019 過去視
奴隷市場で金貨三十枚を使って、ムストの娘を無事買い戻せた。
マリファの都市には、教会が経営している孤児院がある。残った金貨を全て寄付して預かってもらった。
娘が不思議そうな顔をしていたが、一言だで伝えて別れた。
「君のお父さんが死ぬ際に、頼まれた。既に謝礼はもらっているから気にしないでくれ」
伝えると泣き出していたが孤児院の人に頼んですぐに別れた。
ムストと一緒に冒険者ギルドに向かって歩き出した。
「名乗らなくてよかったのか?」
「面倒がみれるわけではないので、いいんですよ。神様、本当にありがとう」
「神様は辞めてほしい」
「じゃあ、主君!」
「普通にゲンワクで良いですよ」
「いや、それじゃ俺の気持ちが収まらねぇ。ニュンぺーだって主君って呼んでるじゃねか。主君にはこれからも呼び出してもらいたいしな! 俺を兵隊として使ってくれ」
懐かれても困るが、確か過去視の能力があるって言ってたな。
「過去視ってどんな能力なんだ?」
「触った人物の過去が見えるのさ。任意じゃなくて色々見えるが隠し事してたら探るのには有効だ。すれ違って少し接触するだけで結構見える」
不思議な能力だな。使いどろこはありそうだ。
「試してみたいから俺を触ってくれ」
「主君に触って? いいんですか?」
ムストが俺の手を握った。
「え? う、うげぇぇ」
突然、嘔吐した。
「どうした!?」
「主君……大丈夫です。昨日の晩御飯は、シチューでニュンペーと一緒に食べましたね?」
「確かにあってる。だが能力を使うと嘔吐するのか?」
「いえ、なんか今日は調子が悪いみたいですみません。主君が寝るまで私は消えないのなら、少し用事を済ませたいのですが、良いでしょうか?」
「構わないですよ。今後もまた呼び出す事があったら頼むよ」
「……了解です。主君」
過去視を使ってからムストの調子が悪そうだ。
幻の能力で現れてる存在が能力を使った弊害かもしれない。
ニュンの場合も気をつけてやらないとな。
ムストと別れて冒険者ギルドに到着した。
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ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
主君は、ヤバイ!
昨日の記憶を読みとろうとしたら、別のシーンも断片で入ってきた。
蛆が湧いている食事。青白い自分の腕。腐ってる人々。ゴブリンと水汲み? 自分の眼球が落ちるシーンとか、あり得ないんだけど!
思わず吐いてしまった。
過去にそんな経験を……
主君は、一体何者なんだ?
主君が何者でも、俺を助けてくれた存在だ。
詮索しないのが一番かな。
消える前に、姉貴にもう一度会ってこよう。
ムストが、『鉄の処女』のクランへ走って移動して行った。
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「勇者召喚を本当になさるのですか?」
ヒューズ王国のヴァルト城の謁見の間で、フォルト王にラッセ宰相が訴えいてた。
フォルト王は、四十代半ばほどで、ラッセ宰相は五十代後半に見える。
「反対なのかラッセ? 私の代で三ヶ国を統一しようと思わんか?」
「それは良いと考えておりますが、異世界から勇者を召喚して戦力にするのは反対です。制御出来なければ敵対する可能性もあるわけですよ」
「なんだ、そちらの心配か? 召喚する際に成人前の生贄を百人ほど必要とするから、そちらで反対しているかと思ったぞ」
「所詮、奴隷を当てますからたいして問題はございませんよ。海軍のスヤロウ将軍に依頼していますからね」
「陸軍の奴らは、先代から騎士道とかうるさくて叶わないからなぁ。その点、海軍の奴らは話がわかって助かる」
「陸軍のボプラ将軍が、また軍備増強の予算申請をしてきましたよ」
「まぁ。勇者召喚が成功したら戦争だ。税金をあげて対応しろ」
二人の会話が謁見の間に響いていた。




