026 ダンジョン攻略三日目
自分の部屋で寝るとフロイデに見つかって算数の授業を強制される可能性があるので、ギルド本部の自分の部屋に戻らないで宿屋に一泊した。
久々にゆっくり起きた気がする。
ダンジョンに潜っている間に、ニュンには冒険者ギルドに溜まっている人気がない塩漬け案件を処理してもらっている。
宿屋の食堂で朝食をニュンと一緒に食べているところだ。
「主君の事だから、もうダンジョンを踏破したのか?」
「まだだけど十階層が最後なら今日中に終わるかもしれないかな」
「さすが主君だな。私も頑張って昨日は三件は処理したぞ!」
「凄いな! 特に問題は無いのか?」
「そうだな、移動用に何か召喚していただけるか?」
朝食後にダンジョン初日に乗った飛竜をニュンに服従している条件で幻ので出現させて渡した。
「助かるよ。主君! 行ってくる!」
初めて乗るとは思えない程慣れた感じで、飛竜に乗り込むとすぐに飛び立ってしまった。
その後にキティの所に行くと、目にクマをつくて私を待っていた。
「ゲンワク様は、本当はなんなんだ? 私も主君と呼んでも良いか? もはや心が持たない」
なんかキティが壊れてきている気がする。
本当の話を許せる範囲で教えよう。
「実は私は……」
強力な幻の能力がある事、いつも見ているのは実体がある幻だが、所詮幻で私が寝れば消えてしまう事を話す。
「なるほど、そう考えると悩む必要はないのか? 人間なんだな! 実はゲンワクが王とか皇帝とかじゃなく、生命の起源的に神とか天使など、とんでもない程偉い人で身分を隠して世直しに来たかと思って悩んでいたんだ。何しろ始祖が従うと言うのはそれぐらいの事だったんだ。幻で強く見せたという事だな。極端な話、ゲンワクが何を目指しているか聞きたい。ギルド職員になって何を目指している?」
「徳を積む事かな?」
「そうか……ゲンワクが良ければ私も主君と呼ぼう」
「どう言うことだ!?」
「ムストの気持ちがわかっただけだ。主君。早くダンジョンに行こう」
ニュン、ムストに続いてキティもか……
幻の能力が何か違うものを無意識下で見せているんだろうか?
十階層に向かう転移門を出現させてキティと一緒に入った。
十階層に入り奥に行くとそこは研究所のようだった。
しかも、狂った研究所だ。
檻があって多くの奇形魔獣や改造された生物が閉じ込められいた。
奥に行くとこの世界では珍しい筈のガラス製実験器具が所狭しと並べられ、加熱され蒸気を出している。
「なんだ、ここは? 本当にダンジョンの中なのか?」
「空気が澱んでる気がするなぁ」
キティが油断なく慎重に前進する後ろを口を布で押さえてついていく。
あちこちで怪しい液体の湯気が立ち上っているので、気分が悪くなる。
賢者の石を触って状況を確認すると空中の薬品成分は、身体にとても良いものばかりで害があるものが無い事がわかった。
これは偽薬って奴か?
知ってしまえば、先程の気分が悪くなったのが嘘のように清々しい。
知らないキティは、気分が悪くなった顔をしていた。
思い込みの力って凄いな。幻の能力に通じるものがある。
『お前たちは、何者なのじゃ!!』
目の前に黒衣のボロフードを纏った骸骨が現れた。
「まさかリッチか?」
キティが剣を構えるが、手が震えている。
『メッキに管理を任せていた筈なのじゃ? どうやって侵入したのじゃ?』
「メッキに普通に通されたぞ?」
『え? そんな馬鹿な話はありえないのじゃ。人との交わりを絶って二百年ほどかの? 生きた人間を実験に久々に利用するのもよいかの?』
一方的に決められてもねぇ
完全に俺達を敵とすら見ていないレベルだな。
「ダンジョンコアが必要で来たんですが、頂けませんか? 欲しいものがあれば代わりに可能であれば用意しますよ」
『ほう! じゃあ、お前の体をもらおうかの?』
「良いですよ。それだけで、本当に頂けるんですか?」
『やはり人間は、平気で嘘を付く生き物なのじゃ? 死ねと言っているのじゃが?』
「嘘とは心外ですね。どうぞ」
リッチの前に自分の首無しの死体を出現させる。
「じゃあダンジョンコアをください」
……暫くリッチが首無しの俺の死体を、触ったり持ち上げたりしていた。
『ど、どうやって出したのじゃ!? 確かにお前の体なのじゃ!!』
「約束守ってください。早くダンジョンコアの場所まで案内するか、現物ください」
狼狽えるリッチに向かって手を出して寄越せサインをする。
『正式な契約ではないのじゃ。口約束では駄目なのじゃ。署名にて契約すれば持ってくるのじゃ。契約するからどうやって自分の体を出現させたか教えるのじゃ』
なんか面倒になってきた。倒してもよいと思うのだが意思の疎通が可能な生物はなるべく倒さない方が徳が増える気がするので、賢者の石を触ってリッチを解析する。
壮絶なリッチの過去を知るのだが、再び人間に戻りたい為に研究している?
「人間に戻りたいリッチ!?」
『!!……何故それを知ってるのじゃ! メッキが話したのじゃな!』
「人間に戻したら、ダンジョンコアをもらって良いならすぐに戻しますが?」
『え!?』
「レベルⅨの不死王がいるのに、普通に会話してる。もうだめ、主君は、おかしい、おかしい、おかしい……」
リッチと会話していると、キティが剣を捨てて頭を抱えてブツブツ言い始めた。
『何処まで、我を馬鹿にするのじゃな? 人間になる方法などお前が知り得る訳が無いのじゃ! 何千年も我が研究し試算している事を謀るつもりかの!!』
リッチの骸骨の空洞の筈の目の部分が真っ赤にになって、周囲に不穏な魔力の渦が動き出した。
もう、面倒なので首からぶら下げている賢者の石を、外してリッチに投げつける。
リッチが物凄い速度で、それを避けた。
『魔導武器かの? 当たらなくては意味はないのじゃ! もはや会話不要のなじゃ! 我を馬鹿にしたのだ、楽に死ねると思うなのじゃ』
「それ、賢者の石ですよ。それを触って本当か嘘か調べてください。連れてきた者がおかしいのでちょっと対応させてください」
「はい!?」
俺は平気だったのだが、リッチの魔力に当てられたキティが泡をを吹いて倒れてしまった。
キティの部屋に行ける転移門を出現させる。
『え!? 転移門!? 馬鹿な! ありえんのじゃ! 準備もなく個人でそんな物が出せる訳……』
背後からリッチの声が聞こえる。相手にせずに危険な状態のキティを背負って部屋に移動し寝かせていると、転移門からリッチの骸骨だけが現れた。
『疑って悪かったのじゃ。戻ってきてくれなのじゃ』
「今行きます」
再び、一人で第十階層へ戻ってリッチと対峙した。




