037 複雑な心
ニュンぺーとキティは、馬を走らせている。
夜になればニュンぺーの前に転移門が出現して街に戻り。
朝になれば馬を置いて置いた場所に転移門で戻ってくる。
これを、会話もなく繰り返した。
もうすぐアルス公爵領である。
馬をいつものように走らせながら、なかなか聞き出せなかった事をキティは聞くことにした。
「主君とニュンぺーの関係は、なんだ?」
「ん? やっと話しかけてくれたね。嫌われているかと思っていたよ」
「ニュンぺーが主君と仲良く晩御飯を食べてるのを何回か見かけた。主君の強さ……いや、異常さは理解しているつもりだが、ニュンぺーに関して私は何も知らない」
「ニュンでいいですよ。今度からはニュンって呼んでください。ムストさんと一緒ですよ」
「なんだと! ニュンぺ……ニュンは、死んでしまったのか?」
ニュンが、ゲンワクと出会った話。ゲンワクが徳を稼ぐ為に行動している話をした。
不思議と、ゲンワクの能力と自分の能力に関しての説明は、説明しようとすると思い出せなくなるので主君が無意識下で話して欲しくないのかと感じた。
「うおおん。うおおん。感動した! ニュンにはそんな過去があったのだな! 主君と良き出会いだったのだな! ますます主君に惚れてしまった」
ニュンの過去を聞いて思わずキティは泣いてしまった。
出発前にニュンの方がキティより強いと言われた事で、ニュンを敵対視していた。
しかし、ニュンが死者でムストと同じ存在なのを知ってから、キティは自分の中の嫉妬心が消えていくのを感じた。
しかし、逆に自分だけ生きている卑怯な気持ちになった。
「ニュン。すまなかった。これからよろしく頼む」
「え!? はい」
二人で握手をした。
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アルス公爵の館に到着すると門番に止められるが、冒険者ギルドから依頼を受けて来た事を告げるとすんなり館に案内された。
馬を預けて、割り当てられて部屋に二人で入った。
討伐は、明日の予定だそうだ。
ギリギリ間に合った感じだったようで、館に入った最後の冒険者だった。
今回の依頼の詳細はこうだった。
アルス公爵に恨みを持つ何者かが、悪魔と取引してアルス公爵殺害を依頼した。
今回は悪魔から殺害予告がアルス公爵へ届いて、指定した日に殺しにくるとアルス公爵の使用人十人の生き血でかかれたメッセージが、アルス公爵領の広場に描かれていた。
強い悪魔ほどプライドが高い。
下級悪魔は、予告などせずに襲ってくるし、上級悪魔であれば、こんな事に手を貸す事はない。
それを考えて殺害予告があると言う事は、中級悪魔のミドルデビル以上の悪魔だと断定した。
急いで各地の冒険者ギルドに討伐依頼を送って冒険者を集めた。
指定日は、明日という事だ。
用意された部屋でくつろぎながらニュンとキティが会話していた。
「ニュンは、鎧を脱がないのか?」
「万が一がありますし、夜になって主君のところに戻れば、普通の服に勝手に変わりますから。キティは、なんで少し露出度が高い鎧なんですか?」
「少しは女らしく……主君にあってから、ちょっと恥ずかしく思うよになったかな」
キティが真っ赤になる。
握手してからだいぶ二人とも打ち解けて、よく喋るようになってきた。
二人で雑談を楽しんでいると、明日に備えて集まった冒険者を広間に集めて顔合わせと食事会を行うとの事で、武装を解除して集まってくれと執事から連絡が来た。
「どう思う?」
「なんかやな予感がするんですが……」
「私もだな。武装解除って? 装備が財産の冒険者に対して言う言葉ではないな」
「依頼ですから、装備を外していきますか?」
「仕方がない」
鎧を脱いだら下着しかないので、メイドに自分に合う服を持ってきてもらうように頼んだ。
二人とも鎧と武器を外して、下着姿になる。
キティは、筋肉が凄いが女性特有のボディーラインは維持していて綺麗だった。
ニュンは、いつもは黒鎧に抑えられているが豊満なスタイルだった。
二人はお互いの身体を見てにやける。
メイドが持ってきた服をきると、男にみえるはずのキティがちゃんと女性に見えるし、ニュンは貴族の女性のようになった。
「恥ずかしいな。こんな服は初めてかもしれない」
「私もですよ」
そんな二人が、メイドに案内されて大広間の食事会場へ案内された。
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大広間の横にある待機室でアルス公爵と使用人が会話をしていた。
「アルス公爵様。冒険者たちを集めました」
「会場の出入り口は、全て閉鎖したか?」
「最後に女性二人が入るのを確認した後に、強力な結界を張りました。聖女クラスでなければ、もはや脱出できません」
「これで私もアスタロ様に、悪魔にしてもらえるのだな」
「はい。永遠の命と強固な力が手に入ります」
「アスタロ様は、何をしているんだ?」
「冒険者に混じって、獲物を吟味しています」
「後は打ち合わせ通りに動けば良いのだな」
「はい」
いつのまにか使用人の外見が、悪魔のような外見の尻尾と背中に翼が現れて口が耳まで裂けていく。




