢してやってるのよ! 絶対駄目!」
「それならフロイデも一緒に来れば良いのでは?」
ニュンが余計な一言を言ってしまった。
「あ! そうよね! ゲンワクさんと一緒にパーティー組めば解決ですね! 全く失念してた!」
「ちょっと待ってください。副ギルドマスターが不在は不味いでしょ!」
「大丈夫よ! 今はギルドマスターがいるから無問題! 早速準備しなきゃあぁぁ」
叫びながら受付の奥に行ってしまった。
マジか! フロイデに俺の能力が色々バレるだろこれ……
諦めてニュンと一緒に旅立つ準備を始めた。
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今回は、フロイデがごねなかったが、ギルドマスターのライオスがごねた。
「お前たちが留守にしたら、新しい部署の事など何も知らん! どうすりゃいいんだ!」と泣きつかれた。
徹夜で誰でもできるギルドマスター本部マニアルを作って渡したら、喜んで送り出してくれた。
ライオス! そんなんで大丈夫なのか!!
休暇をもらって残された残作業が全て片付いてから、王都から徒歩で歩いて人気がない所まで、新パーティーのエルフなのにグラマーなフロイデと黒騎士のニュンと俺が移動した。
フロイデは、妙に身軽だ。軽装備の革の鎧と弓矢しか持っていない。
「フロイデ? 荷物は?」
「こう見えてもシルバー冒険者ですからね。これですよ!」
腰につけている小さな袋に手を突っ込むと、袋に入らない大きさの鍋を出した。
おお! 賢者の石を触って知った知識にある収納袋だった。中に別空間が魔法で作られていて物が収納できる不思議アイテムだった。
「凄いな!」
「うふふ。持ってる弓も凄いのよ! それより貴方達は何故に手ぶらなの?」
ニュンは剣を持っているだけで、私に関しては何も持ってない。
何処までフロイデに教えるべきか?
「ええと、実は俺は召喚術師みたいな感じの能力でして……」
「召喚術師? ギルドマスターに聞いても教えてくれなかった秘密が! どんな物が召喚できるの?」
目の前に、いつもの大型飛龍を出現させた。
「な! なんじゃこりゃ! 本当に召喚獣? 大きすぎるでしょ!」
フロイデから見てもこの飛竜は大きいらしい。
「主君、早く行こう。到着までに日が暮れてしまうぞ」
確かに、今回の目的地はバビル帝国とヒューズ王国の国境付近のアッシド町と言う所だ。
賢者の石を使って既に闇奴隷商人ギルドのネオンの本拠地と指導者は全てわかっている。
飛竜がニュンと意思疎通していて、ニュンの事を舐めた。
「うあぁ、ベトベトだ。主君、この飛竜に名前をつけて良いか?」
「良いけどどんな名前だ?」
「空を自由に駆け回るのでカケル! カケル、今回も頼むよ」
クワアァァァ!
飛竜がカケルと呼ばれて鳴いた。
カケルが、首を下げて乗ってくれと合図した。
慣れた行動でニュンがサクッと乗ると、ドキドキしながらフロイデがニュンに手を引かれて乗り込んだ。
俺が最後に乗り込むと、目的地のアッシド町へ飛び立った。
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「いつまでまたせんるんだ! 第四騎士団のレッドは何処に行った!」
ヒューズ王国のヴァルト城の謁見の間で、フォルト王がラッセ宰相を責めている。
フォルト王は、四十代半ばほどで、ラッセ宰相は五十代後半に見える。
「いま、必死に追跡中との事でしばらくお待ち下さい」
「仕方がない! バビル帝国の聖女を秘密裏に誘拐しろ」
「そ、それは短絡的かと!」
「聖女がくれば勇者召喚が可能だ。すぐにでも獣人のバビル帝国に宣戦布告するのだから問題ない」
「その事で、朗報もありまして」
「なんだ?」
ラッセが、もったいぶった話し方をした。
「実は、近日オークションで巨大なダンジョンコアを購入しました。そのダンジョンコアが聖女の代替えになると宮廷魔術師から報告がありました。しかも、生贄すら不要だそうです」
「何故早く言わない!」
「ただ、あまりにも膨大な魔力を秘めているダンジョンコアの為に、勇者を一人ではなく大量に召喚する恐れがありまして……」
「それは! 素晴らしい! 何が問題なのだ?」
「過去に勇者に滅ぼされた国をご存知ないのですか?」
「御伽噺の幻影騎士団の話か? 奴らは幻の能力しかない詐欺師に騙されただけだ。綺麗どころの貴族の男と女を集めろ。籠絡して仕舞えば問題ない」
「わかりました。では、聖女の方はどうしますか?」
「第四騎士団に任せたのが間違えだった。第二騎士団の私の息子に行かせろ。確か奴隷ギルドに太いパイプを持っている筈だ」
「わかりました。バース皇子に依頼いたしまする」
「さて、急いで勇者召喚するぞ!」
バース皇子に聖女誘拐の話をする為に、ラッセが謁見の間を離れていった。




