020 幻の死
ニュンペーはゲンワクに指示された海沿いの洞窟へやってきた。
洞窟の入り口に二人の男が立っている。
「おい、お前たち! 海賊が奪った品物がこの洞窟にあると聞いている。調べさせてもらうぞ!」
黒鎧の武装したニュンペーを見て、ごまかすという考えはなかったようですぐに襲いかかって来た。
カン!キンィ!
男が剣を構えてニュンペーと斬り合う。
「問答無用ですか? なら遠慮はいらないですね」
前世の鍛えた剣術で対応していく。
「つえぇ…」
少し本気を出すと二人の男が洞窟の奥に逃げ出した。
「待ちなさい」
追って行くと洞窟の広い場所で十人の男が待ち構えていた。
「なんだ? 冒険者か?」
「ここまで来ちゃったって事は殺さないと駄目ですね」
「鎧が高く売れそうだな」
「運がない奴だな、トップの会議中に入り込むとは」
「ほかに仲間がいるかもしれない。油断するな」
「舐めるなよ。お前たち海賊か?」
「なんだよ、わからないのに攻めて来たのか? 俺たちが海賊って情報が、何処から出てきたか聞こうと思ったがカンで来ただけのようだな。やっちまうぞ」
「こいつ、どっかで見たことあるな」
「生け捕りじゃなくていいだろ」
一斉に十人の男たちが襲いかかった。
左右から迫りくる剣を避けて自分の持っている大剣で、かわしたらすぐに海賊達の腕や脚を斬りつけていった。
大柄な海賊と比べて、ニュンペーは女性なので力で劣ってしまう。受けずに避けと流しで攻撃を回避して行く。
なるべく殺さないように対応していたが八人目を相手している際に、足を切り落として無力化したと思っていた片足の奴がニュンペーの足を掴んだ。
そのため、大男のハンマーの攻撃が避けれずに直撃した。
剣を離して三メートルほど飛ばされる。
鎧のおかげで胴体は潰れてないが、打撃のダメージで頭がクラクラする。
早く武器を回収しなくては、落とした武器を取りに行こうとすると残った海賊に頭を蹴られた。
あと二人だったんだが、油断したなぁ。
蹴られた衝撃で黒鎧の頭部が外れて顔があらわになる。
赤い長い髪と、汗にまみれた美しい顔が外気に晒された。
「オメェ、女かよ!! 得役じゃねーか! 動けなくしてから覚えてろよ!」
「へばってるぞ、一気にやっちまうぞ。それにしてもレベルⅢ以上の奴しかいないのに、ここまでやられるか?」
残った二人の男に左右で挟み撃ちにされている。
落としてしまって武器もない。
「主君に見られたくない状態だな。まぁお前らとは覚悟が違うんだよ」
無手で剣を構える右側の男に突っ込む。
剣が体に迫るが無視をしてそのまま、男を倒して馬乗りになる。多少斬られたが接近していたので力が入らなかった為か鎧が守ってくれた。
馬乗りになってマウントポジションを取ったニュンぺーが両手で男の顔面を殴りまくる。
これであと一人。
グサ!
背中から最後の一人に刺されたようだ。
殴られて力尽きて剣を離した男から剣を取ると、背中に刺さった剣を無視して、背後の最後の一人に襲いかかった。
「なんなんだよ! なんで剣が刺さってるのに動けるんだよ!」
最後の一人の首を刎ねた。
「初めから慈悲をかけずに手足ではなく首を狙って殺してれば、こんな事にならなかったのかな? 主君の影響か? 残った奴を処分しよう」
「た、助けてくれ」
「駄目だな」
まだ、息がある男達に止めをさしていった。
命乞いをする者もいたが、死にかけている為か慈悲をかけるゆとりはない。
最後に自分の背中から刺さっている剣を、抜こうとしたが手が届かない。
こんな海賊如きに、遅れをとるんじゃ主君の騎士としては失格だな。
ゆっくりと目を閉じた。
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ニュンが、夜になっても帰って来なかった。
もう一度、幻で出現させても良いが、既に幻が存在している時にもう一度出現させるとどうなるか予測がつかない。
逆に勝手に出現させている幻を消すのも、今まさに海賊対応中であれば迷惑をかけてしまう。
「寝れないし!」
危険だが、ニュンに教えた海賊達の隠れ家に行く事にした。
海賊達がいるはずの洞窟の入り口で慌ただしく動く多くの人達がいた。耳を澄まして情報を得ようとするとわずかに聞こえてくる。
「仲間は他にいなそうか?」
「場所がバレてるかもしれないから荷物を移動する準備しろ」
「誰か、こいつの情報持ってこい」
失敗したのか? ニュンは強いイメージがあったが、やられてしまったのか?
洞窟の入り口から見えない場所で隠れていると背後から声が聞こえる。
「おい! お前誰だ?」
「散歩中のものですが?」
「怪しい奴だな!? ちょっと着いてこい」
「お断りします」
「殺すぞ!」
剣で脅されて洞窟へ運ばれてしまった。




