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038 狂乱

 大広間では、立食の晩餐会のような食事が振る舞われていた。


「キティ! これ物凄い美味しいです! そこのメイドさん! この飲み物をもっと持ってきて!」


 大食いのキティが見ても気持ち悪くなるほど、ニュンが食べまくっている。


 広間には、見覚えがあるクラスがシルバー冒険者が十人程と有名な閃光のピューマと言われているクラスがゴールドの冒険者がいた。

 その他は、様々だが全員で五十名はいる。


 過去に毒を盛られた経験からキティは出された料理には手をつけなかった。


 ピューマも一緒で、様子を伺うように何も食べずにいる。


 大広間の奥の部屋からアルス公爵が現れた。


「ようこそ勇敢なる冒険者よ。私の為に遠くから集まってくれて感謝する。本来なら私の近衛兵や騎士を使って対応したいのだが、国の為ではな個人的な事に使用してはならぬと考えて、私財を用いて君達に集まってもらった。遠慮なく楽しんでくれたまえ」


「一つ質問があるのだが?」


 ピューマが手を挙げた。

 武装は何もしていないが、動きやすそうな革の鎧を装備している。


「これは、私でも知っている有名な冒険者ではないか? 確か閃光のピューマだったか? どんな質問かな?」


「冒険者の中に、悪魔が二人いるんだが今殺して良いのか?」


「は!? それはどう言う意味だ?」


「そこにいる小太りの親父と、めちゃくちゃ食ってる貴族の女性が悪魔だと言っている」


 ピューマがニュンとその近くにいる小太り親父を指さした。


「何故、わかった?」


 小太り親父の低い声が響くと、部屋の壁が生き物のように脈動して出入り口が消えた。


「な、なんなんだ?」

「罠だったのか!」

「これだけ冒険者がいるんだ問題ないぜ」

「まさか?」

「うげぇぇ。これ食ってたのか!」


 さっきまで食べていた物が、腐乱した肉や得体のしれない物に変化していく。


 騒ぎ出す冒険者の中でニュンは、得体のしれない物を黙々と食べていた。


「見かけは変わったが美味いぞ?」


 キティは、それを見て自分の頭を押さえる。

 主君に仕えてるだけあって、ニュンも異常な奴だったか……


「俺の狙いは、上級悪魔のアスタロだ。お前の討伐依頼が出ている。この依頼に絡んでいる事は知っていた。上級悪魔はプライドが高いから顔を変えないで姿を現すからな。忘れたか!? 十年前にお前にパーティーを全滅させられた者だよ。顔を覚えていたからすぐにわかったぞ。それと、お前!」


 ピューマを無視して食事を食ってるニュンの食べている物を奪う。


「これは、蠱毒に近い効果がある食べ物だ。一定量以上食べたら異常をきたす筈が、バクバク食ってる! お前も人間じゃない!」


「え!? 人間だぞ?」


「ピューマと言ったか? 私もその女は知らないぞ?」


 アスタロが、不思議な顔をする。


「とにかく、お前らは生贄として死んでもらう。強い冒険者ほど儀式には有効だからな」


 ズバン!


 ピューマが隠していた不思議な形のナイフを閃光の速度で、小太り親父だったアスタロの額に打ち込んだ。

 額にナイフが刺さったままで、アスタロが笑い出した。


「あはははぁ。まさかこれが攻撃? 確かに痛いですが、痛いだけですね?」


「馬鹿な! そのナイフは聖女様が一撃で上級悪魔を倒した伝説のデモリッションナイフだぞ!」


「聖女が使えばそうなりますが、カスのお前が使っても中級悪魔程度しか倒せませんよ。無知すぎて楽しくなってきましたね! 暗黒オーラ!」


 小太り親父から尻尾と羽が生えてきて口から長い犬歯を覗かせる。

 圧倒的な悪魔の気配にシルバー未満の冒険者が気絶する。

 会場にいたメイドと執事が下級悪魔に変身する。


「そんな馬鹿な! 苦労してお前を倒す為に準備した物が無効だと」


「武器の持ち込みは、ダメだって聞いたぞ。お前、刺さってるぞ? 治癒しないと!」


 緊張感がない声が響くと、アスタロの額に刺さっているナイフをニュンが抜いた。


「ギャアアアアあああああああ」


 聖女のニュンにデモリッションナイフが抜かれたのだった。


「額に穴が空いてるじゃないか! よく即死しなかったな? グランドヒール!」


 アスタロ周辺が治癒の渦に包まれる。

 周囲の悪魔たちが苦しんで、黒い霧になっていった。

 溶けるようにアスタロが粘液になって消えていった。


「うあ! 失敗したのか!?」


 小太り親父を殺してしまったと思ってニュンが動揺する。

 慣れているキティは、唖然としたが投げやりにニュンに説明する。


「大丈夫だよ。さっきのがミドルデビルだよ! いやぁ早く見つかってよかった! 討伐完了!! アルス公爵依頼終了の確認をお願いします」


「へ? アスタロ様!?」


 アルス公爵がアスタロだった粘液に近づいて、粘液を触った。

 キティがその肩を力強く掴む。


「アルス公爵様? さっきのがミドルデビルで冒険者が倒した。それで良いですよね?」


 キティが、低い声てアルス公爵の耳もと囁く。


「わ、わかった! そう言う事だ! 助かったぞ冒険者たちよ! 私は気分がすぐれないから奥に戻るが、依頼終了の手筈はしておくから安心して解散してくれ」


 この異常な展開を目の当たりにしたピューマと意識を失なわなかったクラスがシルバーの人達は、唖然として動けなかった。


「ちょっと待て。いや待って? どう言う事? アスタロは!? グランドヒールって広範囲回復魔法の頂点だよね?」


 そこに、止めの現象が発生する。


 バリバリ!パリン!!


 広間が異様な雰囲気だったが何かが壊れる音ともに、壁が元の姿に戻り消えた扉が現れていく。


 光が部屋を包み込んで、ニュンの目の前に転移門が現れた。


「ピューマさんでしたよね! 私は結構ファンです。今度何かあったらよろしくお願いします」


 キティは、クラスがゴールドの冒険者のオタクでピューマに会ったことに実は感動していたが、この状況は辛いので逃げることにした。


 転移門に、ニュンを連れて飛び込むと転移門が幻のように消えていった。


 ピューマが意識はある冒険者の方を見て質問した。


「さっきの転移門だったよね? あれって国家レベルで作れる門だよね? 俺がおかしいのか? さっきのがミドルデビルでアスタロなんかいなかったって事か?」


 質問された冒険者は、みんな必死に首を横に振っていた。

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