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034 第四騎士団

 城の大広間に第四騎士団の軍勢が雪崩れ込んで隊列を組んだ。


 重装備の者や軽装備の者もいて形はバラバラの鎧だが、全て白い鎧に火蜥蜴のマークが入っている。


 整列した騎士集団の後にゆっくり小柄の男が入ってきた。

 高級そうな派手な皮鎧で全身を固め、背中に自分と同じ大きさ程の大剣を背負っていた。


「レッカ団長! 第四騎士団先行隊百名、全員揃いました。突入の際に発見した男性盗賊は、見つけ次第四十二名処分しました。女性盗賊が一名いましたが聖杯を渡しても水が湧き出なかったので処分しました。ただし盗賊団は、なにものかと既に交戦中だったようで、私達と関係ない新しい二十以上の死体も確認しています」


 レッカ団長と言われた小柄な男が頷いた。


「ボスミアご苦労なだ。女以外は全部殺せ。女は聖女か確認後に聖女以外は殺せ。散開して……」


 ドン!バリバリ!


 レッカが副団長のボスミアに話かけている最中に、土煙が上がって上から何か落ちて来た。


 吹き抜けの広間だったので上から飛び降りて来たのか?


 問答無用で近くにいた重歩兵二人が、出現した全身が黒鎧の騎士に襲いかかった。

 それに対して、黒鎧の騎士が躊躇なく重歩兵二人を一刀両断する。


「マジか? 盗賊団にも化け物がいたのか? 重歩兵の鎧が役に立ってねーじゃねーか! こいつはヤバイぞ。斬撃は受けずに避けろ」


 既に命令してる間に、ライトメールの部下が四人ほど斬りこんだが、一瞬で倒された。


 一人でこの人数に突っ込んで来る?

 周囲に仲間でもいるのか?

 しばらく様子を見るが、レベルはさほど高い感じはしないが剣術の腕が凄い。

 他に仲間もいないようだ。


「レベルⅤぐらいか? 面倒だな」


 背中に背負った大型の剣を、引き抜いて戦いの準備を始める。


「お前ら、下がってろ一騎討ちだ!」


 レッカが、上段で思い切り黒鎧に襲いかかる。

 避けるでもなく、容易に剣で受け流された。


「マジか!」


 切り返した黒鎧の剣がレッカに迫る。


「なめんじゃねーぞ」


 両手で持っていた大剣を左手だけで支えて、自由になったレッカの右手から魔法(ファイヤーボール)が出た。

 黒鎧に直撃した。

 全身が火に包まれているにも関わらず、全然構わずにレッカに襲いかかってくる。


「本当に人間か!?」


 再び両手で大剣を握ると、燃えている黒鎧と対峙する。

 二回、三回、四回……何回も剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。


 レッカは、感動していた。

 もはや、自分とまともに戦える者がほとんどいなかった。第一騎士団の団長とは、良い勝負で楽しめるが模擬戦までだ。今の本気の生と死がかかった戦いに興奮がおさまらず剣速が上がって行く。


「お前! 最高だな。だがレベルが低いな。どう見てもレベルⅤ程度で剣術の腕で戦えている感じだ。悪いが俺はレベルⅥ以上だ」


 レッカが大剣を斬るではなく、槍のように構えて突撃した。

 黒鎧が、剣で受け流そうとするが力で強引に直進する。


 黒鎧の腹に大剣が深々と刺さった。


「楽しかったぜ……」


 レッカが、勝利宣言をしている最中に、何事もなかったように、黒鎧が剣を振って襲って来た。

 黒鎧から抜けない大剣を離して、急いで離れるが間に合わずレッカの首に剣が迫る。


 ズバ!


 黒鎧の剣を持ったままの右手が宙を飛んだ。

 背後から副団長のボスミアが、黒鎧に襲いかかった。

 もう一度、斬りかかったが瀕死の筈の黒鎧は、余裕で回避して残った左手でボスミアの顔面に殴りかかった。


 一撃で沈黙したボスミアを放置して残った左手で、自分に刺さっている大剣を抜こうとしたが、長すぎて抜けない。

 その姿が滑稽で何故か笑ってしまった。


「お前、マジで化け物だな。ボスミアがいなかったら死んでたのか? まぁ、結果だからな」


 気絶しているボスミアから剣を取ると、黒騎がなんとか腹に刺さる大剣を抜くが、左手だけでは上手く扱えないと悟ったか素手で再び襲ってくる。

 躊躇のない行動にレッカが急いで剣を構える。


「右手が無くなった分、軽くなって動きが速い?」


 先ほどの動きを想定していたので、慣れない剣を使った事も重なり黒騎士の首を狙ったはずが、頭部の鎧に剣を防がれて、衝撃で剣を落としてしまった。その隙に黒騎士に体当たりで押し倒された。

 衝撃で黒騎士の頭部が外れて、長い赤髪の美女が現れた。


「お、女!?」


 黒鎧に馬乗りになられて、左手で殴られる。

 一撃一撃が重く気が遠くなる程だった。


 ズバ!


 黒鎧の左手が宙を舞った。


 残っていた部下が背後から黒騎士の腕を斬り落としたのだ。

 両腕が無くなった女が、レッカの首筋を噛んだ。

 部下が女をレッカから引き離す。


 噛みちぎられた首を抑えながら、レッカが感動した。


「本当に一騎討ちだったら二回……いや三回か? まさか連続で負けるとは! お前、凄いな? しかも女?」


「今回は、失敗だな。まさか盗賊団のリーダーに負けるとは。まだまだ鍛錬が足りないな」


 部下に押さえつけられて口が血に染まった、両腕がない女が独り言を行った。


 ここまで来て、未だにレッカを無視している事に腹がたつ以前に惚れた。


「ちょっと待て! 俺らは盗賊団じゃねーぞ?」


「なんだと!!! そ、そうか! あの盗賊騙しやがったな! それは不味い事をしてしまったな」


「それよりお前は誰なんだ?」


「冒険者ギルドの依頼で、ここにいるバン盗賊団を壊滅しに来たニュンペー・テミス・ゼウスという者だ。間違った事は謝罪するが、正当防衛だぞ! 襲って来たのはそちらが先だ!」


 出血で顔色が悪くなったニュンペーが、平然と反論してくる。


 こいつ面白い! 俺の騎士団に入れたい。しかもゼウスと言う名前は、俺が大好きな御伽噺に出てくる英雄の一人の名前じゃないか? 子孫か?


「ボスミア起きろ!! 治癒師を呼んでこい。念のため聖杯も持ってこい」


 気絶しているボスミアをレッカが蹴り飛ばした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 誤解が解けたので、治癒師にニュンぺーの腕を治してもらったが、付いただけで完治しなかった。

 もう剣が握れないだろうと治癒師が言っても平然として、『たいした問題ではない』とか笑って言っていてますます惚れた。


 無理にでも治癒方法を探して治ったら部下にしようと画策する。


 念のためにほとんど動かないニュンぺーの手に聖杯を持たせると、聖杯に水が湧き出て来た。


「え!?」


 湧き出た水を躊躇なくニュンペーが飲み干す。


「凄いなエリクサーが湧き出す魔道具か? ありがたい」


 すぐに聖杯をレッドに返して、腕を回し始めるニュンペーを見て周囲は呆然とする。


「お、お前は馬鹿か!! 訳がわからない水をいきなり飲むか? しかも、お前は聖女なのか?」


「ん? まさか主君の知り合いなのか? 私が聖女なのは主君と私しか知らないはずだ!」


「主君が誰だか分からんが、聖杯を聖女に持たせれば治癒力が高い奇跡の水が湧き出るからわかったんだよ!」


「本当か!」


 レッドが持っている聖杯をニュンぺーが強引に奪って再び持つが水は湧いてこなかった。


「嘘ではないか!」


 このニュンペーって頭が残念なのか?

 そこも惚れた!


「馬鹿か!? 湧き出る水は聖女の魔力によるものだ。さっきの水でお前の魔力が空になったんだろ。悟れよ」


「まぁお陰でバン盗賊団の討伐が継続できるな! 助かったぞ! いや襲われたから手伝えって怒れる立場か?」


 ヒューズ王国で冷徹で非道な第四騎士団をつかまえてそこまで言う女騎士か? レッドは、生まれて初めてかもしれない女性に対する好奇心で心踊った。


「わかった。第四騎士団は、この件について全力で手伝おう」


 その後も、一緒に盗賊団討伐をしたのだが、捕まえられている人や奴隷の可能性など考えずに、出会った瞬間に自分よりも容赦なく一刀両断で盗賊を倒していくニュンペーを見て、女性の怖さを心に刻んでしまう。


 ニュンペーは徳が判定できる眼鏡を利用して、徳の量がマイナスである人物だけを襲っていたのだが、知らないレッドは無差別に殺戮する血だらけの悪魔に見えた。


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