027 リッチの過去
三千年前のルヘン・タンミラクは、ミラク王国の女王だった。
当時の世界は、人間の国だけでも大小で五十以上存在している戦国の時代であった。
ミラク王国は、代々の女王が聖女の力を持つ不思議な国だったが、ビンベルト帝国が聖女の魔力を利用した結界を開発した事がミラク王国の滅亡を早めた。
当時十三歳になって聖女の能力を発現したルヘンを欲したビンベルト帝国が、同盟を組んでいた筈のミラク王国を裏切りルヘンを生け捕りにして王国は滅んだ。
そして、ミラク王国の王城が各国を攻めるのには都合がよかった為に、そこにビンベルト帝国の王都を移転した。
ビンベルト帝国の王都にある王城の北と南に右手と左手。東と西に右足と左足を設置され城の中心に、自殺防止の為に舌を抜かれて、目を潰されて顔も溶かされて魔法で作られた生かすだけの能力がある培養培養槽に、ルヘンは入れられた。
城が襲われる度に、ルヘンの意思とは無関係に培養槽から枯渇する程の魔力が吸い取られ何度も何度も城を結界で守った。
最強の盾によってビンベルト帝国は、大きくなっていった。
月日が流れて人間の国々が統一されてビンベルト帝国とヒューズ王国だけになった。
最終決戦を控えた時期にビンベルト帝国の皇帝が十四歳の息子に、結界装置の説明をおこなった。
「父上、この気持ち悪い物はなんですか? 人間の胴体のようですが生きてるんですか?」
培養槽に浮いているルヘンの手足がない胴体を見て、やな顔を息子がしていた。
「こいつは、先代から受け継がれている結界装置だ。
その培養液で溶けてしまっている人のような物は、元は聖女だったと聞いているが怪しいものだ。ここの操作パネルで自由に結界を出せる。ここが結界強度と残魔力の表示盤だ。ただ魔力がゼロになると装置が壊れるから絶対にやってはいけないと言われている」
ガチャン!
皇帝が操作パネルを操作した。
「うあ! 城の周りに白い結界が! 父上凄いです! この気持ち悪い奴もピクピク動いてます。面白い!」
「今日からお前に使用を許可しよう。上手く扱うんだぞ」
「はい! 父上!」
次の日にヒューズ王国と争う事なく、ビンベルト帝国は滅んだ。
馬鹿な十四歳の少年が、いたずらに結界を最大出力で長時間使用した為だった。
今まで結界を利用する際に何度も何度も魔力を使用されたルヘンの魔力量が成長して人外の魔力量になっていたのだ。
ルヘンが寿命による自然死であればよかったのだが、魔力枯渇による死は、魔力が全く無い死体の為に周囲から邪気を取り入れてゾンビやグール化になる可能性が高い。
人外の魔力があるルヘンが魔力枯渇で死亡した事により、様々な条件が重なりルヘンが不死王として誕生した。
誕生から数時間でビンベルト帝国の王都周辺の生命の生命力を全て奪うと、人間の間で最大最悪の畏怖する不死王伝説だけを残して消えた。
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十三歳になって女王を継いでから、悪夢のような事が続いて意識がしっかりして目が覚めたら、黒衣をまとった骸骨になっていた。
自分がいた国は、滅んでしまったのだろうか?
誰かに聞こうと思うだが、近くによるとみんな倒れてしまう。
生きてる人と会話がしたいが、接近するだけで死んでしまうようだ。
数年間、彷徨い多くの人を殺してしまった。
仕方がないと言え、どうにかしなくてはいけない。
我がきた事で全て死に絶えた町に、一人の男が立っていた。
「これは、珍しい。凄い勢いで私の生命力が吸い取られてますね。ワインを買い付けに来たらみんな死んでしまっていて困っていたところです。初めまして、私はメッキと言います」
「貴方は死なないのじゃ? 何でじゃ? 何故話せるのじゃ?」
もう泣けない筈だが、涙が出ている気がする。
「これは、面白い。私は面白い事が好きですよ。まずはその常時能力で発動している非接触でも有効な生命力吸収を止めないと駄目ですね。私以外はみんな死んでしまいますよ」
「はい……」
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メッキに教えられて多くの事を知った。
自分は不死王と言う存在になってしまった事。
通常は、魔法に詳しい魔術師が魔法の深淵を探求して膨大な魔力量を身に付けた状態で魔力枯渇で死ぬなど多くの条件を経てなるのだが、偶然なってしまった我は、全く魔法の知識がない不思議な不死王だった。
その為に制御ができず、多くの人々を殺してしまった。
力が制御できる迄は、メッキの勧めでダンジョンの地下に住むことにした。
メッキから多くの事を学んだ。
そして力の制御が出来た頃に、魔物から人間になる人化の術がある事を禁呪魔道書から知る。
十三歳まで辛い記憶しかない。復讐も勝手に終わってしまっている。望んでリッチになったのではない為に求める目的もなかったので、人間に戻って一般の幸せを手に入れる事を目的とした例外的なリッチになってしまった。
人間に戻ろう! 時間は無限にあると言える。
長年の研究の結果、リッチから人間に変身して戻る事は不可能と言う結論に達した。
だが巨大なダンジョンコアと各地の秘宝、最後に賢者の石の知識があれば時間逆行と言う手段で過去の人間に戻れる可能性を見出した。
そして、ダンジョンコアと各地の秘宝は集まり、賢者の石の精製で最終段階を迎えようとしていた。
そこに、ダンジョンコアを求めて多くの冒険者がやってきた。
自動で発動していた能力の生命力吸収などを抑えれるようになっていたので、会話して諦めてもらっていたのだが問答無用で襲ってくる者や、仲良くなった演技をして最後は背後から襲う者など騙されて続けて、すっかり人間不信になってしまった。
リッチの姿の間は、人間を信じないし敵だと思って対応する事にした。すぐに人間を殺してしまうメッキに頼んで第十階層にこもったが、再び人間が現れた。
メッキに人間を寄せ付けないように頼んでいた筈なのに、また人間が来た。
嫌な気分になりながら、ダンジョンコアを失う訳にはいかないので排除しに移動した。
震える男のような女戦士と特徴がない村人のような人物がいた。
また、私を騙すのか都合が良い事ばかり村人が話すので抑えきれず、押さえていた魔力が膨れ上がる。
女は失神したが、何もなかったように村人は会話を続けた。
そこからが、おかしい。どう考えてもこの村人は人外だ!
無造作に投げた魔道具系の武器かと思った物が、あれほど欲した賢者の石だった上に、転移門を何の問題なく出現させた。
転移門は、レベルⅨの魔王ですら個人で出現させるとか無理だから!
投げてきた賢者の石を放置したまま、出現させた転移門に失神した女を連れて村人が転移していった。
え? 賢者の石は? もらっていいの!?
恐る恐る落ちている賢者の石と言っていた黒い塊を触ると世界の叡智が流れ込んできた。
本当に賢者の石だ!!
彼は、ゲンワク! レベルⅢ? 能力なし? それはないだろう!! じゃあどうやって転移門を出せる?
今までの嘘を言う人間じゃない? だが、おかしい?
彼の事だけは信じてみようかと思い、転移門に顔を入れた。




