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029 御伽噺

「大昔から伝わるお話なのじゃ。


 世界がたったひとつの国に統一されていた時代があった。

 戦争がなく平和な国だったが、生まれながらの種族差別、血統による差別、能力による差別などあらゆる差別がまかり通り、弱き者には地獄のような国であった。


 そこに、幻を見せる事が出来るお人好しの青年が生まれた。

 本当に大した事がない能力であったが、戦争が無くなった平和な国では絶大な力を表したのだ。


 幻の能力でちょっとしたトラブルを、彼は無償で解決していった。

 力ではなく勘違いや思い込みだけで無血で解決していくのだ。

 救いを求めていた弱き者には、幻の能力は天界から来た神に等しい力に見えるのだった。


 国の裏で彼を祀った宗教的な軍団が出来ていった。

 その集団は、悪徳な支配者達を影で駆逐していき、幻影騎士団と言われた。

 彼が暴力を使用しない政治的な側面を、幻影騎士団が武力的な側面を解決して大勢力へ発展する。


 最後は、国に幻影騎士団の存在が暴露されて彼は処刑されたのだが、残された幻影騎士団がクーデターを起こし国を滅亡させた。


 その際に多くの英雄や勇者と言われる人物が幻影騎士団に参加して活躍した。

 その際の英雄譚が、子供の頃は皆の憧れであった。

 それの影響は大きい。

 その処刑された青年に似ていると感じたのではないかな?」


「そんな話が世界で子供に伝えられてるとは、幼少期が幻の生活だったために知らなかった。

 そんな、御伽噺は知らなかったが幻の能力はこの世界でも異質だったのかな?」


「いいや、当時は幻の能力は、知名度が低かった事と使用魔力が大変低い為に気が付かずに皆が騙されたが、今は対策が練られておりゴミの能力扱いだぞ。

 だが主君の幻の能力は、実体化までしていて異質だ。

 当時の彼以上に騙せるだろう。

 私も幻影騎士団には憧れていたからな。これから主君と呼ばせてもらう」


 なるほど……冒険者ギルド本部のマスター。キティ。そして三人目の私の正体を知る者を眺めて途方にくれる。

 ニュンとムストは、私の幻だからな。


 こんなはずじゃなかったんだがな。


「紹介が遅れたな、我は聖女のルヘンなのじゃ。ルヘンと呼んでくれてよいのじゃ。ひさびさに温かい食事が欲しいのじゃ」


 あれ、さっき少しだけ普通に話してなかったか?


「のじゃ」ってわざと言ってないか?


 ダンジョンコアを持ってルヘンが俺の手を取った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 キティの部屋に転移門を出現させて移動した。


「戻ってきたか主君! 先程は、失態を晒してすまなかった」


 着いて早々に土下座してキティが下を向いている。


「逆に付き合わせた感じですまなかった。ダンジョンコアは、無事にとってきた」


 キティが顔をあげて五十cm級のダンジョンコアを見て凍りついた。


「な? なんだその大きさは!!」


「え? これ大きいの?」


「………定期的に百年おきに回収にいくダンジョンコアで一cmクラスで金貨千枚……未踏破ダンジョンでも千年クラスで十cmで金貨五千枚だが、それって!?」


「そんなデカイのか? まあ、後はキティに任せるから売却して余った資金は、徳を稼ぐのにでも使ってキティが管理してくれ」


「ええ!!」


 キティにダンジョンコアを渡して、ルヘンと一緒に冒険者ギルドへ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ルヘンが数千年振りにギルドにある食堂で、食事を食べ始めた。


「美味いのじゃ!! 思い残す事はないのじゃ!! 大往生じゃ」


「なんか表現がおかしいのでは?」


 徳を見るメガネで、ルヘンを見るが時間逆行の為に不死王(リッチ)の際に人間を大量虐殺したはずなのだが、徳がプラス方面で赤く見えなかった。行為自体も逆行するのか?


「なんだそのメガネは?」


 考え事をして油断した隙に奪われてルヘンが使用する。

 周囲を見渡すと、驚いた顔をした。


「数人赤くみえるようじゃな。聖女だから何故赤くみえるかなんとなくわかるぞ。悩んでた理由は、我が赤くない事じゃろ? 我が赤くない理由は、リッチだったからじゃよ。魔獣が人間を襲うのは生存の為に仕方がない弱肉強食じゃよ。人間の食べる訳でも身を守るわけでもなく同族を殺す事とは別なのじゃ。だが我がリッチの際に元同族を大量に事した事実には変わりがない。主君の下で徳でも稼ぐかの」


 話していると黒鎧のニュンが、塩漬け案件を処理して戻ってきた。


「主君! 戻ったが、その女の子は誰だ? 趣味に関しては言うつもりは無いが若すぎるのではないか?」


 待て、俺の設定は十五歳ぐらいのはずだ。ルヘンと二歳離れているのかぐらいにしか見えないはずだが、何を言っている?


「やはり主君は、年上の私のような女性の方が似合うと思うのだが?」


「主君? この黒鎧の男は誰じゃ?」


「あら。私はお姉さんですよ」


 ニュンが黒鎧の頭の部分を外した。


「げ。うむむ」


 ニュンは、かなりの美女でルヘンが少し引いた。

ルヘンの顔に敗北感が漂っていた。


「今日はどんな塩漬け案件を処理してきたんだ?」


「聞いてくれ主君! レッドドラゴンを討伐してきたぞ」


「ちょっと待て、それはクラスがシルバー以上の案件でクラスがアイアンのニュンじゃ受けれないだろ?」


「え? 受けれたぞ? 主君がブロンズで私とパーティーを組んでいるから、パーティーを組んでいる場合は依頼書に特記事項がない限り、一つ上のクラスの仕事が受けれるじゃないか? 受けれれば主君が早く戻ってくると言ったらフロイデさんも喜んで受注してくれたぞ」


 普通は、そんな依頼を通さないがフロイデが犯人だった。あとで詳しく話を聞かせてもらおう。


 当面の資金をルヘンに渡すと、調べる事があると言ってルヘンがギルドの食堂をあとにした。

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