031 策謀
ゲンワクが冒険者ギルド本部に来てからギルドマスターのライオスは、地方ギルドに用件があって副ギルドマスターのフロイデに任せて本部を空けていた。
ライオスが久々に帰ってくると、ギルドの雰囲気が全く変わっていた。
いつも疲れていた事務員が明るく笑っている。
依頼を受ける冒険者も前より多くなっていて、前は暗い雰囲気が微かにあったが、今は景気が良いような顔をしてる者ばかりだ。
自分の仕事部屋に戻って溜まっている処理をしようとすると、送られてくる書類が請求書への入金の承諾サインではなく、入金や納品の承諾サインだらけで黒字ラッシュだった。
自分が知らない間にギルドの事務部署に、リサイクルの部署と堆肥工場の部署が増えていて、そこからの売り上げが今までのギルドの売り上げを上回る勢いだった。
ギルドに入ってくる依頼処理の数も伸びている。
特にクラウンの『鉄の処女』から提出されたダンジョンコアが、ヒューズ王国のオークション市場最高値の金貨二十万枚(日本円で二百億)を叩き出し国宝として国に売却された。
手数料として仲介した冒険者ギルドに一割が入るので、この取引だけでも金貨二万枚の収入だった。
副ギルドマスターのフロイデを呼び出して、この異常事態の説明を求めた。
「なんなんだ? この事態は? 部署は勝手に増えているしフロイデは知っていたのか?」
「もちろん知ってますよ。引き抜いたゲンワクさんが凄いんですよ。次から次へと計画を練って実行していくんですよ。みてください数百件あった塩漬け案件が、半分になってますよ!」
依頼完了の紙の束を持ってくる。
あの幻の能力使いの少年か?
これじゃ過去の幻の能力使いのようじゃないか?
まさか、幻影騎士団見たいな存在も出てきたりするのか?
まさかな?
今は、昔と違って幻の能力は有名だ。
だが幻の能力を持った者が、実際には今までいなかった気がする。
そうだ、あの御伽話は有名で幻の能力の知名度は非常に高いが、実際にその能力を持っている者が今までいたか?
何か時代が動いてる気配を感じた。
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ダンジョンコア回収から、バタバタしていたが日常が戻った。
朝は、フロイデにドアを叩かれて起こされて、勉強を教えながら朝食をとる。
仕事前にニュンと王都の外に飛竜を呼び出して、前日の夜に厳選した塩漬け案件の処理に行ってもらう。
そして、色々な人々がくるギルド受付業務を開始する。
怪しい人物を見つけると、ムストを呼び出して調査してもらう。
危険人物であれば、裏でムストが解決する。
昼になったら昼飯食べながらギルドの運営に関してフロイデと打ち合わせをする。
そして、午後もギルドの受付をするのだが、午後は既に依頼を受ける冒険者がほとんどいないので、ギルドの収支などの帳簿の整理と依頼の整理をする。
依頼達成や魔物の買取などは、役割を分割して今まで支払いも受付でやっていたが、受付は受付業務だけにして、ギルドの魔物解体所の横に支払い業務だけ行う支払所を新設して、お金の流れをスムーズにした。
そして、一日の業務が終わると、ニュンとムストと合流して一緒に晩御飯を食べて寝るという事を繰り返していた。
順調に徳が増えている気がする。
ただ、調べたい事があると言って何処かに行ったルヘンが気になってきた。
そういえば、勇者召喚の話もあったな。明日からムストを使って調べさせるかなと思いながら眠気に負けて寝てしまった。
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「聖女のいる場所がわかりました」
「なんだと!」
ヒューズ王国のヴァルト城の謁見の間で、フォルト王にラッセ宰相が報告をしている。
フォルト王は、四十代半ばほどで、ラッセ宰相は五十代後半に見える。
前までは、鑑定の上位である解析の能力を持っている王宮魔導師でヒューズ王国を調べれば必ず国内いると解析できていたが、それが今は複数いると結果が出る。
聖女の位置を特定する能力がある闇魔導師が、一番魔力が高まる深夜に調べると何処にも存在していないと言う結果だったものが、場所を示したのだ。
今まで矛盾していた内容に回答が出た。
一人の聖女は、夜だけ強力な結界に守られていると考えれば現状の結果に繋がる。
聖女が二人に増えた謎は残るが、今までは夜に実行できる場所探査すらできなかったので凄い前進だった。
「第一騎士団を全員使ってもよい。直ちに聖女を連れてくるのだ」
「第一は陸軍のボプラ将軍ぐらい頭が硬いので、聖女を丁重に扱って時間がかかる恐れがあります。
ここは第四騎士団を使って、急いで連れてきましょう」
「あいつらを使ったら、聖女がどうなるかわからないではないか?」
「大丈夫です。生きていれば宮廷魔術師に陣を可能な者がいるので手足が無くても問題ありません」
「わかった第四を直ちに派遣しろ」
「わかりました」
「それで、場所はどこなんだ?」
「不死王伝説が有名なビンベルト帝国の首都跡地です」
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ニュンペーが黒鎧の状態で、クラスがシルバー以上の依頼対応用のフロイデがいる受付にやって来た。
「この依頼を受けたいんだけど」
「ニュンペーさん。今日もご苦労様です。この依頼ですか?」
「前と同じでブロンズのゲンワクさんと一緒のパーティーと言う条件なら受けれますよ。それより、クラスアップの昇級試験受けてくださいよ」
「か、考えておこう」
火竜の討伐成功からフロイデのニュンペーに対する評価が上がっており、強いのに何かしらの理由があって冒険者をやっている人と認識している。
困っているところを、お人好しのゲンワクが面倒を見てクラスが上の仕事を受けれるように形だけパーティーを組んでいると思い込んでいた。
フロイデ的にも、ニュンペーが活躍すれば形だけでも同じパーティー扱いのゲンワクの評価が上がって、ゲンワクのクラスがシルバーになる際に役に立つと考えて黙認してドンドン依頼を受けさせていた。
フロイデは、未だにニュンぺーが女性なのを知らなかった。知っていたら少しは状況が変わっていたかもしれない。
依頼を受けた後に急いで王都から離れて飛竜を置いてある場所へ移動する。
「今回の依頼は遠すぎるので、帰りは消えて戻るしかないようね。盗賊団の壊滅ってどうやって証明すれば良いのかしら?」
情報屋から盗賊団の本拠地を聞いてわかっていたが、飛竜でも半日かかる距離だった。
依頼の達成条件を考えながら、ニュンペーが凄い速度で移動を開始した。




