039 俺の女神
俺はピューマだ。
十年前にミドルデビルの討伐の依頼を受けてパーティーで参加した。
しかし、上級悪魔のアスタロが強力な自分の手下の悪魔を作り出す儀式の生贄とするための罠だった。
アスタロは俺たちを結界で閉じ込めて、ありえない強さで集まった百人近い冒険者達を殺していった。
俺の親友のマグスが、閉じ込められた結界の一部を命をかけて破壊してくれたおかげで、俺とブラウドと言う騎士が逃げ出すことが出来た。
まるで悪夢のようだった。
復讐を誓った俺は、上級悪魔を倒すべくあらゆる手段で鍛えた。奴を完全に消滅させるために獣人の国に渡り、大きな武道大会に出場して過去に聖女が悪魔を倒したと言われるデモリッションナイフも取得した。
準備は、完璧であった。
まるで十年前の再現のような依頼が飛び込んできた。
再びアスタロが現れたのを悟って、依頼を受けて奴に騙された演技をした。
再開したアスタロは、前より強くなっていた。
しかも、強力な魔物がもう一体いるじゃないか!
凄い美人でサキュバスにしか見えない。
人間じゃないのは一目瞭然だった。
アスタロが用意した料理を尋常じゃない速度で食っている。
俺は、この料理を知っている。
蠱毒と言って魔力によって美味しさだけを非常に上げた料理で悪魔の主食だ。
豊富な魔力が含まれていて沢山食べると魔力酔いで動けなくなる品物だ。
見た目も強力の魔力で偽装されてる。
そんな物をバクバク食ってなんともないなんて上級悪魔に違いない。
問い詰めるとアスタロがすぐに正体を表したので、隙をついて最大の攻撃を行った。
だが、頼みの綱だったデモリッションナイフも効かなかった。
まさか、ここまで強くなっているなど想像もしていなかった。
死を覚悟した瞬間に、もう一人の悪魔がアスタロを瞬殺した。
しかも、グランドヒール!?
グランドヒールって!? 御伽噺に登場した幻影騎士団にいた女神と言われた聖女が使用した最上級回復魔法だぞ?
俺が非常に混乱したところに……
転移門まで現れた!
え? 個人レベルで使える魔道具だっけ?
そして、幻のように消えていった……
まさか、ほんとはさっきのアスタロじゃなくてミドルデビルで俺がなんか勘違いしてないよね?
周りに聞いてもお前はあっていると教えてくれる。
そうか! 窮地な俺を女神が助けにきてくれたのか!
混乱して意味不明な事を妄想してしまう俺だった!
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ブラウドが、アルス公爵領へ老飛竜で向かっていた。
十年前の上級悪魔アスタロに殺されかかった自分が関わった案件と、黒騎士が受けた依頼が類似しているからだった。
「まさかなぁ。考えすぎだといいんだが」
アルス公爵の館に着くと、館全体が強力な結界で入れなくなっていた。
何故か結界を大剣で叩きまくるレッドがいた。
飛竜を降りてレッドに話を聴く。
「何事だ?」
「ジジーか? 黒騎士がこの館に入った情報を得たんだが結界で入れなくなってやがる。しかも尋常じゃない結界だぞこれ」
「まさか、十年前と同じことが起きるとは……」
結界の中から十年前に感じたアスタロ気配を感じた。この気配は当時よりもアスタロが強くなっている?
と思ったら、気配が消えた。
「え!?」
「どうしたジジー?」
バリバリ! パリン!!
そして、結界にヒビが入って割れた!
「お! 俺の攻撃が効いたのか? とりあえずいくぜジジー」
二人で大広間を目指すと、ぶつぶつ言っている十年前にアスタロから一緒に脱出したピューマという冒険者と彼の呟きに必死に首を振る冒険者達がいた。
何が起きたんだ?
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ニュンとキティを呼び出す時間になった。
転移門を開いても誰も出てこない。
何かあったのだろうか?
転移門に入ろうとしたが、見えない壁があって入れなかった。
対になっている転移門に異常があったのだろうか?
しばらく消えていた賢者の石のアクセサリーを幻で出現させて首からかける。
賢者の石を触って調べた。
『この転移門の対になっている転移門が存在しません』
え? ニュンの目の前に出現するようにしたはずだが?
『強力な結界で遮断されていています』
どうすれば良いんだ?
『結界を壊せば良いかと』
強力な結界が壊れる幻の発動?
ニュンの周りの結界が壊れる幻のイメージをすると、少し魔力が減った気がするが上手くいったような気がする。
再び転移門をニュンの前に出すイメージをすると、げっそりしたキティが腹が膨れたニュンを引っ張って出てきた。
二人ともドレスアップされていて、ニュンは眩しいぐらい綺麗だし、キティも大人の女性の色気を感じてしまった。
何があった!?
「主君! ただいま! 今日はご馳走になってしまって晩御飯は一緒に食べられない。ゲップ!」
「今日中に推薦状は書くよ。やはり主君の関係者と一緒に冒険はなるべく避けたいな。自分の価値観が崩れていく音が聞こえる」
帰路を待たずに、この場でキティが依頼を完了する気であった。
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アスタロ事件の後にアルス公爵は後処理をしていた。
アルス公爵の繁栄はアスタロによって持たらされた所が大きく今後どうすれば良いか途方に暮れていた。
「まさか永遠の命を手に入れる予定が、こんな事になるなんて……」
執務室で一人で悩んでいると、右手が熱くなった。
アスタロが倒された際に、残っていた粘液を右手で触ったところが、あれ以降青く変色していた。
「あ、あつい。あの粘液を触ったのは失敗だった。呪いの類なのか?」
『いいや、違うぞ。助かったよ死にかけていたが、お前のように同調してくれる人間がいてくれて。時間がかかるが復活して復讐しなくてはな』
執務室には誰もいない筈だが声が聞こえた。
「だ、誰だ!」
『ここだ。お前の右手だよ』
アルス公爵が右手を見ると掌に大きな口が出来ていた。
『全く。死にかけたよ。まぁ、お前の願いを叶えよう。俺の体になって悪魔になり不老不死だな!』
「アスタロ様? ち、ちょっとまって……」
ガブ!ボリ、ボリ……
右手の口が大きくなってアルス公爵を頭から食べた。




