035 脱出
とんでもない奴と話していた事がわかった。
盗賊団のリーダーだったバンは、第四騎士団に襲いかかる黒騎士を見て唖然とした。
あの強くて無慈悲で最悪の第四騎士団が苦戦している。
団長のレッドと言われる男を知っているが、そいつと互角以上にやり合っている?
一人で倒すつもりか?
しかし、数には勝てないのか最後には両腕を捥がれて捕縛されていた。
俺のせいか?
仕方がないのだ。そう、今までも自分の為に他人を騙して来た。
最後に黒騎士が言ったことが気になった。
『ああぁ、実は主君から良い人を誤って殺さぬように、徳を見る眼鏡を借りて来ている。わかりやすく言えば悪い奴は赤く見えるんだ。お前は赤くないから行っていいぞ』
俺は赤くない?
心の隅にシコリのように、その言葉が残った。
意味を知りたいが、もはや無理だろう。
隠し通路を多数知っているので、黒騎士がやられたのを確認して急いで城から脱出をはかる。
隠し通路を走っていると、十二歳程のフードを纏った女の子が立っていた。不釣り合いな高価そうな杖を持っている。
「なんだ? お前は?」
「おお、丁度良いのじゃ。実はヒューズ王国の首都まで戻りたいのだが、金貨三枚でどうじゃ?」
こんなところで、見ず知らずの人に護衛の依頼だと?
頭がいかれてるのか?
「持っている金貨を全部よこすなら良いぜ」
「先払いなのじゃ? ほれ」
バンの手に金貨が十枚載せられる。
十枚!? なんだこいつは?
何故か身の危険を長年の感が伝えてる。
「じゃぁ、受諾だな。俺についてこい」
追いつけない速度で走り出した。
バンの能力は韋駄天であり移動速度が通常よりも速い。
この能力のおかげで多くの危機から逃げて来た。
もとより、こんな馬鹿な依頼など受ける訳がない。
逃げてしまうつもりだった。
振り向くと自分の影しかなかった。
振り切ったようだな。手元に残った金貨十枚はあるので夢や幻の類ではなかったんだな。
王都か? 取り敢えず今回の騒ぎから身を潜める為に行ってみるか。
王都に向かって再び走り出した。
走り出した自分の影が、杖を持っている事には気がつかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黒騎士と一緒に盗賊団の残党を全て処分した。
逃げ出した者もいたと思うが、壊滅と言って良いだろう。
黒騎士と初めて出会った大広間に第四騎士団を全員集めて、少し遅い晩御飯の用意を始めた。
「今日は、もうすぐ夜になる。ここで一泊するぞ。ニュンぺーと言ったな。お前はどうするんだ?」
「主君の所に戻りたいのだが、ここから戻っても半日かかるから今日中には無理だな。美味そうな匂いがする。晩御飯を奢ってくれ。あと盗賊団の壊滅を冒険者ギルドに報告してほしい」
「報告は自分でやらないのか?」
「どうすれば壊滅と言えるのか依頼書には、書いてなかったからな」
ニュンぺーが懐から先ほどの戦闘で自分の血がついた依頼書を取り出した。
レッドが手荒くそれを奪う。
「……一カ月の間に、バン盗賊団が誰も襲わなければそれを証明とするって書かれてるぞ?」
「おお! それでよかったのか! 助かるよ。字を読むのがまだ苦手でな」
こいつは馬鹿なんだな。騙して王都に連れていけば今回の任務完了か?
それにしても、こいつが聖女?
なんで聖女がこんなに強いんだ?
突然、ニュンぺーの前方が光り出した。
「な!?」
「うぁ! 主君か?」
光が収まると、過去に転移門と言われる移動手段を使ったことがあったが、その小型版の小さな人が一人通れる程の門が現れた。
門がゆっくり開いて虚空をのぞかせる。
「すまない。主君が迎えに来たようだ。また機会があったら晩御飯をご馳走してくれ」
「ちょ、ちょっと待て! なんだそれは! 転移門なのか?」
レッドの制止も聞かずに門にニュンぺーが入ると、幻のように門が消えていった。
「マジか!! 本当に転移門だったのか?」
周囲の目撃した第四騎士団とレッドが呆然とする。
「これ、なんて報告すりゃいいんだ!!!!!」
極悪非道な第四騎士団らしからぬレッドの悲痛な叫びが響く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
晩御飯の時間のなってもニュンが返ってこなかった。
今日ニュンが受けた依頼を見るとバン盗賊団の壊滅?
確か飛竜でも半日かかるような場所だ。
時間的に帰ってこれないだけかもしれないし、依頼中かもしれないし困ったな。
前回の海賊の依頼で傷ついたニュンを見た事を思い出す。
やはり、気になる。
自分の目の前に転移門を出現させて対になる転移門をニュンの目の前に出現させる。
出現させたら、すぐに血だらけのニュンが現れた。
「血だらけ!?」
「あ、主君大丈夫だ! 聖杯に入っていた超回復薬を飲んだから傷などないぞ! 血は殆ど返り血だ」
「聖杯!? それより綺麗にしよう」
急いで、ニュンを町娘の服装に変身させる。
「主君の能力は便利だな!」
ぎゅるるる
ニュンペーの腹が鳴った。
「まぁ、晩御飯の時間ですね。食堂に行きますか?そこで話を聞かせてください」
「はい! 主君!」
ニュンが通った転移門は幻のように消えて、何事もなかったように二人でギルドの食堂へ移動した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
元第一騎士団団長のブラウドが、老飛竜に乗ってスカウトしたい冒険者が行こうとしている盗賊団アジトを目指して空を飛んでいた。
王都から飛竜で半日かかる場所だったので、冒険者を余裕で先回りして久々の腕慣らしで盗賊団を自分で壊滅させても良いかとも考えていた。
「貴族共には、なにかと理由をつけられてバン盗賊団には対応出来なかったが、騎士団を辞めたから自由だ。冒険者には悪いが先にやってしまうかな」
飛竜と共に高速で飛びながら、にやけながら独り言を呟いた。
盗賊団がいると思われる城跡に近づくと、上空に巨大な飛龍が旋回していた。
「なんじゃ、あの飛龍は、大きすぎるだろ!」
通常の飛竜は、一人載せることが出来る大きさで大きい方である。自分が搭乗している老飛竜は、通常よりも遥かに大きく重いブラウドを運んでいる最大級の大きさの飛竜のはずであった。
今見ているワイバーンは、老飛竜の二倍近い大きさがあった。しかも、人に従っている特有の騎手を待つ旋回を城跡の上空でしている。
「既に騎手が、城跡にいるということか? ま、まさか既に盗賊団を壊滅に来ているのか?」
急いで城跡にある大きな中庭へ降り立った。
「襲ってこない所を見ると、やはりあの大型飛竜には騎手がいるのだな」
中庭に老飛竜を待機させて、城の中に入ると見慣れた第四騎士団の火蜥蜴マークが入った騎士たちがうろついていた。
第四騎士団!?
「これは、ブラウド団長じゃないですか? 何故ここに?」
「こちらのセリフだ。今は引退したから団長ではない。ただのブラウドだ。団長のレッドはいるのか?」
「ちょうどよかったです。今、団長は手がつけられない程暴れていまして」
案内されると、レッドが壁や柱を大型の剣を八つ当たりのように叩きつけて壊していた。
「お前が、荒れるとは珍しいな。戦闘中以外は、いつも冷静だと思ったが?」
「ん? ブラウドのジジーじゃねーか? なんでここにいるんだ?」
レッドに、城跡についてからの経緯を聞いた。
え? レッドと戦闘してレッドが負けて、中身が女で聖女でしかも……スカウトしようと思っている冒険者と目的が一緒って事は!?
しかも、転移門を開いて立ち去った?
あり得ない!
だが、情報は手にれたぞ。黒騎士の姿で名前は、ニュンペー・テミス・ゼウス。
それが、狙った冒険者の情報なのか?
「レッドよ。聖女を連れて帰らんといけないんだろ? ここは共同戦線をはろうではないか?」
「どういう事だ?」
「冒険者だったのだろう? 冒険者ギルドで待っていれば勝手に来るだろ? 二人で捕獲するぞ」
「あ! そうだった! ジジー! ここまで飛竜できたのか? 貸せ!」
「馬鹿を言うな。お前が乗ったらすぐに振り落とされるぞ」
「くそ! お前ら早馬だ! 脚の速い馬を持ってこい」
冒険者ギルド襲撃の計画を練ってブラウドとレッドが動き出した。




